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第七章 忍び寄る影

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その日を境に俊介の私への執着は今まで以上に激しくなっていった。
よほど切迫しているのか、【5万でいいから貸して】【すぐ返すから】などとお金の催促までしてくる始末。
電話は着信履歴が埋まるぐらいひっきりなしにかかってくるようになった。


着信拒否をしてしまえばいいと分かっていても、写真や動画をバラまかれては困るという意識が働き安易に彼を拒むことはできなかった。
それに、なぜか妙なことに俊介は私の動向をよく知っているのだ。
今、私がどこにいるのか正確に把握しているかのような短文のショートメールを送りつけてくる。

【今から実咲の会社に行く。もし居留守使ったら分かるよね?】

昼休みの後、精神的に追い詰められていた私に追い打ちをかける様なショートメールが送りつけられた。
まさかと思っていたものの、それからしばらくして受付から私宛に来客を告げる内線電話がかかってきた。
俊介と対面した私は心の底から驚いた。
この日の彼も営業職とは思えないほどに乱れた服装をしていた。
Yシャツはこの間よりもさらに皺だらけで、スーツのズボンはクリーニングに出していないのか、ところどころ汚れている。
乱れた髪型と無精ひげまで生やし、落ち着きがなく視線を左右に振る。彼の様子は明らかにおかしかった。
けれど、これはチャンスでもあった。
俊介に脅されてこのまま泣き寝入りなんてする私ではない。

「こちらへどうぞ」

営業スマイルを浮かべながら俊介を小さなミーティングルームに連れてくる。
ポケットには小型のボイスレコーダーを仕込んである。そちらがその気ならば、こちらにも考えがある。

「会社まで来るなんてどういうつもり?」

私は振り返ると、俊介を睨みつけた。

「なんで俺の電話を無視すんの?」
「迷惑なの。私と俊介はもう何の関係もないんだから。お金の催促も辞めて。これって恐喝よ?」

突き放すように言うと、俊介の目がみるみるうちに吊り上がり、バンっと大きな音を立ててテーブルを叩いた。

「じゃあ、いいんだな?俺、本気だぞ?」

明らかに余裕を失くしている様子の俊介に私は思わず後ずさる。
けれど、ここで屈するわけにはいかない。
あれから自分なりにいろいろなことを調べた。
警察は民事に積極的に介入してこようとはしないらしい。だからこそ、私が俊介に脅されているという確かな証拠が欲しかったのだ。

「いいんだなって、何が?」
「この前にも言っただろ」
「だから、それが何かを聞いてるんでしょ?」

あえて挑発的な口調で言うと、俊介は苛立ったように私の肩を両手で掴んで壁に押し付けた。

「痛っ……やめてよ!」
「うるせぇな!!お前は黙って俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ!!」

俊介が興奮気味に声を荒げたとき、コンコンッというノック音のあとミーティングルームの扉が開いた。

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