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第一話 生ける屍からの依頼
2 そうではなくて、霊を火葬して欲しいんです
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晴瀬は、俺の背後を見つめながら、ニヤニヤと悪趣味な笑みを浮かべた。
「相変わらずうじゃうじゃ憑いてんなあ」
「ひっ!やめてくださいよ」
「事実だからな、ちょっくら除霊しとくか?」
「あんたのは除霊じゃなくてセクハラですっ!」
「幽霊はエロいことが嫌いなんだよ。つまり除霊は実質エロだ」
「んな訳あるかあ!」
晴瀬。
葛宮葬儀屋で働く26歳の除霊師である。
ダウナー系イケメンを売りにしてフリーの除霊師をしていたところをオーナーにスカウトされ、数年前に従業員となったと聞いた。
彼の信条はただ一つ、除霊はエロだということ。
除霊する時の憑かれた人間の悶え苦しむ様と、快感に狂う姿を見るのが悦楽である、ガチの変態。
高い給料を払ってくれる葛宮を、自分の悦楽のために利用し尽くそうと画策しているらしいが……。
俺が来てからは除霊がしやすくなったと言っていた。
俺たちは実質、仕事上の相棒となっていた。
「そもそも、俺が祓わなかったらお前、取り殺されんだから、拒否しようがねえだろうが」
「俺を玩具にして遊んでるだけでしょう!?」
「なんなら24時間後ろで繋がりっぱなしになるか?幽霊どもも馬に蹴られてあの世に帰るだろうよ」
「何言ってるんですか嫌ですよ!」
「ついでに俺もお前も気持ちよくって、一石三鳥」
「この変態野郎!!あうっ♡」
三本に立てた晴瀬の指が、シャツ越しに俺の乳首を摘み、俺の喉は思わず甘い悲鳴を漏らしてしまった。
晴瀬は摘んだ指をクリクリと動かしながら、俺の耳元に口を寄せ、囁いた。
「その変態野郎に1週間前、腹の奥突かれてアヘってよがったのはどこの久遠くんかね~?」
「ばっ、何を言って!」
「ハロウィンの日は特に霊の量が酷いからなあ。一晩中ずぶずぶとろとろぐちゃぐちゃにならないと全部除霊しきれなかったなアレは」
「覚えてない覚えてない覚えてない!」
俺は叫びながら、体を這う晴瀬の手を振り払う。
その手を今度は、俺の下半身に運び、尻をぎゅっと掴んで揉みしだいた。
「この可愛くて慎ましい尻で俺の立派なもんを擦り切れるまで一生懸命受け入れてたじゃねえか」
「やめろおおお!」
なんて憎らしい男……!
「憑かれ体質」なんてなければ、すぐにでもこの男と縁を切っているのに!
立ったまま暴れる俺たちをじっとりとした視線で見つめながら、葛宮はぽつりと呟いた。
「僕も混ぜてくれればよかったのに」
「え?」
「え?」
地獄のような空気。
葛宮は部屋の隅にとぼとぼと歩き、体操座りになった。
冷たい空っ風でも吹きそうなほど、悲壮感が漂っている。
「なんだ嫌か……」
「オーナー、3P拒否られたからって落ち込むな…」
「仲間外れなんて悲しいじゃないか…」
「死体とでもキスしてればいいでしょう」
俺は容赦なく無慈悲な一言をかける、とその時。
カランカラン。
しょぼくれている葛宮を無視するかのように、玄関の扉が開き鐘の音が響いた。
そこから入ってきたのは、頭が扉の枠スレスレで、ぶつけてしまいそうなほどの長身。
体つきの良い、筋肉質な若い青年だ。
しかしその姿よりも、さらに気になるのは顔である。
ーー表情筋が死んでいる。
一目見て、三人ともがそう思った。
常に平行な口角と眉。
凛々しいというのか、ポーカーフェイスというのか。
その精悍な顔立ちから、表情は全く読み取れない。
体操座りをしたまま振り返った葛宮と目が合った青年は、ぽつりと口を開いた。
「あの、死者の火葬って…できますか…?」
「……そりゃ、ここは葬儀屋ですから…?」
「いえ、そうではなくて、霊を火葬して欲しいんです」
俺たちは顔を見合わせた。
「それで、一体どういうことですか」
俺はお盆で運んできたお茶を、机の上に置きながら尋ねた。
先ほどの客を迎えた時と全く同じように、机を挟んで客と向かい合っている。
違うことといえば、少し後ろで晴瀬が話を聞いていること、そして、葛宮が客が話しているというのに、全く興味を持っていない様子で、腕を組んでいることくらいだった。
「話せば長くなるのですが、ここ1週間ほど、聞こえるんです」
「き、聞こえるって…」
「霊の声が」
客が顔色一つ変えずにそう言ってのけると、後ろで聞いていた晴瀬は静かに客に視線を向けた
俺はわずかに震えた声を抑えられないまま、言葉を返す。
「……まさか?何かのご冗談でしょう。第一、なんで霊の声だってわかるんです?ただの幻聴かもしれないじゃないですか」
「いえ、確かに言っているんです。毎晩毎晩、耳元で、」
客は背をかがめて、口に手を当てて、小声で囁いた。
「『カソウ…シテ……カソウ…』ってね」
「……は?カソウ?」
「だから、『火葬して、火葬』ですよ」
「そんな霊がいてたまるか!」
客に対して失礼にも華麗なツッコミを入れてしまった俺の背後から音もなく歩いてきた晴瀬。
回り込んで客の背後まで歩いてきたかと思うと、馴れ馴れしく客の肩を組んで、ニヤついた。
「確かに憑いてんなあ」
「憑いてんの!?」
「相変わらずうじゃうじゃ憑いてんなあ」
「ひっ!やめてくださいよ」
「事実だからな、ちょっくら除霊しとくか?」
「あんたのは除霊じゃなくてセクハラですっ!」
「幽霊はエロいことが嫌いなんだよ。つまり除霊は実質エロだ」
「んな訳あるかあ!」
晴瀬。
葛宮葬儀屋で働く26歳の除霊師である。
ダウナー系イケメンを売りにしてフリーの除霊師をしていたところをオーナーにスカウトされ、数年前に従業員となったと聞いた。
彼の信条はただ一つ、除霊はエロだということ。
除霊する時の憑かれた人間の悶え苦しむ様と、快感に狂う姿を見るのが悦楽である、ガチの変態。
高い給料を払ってくれる葛宮を、自分の悦楽のために利用し尽くそうと画策しているらしいが……。
俺が来てからは除霊がしやすくなったと言っていた。
俺たちは実質、仕事上の相棒となっていた。
「そもそも、俺が祓わなかったらお前、取り殺されんだから、拒否しようがねえだろうが」
「俺を玩具にして遊んでるだけでしょう!?」
「なんなら24時間後ろで繋がりっぱなしになるか?幽霊どもも馬に蹴られてあの世に帰るだろうよ」
「何言ってるんですか嫌ですよ!」
「ついでに俺もお前も気持ちよくって、一石三鳥」
「この変態野郎!!あうっ♡」
三本に立てた晴瀬の指が、シャツ越しに俺の乳首を摘み、俺の喉は思わず甘い悲鳴を漏らしてしまった。
晴瀬は摘んだ指をクリクリと動かしながら、俺の耳元に口を寄せ、囁いた。
「その変態野郎に1週間前、腹の奥突かれてアヘってよがったのはどこの久遠くんかね~?」
「ばっ、何を言って!」
「ハロウィンの日は特に霊の量が酷いからなあ。一晩中ずぶずぶとろとろぐちゃぐちゃにならないと全部除霊しきれなかったなアレは」
「覚えてない覚えてない覚えてない!」
俺は叫びながら、体を這う晴瀬の手を振り払う。
その手を今度は、俺の下半身に運び、尻をぎゅっと掴んで揉みしだいた。
「この可愛くて慎ましい尻で俺の立派なもんを擦り切れるまで一生懸命受け入れてたじゃねえか」
「やめろおおお!」
なんて憎らしい男……!
「憑かれ体質」なんてなければ、すぐにでもこの男と縁を切っているのに!
立ったまま暴れる俺たちをじっとりとした視線で見つめながら、葛宮はぽつりと呟いた。
「僕も混ぜてくれればよかったのに」
「え?」
「え?」
地獄のような空気。
葛宮は部屋の隅にとぼとぼと歩き、体操座りになった。
冷たい空っ風でも吹きそうなほど、悲壮感が漂っている。
「なんだ嫌か……」
「オーナー、3P拒否られたからって落ち込むな…」
「仲間外れなんて悲しいじゃないか…」
「死体とでもキスしてればいいでしょう」
俺は容赦なく無慈悲な一言をかける、とその時。
カランカラン。
しょぼくれている葛宮を無視するかのように、玄関の扉が開き鐘の音が響いた。
そこから入ってきたのは、頭が扉の枠スレスレで、ぶつけてしまいそうなほどの長身。
体つきの良い、筋肉質な若い青年だ。
しかしその姿よりも、さらに気になるのは顔である。
ーー表情筋が死んでいる。
一目見て、三人ともがそう思った。
常に平行な口角と眉。
凛々しいというのか、ポーカーフェイスというのか。
その精悍な顔立ちから、表情は全く読み取れない。
体操座りをしたまま振り返った葛宮と目が合った青年は、ぽつりと口を開いた。
「あの、死者の火葬って…できますか…?」
「……そりゃ、ここは葬儀屋ですから…?」
「いえ、そうではなくて、霊を火葬して欲しいんです」
俺たちは顔を見合わせた。
「それで、一体どういうことですか」
俺はお盆で運んできたお茶を、机の上に置きながら尋ねた。
先ほどの客を迎えた時と全く同じように、机を挟んで客と向かい合っている。
違うことといえば、少し後ろで晴瀬が話を聞いていること、そして、葛宮が客が話しているというのに、全く興味を持っていない様子で、腕を組んでいることくらいだった。
「話せば長くなるのですが、ここ1週間ほど、聞こえるんです」
「き、聞こえるって…」
「霊の声が」
客が顔色一つ変えずにそう言ってのけると、後ろで聞いていた晴瀬は静かに客に視線を向けた
俺はわずかに震えた声を抑えられないまま、言葉を返す。
「……まさか?何かのご冗談でしょう。第一、なんで霊の声だってわかるんです?ただの幻聴かもしれないじゃないですか」
「いえ、確かに言っているんです。毎晩毎晩、耳元で、」
客は背をかがめて、口に手を当てて、小声で囁いた。
「『カソウ…シテ……カソウ…』ってね」
「……は?カソウ?」
「だから、『火葬して、火葬』ですよ」
「そんな霊がいてたまるか!」
客に対して失礼にも華麗なツッコミを入れてしまった俺の背後から音もなく歩いてきた晴瀬。
回り込んで客の背後まで歩いてきたかと思うと、馴れ馴れしく客の肩を組んで、ニヤついた。
「確かに憑いてんなあ」
「憑いてんの!?」
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