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第七章 忍び寄る影
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しおりを挟むこの日、仕事を終えた私は智哉さんに誘われてイタリアンのお店で遅めの夕飯を食べた。
目にも鮮やかな料理を食べていても、頭の中は俊介の言っていた写真と動画のことでいっぱいで、手の込んだトマトパスタの味も感じられない。
俊介の言っていた写真や動画は本当に存在するんだろうか。
私を脅す口実に出まかせを言っている可能性もあるけれど、それを確認しようがない。
どうしたらいいの……。
楽しいはずの智哉さんとの食事も胃の奥がシクシクと痛んで楽しむことができなかった。
「――さき。実咲」
「え?」
名前を呼ばれていることに気付いてハッとする。
「今日一日変だよ。なんかあった?」
信号機が赤になり車が停止すると、智哉さんは私の顔を心配そうに覗き込んだ。
「ごめんなさい。ちょっと疲れていて……」
「そっか。疲れてるなら寝てていいよ?着いたら起こすから」
「いえ……大丈夫です。ありがとうございます」
彼はジッと私を見つめた後、重たい雰囲気になってしまった車内の空気を取り払うようにこう切り出した。
「そういえば、来週、実咲の誕生日だよね。その日は仕事だから、終わってから一緒に食事しよう。店は俺が予約しておくから」
「あぁ、誕生日……」
自分の誕生日をすっかり忘れていた。
「その反応、忘れてたみたいだね」
言い当てられて、苦笑いを浮かべる。
「次の日は休みだから、その日はずっと一緒にいたい。いい?」
「……はい」
「よかった。楽しみにしてて」
信号機が青に変わる。
ふっと意味深な笑みを浮かべた智哉さんの横顔に、心臓が飛び跳ねる。
すると、楽しい時間をぶち壊すように車内にバイブ音が響いた。
恐る恐るスマホを確認すると、見覚えのある番号が表示されている。
俊介だと気付き、私はバッグの奥にスマホを押し込んだ。
「電話?出て大丈夫だよ」
「あ……、いえ。大した用事ではないので……」
ようやくバイブ音が途切れ、ホッとする。
またかかってきたら困ると思い、電源を切ろうとスマホを取り出すと再びスマホが音を立てる。
「急ぎの用件かもしれないし、出たほうがいいよ」
「大丈夫です。あとで折り返すので」
「……そっか」
智哉さんはそれ以上追及してこなかった。
元カレの俊介に脅されていることを智哉さんに知られたくなかった私はホッと胸を撫で下ろす。
ましてやただ脅されているだけではなく、恋人同士の営みの行為を写真や動画に撮られているかもしれないのだ。
私と智哉さんの関係はうまくいっている。過去のことでふたりの関係が悪くなるのだけは絶対に嫌だった。
彼に知られる前に、早く解決しなければならないと私は心に固く誓った。
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