245 / 263
温泉と故郷と泣き叫ぶ豆
推しの幸せを
しおりを挟む
空もどんよりした今日はええと、たぶん、5月12日。
引きこもりました。
もうお外出たくありません。
呆れたようなため息が聞こえてきます。
「お姉ちゃん、自業自得だから」
あーちゃんも朝、戻ってきて、その時は心配してくれたんですけど今はあきれ顔です。今は昼頃ですね。
「ううっ、わかってますよ。ええ、でも人前に出れる顔、出来る気がしません」
それというのもエリックが、今まで恥ずかしいとか葛藤があるとかで言わなかった言葉をがっつりと聞いてしまったのが原因です。
その時はお互いに重いわ……で済んだんです。ただ、冷静になって反芻しちゃったんです。
瀕死の重症になりました。
愛に溺れるみたいな、あ、これが溺愛。違う気がしますけど。
まあ、とにかく、顔を覆って死ぬと呟く物体になりましたよ……。
元々好かれている自信はありました。しかし、どこか不安にも思っていたことはあるんですよ。あたしだけがものすごく好きなんじゃないかって。押し付けて断れないからじゃないかと。
もっと良い人がいたら、離れなきゃいけないなと自分に言い聞かせていたのもこのあたりが原因なんですが。
杞憂でした。
全く少しもあたし以外にそういう意味での興味持ちそうにありません。
その全振りっぷりに逆にちょっと戸惑うくらいで。なんでも、これが、魔導師の普通、らしくて。
重いってレベルじゃねぇぞと遠い目をしてしまったのは些細なことでしょう。
なるほど、魔導師を落とすのは簡単だが、あとが大変ってこういう……。そりゃあ、眠り姫を作るくらいに思いつめたりもするでしょうよ。
大体の魔導師はしれっと隠しているようですよ。
なお、心変わりには冷淡な対応でさっさとお別れする派が大多数。よりを戻すなんてありえないという塩を超えた極寒対応になるそう……。一部の例外が、拉致監禁だの洗脳だのをやらかすらしいですよ。どちらかというとエリックって……。
うん、観測しないことにしましょう。みなければ、未確定です。
「そんなすごかったの?」
「お子様には見せられません」
「ふぅん?」
興味あるのかないのかちょっと不明な感じが不穏です。帰らないとか言いださないですよね? 元はあたしの一部。エリックのこと好きです。あたしが総取りするのも後ろめたいところはあります。
「そういえば、打合せどこまでしたんですか?」
「基本の体は決まってるからあたしはすぐに終わった。素材の選定とか色々あるみたいだけど、あたしは関係ないし次に呼ばれるときは調整する時だって。
弟君がね。もっと大人がいいと言いだして。元の体は実年齢に従うけど、生まれた後はご自由にということになってる」
「なんで大人になりたいんでしょ」
「そりゃあ……。
子供だと面倒だからでしょ。保護者が常に必要」
「監視は嫌ですか。まあ自由行動ばかりでしたからね」
なぜだかあーちゃんがやれやれと言いたげに肩をすくめています。あーちゃんも人のこと言えないと思いますけど。
「あたしはしばらく寝てるよ。活動が多いと混ざる分が増えるみたい」
「わかりました。夢を見ない良い眠りを」
「うん。おやすみ」
そう言ってするりとあたしの中に入っていきます。温かいものが奥に潜っていき止まります。温度も少しずつ馴染んで違いが分からなくなるくらいに。
少し体調も良くなった気がします。これだとあーちゃんが抜けあたと、相当体調崩しますね。そのことを想定して段取りしないとまずい気がします。
やることはいっぱいあります。
ロブさんたちもちゃんと引き取らねばなりませんし。彼らに同行していた孤児たちとマルティナさんもどうにかしたいところではあります。
ユウリに丸投げとも思ったんですが、町の住人じゃないほうを優先するのも難しいでしょうから。
英雄様は外聞も大事ですからね。
それからそれから……。
「……むりー」
真面目に考えようとしても元に戻っていきます。ううっ。顔がニマニマしてますよね。
駄目です。人間としてダメななんかです。あんな囁きがいかんのです。甘い毒みたいに愛してるなんて言われて正気でいられるわけないんですから。
推しに愛されちゃうなんてなんて妄想ってやつですよ。それも旦那様なんて。ほんとに現実感ないですけど、現実なんですよね。
推しの幸せを願ってここにきちゃったのに、あたしが幸せになっちゃっていいんでしょうか?
