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8話  剥がれゆく偽り

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【アルマが死んだと思われてから十六日の昼】


 ソロモンは朝起きると、体に違和感を覚える。
風邪でも引いたのかと、適当に流した。
しかし、不思議な事に皆体に違和感を訴える。

 皆同じ家に住んでいるし、
常に一緒に依頼をこなしているので、
そういう症状が出てもおかしく無い。

 昨日は急に疲れて皆早く寝た。
もしかしたら前兆だったのだろうと、
適当に考えながら欠伸をする。


「今日は休む?」

「いや、大事な時期だ。
最高峰の等級、オリハルコンになるまでは、
そこそこに依頼をこなしている振りをしないとな。
まあしかし、今日はシルバー程度の依頼で良いだろう」

「賛成ー。でもシルバー等級って本当に報酬が安すぎ。あり得ない。
適当に終わらせよう」

「ふんっ、【ブレイブヒーロー】は、
カスみたいな報酬分の価値しかない、愚民共でも助けるからなー」


「まあ、何時も通りに現地周辺の街や村で、
特別待遇のもてなしをさせてあげましょう。
喜んで払ってくれますよ」

「賛成。シルバー程度なら寝転がってても余裕で勝てるが、
【ブレイブヒーロー】を動かしたんだ。それくらい当然だ」


「ほんと面倒ね。そのくらいの等級なら、
ちょっと胸を見せて下着数枚売った方が楽に稼げるのに」

「それは俺たちの名が売れているからだろ? 他の無名の雑魚共と一緒にするなって」


 皆がそれに賛成し、早速ギルドに向かう。
受付嬢にどんな人でも平等に助けたいという思いを熱弁する。
周りの人はそれに涙を流して称賛した。


 街付近の森にソードテールという蜥蜴の様な魔物が現れた。
本来この辺りには居ない魔物で、
人と接触する前に倒して欲しいとのこと。
尻尾が石の様に硬いので要注意である。


 低賃金で【ブレイブヒーロー】の荷物持ちをしたいと言う男を雇い。
森の中へと足を踏み込んでいく。

「み、みなさん! お気をつけください! 出ましたよ!」

「それ……誰に物言ってるのか、分かってますか?」

「こんなゴミに負けるかよ。黙って無いと殺すぞ?」


「し、失礼いたしました!」


「そんなんだから何時まで経っても荷物持ちなんですよ」


 四メートルほどの巨大な蜥蜴、ソードテールが現れた。
こちらを凝視している。

「はい、終わりっと」

 ソロモンが接近し剣を振り下ろす。
しかし、その場にいた誰もが驚いた。
剣が硬い鱗に弾かれたからだ。

「……はぁ……????」

 状況が理解出来ずに唖然としているソロモン。
ソードテールが長い剣の様な尻尾を振り回す。

「おい! 何やってんだソロモン!」

 ヴァイオレットがソロモンを突き飛ばす。
赤い液体がソロモンの顔にかかる。
彼女がそれと同時に叫び声をあげた。

 パーティーと荷物持ちは驚愕した。
ヴァイオレットの右腕が無くなっていた。
思わずソロモンは叫んだ。

「お、おい! こんな雑魚相手に何やってんだよ!」

「腕が! 腕がぁぁぁああ! 痛いっ。痛いぃぃぃい」

「じょ、冗談はやめてくださいよ……ヴァイオレットさん……早く……」


「がぁぁぁああ、腕がッ取れてっ。冗談なわけッ、助けっ」


 苦しみもがくヴァイオレットを見て、荷物持ちが動揺していた。

「そ、そんな! ありえない! 
上から二番目のミスリル等級の【ブレイブヒーロー】のメンバーが! 
上からも下からも丁度六番目のシルバー等級の魔物如きに腕を持っていかれるなんて! 
嘘だぁぁああ」


「うるさい! 私の最強無敵の上級魔法で! 《イラプション》!? ……あれ?」

「な、何をしてるノーマ! 早く魔法を!?」

「貴方まで冗談言ってる場合じゃないですよ! 早く!」


「本当に……発動しない……そんな……」

「馬鹿か! だったら別の魔法で攻撃しろ! この際中級でも良い!」

「《フレアボム》……なんで! くっ! 《ファイアーボール》!」

 下級の魔法ファイアーボール。火の球が現れそれが魔物を襲う。
だが、ソードテールには焦げ跡すらも残らない。


「そ、そんな! 中級魔法も使えず、
ショボい威力の下級魔法を撃つしかないなんてぇ! 
嘘だぁぁああ! う、嘘だよッ。
俺たちの憧憬、【ブレイブヒーロー】がっ、そんな!?」


「さっきからうるせんだよ! くそッ、逃げるぞ!」


 荷物持ちも恐怖に染まった顔で状況を理解した。
全力で逃げる。痛みを堪え、
ヴァイオレットも立ち上がり走りだす。
誰もヴァイオレットに手を貸さなかった。
自身が逃げ切る事だけを考えていた。
そこでソロモンたちは気が付いた。

「おい! 荷物持ちの分際で俺たちより先に逃げるな!」

「そ、そんなこと言ったって!」

 彼等は荷物持ちに一向に追いつけない。
荷物持ちの男が一瞬止まり、何か魔道具を投げた。
それから煙が発生し、それをソードテールが嫌がった。
自分の身は自分で守るという最低限の装備が彼等を救った。

「おお! よくやったッ」

 魔物を巻き。回復の魔法をかけるが血が止まらない。
荷物持ちが布を巻いて止血する。

「お、俺はこの辺で! 報酬は要りませんので! 失礼します!」

「あ! おい待て!?」

 彼はささっとこの場を去って行った。
ギルドに戻ると、ソロモンたちを見てざわざわと話をしていた。

「マジで腕が無いぞ……」
「嘘だろ……」
「無様に逃げ帰ったって」
「しかも荷物持ちに無様に助けられたって」
「おい、誰か確認しろよ」
「嫌だよ、お前が行けって」


 あの荷物持ちが噂を広めたようだ。
受付嬢に言う。

「あのソードテールはかなり成長して危険だ……
等級はミスリル。いやオリハルコンにも届きうる」

「し、しかし……そんな短期間で成長するなんてありえません。
ギルドの査定が間違っているとはとても……」

「ああ? 成長したものは成長したんだよ! ならあれか? 
お前、【ブレイブヒーロー】が間違っていると言ってるのかッ? 
俺が正しかった場合、お前がこの先どうなるかっ、分かってるんだろうなぁぁ?」

「そ、それは……ギルドマスターに取り次ぎますのでっ……」

「ちっ、受付嬢ごときが口答えしやがって」

 受付嬢が奥へと走り去るとざわざわと聞こえる。

「な、なんだ。そういう事か」
「驚いた」
「良かったー」


 ギルドマスターが出て来た。威厳のある中年の男性。
隣には何故か司祭が居た。それをシビルは訝し気に見ていた。


「【ブレイブヒーロー】の皆さん。大変、失礼いたしました」

「ったく。なんであんな無能を雇ってやがんだッ。金の無駄だ!」

「後ほど処置は検討いたします」

「当たり前だッ」


「さて……それでは、特別な依頼を受けてもらいたく、思いまして。
カタストロフソードテールの討伐を【ブレイブヒーロー】に依頼します」

「はっ……はぁ? なんでそうなる?」

 ソロモンたちの反応とは裏腹にその場に居合わせる人々は歓喜の声を上げた。
流石ミスリル等級だと賛美する。

「聞けばオリハルコン等級の怪物。
手出し出来る者が、貴方の他におりましょうか?」

「お、俺たちは騙されて! 
仲間の腕が持っていかれたんだぞ! 当分は戦力ダウンだ! 
他のミスリル等級以上に頼めよ!」


「今、全パーティーは出払っておりまして、
【ブレイブヒーロー】しかおりません」


「ふざけるな! 俺は仲間の方が大切なんだよ! 暫く休む事にする! 
お前が! ギルドが査定に手を抜いたせいだからなッ!」


「それでは国の危機ということで。王国騎士団に正式に申請します。
ギルド、教会とも連携し、凶悪な魔物を討伐せねばなりません」

「は、はぁ……なんでそうなる……そ、それに何で教会の連中までっ?」

「いやー、偶然司祭様が居合わせて、助かりました。
今の話を聞いて、国の危機だと、ご協力してくださるそうです。
その時に魔物が何故、急に成長したのか……その答えは分かるでしょうな」

「!? ……わッ、分かった……俺たちがそれを受けよう……」

「おお! 期待してるよ……【ブレイブヒーロー】。
もし、何か困った事があった時には是非協力させてもらうとしよう」

「ぁ、ああ……」

 司祭がジッと見つめて言う。

「その腕は放っておくと危険です。我々が治療して差し上げましょう……」

 ソロモンたちはギョっとする。
教会連中に体を診られ、
禁忌の恩恵を受けているのがバレる恐れがあるからだ。


「い、いやいいッ! かかりつけの医者がいるので! 失礼っ」

 去り行くソロモンたちをギルドマスターと司祭は何かを確信した様に、
冷たい眼差しで凝視していた。

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