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第二章
第四十四話 考えをまとめ”タイター”へ
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ヒイラギたちは討伐のための作戦を話し合うために、半壊している家に集まった。
一番状態が良い家は村人が身を寄せる場所とし、少しでも不安を感じないようにというラージンの計らいであった。
木片などを避けて、各々が思い思いの場所に腰かけると、ラージンが今回の作戦について話し始めた。
「今回の討伐対象害獣は、”タイター”と呼ばれている、外殻が非常に硬い大型のサソリだ」
そうしてラージンは”タイター”の特徴と注意点について簡潔に伝えた。
外殻は一般的な武器では傷ひとつ付かないこと。
特にハサミ部分の硬度は並外れているため、攻撃する際にそこは避けること。
サソリのため毒を分泌できるが、毒性は弱く気にしなくてもよい程度だということ。
しなりながら飛んでくる尾には気を付けること。
すべて話し終えると、少し間を空けた。
「……本来ならば”タイター”は、南の砂漠地帯から出てくることはない。少なくとも、我は砂漠地帯外での目撃情報を聞いたことがない」
そう言って何かを考えるそぶりを見せたが、すぐに全員の方へと向き直った。
「今はそのようなことを気にしている場合ではないな。討伐後に考えるとする」
ラージンは懐から村周辺の地図を取り出し、足が折れた机へやや雑に広げた。
ヒイラギたちは立ち上がり、それを覗き込んだ。
「我が助力を頼んだ傭兵は、この場にいる主たちのほかにもう一人いる。今、そやつは森に入ってしまった”タイター”を捜索している」
ラージンが地図にある村と森の間の空白をに指を置いた。
「発見し次第、ここに誘導する手はずとなっている。その際に、破裂音による合図が2度3度鳴らされる。
”タイター”が飛び出してきたあとは、堅固と我が弟子2名で足止めをしてもらう」
ラージンの指がジョンとデッパフ、ドームを順に指していく。
「動きが鈍った隙に、白銀がその剣を”タイター”に突き刺す」
ヒイラギは指を向けられると、腰にある白銀の剣の柄を握った。
「それを我が致命傷へと変える。これが今回の討伐作戦だ」
作戦をもう一度頭の中で想像し、より具体的なイメージとして頭に刷り込んだヒイラギ。
この作戦の要の部分を確かめるように、口を開いた。
「つまり、討伐のためには僕が”タイター”の急所へと剣を突き立てる必要があるのですね」
「その通りだ。我の力だけでは外殻に傷をつけることができても、それだけでは致命傷にならない」
グッと強くラージンの拳が握られ、腕の筋肉が隆起する。
「そこで、噂に聞く折れない剣と、その剣を巧みに操り、攻撃をさばいて急所へと迫れる主に協力を依頼させてもらった」
ラージンはデッパフとドームから話を聞き、すぐに協力を依頼する決断をした。
弟子たちの推薦と自らも聞き及んでいる”白銀の守護者”の活躍から、迷う必要もなかった。
当のヒイラギはラージンの絶大な信頼に気付いておらず、いつも通り謙遜した。
「私がそこまでできるかはわかりませんが。これ以上、村の方々の命が失われないよう、全身全霊をかけます」
白銀の剣を抜き放ちながら覚悟を告げたヒイラギに、周りの男たちも呼応した。
「お前が急所にたどり着けるかどうかは、俺たちの働きにもかかっているんだからな」
「おうともさ! 足止めと言わずに、足の1、2本くらいはもっていってやろうか!」
「ヒイラギに救われた命だ。その恩返し始めの第一歩だな」
士気が十分に高まったのを見て、ラージンが会議の終了を告げた。
「いつ合図があるかわからない。待機中も気を抜かないように」
会議終了後にデッパフとドームはラージンに呼び出された。
どうやら、ドームの足の1、2本発言について注意されているようだった。
肝心のドームは気にしている様子はなかったが。
「ヒイラギ。今少し話せるか?」
ラージンたちを見てほほ笑んでいたヒイラギに、ジョンが声をかけた。