布団にくるまりながらごろごろ転がり懊悩している時間は果てしなく無駄な気がしますね……。それはそれとして棚上げしときましょう。出来れば一生棚上げ。
「起きよ」
もぞもぞと布団から抜け出すと。
「あ、やっと起きる気になった?」
「!!!」
声にならない悲鳴をあげましたよっ!
「ななななんでいるんですかっ!」
フラウとローゼがっ! 気配どこやったんです?
「時差ありで三回くらい、扉を叩いて反応なかったから心配して中にはいってきたんだよ」
「声かけてくれたって」
「なんか、面白かった」
うんうんとローゼもうなずいてます。
……。
なにかまずいこと口走ってないかおもいだしますが、ないと言い切れないのが深刻です。あーちゃんが言うにはあーもーむりーというのは無意識で駄々洩れしていたそうです。
なにそれ怖い。
「で、なにが無理なの?」
「なんでもありません」
もう一度布団の潜り込みました。そのはなし、したくない。
「ほら、起きて。ロブさんって人が面会申し込みしてるよ」
「え? なんかありましたっけ」
「大きな声では言えませんが、薬を都合してもらいたいみたい。前にあげたっていってた」
「病気の人がいるんですよね。供給が間に合ってませんか」
「普通の薬は余裕があるんだけど、ちょっと重い症状の人向けはなくなりそう。
素材があれば作るって魔導師の人は言ってたけど、素材を集めるのに苦労してるみたい」
「うん。ここ魔導師いなかったから魔法薬作る素材ない。
教会は燃えちゃった」
そんな状況ならコネを活用しますよね。
着替えをして行くことを伝えると二人は部屋の外へ出ていきました。ワンピースに着替えて荷物を探していると扉を叩く音が聞こえました。
「もうちょっとしたら行きますよ」
時間かかりすぎたかと思って、そう答えておいたんですが。
「下にはディレイもいるから気をつけろよ」
「あ、ゲイルさん。どうしたんですか、旅装で」
振り返ればもう出立といった感じのゲイルさんがいました。
「そろそろ落ち着いたみたいだから帰る」
全く全然落ち着いてなさそうなんですが、ゲイルさんが役に立つ場面はもうないでしょうね。
「わかりました。リリーさんと師匠によろしくお伝えください。
後日お詫びに行きます」
「わがままに振り回されることを覚悟しとくんだな」
「そのくらいで済みますかね?」
「お嬢様の本気のわがままはすごいぞ」
「……覚悟しときます」
師匠もリリーさんも生粋の公爵家ご令嬢ですもんね。
「そういや領地には予定通りいくのか?」
「行きますけど、ずっといるかはわかりませんね。早めに王都に戻ってきてほしいってユウリから聞きました。社交シーズンが前倒しになりそうだって」
「じゃあ、王都でまた会おう」
「良い旅を」
こちらの定型文で返しました。ゲイルさんは少し驚いたようですけど、なぜですかね。
ゲイルさんを見送って薬や材料になりそうなものをまとめて別の袋に入れます。さて、行きますか。
そうして準備をしてから下に降りていき固まりました。食堂はいっぱい人がいましたがその問題じゃなくって。
「起きてももう大丈夫か?」
心配そうにエリックに声をかけられました。
そ、そーいえば、エリックがいるってゲイルさん言ってた!
わーい、エリックだぁって抱きつこうとする欲望をとっ捕まえて澄ました顔で平気ですよといったあたし、偉すぎます!
ここで理性ぶん投げてはまずいどころではありませんっ! なんたって今は脳みそ茹ってます。普通のつもりで普通な行動がとれている自信がないのにさらになんて目も当てられません。
マルティナさんとロブさんはあたしにすぐに気がついたようで、近寄ろうとしてちょっとためらっていました。
目立ちますからね。この食堂にはあたしも知っている人だけではなく、町の人とかもいるようです。それなら特にここで薬のやり取りは避けたほうがいいでしょう。それにすぐに話すのも駄目そうですね。特別扱いに見えそうです。
声をかけてきた人に当たり障りなく答えてからマルティナさんのところにたどり着きました。
「子供たちは元気ですか?」
みたいなところから話始めて外にでも行きましょうかね。マルティナさんは察してくれたのか、みんな会いたがってますよとさりげなく外へ行く話をすすめてくれました。そのまま裏口から外に。
子供たちは相変わらず街はずれの屋敷に住んでいるそうです。こちらまでは連れてこないどころか、今は孤児院がわりになっているそうで。
「シスターがうるさい」
とロブさんがぼやいていました。エリックも頷いています。
少し広めの場所についてから、荷物を広げました。
薬の説明などはあたしに出来ないものもあり、エリックがマルティナさんに話しています。ロブさんとあたしは暇なんですよね。邪魔しないように少し離れて二人で見てる感じです。
「今後はどうするつもりですか?」
そんな話をする隙もありませんでしたのでいい機会です。
それなりに対応する気はあるんですが、本人たちの意向も聞いておきたいところです。
「このままここで暮らすのも悪くない、とは思うんだが故郷に一度戻ろうと考えてるよ」
「そうですか。仕事なら色々ありそうですね」
「短期的にはな。長く住めるかは疑わしい」
「そういうもんですか。
じゃあ、すぐという話でもないんですけど、あたし、一応、領地を持ってまして」
怪訝そうにロブさんが見てきます。
「なんでも新任領主は規定で私設の騎士団なるものを作らねばならないらしいです。
団長と副団長はいるんですけど以下部下いなくて困ってます。よろしければご検討いただければ」
不審そうに見られましたね。あたしが侯爵なのも、その界隈では有名なだけで外れると全く知られてないこともありえますね。
「ま、考えといてください」
「おう。
そういえば、あの三人が報酬って言ってたがどうする?」
「紹介状で良ければ用意しますよ。ご希望のお仕事とかあれば知り合いに聞いてみますし。
即現金だけは難しいですね。魔導協会に預金が入ってるんですが、ここに魔導協会ないので」
「じゃあ、そっちも聞いておく。無謀なことを言いだしたら絞めておくから安心していいぞ」
「ほどほどにしてあげてくださいね」
そんな話をしているうちにエリックのほうも終わったようです。
「マルティナさんも個人的になにか欲しいものがあったらお伺いしますよ。お世話になりましたので」
「寄付」
「個人的な、といいました。全く、教会の人ったらすぐそう言うこというんですから」
「そうは言っても……。あ、縁談潰してくれる?」
「縁談、ですか」
「わりと教会のシスターって貴族の子が多いの。政略結婚するにも何人も娘とかいらないじゃない? ってことで入れられるんだけど。上が問題起こすと呼び戻されて結婚させられがち」
「あー、わかります」
カリナさんがそっち系でした。
「どこかの後妻に入れとか一年位前に話が来てたのよね。忘れてたわ」
「援助とかの引き換えですか?」
「という話だけど、うち浪費家だからどうかしらね」
言い方がちょっと困った、程度に聞こえるのが不思議です。資金援助の代わりに娘を後妻に入れるってよほどのことのような気がするんですけど。
「なにに浪費してるんですか?」
「薬草マニアで、すぐに新しいもの仕入れて生育条件そろえてとかするの」
別な意味でダメ人間がいましたっ!
