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スピンオフ
番外編 フィル視点 1
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「フィル、心の準備はいいか。ここから下のフロアは魔物の強さが段違いだ。メイジであるお前の役割が重要だ」
「はい!」
パーティリーダーのエクトルがパーティの一人一人を振り返って覚悟を確認する。
三回ものフロアボスの討伐を果たしたここのダンジョンはかなりの成長を果たしていた。
宝箱の中身も段違いに質が良くなったが、その分魔物の強さも段違いに強くなっている。
僕たちは覚悟を決めて下のフロアへと続く階段を下りた。
ダンジョンの階段は何の変哲もない階段のように見える。
薄暗くて少しじめっとしているくらいか。
何も不思議なところなどないのだが、それでもぞっとするものを感じてしまうことがある。
僕の国の神話にある黄泉の国へと続く階段を思い出してしまうからかもしれない。
その階段を上がり、地上へ戻る時には決して振り返ってはならないのだ。もし振り返ってしまえば黄泉の国の魂を囚われてしまう。
そんなことを思い出すからだろうか、僕はダンジョンの階段を上り下りする時に振り返ってみたことは一度もなかった。
階段を下り切ると、突然視界がぱっと開ける。
階段を下りていた時の地下室っぽいじめっとした空気は何処かへと霧散し、開けた空間が現れた。
「わあ……」
思わず感嘆の溜息を吐いた。
現れた空間は神話の中の桃源郷のような美しい場所だったから。
草木が風にそよぎ、泉のほとりでは小鳥が歌を口遊む。
頭上には明らかに今下りてきた階段の段数よりもずっと高い青い空が広がっていた。
だがその光景に他のパーティメンバーはぞっとした顔をしていた。
「なんだ、俺たちは天国に足を踏み入れちまったのか……?」
青い顔で周りを見渡している。
天国、とはこの世界で信じられている宗教の黄泉の国のことのはずだ。彼らの宗教で伝えられている天国とはこんな風光明媚な場所らしい。
僕の国の神話では黄泉の国とは薄暗くて不気味な洞窟のような場所だということになっている。
こんなに綺麗な景色を怖がるなんて不思議だ。
「警戒しろ。何が起こるか分からん」
パーティはいつも以上に慎重な足取りで探索を始めた。
探索を進めているうち、段々と僕にもこのフロアの不気味さが分かって来た。
不思議なほど静かで、魔物がまったく出現しないのだ。
しかも宝箱も見当たらない。
成果なしでは引き上げるに引き上げられず、どんどん奥へと進んでいくことになる。
「このまま進んでいいのか」
パーティ内からそういう声が出るのは時間の問題だった。
「だがこのまま帰れば赤字だ」
「しかし何かあれば元も子も……」
パーティが喧々諤々としている最中。
ふっと、僕は異質な魔力を感じた。
「危ないっ!」
バリアを張る暇もなかった。
僕は咄嗟にパーティメンバーを庇った。
そして僕の視界は真っ暗になり……そのまま光を取り戻すことはなかった。
「それでフィルさんはパーティメンバーに担がれて地上まで戻ってきたということですか」
前方から男性の低い声が聞こえてくる。
イザイアさんの声だ。
あの後、僕たちのパーティはすぐに帰還して教会に直行したのである。
……パーティの僧侶の術でも僕の怪我を治すことができなかったから。
「あの、イザイアさん。僕の目はどうなってしまったのでしょう。パーティメンバーの話では簡単な外傷はすぐには治せたけれど、目だけは……という話でした。イザイアさんならば治せますよね?」
僕の質問に僕の顔に触れていたイザイアさんの手がピタリと止まるのが感じられた。
嫌な予感がした。
「大変言いにくいことですが……貴方の視力を回復するには少々時間がかかりそうです」
「少々とは、どれくらい?」
「……現時点では、何とも」
こうして僕は突然暗闇の世界に放り出されることとなったのだ。
「はい!」
パーティリーダーのエクトルがパーティの一人一人を振り返って覚悟を確認する。
三回ものフロアボスの討伐を果たしたここのダンジョンはかなりの成長を果たしていた。
宝箱の中身も段違いに質が良くなったが、その分魔物の強さも段違いに強くなっている。
僕たちは覚悟を決めて下のフロアへと続く階段を下りた。
ダンジョンの階段は何の変哲もない階段のように見える。
薄暗くて少しじめっとしているくらいか。
何も不思議なところなどないのだが、それでもぞっとするものを感じてしまうことがある。
僕の国の神話にある黄泉の国へと続く階段を思い出してしまうからかもしれない。
その階段を上がり、地上へ戻る時には決して振り返ってはならないのだ。もし振り返ってしまえば黄泉の国の魂を囚われてしまう。
そんなことを思い出すからだろうか、僕はダンジョンの階段を上り下りする時に振り返ってみたことは一度もなかった。
階段を下り切ると、突然視界がぱっと開ける。
階段を下りていた時の地下室っぽいじめっとした空気は何処かへと霧散し、開けた空間が現れた。
「わあ……」
思わず感嘆の溜息を吐いた。
現れた空間は神話の中の桃源郷のような美しい場所だったから。
草木が風にそよぎ、泉のほとりでは小鳥が歌を口遊む。
頭上には明らかに今下りてきた階段の段数よりもずっと高い青い空が広がっていた。
だがその光景に他のパーティメンバーはぞっとした顔をしていた。
「なんだ、俺たちは天国に足を踏み入れちまったのか……?」
青い顔で周りを見渡している。
天国、とはこの世界で信じられている宗教の黄泉の国のことのはずだ。彼らの宗教で伝えられている天国とはこんな風光明媚な場所らしい。
僕の国の神話では黄泉の国とは薄暗くて不気味な洞窟のような場所だということになっている。
こんなに綺麗な景色を怖がるなんて不思議だ。
「警戒しろ。何が起こるか分からん」
パーティはいつも以上に慎重な足取りで探索を始めた。
探索を進めているうち、段々と僕にもこのフロアの不気味さが分かって来た。
不思議なほど静かで、魔物がまったく出現しないのだ。
しかも宝箱も見当たらない。
成果なしでは引き上げるに引き上げられず、どんどん奥へと進んでいくことになる。
「このまま進んでいいのか」
パーティ内からそういう声が出るのは時間の問題だった。
「だがこのまま帰れば赤字だ」
「しかし何かあれば元も子も……」
パーティが喧々諤々としている最中。
ふっと、僕は異質な魔力を感じた。
「危ないっ!」
バリアを張る暇もなかった。
僕は咄嗟にパーティメンバーを庇った。
そして僕の視界は真っ暗になり……そのまま光を取り戻すことはなかった。
「それでフィルさんはパーティメンバーに担がれて地上まで戻ってきたということですか」
前方から男性の低い声が聞こえてくる。
イザイアさんの声だ。
あの後、僕たちのパーティはすぐに帰還して教会に直行したのである。
……パーティの僧侶の術でも僕の怪我を治すことができなかったから。
「あの、イザイアさん。僕の目はどうなってしまったのでしょう。パーティメンバーの話では簡単な外傷はすぐには治せたけれど、目だけは……という話でした。イザイアさんならば治せますよね?」
僕の質問に僕の顔に触れていたイザイアさんの手がピタリと止まるのが感じられた。
嫌な予感がした。
「大変言いにくいことですが……貴方の視力を回復するには少々時間がかかりそうです」
「少々とは、どれくらい?」
「……現時点では、何とも」
こうして僕は突然暗闇の世界に放り出されることとなったのだ。
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