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第一章 謎のイケメン御曹司の登場

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「白鳥ではなく、私が頂いてもいいですか?まだ吞み足りなくて」
「おぉ~、いいぞ!若造なのに、いい吞みっぷりだ!最近の若者はこういう付き合いができないからなぁ」

陽気に振る舞う営業部長の隣の席で、宣伝部長はテーブルに伏せて夢の中へ落ちてしまった。
口の端から零れた涎がテーブルに滴るのをゾッとしながら眺める。
しばらくすると、伍代さんは店員に水を注文し、黙って私の前に置くと「大丈夫か?」と小声で尋ねた。

大きく頷くことはできなかった。胃の奥から消化されていない酒やら枝豆やら揚げ物やらがせりあがってきて口からあふれそうだったから。
私の表情ですべてを悟ったのか、彼は「ボチボチ切り上げる」と告げ、酔っ払い二人をうまくあしらって店を出た。
時刻は日付を跨ごうとしている。
四月とはいえ、深夜ということもあり冷たい風に体の体温が奪われて、全身が震えた。
茶色いトレンチコートのボタンを閉め、腕を手のひらでさすって温めようとする。

「白鳥ちゃん、愛してるよぉ~」
「俺がまだ独身なら美人の白鳥ちゃんとあれこれしたかったんだけどなぁ。今は嫁がいるから怒られちゃうんだよおぉ」

酔っぱらって声が大きくなり気持ち悪さの倍増した中年親父二人を伍代さんが用意しておいた手土産とともにタクシーに押し込む。
タクシーのテールランプが遠ざかっていくと、私たちは同時に息を吐いた。

「お疲れ様。おかげで有益な情報を引き出せた」

まるで素面のような口調の伍代さんに返事をする余裕すらないぐらい私はフラフラだった。
酔いのピークを過ぎたのか、意の中を洗濯機の中のようにグチャグチャにかき回されているような不快感は消え失せていた。

「では、私はこれで」

なんだかふわふわした感覚になる。
一歩足を踏み出したとき、私はよろよろとその場に座り込んだ。

「白鳥、平気か?」
「全然。大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ」

私の顔を覗き込む彼の整った顔がみるみるうちに歪む。

「ーーおい、白鳥。しっかりしろ」

遠退く意識の中で私の名前を呼ぶ声がする。
その声は徐々に小さくなり、ついにはプツリと途切れた。
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