7 / 43
6.おやすみ
しおりを挟む
その日の夕飯も無事に済んだ。
岳の提案で同じテーブルで一緒に食べる。久しぶりに誰かと食べる食事に、どこか浮き立つ自分がいた。
ここ最近はずっと一人で食べてたからなぁ。
感慨深げに浸っていると。
「ごちそう様…」
その声に我に返った俺は、亜貴に目を向けた。
皿はすっかり空になっていて、食べ残しは無かった。それを見て思わず口元が緩む。
「おう。どう致しまして。そうだ、亜貴。食後になんか飲むか? コーヒー、紅茶、緑茶にカフェオレ、ミルク、ココア──。豆乳にも変えられるからな?」
「なんだ。色々あるんだな? 大和」
感心したように、テーブルに肘をついた岳が声をあげるが。
「ほらっ、岳、肘つかない! で、何にする?」
岳がちぇっと舌打ちしたのを耳にしつつ、亜貴を振り返る。すると蚊の鳴くような声小さな声で。
「ホットミルク…」
「お、いい選択だな。勉強終わった頃がいいだろ?何時くらいに持っていく?」
「…十時くらい」
「了解」
俺の返答を聞くか聞かないうちに、ヒラリと身を翻しリビングを出て行って仕舞った。
相変わらず視線は合わない。合っても直ぐにプイと顔を背けるか、視線だけ反らされる。
まあ、いい。
食べ残しがないだけで充分だ。
「嬉しそうだな?」
食べ終えた岳は、そのまま腕をついてこちらを見ている。
もう食べ終えているから、肘をつこうが、膝をつこうが一向に構わない。
「だって腕だって大した事ないのにさ。これだけ食べてくれると、そりゃ嬉しいだろ?」
食器を下げながら、鼻歌を口ずさむ。某銀河鉄道アニメの主題歌だ。
中学の頃、クラスメートに主人公の少年に似ていると言われた事がある。
どこにでもいそうな平凡な少年が、立派に主役をはっていたアニメに、その顔に親近感が湧いたのと同時、誰でも主人公になれるんだと思わせた。
「いや。美味しいよ。プロ顔負けとかじゃないが、ちゃんと相手を思って丁寧に作られてるのが分かる。…美味しい」
岳の心の籠もった『美味しい』に、ドキリとする。思わず頬が熱くなって、慌てて誤魔化す様に食器を片付け出した。
因みに食洗機があるのが有り難い。
「まだ序盤だからな? 失敗してもがっかりすんなよ?」
「その時も美味しいって言うよ」
「うへ。それじゃ、腕上がんないって」
弾ける様に互いに笑い出す。
その後も、岳は俺が淹れたコーヒーを飲みながら、他愛もない話を交わした。
+++
亜貴は思ったより素直だった。
その後、ホットミルクを運んで行った時も、別段、反抗的な態度を見せるでもなく、小さい声で『ありがとう』と、言ったくらい。
「亜貴は魚も大丈夫か?」
直ぐにさよならも寂しいかと、交友を深めるためにも声をかけた。
「あんま、食べた事ない…」
お、それは気をつけないと、下手すれば二度と食べたくないとなる可能性もある。
「わかった。頭に入れとく」
亜貴はカップを両手で包み込む様にして、飲んでいた。
それだけみると、どこぞのモデルか俳優かという風情だが、口を開けば小憎らしい。それに、生憎彼はヤクザの家系に連なるものだ。
こいつ、将来はどうすんのかな?