「ジョンさん。もちろんです。私もジョンさんの意見を聞きたいことがありまして」
「ああ。例の剣と盾についてだよな」
ジョンも同じことを話し合いたかったらしく、ヒイラギとふたりで少し場所を変えた。
「国が変なことをやるのは別に今回が初めてじゃないが……。それにしても、この件に関しては不思議なところが多すぎる」
「そうですよね。一般の方々からすれば、ただの色が珍しい剣と盾にすぎないものを展示するのはおかしいですし、危険性についても十分な報告を上げたはずです」
「実際、剣と盾の展示がされても、来館者はそこまで増えなかったようだしな。こんな利益にも何にも繋がらないことを、なぜ傭兵会の制止を振り切ってまで行ったのか」
ヒイラギは、薄々思っていたことを口にした。
「……強奪しやすいように、とかですかね……」
「…………」
ジョンはその言葉に特に驚かなかった。
可能性のひとつとしてジョンの頭にもあったのだろう。
「……考えたくはないが、その可能性もあるだろうな」
深く息を吐いたジョンは、頭に手を当てた。
「この件について、オルドウスさんに話を聞きに行こうと考えています。会えれば、の話ですが」
「それが一番核心に近づけるとは思うが……。話してくれるとも思えないんだよな」
無精ひげを手で撫でながら、何もない空間をぼーっと見つめた。
しばらくして、憶測の領域を出ない話を続けても仕方がないと、ジョンは話を切り上げた。
ヒイラギも今は目の前の依頼に集中しなければと、離れていくジョンを呼び止めなかった。
結論は何も出なかったが、ジョンと考えを共有できたことで、ヒイラギの心は少しだけ晴れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
動きがあったのは、それから数時間後だった。
突然、村はずれの方角から破裂音が聞こえたのだ。
「合図だ。皆、作戦通り行くぞ! 武器を取れ!」
激しく吼えたラージンが、その身の丈を優に超える大きな槌を掲げる。
森が悲鳴を上げ、ヒイラギたちの緊張が高まる。
2度目の破裂音が空へと打ち上げられた。
「”タイター”討伐を開始する!」
一番状態が良い家は村人が身を寄せる場所とし、少しでも不安を感じないようにというラージンの計らいであった。
木片などを避けて、各々が思い思いの場所に腰かけると、ラージンが今回の作戦について話し始めた。
「今回の討伐対象害獣は、”タイター”と呼ばれている、外殻が非常に硬い大型のサソリだ」
そうしてラージンは”タイター”の特徴と注意点について簡潔に伝えた。
外殻は一般的な武器では傷ひとつ付かないこと。
特にハサミ部分の硬度は並外れているため、攻撃する際にそこは避けること。
サソリのため毒を分泌できるが、毒性は弱く気にしなくてもよい程度だということ。
しなりながら飛んでくる尾には気を付けること。
すべて話し終えると、少し間を空けた。
「……本来ならば”タイター”は、南の砂漠地帯から出てくることはない。少なくとも、我は砂漠地帯外での目撃情報を聞いたことがない」
そう言って何かを考えるそぶりを見せたが、すぐに全員の方へと向き直った。
「今はそのようなことを気にしている場合ではないな。討伐後に考えるとする」
ラージンは懐から村周辺の地図を取り出し、足が折れた机へやや雑に広げた。
ヒイラギたちは立ち上がり、それを覗き込んだ。
「我が助力を頼んだ傭兵は、この場にいる主たちのほかにもう一人いる。今、そやつは森に入ってしまった”タイター”を捜索している」
ラージンが地図にある村と森の間の空白をに指を置いた。
「発見し次第、ここに誘導する手はずとなっている。その際に、破裂音による合図が2度3度鳴らされる。
”タイター”が飛び出してきたあとは、堅固と我が弟子2名で足止めをしてもらう」
ラージンの指がジョンとデッパフ、ドームを順に指していく。
「動きが鈍った隙に、白銀がその剣を”タイター”に突き刺す」
ヒイラギは指を向けられると、腰にある白銀の剣の柄を握った。
「それを我が致命傷へと変える。これが今回の討伐作戦だ」
作戦をもう一度頭の中で想像し、より具体的なイメージとして頭に刷り込んだヒイラギ。
この作戦の要の部分を確かめるように、口を開いた。
「つまり、討伐のためには僕が”タイター”の急所へと剣を突き立てる必要があるのですね」
「その通りだ。我の力だけでは外殻に傷をつけることができても、それだけでは致命傷にならない」
グッと強くラージンの拳が握られ、腕の筋肉が隆起する。
「そこで、噂に聞く折れない剣と、その剣を巧みに操り、攻撃をさばいて急所へと迫れる主に協力を依頼させてもらった」
ラージンはデッパフとドームから話を聞き、すぐに協力を依頼する決断をした。
弟子たちの推薦と自らも聞き及んでいる”白銀の守護者”の活躍から、迷う必要もなかった。
当のヒイラギはラージンの絶大な信頼に気付いておらず、いつも通り謙遜した。
「私がそこまでできるかはわかりませんが。これ以上、村の方々の命が失われないよう、全身全霊をかけます」
白銀の剣を抜き放ちながら覚悟を告げたヒイラギに、周りの男たちも呼応した。
「お前が急所にたどり着けるかどうかは、俺たちの働きにもかかっているんだからな」
「おうともさ! 足止めと言わずに、足の1、2本くらいはもっていってやろうか!」
「ヒイラギに救われた命だ。その恩返し始めの第一歩だな」
士気が十分に高まったのを見て、ラージンが会議の終了を告げた。
「いつ合図があるかわからない。待機中も気を抜かないように」
会議終了後にデッパフとドームはラージンに呼び出された。
どうやら、ドームの足の1、2本発言について注意されているようだった。
肝心のドームは気にしている様子はなかったが。
「ヒイラギ。今少し話せるか?」
ラージンたちを見てほほ笑んでいたヒイラギに、ジョンが声をかけた。
「ジョンさん。もちろんです。私もジョンさんの意見を聞きたいことがありまして」
「ああ。例の剣と盾についてだよな」
ジョンも同じことを話し合いたかったらしく、ヒイラギとふたりで少し場所を変えた。
「国が変なことをやるのは別に今回が初めてじゃないが……。それにしても、この件に関しては不思議なところが多すぎる」
「そうですよね。一般の方々からすれば、ただの色が珍しい剣と盾にすぎないものを展示するのはおかしいですし、危険性についても十分な報告を上げたはずです」
「実際、剣と盾の展示がされても、来館者はそこまで増えなかったようだしな。こんな利益にも何にも繋がらないことを、なぜ傭兵会の制止を振り切ってまで行ったのか」
ヒイラギは、薄々思っていたことを口にした。
「……強奪しやすいように、とかですかね……」
「…………」
ジョンはその言葉に特に驚かなかった。
可能性のひとつとしてジョンの頭にもあったのだろう。
「……考えたくはないが、その可能性もあるだろうな」
深く息を吐いたジョンは、頭に手を当てた。
「この件について、オルドウスさんに話を聞きに行こうと考えています。会えれば、の話ですが」
「それが一番核心に近づけるとは思うが……。話してくれるとも思えないんだよな」
無精ひげを手で撫でながら、何もない空間をぼーっと見つめた。
しばらくして、憶測の領域を出ない話を続けても仕方がないと、ジョンは話を切り上げた。
ヒイラギも今は目の前の依頼に集中しなければと、離れていくジョンを呼び止めなかった。
結論は何も出なかったが、ジョンと考えを共有できたことで、ヒイラギの心は少しだけ晴れた。
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動きがあったのは、それから数時間後だった。
突然、村はずれの方角から破裂音が聞こえたのだ。
「合図だ。皆、作戦通り行くぞ! 武器を取れ!」
激しく吼えたラージンが、その身の丈を優に超える大きな槌を掲げる。
森が悲鳴を上げ、ヒイラギたちの緊張が高まる。
2度目の破裂音が空へと打ち上げられた。
「”タイター”討伐を開始する!」
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