葛宮葬儀屋の怪事件

劣情祝詞

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第一話 生ける屍からの依頼

8 晴瀬さん、隠しますか死体!?

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 おいいい!?どうすんだよこれ!
 落ち着いて状況をまとめよう。

 俺に憑いていた色情霊を除霊師が祓って、ついでに出てきた悪霊からオーナーを庇って客がオーナーもろとも悪霊に飲み込まれた。

 労災どころじゃねええええ!
 訴訟じゃ済まないだろこれ…。

「晴瀬さん、隠しますか死体!?」
「落ち着け、勝手に殺すな」

 倒れた二人の脈を測り「まだ死んでない」、と呟いた晴瀬も、いつもの余裕は少し剥がれて汗をかく。

「悪霊の領域には外からは踏み込めない。二人がどうにか隙を作ってくれるまで待つしか…」

 晴瀬は外から何やら呪文を唱え続けていたが、二人が動く気配はなかった。
 俺たちは30分間ほどの間そうしていたが、沈黙は突如破られた。

「ぷはぁっ!!」

 葛宮と汐見が同時に大きく息を吸いこみ大きく動いた。

「生き返ったぁ!!」
「だから死んでねえって」

 あー良かったああ!!
 オーナーが死んだら倒産手続き、客が死んだら死亡慰謝料うんぬん…。
 記者会見、謝罪、1分間頭を下げ続けて……。
 二十歳にして俺の人生詰むとこだった。

「オーナーと汐見さんの心配しろよ」

 二人はゲホッと咳き込んで状況を把握しようとしている。
 そこに、先ほど聞いた悪霊の低い声が響いた。

『あ”あ”あ”あ”こいつら舐めやがってええ』

「大丈夫かオーナー」
「ぁ、あぁ。…ここは現世?」
「残念ながら現世だ」

 心底残念そうな顔をするオーナーに対し、汐見は俯いたままふぅ、と一息ついた。
 俺は依頼人である汐見に駆け寄り、安否を確認する。
 彼に何かあっては、大変なことになる。

「汐見さんも、大丈夫でしたか!?」
「大丈夫じゃ……いえ、大丈夫です」

 含みのある言い方をして、汐見は上目遣いで葛宮の方を睨むように見つめた。
 アイコンタクトを取るように、葛宮も汐見を見つめ返してニヤリと笑った。
 二人が意識を失っていた数十分、いったい何があったというのか。
 まぁ、それはいいとして、問題は悪霊の方だ。

「晴瀬さんっ早くその悪霊消してくださいよ!」
『だから俺を悪霊などと呼
「待て久遠、まだ利用価値があるかもしれねえ」
『話を聞けぇ"!!』

 悪霊を華麗に無視した晴瀬はそう言うと、なにやら長ったらしい詠唱のようなものを唱えた。
 それにつられるように、悪霊の声はみるみる大人しくなっていく。
 晴瀬が言葉を言い終える頃には、その叫びは萎びたように枯れ、息も絶え絶え、と言った様子となった。

 その瞬間、悪霊はぼんやりと俺にも見える姿を現した。
 オーナーや汐見にも見えているらしく、興味深そうな様子だ。
 少年のようにも、青年のようにも見えるが、実態ははっきりとは見えない。
 しかし弱っていることだけはわかった。

「悪霊、ひとつ聞きたいことがある」
『気さくに話しかけるなあ"…』
「答えてくれれば、何もせずに解放してやる」
『なんだとぉ"……?』
「『カソウ』と呟いている霊を知らないか?」
『あ"ぁ"?』
「火葬されたがっているという霊が、この人に憑いてるはずだったんだが、行方不明なんだ」

 そう言って晴瀬は汐見の背中を押した。
 悪霊は汐見のことを奇妙なものを見るかのような目で見ていた。
 最初は答えたくなさそうにぐぬぬぬ~と黙っていたが、晴瀬の除霊が怖いらしく、観念したように喋り出した。

『……そこの薄気味悪い野郎のことは知らないが、その霊なら聞いたことある。何やら、カソウカソウうるさくて薬でもキメてんのかと思ってなぁ……』
「まさか倒したとか?」
『視線を合わせずに静かにその場を去った』

 割りと常識ある大人の対応!

「そんな『しっ見ちゃいけません!』みたいな悪霊いるかよ!」

 晴瀬が俺の言いたかったことを代弁。
 と、あの変人葛宮でさえ至極まっとうになって、話を本題に戻した。

「その声はいつ聞いたんだい?」
『一週間前だ……それまでは一度も聞いてな"い』
「つまりその霊は、一週間ほど前に死んだ可能性が高い」
『さぁな"』

 
「誰に憑いている霊だったかは覚えているかな?」
『誰、だあ?アイツは誰にも憑いちゃいねえ。……地縛霊だよ。場所なんか覚えてねえが、山奥のクソ田舎だ』

 地縛霊だって?

「それはおかしいです。だって、汐見さんはここ一週間ずっと地縛霊の声を聞いているんですよ?同じ場所にいたなんて考えづらいでしょう」
『……』

 悪霊は意味ありげに汐見を見たが、当の本人は怯む様子もなく相変わらずの無表情で俯いていた。

『……大サービスで3つも質問に答えてやったんだ……俺を解放しやがれ"…』
「オーナーどうする?」

 晴瀬が葛宮に指示を仰ぐ。
 人を二人同時に飲み込むような力の強い悪霊を野放しにしていいものか、俺だって不安になる。

「まぁ……いいんじゃない?ミツラ、君は死体ではない上に些かが強すぎる。僕はあまり興味が出ない」
『あぁ"?』
「だけど、僕と汐見くんに面白いひとときを提供してくれたことは感謝しているよ」
「いいんですか?」
「三人とも、行くよ。死体を探さなければ」

 葛宮は着ていたベストをぐいっと整えて、さっさと歩きだしていた。

「ということらしいから、てめえはもう自由だとよ。しばらくは大人しくしてろよ」

 晴瀬もそう言ったかと思うと、右手をヒラヒラ動かしながら葛宮の後に続く。

「ちょ、待ってくださいよ二人とも!」

 俺も足早に二人の後を追った。
 
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