岳はまともな道へと思っている様だが。
本人にその気がなければ、岳の思い通り、ごく普通の青年として生きていくのだろうか。
「カップ、飲み終わったらキッチンのシンクに置いといてくれ」
これ以上は邪魔をしてもいけない。それだけ言うと、部屋を出ようとドアに手をかけた所で。
「おやすみ…」
カップを見つめたまま、亜貴が呟いた。その言葉に心の内側がぽわんと温かくなる。
「おう。おやすみな」
岳の提案で同じテーブルで一緒に食べる。久しぶりに誰かと食べる食事に、どこか浮き立つ自分がいた。
ここ最近はずっと一人で食べてたからなぁ。
感慨深げに浸っていると。
「ごちそう様…」
その声に我に返った俺は、亜貴に目を向けた。
皿はすっかり空になっていて、食べ残しは無かった。それを見て思わず口元が緩む。
「おう。どう致しまして。そうだ、亜貴。食後になんか飲むか? コーヒー、紅茶、緑茶にカフェオレ、ミルク、ココア──。豆乳にも変えられるからな?」
「なんだ。色々あるんだな? 大和」
感心したように、テーブルに肘をついた岳が声をあげるが。
「ほらっ、岳、肘つかない! で、何にする?」
岳がちぇっと舌打ちしたのを耳にしつつ、亜貴を振り返る。すると蚊の鳴くような声小さな声で。
「ホットミルク…」
「お、いい選択だな。勉強終わった頃がいいだろ?何時くらいに持っていく?」
「…十時くらい」
「了解」
俺の返答を聞くか聞かないうちに、ヒラリと身を翻しリビングを出て行って仕舞った。
相変わらず視線は合わない。合っても直ぐにプイと顔を背けるか、視線だけ反らされる。
まあ、いい。
食べ残しがないだけで充分だ。
「嬉しそうだな?」
食べ終えた岳は、そのまま腕をついてこちらを見ている。
もう食べ終えているから、肘をつこうが、膝をつこうが一向に構わない。
「だって腕だって大した事ないのにさ。これだけ食べてくれると、そりゃ嬉しいだろ?」
食器を下げながら、鼻歌を口ずさむ。某銀河鉄道アニメの主題歌だ。
中学の頃、クラスメートに主人公の少年に似ていると言われた事がある。
どこにでもいそうな平凡な少年が、立派に主役をはっていたアニメに、その顔に親近感が湧いたのと同時、誰でも主人公になれるんだと思わせた。
「いや。美味しいよ。プロ顔負けとかじゃないが、ちゃんと相手を思って丁寧に作られてるのが分かる。…美味しい」
岳の心の籠もった『美味しい』に、ドキリとする。思わず頬が熱くなって、慌てて誤魔化す様に食器を片付け出した。
因みに食洗機があるのが有り難い。
「まだ序盤だからな? 失敗してもがっかりすんなよ?」
「その時も美味しいって言うよ」
「うへ。それじゃ、腕上がんないって」
弾ける様に互いに笑い出す。
その後も、岳は俺が淹れたコーヒーを飲みながら、他愛もない話を交わした。
+++
亜貴は思ったより素直だった。
その後、ホットミルクを運んで行った時も、別段、反抗的な態度を見せるでもなく、小さい声で『ありがとう』と、言ったくらい。
「亜貴は魚も大丈夫か?」
直ぐにさよならも寂しいかと、交友を深めるためにも声をかけた。
「あんま、食べた事ない…」
お、それは気をつけないと、下手すれば二度と食べたくないとなる可能性もある。
「わかった。頭に入れとく」
亜貴はカップを両手で包み込む様にして、飲んでいた。
それだけみると、どこぞのモデルか俳優かという風情だが、口を開けば小憎らしい。それに、生憎彼はヤクザの家系に連なるものだ。
こいつ、将来はどうすんのかな?
岳はまともな道へと思っている様だが。
本人にその気がなければ、岳の思い通り、ごく普通の青年として生きていくのだろうか。
「カップ、飲み終わったらキッチンのシンクに置いといてくれ」
これ以上は邪魔をしてもいけない。それだけ言うと、部屋を出ようとドアに手をかけた所で。
「おやすみ…」
カップを見つめたまま、亜貴が呟いた。その言葉に心の内側がぽわんと温かくなる。
「おう。おやすみな」
51
あなたにおすすめの小説
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
青い炎
瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。
もともと叶うことのない想いだった。
にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。
これからもこの想いを燻らせていくのだろう。
仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】みにくい勇者の子
バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……? 光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。 攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる