2 / 14
1.昭和57年
(2)不道徳への道
しおりを挟む
誘いを受けたその時、友彦は確信した。
お姉さんは、彼を待ち伏せていたのだと。
何か、いけないものを感じた。
その夜一晩、彼は自分が不道徳な道に足を踏み入れようとしているのではないかという不安を押し殺しながら、お姉さんの胸の感触や匂いを夢うつつに思い出し、なんだか幸せな気分に浸っていた。
それで結局、その翌日も、そのまた翌日も、半ドンの土曜も、そして日曜も、彼はお姉さんの部屋に通った。
週が明けてからもほとんど毎日、それは続いた。
お姉さんは短大生だった。
問わず語りに、恋人と別れバイトも辞めたばかりで暇にしていると聞いた。
本棚には中沢啓二の『はだしのゲン』をはじめとする反戦漫画が何冊もあり、彼は勧められるままにそれを読んでいった。
もっとも、それをお姉さんのところに通う言い訳にしていたのが半分だったが。
お姉さんは反戦活動を行うサークルに入っていたけれども、他のメンバーと考えが食い違ってきて追い出されてしまったと言った。
それでも平和というのは大切なものだよと、ゆっくりとページをめくる彼のそばで語りかけた。
そしてあの子が帰ってくる時間になると、ふたりで身を寄せ合って外を眺めていた。
秋の日没は日を追うごとにどんどん早くなり、特に天気の悪い日などあの子の顔も判然としなくなった。
それでも、良かった。
お姉さんと一緒にいられるなら。
どうせ家に帰っても、誰もいないのだ。
友彦の両親は事業を手がけていて、彼が中学に入学する頃からは帰宅も遅くなりがちだった。
夕暮れ時に誰もいない真っ暗で静かな家の鍵を開け、「ただいま」も言わずに上がる、その空しさ、肌寒さ。
夕食はパンや弁当ばかりで、それを話し相手もなく黙々と食べるわびしさ。
友達も部活や塾通いで彼との接触が少なくなっていた。
そうなるとお姉さんの部屋は彼にとって夕方という1日でいちばん寂しい時間帯をやり過ごすための、かけがえのない居場所だった。
そんなある日のこと。
お姉さんは、私が部屋に入るなり「今日も来てくれたね!」と友彦に飛びついてきた。
突然の事でどうしたら良いのか分からない彼の頭を撫でながら頬をすり寄せて、ついには額や頬に唇を付けてきた。
しばらく彼は、お姉さんにされるがまま。
それからお姉さんは友彦から離れて入口のドアが施錠されている事を確認し、カーテンのわずかなすき間も閉じてから、彼の方を向き直って言った。
「ねぇ、ともちゃん、あの子の裸って、見てみたい?」
友彦はびっくりしながらどう答えたらいいのか分からないままもじもじしていると、お姉さんはうっすらと潤んだ熱っぽい目で彼を見つめ「やっぱり男の子だからね」と言った。
それにも答えられずにいると、「あたしの裸でよければ、見てみる?」と聞いてきた。
意を決したように、そして強く迫るように聞かれたので、思わず首を縦に振る友彦。
するとお姉さんは、カーディガン、スカート、ブラウスの順に着ているものを静かに脱ぎ始めた。
一枚一枚、脱いだものを畳みながらお姉さんは友彦の目の前で、しかし決して目を合わせようとせず静かに少しずつ裸になっていった。
身体から離れたシュミーズが空気を含みながらはらりと畳の上に落ちた。
お姉さんは一瞬ためらってから横向きになり、ストッキング、ブラジャー、そして完全に背を向けながらパンティまでも脱いだ。
友彦は身体全体が心臓になったようにドキドキし、生唾を飲む音が聞かれてしまうんじゃないかと思うくらいに緊張し、そしてズボンの膨らみが分からないように膝を合わせて正座していた。
お姉さんは、彼を待ち伏せていたのだと。
何か、いけないものを感じた。
その夜一晩、彼は自分が不道徳な道に足を踏み入れようとしているのではないかという不安を押し殺しながら、お姉さんの胸の感触や匂いを夢うつつに思い出し、なんだか幸せな気分に浸っていた。
それで結局、その翌日も、そのまた翌日も、半ドンの土曜も、そして日曜も、彼はお姉さんの部屋に通った。
週が明けてからもほとんど毎日、それは続いた。
お姉さんは短大生だった。
問わず語りに、恋人と別れバイトも辞めたばかりで暇にしていると聞いた。
本棚には中沢啓二の『はだしのゲン』をはじめとする反戦漫画が何冊もあり、彼は勧められるままにそれを読んでいった。
もっとも、それをお姉さんのところに通う言い訳にしていたのが半分だったが。
お姉さんは反戦活動を行うサークルに入っていたけれども、他のメンバーと考えが食い違ってきて追い出されてしまったと言った。
それでも平和というのは大切なものだよと、ゆっくりとページをめくる彼のそばで語りかけた。
そしてあの子が帰ってくる時間になると、ふたりで身を寄せ合って外を眺めていた。
秋の日没は日を追うごとにどんどん早くなり、特に天気の悪い日などあの子の顔も判然としなくなった。
それでも、良かった。
お姉さんと一緒にいられるなら。
どうせ家に帰っても、誰もいないのだ。
友彦の両親は事業を手がけていて、彼が中学に入学する頃からは帰宅も遅くなりがちだった。
夕暮れ時に誰もいない真っ暗で静かな家の鍵を開け、「ただいま」も言わずに上がる、その空しさ、肌寒さ。
夕食はパンや弁当ばかりで、それを話し相手もなく黙々と食べるわびしさ。
友達も部活や塾通いで彼との接触が少なくなっていた。
そうなるとお姉さんの部屋は彼にとって夕方という1日でいちばん寂しい時間帯をやり過ごすための、かけがえのない居場所だった。
そんなある日のこと。
お姉さんは、私が部屋に入るなり「今日も来てくれたね!」と友彦に飛びついてきた。
突然の事でどうしたら良いのか分からない彼の頭を撫でながら頬をすり寄せて、ついには額や頬に唇を付けてきた。
しばらく彼は、お姉さんにされるがまま。
それからお姉さんは友彦から離れて入口のドアが施錠されている事を確認し、カーテンのわずかなすき間も閉じてから、彼の方を向き直って言った。
「ねぇ、ともちゃん、あの子の裸って、見てみたい?」
友彦はびっくりしながらどう答えたらいいのか分からないままもじもじしていると、お姉さんはうっすらと潤んだ熱っぽい目で彼を見つめ「やっぱり男の子だからね」と言った。
それにも答えられずにいると、「あたしの裸でよければ、見てみる?」と聞いてきた。
意を決したように、そして強く迫るように聞かれたので、思わず首を縦に振る友彦。
するとお姉さんは、カーディガン、スカート、ブラウスの順に着ているものを静かに脱ぎ始めた。
一枚一枚、脱いだものを畳みながらお姉さんは友彦の目の前で、しかし決して目を合わせようとせず静かに少しずつ裸になっていった。
身体から離れたシュミーズが空気を含みながらはらりと畳の上に落ちた。
お姉さんは一瞬ためらってから横向きになり、ストッキング、ブラジャー、そして完全に背を向けながらパンティまでも脱いだ。
友彦は身体全体が心臓になったようにドキドキし、生唾を飲む音が聞かれてしまうんじゃないかと思うくらいに緊張し、そしてズボンの膨らみが分からないように膝を合わせて正座していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる