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第二章

第四十三話 害獣退治へ

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 シーナリーム王国の傭兵会本部、そこへ入ってすぐにある飲食スペースは、本日も活気と熱気であふれていた。
 最近あった依頼の自慢話じまんばなしをする者、根拠のないうわさ話にきょうじる者、出された料理を幸せそうに食べる者など。
 そこが静かになることはあるのか疑問に思ってしまうほどの喧騒けんそうだった。

 その中でひとり、目の前にある野菜いためをじっと見つめたまま、口を閉じている者がいた。
 にぶい銀色の髪の毛に碧眼へきがんがよく映えるその少年――ヒイラギは、ここにいる人々がもう気にも留めていない事件について深く考えていた。

(あんなにも危険な剣と盾を盗まれたというのに、捜索の依頼はおろか、ほんの些細な動きすらないなんて……)

 ヒイラギを含めた4人による死闘の末、ようやく無力化した死の力を操る生の女神。
 その女神が宿っている紫色の剣と死の黒い盾が何者かによって盗まれてから1か月が経っていた。
 
(そもそも、なんで展示なんかしたんだ……? 僕の話を真面目に受け取ったとしたら危険すぎる代物しろもの。真面目に受け取らなかったのなら、ただの剣と盾という認識のはず……)

 呼吸も忘れるほどじっと野菜を見つめているヒイラギを、周囲の人間は気にしていなかった。

(オルドウスさんは何か掴んでいるのかな……)

ぬしが”白銀の守護者”か?」

(直接聞こうかな。でも、いったん他の人の考えを聞いた方が……?)

ぬし? 白銀のぬし。そのように野菜を見つめても、増えも減りもせんぞ」
「え!? あ、すみません」

 気づかないうちに向かいの席に座っていた巨漢にようやく意識が行ったヒイラギは、とっさに謝罪を口にした。

「それで、ぬしが白銀の守護者か?」

 そんなことをまったく気にしていないようで、巨漢はヒイラギへと再び問いかける。

「はい。私が”白銀の守護者”、ヒイラギです。えっと、お名前をお伺いしても?」

 いつもの調子を取り戻したヒイラギが、今度は巨漢へと質問を返す。

「我はラージン・ダイと言う。害獣退治部門にて、”大怒槌おおいかづち”の通り名で活動している」
「あなたが”大怒槌おおいかづち”さんでしたか。害獣退治部門の第一位であるあなたにお会いできて光栄です」

 そう言って差し出した手を、大きな手でラージンが握った。

「我も主にこうして会えたこと嬉しく思う。それで、いきなり本題を告げてもよいか?」
「はい。何かご用でしょうか?」

 ヒイラギは、思い当たる節がなかった。

「主に害獣退治の協力を仰ぎたい。無論、報酬もしっかりと払う。まずは依頼内容を聞いてほしい」

 疑問を挟もうとしたところに、先手を打たれたヒイラギは、とりあえず内容を聞くことにした。

「ここから南へと3日程度進み、ちょうど森を抜けたところにある村からの依頼だ」

 ラージンが語った内容はこうだった。
 その村はいちど巨大な生物の襲撃を受けてしまったが、再び襲撃を受ける可能性が非常に高い。
 その巨大生物に対抗するために、ヒイラギの力が必要だということだった。

「私の力を必要としてくださるのはとても嬉しいですが、害獣退治などしたことのない私が力になれるかどうか……」
「我のたち2人が主を推薦していた。さらに、最近の活躍を我も知っている。実力に関してはまったく問題がないと思うが」
「名の弟子……。確か、駆け出しの傭兵が、通り名のついている傭兵に弟子入りした状態のことでしたね」

 ただ、これまた思い当たる節のないヒイラギは、依頼の内容と相まって非常に悩んだ。
 悩んだ末に、ヒイラギは承諾することにした。

「わかりました。村の人々の命を守ることができるのならば、ご協力します」
「そうか。快諾してもらい、感謝する」

 そう言うと、机すれすれまで顔を下げた。
 ヒイラギは慌てて元に戻るように伝えると、ラージンはひたいに野菜をくっつけて起き上がった。

「ぬう。すまない。主の料理を台無しにしてしまった。それをつぐなってから出立しよう」
「あ、お気になさら――」
「野菜炒めと一番おいしい肉料理を頼む」

 ヒイラギが止める間もなく、注文が終わっていた。
 すぐに出てきた野菜炒めと柔らかく煮込まれた肉料理を、ヒイラギはラージンに見つめられながら食べることとなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 馬車による移動で約3日。
 ヒイラギとラージンはようやく南の村へと到着した。

 その移動中に判明したことがいくつかあった。

「よおヒイラギ! 俺のこと忘れたとは言わせねえぞ!」
「あの時は負けてしまったが、次は負けないからな」

 これまた体の大きい2人組を見て、ヒイラギは笑顔で挨拶をした。

「お久しぶりです。デッパフさん。ドームさん。おふたりとも新参大会以来ですね」

 ラージンの名の弟子は、ヒイラギが新参大会の予選で戦ったデッパフと、決勝戦でマフィスと戦ったドームだった。
 害獣退治部門にて活躍をしている彼らは、それぞれ”ビッグB”と”ビッグ・ビッグ”という通り名がついていた。

 2人に背中をばしばし叩かれていると、その向こうにも知っている人を見つけた。

「お、ヒイラギじゃないか。また一緒に戦えるなんてな」
「ジョンさん! こちらこそ光栄です」

 ラージンは護衛部門第一位、”堅固爆砕けんごばくさい”のジョンにも協力を依頼していた。

 生の女神との決戦で死闘を共にしたジョンとの再会に喜んだ。
 そのまま盗難事件について聞きたかったヒイラギだったが、村の様子を見てその考えを捨てた。

「お話は伺っていましたが……。これはひどい」

 小さな村に建っている家は数軒しか残っておらず、ほとんどはただのがれきの山となっていた。
 ところどころに血の跡がこびりついており、地面には大穴が等間隔に空いている。

 言葉を失ったヒイラギの隣に、ラージンが立った。

「これ以上の被害は絶対に出さない」

 ラージンの低く太い声がかすかに震えていた。
 巨大な体の内側から、怒りがにじみ出ていた。

「さあ……。巨大サソリ討伐について話そう」
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