「浪費の件は魔導協会に相談します。興味持つと思いますから。縁談の件はこちらでも調べてみますね」
マルティナさんは軽く無理はしないでねと言っていますが、貴重な情報です。場合により手もつけられない薬草産地ができるかもしれませんが……。
縁談の件もそっちで手を回してもらえばなんとかなるでしょうね。他力本願極まりませんが。
二人は宿の中に戻らずそのまま立ち去りました。微妙に口げんかしながらというのは仲が良いのか……?
「あー、そういう」
エリックが不思議そうに見てきましたが答えませんでした。とりあえず、人目もありませんし抱きついて誤魔化しましょう。
マルティナさんも多少は意識してるってことでいいでしょうかね。教会にいればのらりくらりと縁談回避できるようなんですよ。カリナさんがそんな感じで教義がとかなんとかで煙に巻いていたし。
「体調も良くなってきましたし、そろそろ旅立ちません? ジャスパーも暇してるでしょうし」
「そうだな」
新婚旅行の仕切り直しです。
ですが、その前にやることはあるんですよね。お墓参りに行きたいですけど、一つ問題がありまして……。
「あのお花ってどこかで調達できますかね?」
「ん? 無理じゃないか」
「ですよね……。じゃあ、墓地、どうなってるか知ってます?」
「……焼かれた、かも?」
やっぱり……。教会の裏手が墓地です。教会も隣接孤児院もほぼ全壊であると聞いたので嫌な予感はしてました。
「お墓参りできないじゃないですかっ!」
本来の目的完遂出来てませんっ!
後日、お参りして確認したところ墓地は焼けただけで、煤けているけど原形を留めていました。これ、再建費用工面しなきゃいけないところでしょうね。
それはさておき。
墓前でちゃんとお約束しておきます。
「頑張って幸せにしますねっ!」
推しの幸せを願うんじゃなくて、あたしが幸せにするんですっ!
引きこもりました。
もうお外出たくありません。
呆れたようなため息が聞こえてきます。
「お姉ちゃん、自業自得だから」
あーちゃんも朝、戻ってきて、その時は心配してくれたんですけど今はあきれ顔です。今は昼頃ですね。
「ううっ、わかってますよ。ええ、でも人前に出れる顔、出来る気がしません」
それというのもエリックが、今まで恥ずかしいとか葛藤があるとかで言わなかった言葉をがっつりと聞いてしまったのが原因です。
その時はお互いに重いわ……で済んだんです。ただ、冷静になって反芻しちゃったんです。
瀕死の重症になりました。
愛に溺れるみたいな、あ、これが溺愛。違う気がしますけど。
まあ、とにかく、顔を覆って死ぬと呟く物体になりましたよ……。
元々好かれている自信はありました。しかし、どこか不安にも思っていたことはあるんですよ。あたしだけがものすごく好きなんじゃないかって。押し付けて断れないからじゃないかと。
もっと良い人がいたら、離れなきゃいけないなと自分に言い聞かせていたのもこのあたりが原因なんですが。
杞憂でした。
全く少しもあたし以外にそういう意味での興味持ちそうにありません。
その全振りっぷりに逆にちょっと戸惑うくらいで。なんでも、これが、魔導師の普通、らしくて。
重いってレベルじゃねぇぞと遠い目をしてしまったのは些細なことでしょう。
なるほど、魔導師を落とすのは簡単だが、あとが大変ってこういう……。そりゃあ、眠り姫を作るくらいに思いつめたりもするでしょうよ。
大体の魔導師はしれっと隠しているようですよ。
なお、心変わりには冷淡な対応でさっさとお別れする派が大多数。よりを戻すなんてありえないという塩を超えた極寒対応になるそう……。一部の例外が、拉致監禁だの洗脳だのをやらかすらしいですよ。どちらかというとエリックって……。
うん、観測しないことにしましょう。みなければ、未確定です。
「そんなすごかったの?」
「お子様には見せられません」
「ふぅん?」
興味あるのかないのかちょっと不明な感じが不穏です。帰らないとか言いださないですよね? 元はあたしの一部。エリックのこと好きです。あたしが総取りするのも後ろめたいところはあります。
「そういえば、打合せどこまでしたんですか?」
「基本の体は決まってるからあたしはすぐに終わった。素材の選定とか色々あるみたいだけど、あたしは関係ないし次に呼ばれるときは調整する時だって。
弟君がね。もっと大人がいいと言いだして。元の体は実年齢に従うけど、生まれた後はご自由にということになってる」
「なんで大人になりたいんでしょ」
「そりゃあ……。
子供だと面倒だからでしょ。保護者が常に必要」
「監視は嫌ですか。まあ自由行動ばかりでしたからね」
なぜだかあーちゃんがやれやれと言いたげに肩をすくめています。あーちゃんも人のこと言えないと思いますけど。
「あたしはしばらく寝てるよ。活動が多いと混ざる分が増えるみたい」
「わかりました。夢を見ない良い眠りを」
「うん。おやすみ」
そう言ってするりとあたしの中に入っていきます。温かいものが奥に潜っていき止まります。温度も少しずつ馴染んで違いが分からなくなるくらいに。
少し体調も良くなった気がします。これだとあーちゃんが抜けあたと、相当体調崩しますね。そのことを想定して段取りしないとまずい気がします。
やることはいっぱいあります。
ロブさんたちもちゃんと引き取らねばなりませんし。彼らに同行していた孤児たちとマルティナさんもどうにかしたいところではあります。
ユウリに丸投げとも思ったんですが、町の住人じゃないほうを優先するのも難しいでしょうから。
英雄様は外聞も大事ですからね。
それからそれから……。
「……むりー」
真面目に考えようとしても元に戻っていきます。ううっ。顔がニマニマしてますよね。
駄目です。人間としてダメななんかです。あんな囁きがいかんのです。甘い毒みたいに愛してるなんて言われて正気でいられるわけないんですから。
推しに愛されちゃうなんてなんて妄想ってやつですよ。それも旦那様なんて。ほんとに現実感ないですけど、現実なんですよね。
推しの幸せを願ってここにきちゃったのに、あたしが幸せになっちゃっていいんでしょうか?
布団にくるまりながらごろごろ転がり懊悩している時間は果てしなく無駄な気がしますね……。それはそれとして棚上げしときましょう。出来れば一生棚上げ。
「起きよ」
もぞもぞと布団から抜け出すと。
「あ、やっと起きる気になった?」
「!!!」
声にならない悲鳴をあげましたよっ!
「ななななんでいるんですかっ!」
フラウとローゼがっ! 気配どこやったんです?
「時差ありで三回くらい、扉を叩いて反応なかったから心配して中にはいってきたんだよ」
「声かけてくれたって」
「なんか、面白かった」
うんうんとローゼもうなずいてます。
……。
なにかまずいこと口走ってないかおもいだしますが、ないと言い切れないのが深刻です。あーちゃんが言うにはあーもーむりーというのは無意識で駄々洩れしていたそうです。
なにそれ怖い。
「で、なにが無理なの?」
「なんでもありません」
もう一度布団の潜り込みました。そのはなし、したくない。
「ほら、起きて。ロブさんって人が面会申し込みしてるよ」
「え? なんかありましたっけ」
「大きな声では言えませんが、薬を都合してもらいたいみたい。前にあげたっていってた」
「病気の人がいるんですよね。供給が間に合ってませんか」
「普通の薬は余裕があるんだけど、ちょっと重い症状の人向けはなくなりそう。
素材があれば作るって魔導師の人は言ってたけど、素材を集めるのに苦労してるみたい」
「うん。ここ魔導師いなかったから魔法薬作る素材ない。
教会は燃えちゃった」
そんな状況ならコネを活用しますよね。
着替えをして行くことを伝えると二人は部屋の外へ出ていきました。ワンピースに着替えて荷物を探していると扉を叩く音が聞こえました。
「もうちょっとしたら行きますよ」
時間かかりすぎたかと思って、そう答えておいたんですが。
「下にはディレイもいるから気をつけろよ」
「あ、ゲイルさん。どうしたんですか、旅装で」
振り返ればもう出立といった感じのゲイルさんがいました。
「そろそろ落ち着いたみたいだから帰る」
全く全然落ち着いてなさそうなんですが、ゲイルさんが役に立つ場面はもうないでしょうね。
「わかりました。リリーさんと師匠によろしくお伝えください。
後日お詫びに行きます」
「わがままに振り回されることを覚悟しとくんだな」
「そのくらいで済みますかね?」
「お嬢様の本気のわがままはすごいぞ」
「……覚悟しときます」
師匠もリリーさんも生粋の公爵家ご令嬢ですもんね。
「そういや領地には予定通りいくのか?」
「行きますけど、ずっといるかはわかりませんね。早めに王都に戻ってきてほしいってユウリから聞きました。社交シーズンが前倒しになりそうだって」
「じゃあ、王都でまた会おう」
「良い旅を」
こちらの定型文で返しました。ゲイルさんは少し驚いたようですけど、なぜですかね。
ゲイルさんを見送って薬や材料になりそうなものをまとめて別の袋に入れます。さて、行きますか。
そうして準備をしてから下に降りていき固まりました。食堂はいっぱい人がいましたがその問題じゃなくって。
「起きてももう大丈夫か?」
心配そうにエリックに声をかけられました。
そ、そーいえば、エリックがいるってゲイルさん言ってた!
わーい、エリックだぁって抱きつこうとする欲望をとっ捕まえて澄ました顔で平気ですよといったあたし、偉すぎます!
ここで理性ぶん投げてはまずいどころではありませんっ! なんたって今は脳みそ茹ってます。普通のつもりで普通な行動がとれている自信がないのにさらになんて目も当てられません。
マルティナさんとロブさんはあたしにすぐに気がついたようで、近寄ろうとしてちょっとためらっていました。
目立ちますからね。この食堂にはあたしも知っている人だけではなく、町の人とかもいるようです。それなら特にここで薬のやり取りは避けたほうがいいでしょう。それにすぐに話すのも駄目そうですね。特別扱いに見えそうです。
声をかけてきた人に当たり障りなく答えてからマルティナさんのところにたどり着きました。
「子供たちは元気ですか?」
みたいなところから話始めて外にでも行きましょうかね。マルティナさんは察してくれたのか、みんな会いたがってますよとさりげなく外へ行く話をすすめてくれました。そのまま裏口から外に。
子供たちは相変わらず街はずれの屋敷に住んでいるそうです。こちらまでは連れてこないどころか、今は孤児院がわりになっているそうで。
「シスターがうるさい」
とロブさんがぼやいていました。エリックも頷いています。
少し広めの場所についてから、荷物を広げました。
薬の説明などはあたしに出来ないものもあり、エリックがマルティナさんに話しています。ロブさんとあたしは暇なんですよね。邪魔しないように少し離れて二人で見てる感じです。
「今後はどうするつもりですか?」
そんな話をする隙もありませんでしたのでいい機会です。
それなりに対応する気はあるんですが、本人たちの意向も聞いておきたいところです。
「このままここで暮らすのも悪くない、とは思うんだが故郷に一度戻ろうと考えてるよ」
「そうですか。仕事なら色々ありそうですね」
「短期的にはな。長く住めるかは疑わしい」
「そういうもんですか。
じゃあ、すぐという話でもないんですけど、あたし、一応、領地を持ってまして」
怪訝そうにロブさんが見てきます。
「なんでも新任領主は規定で私設の騎士団なるものを作らねばならないらしいです。
団長と副団長はいるんですけど以下部下いなくて困ってます。よろしければご検討いただければ」
不審そうに見られましたね。あたしが侯爵なのも、その界隈では有名なだけで外れると全く知られてないこともありえますね。
「ま、考えといてください」
「おう。
そういえば、あの三人が報酬って言ってたがどうする?」
「紹介状で良ければ用意しますよ。ご希望のお仕事とかあれば知り合いに聞いてみますし。
即現金だけは難しいですね。魔導協会に預金が入ってるんですが、ここに魔導協会ないので」
「じゃあ、そっちも聞いておく。無謀なことを言いだしたら絞めておくから安心していいぞ」
「ほどほどにしてあげてくださいね」
そんな話をしているうちにエリックのほうも終わったようです。
「マルティナさんも個人的になにか欲しいものがあったらお伺いしますよ。お世話になりましたので」
「寄付」
「個人的な、といいました。全く、教会の人ったらすぐそう言うこというんですから」
「そうは言っても……。あ、縁談潰してくれる?」
「縁談、ですか」
「わりと教会のシスターって貴族の子が多いの。政略結婚するにも何人も娘とかいらないじゃない? ってことで入れられるんだけど。上が問題起こすと呼び戻されて結婚させられがち」
「あー、わかります」
カリナさんがそっち系でした。
「どこかの後妻に入れとか一年位前に話が来てたのよね。忘れてたわ」
「援助とかの引き換えですか?」
「という話だけど、うち浪費家だからどうかしらね」
言い方がちょっと困った、程度に聞こえるのが不思議です。資金援助の代わりに娘を後妻に入れるってよほどのことのような気がするんですけど。
「なにに浪費してるんですか?」
「薬草マニアで、すぐに新しいもの仕入れて生育条件そろえてとかするの」
別な意味でダメ人間がいましたっ!
「浪費の件は魔導協会に相談します。興味持つと思いますから。縁談の件はこちらでも調べてみますね」
マルティナさんは軽く無理はしないでねと言っていますが、貴重な情報です。場合により手もつけられない薬草産地ができるかもしれませんが……。
縁談の件もそっちで手を回してもらえばなんとかなるでしょうね。他力本願極まりませんが。
二人は宿の中に戻らずそのまま立ち去りました。微妙に口げんかしながらというのは仲が良いのか……?
「あー、そういう」
エリックが不思議そうに見てきましたが答えませんでした。とりあえず、人目もありませんし抱きついて誤魔化しましょう。
マルティナさんも多少は意識してるってことでいいでしょうかね。教会にいればのらりくらりと縁談回避できるようなんですよ。カリナさんがそんな感じで教義がとかなんとかで煙に巻いていたし。
「体調も良くなってきましたし、そろそろ旅立ちません? ジャスパーも暇してるでしょうし」
「そうだな」
新婚旅行の仕切り直しです。
ですが、その前にやることはあるんですよね。お墓参りに行きたいですけど、一つ問題がありまして……。
「あのお花ってどこかで調達できますかね?」
「ん? 無理じゃないか」
「ですよね……。じゃあ、墓地、どうなってるか知ってます?」
「……焼かれた、かも?」
やっぱり……。教会の裏手が墓地です。教会も隣接孤児院もほぼ全壊であると聞いたので嫌な予感はしてました。
「お墓参りできないじゃないですかっ!」
本来の目的完遂出来てませんっ!
後日、お参りして確認したところ墓地は焼けただけで、煤けているけど原形を留めていました。これ、再建費用工面しなきゃいけないところでしょうね。
それはさておき。
墓前でちゃんとお約束しておきます。
「頑張って幸せにしますねっ!」
推しの幸せを願うんじゃなくて、あたしが幸せにするんですっ!
3
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる