92 / 100
第七章 忍び寄る影
5
しおりを挟むその日を境に俊介の私への執着は今まで以上に激しくなっていった。
よほど切迫しているのか、【5万でいいから貸して】【すぐ返すから】などとお金の催促までしてくる始末。
電話は着信履歴が埋まるぐらいひっきりなしにかかってくるようになった。
着信拒否をしてしまえばいいと分かっていても、写真や動画をバラまかれては困るという意識が働き安易に彼を拒むことはできなかった。
それに、なぜか妙なことに俊介は私の動向をよく知っているのだ。
今、私がどこにいるのか正確に把握しているかのような短文のショートメールを送りつけてくる。
【今から実咲の会社に行く。もし居留守使ったら分かるよね?】
昼休みの後、精神的に追い詰められていた私に追い打ちをかける様なショートメールが送りつけられた。
まさかと思っていたものの、それからしばらくして受付から私宛に来客を告げる内線電話がかかってきた。
俊介と対面した私は心の底から驚いた。
この日の彼も営業職とは思えないほどに乱れた服装をしていた。
Yシャツはこの間よりもさらに皺だらけで、スーツのズボンはクリーニングに出していないのか、ところどころ汚れている。
乱れた髪型と無精ひげまで生やし、落ち着きがなく視線を左右に振る。彼の様子は明らかにおかしかった。
けれど、これはチャンスでもあった。
俊介に脅されてこのまま泣き寝入りなんてする私ではない。
「こちらへどうぞ」
営業スマイルを浮かべながら俊介を小さなミーティングルームに連れてくる。
ポケットには小型のボイスレコーダーを仕込んである。そちらがその気ならば、こちらにも考えがある。
「会社まで来るなんてどういうつもり?」
私は振り返ると、俊介を睨みつけた。
「なんで俺の電話を無視すんの?」
「迷惑なの。私と俊介はもう何の関係もないんだから。お金の催促も辞めて。これって恐喝よ?」
突き放すように言うと、俊介の目がみるみるうちに吊り上がり、バンっと大きな音を立ててテーブルを叩いた。
「じゃあ、いいんだな?俺、本気だぞ?」
明らかに余裕を失くしている様子の俊介に私は思わず後ずさる。
けれど、ここで屈するわけにはいかない。
あれから自分なりにいろいろなことを調べた。
警察は民事に積極的に介入してこようとはしないらしい。だからこそ、私が俊介に脅されているという確かな証拠が欲しかったのだ。
「いいんだなって、何が?」
「この前にも言っただろ」
「だから、それが何かを聞いてるんでしょ?」
あえて挑発的な口調で言うと、俊介は苛立ったように私の肩を両手で掴んで壁に押し付けた。
「痛っ……やめてよ!」
「うるせぇな!!お前は黙って俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ!!」
俊介が興奮気味に声を荒げたとき、コンコンッというノック音のあとミーティングルームの扉が開いた。
0
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる