24 / 100
第二章 甘すぎる一夜の過ち
1
しおりを挟むタクシーのシートに体を沈ませる。
独特な匂いとカチカチッというウインカーの音がまるで子守歌代わりのよう。
私の隣に乗り込んできた伍代さんに家の場所を聞かれた気がするけど、強烈な睡魔に襲われて答えられなかった。
「伍代さ……ん。すみません……」
「いや、気にしないでいいよ。むしろ、大歓迎だから」
彼の言葉が最後まで聞けなかった。
タクシーを降り、珍しくベロベロに酔っぱらってしまった私は伍代さんに支えられて歩く。
車内で少し眠ったお陰でようやく酔いが覚めてきたものの、まだ素面には程遠かった。
広いエントランスを抜けてエレベーターに乗り込む。
「ここは……?」
「俺の部屋」
鍵を開けて中に入ると、パンプスを玄関で脱ぎ彼の部屋に上がった。
リビングに通され、ソファに座る。彼はスーツのジャケットをソファの背に掛けるとキッチンの冷蔵庫を開けた。
「こんなになるまで気付かなくてごめん。もっと早く切り上げるべきだった」
彼は冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出してこちらに歩み寄る。
そして、キャップを開けると私にそっと差し出した。
「ありがとうございます……」
御礼を言ってミネラルウォーターを口に含むと、徐々に脳が覚醒しはじめた。
今の状況を客観的にみる。
私は今、クライアントとの会食で酔っぱらって上司に多大なる迷惑をかけているのだ。
腕時計は深夜一時を指している。こんな時間に家まで上がり込むなんて、とんでもない大失態だ……!
「ご、ご迷惑をおかけしてすみません!今すぐ帰りますので……!」
勢いよく立ち上がった瞬間、ぐらりと体が揺れた。
「キャッ……」
そのまま後方に倒れそうになる私の背中に伍代さんは腕を回した。
そして、左手で抱きしめるように私の体を支えて右手でソファの座面に手をついた。
「ご、ごめんなさい……っ」
ソファに押し倒される格好になった私の顔の数センチ前には彼の整った顔がある。
思わずごくりと唾を飲み込む。
9
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる