葛宮葬儀屋の怪事件

クズ惚れつ

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プロローグ これが『葛宮葬儀屋』のやり方です

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 その華奢で軽い体を、葛宮が受け止めた。

「ナイス除霊!」

 少女の体を優しく抱え、親指を立てサムズアップしながら、満面の笑みで葛宮が呑気にそう呟いた。
 良かった……いくら死んでいるとはいえ、いたいけな少女が悪霊に取り憑かれているのを見るのは少々胸に応える。
 これで少女も安らかに成仏することができるだろう。
 いや、他人の心配をしている場合ではない。
 この世のものならざるが、一直線に俺に向かっているのを確かに感じた。
 
『カラダカラダカラダカラダ…イレテイレテイレテイレテッ!!!!!!』
「ああ”ア”ッ!?」
『ギャハハハハハハハハハ!!!』

 ドクンッ!!
 心臓の高鳴り、有刺鉄線で締め上げられるような激痛。
 脳内に響く金切り声のような悪霊の笑い声。
 心臓から、背筋を通り越して、脳内に重くびりびりと痺れるような塊が入り込んでくる。

「ぐぅううッ…!くぁ”あ”!」
「久遠、大丈夫だから、深呼吸しろ。」
「ぅああ”あ”っ!い”っ、だい”……!」

 晴瀬は俺の頭を両手で掴んで、顔を覗き込んだまま言い聞かせてくる。
 その声が酷く遠くに感じる。
 縄で縛り付けられる体を無意識に暴れさせてしまうのを抑えられない。
 ガンッ、ガンッ、ガンッ、けたたましい音を立てて椅子の足が床に何度も何度も強く当たる。
 皮膚に縄が食い込み、擦り切れ、赤い血を滲ませた。

「痛みで気ぃ狂うなよ……!?久遠!」
「あ”あ”あ”っ!誰がッ、狂うって…!?だいたい、アンタがッ!こうしたんでしょうが!!ぅううぅうァア”ア”!!」
「悪いと思ってる!すぐ除霊するから、移動するぞ。」

 晴瀬は縛り付けられている俺の体を椅子ごと抱えて、部屋のドアに向かった。
 ドアを開けようとした瞬間、反対側からドアを開いたのは、少女の両親だった。

「物音が止みましたけど……終わったんですか?」
「あの子は!あの子の体は無事ですか!?」

 そう叫びながら飛び込んできた両親は、俺と晴瀬の姿を見て面食らった。

「あの、その姿……一体何を…?」

 そりゃドン引きもする、俺だってする。
 亀甲縛りで椅子にくくりつけられた男と、それを抱える男。
 俺に至っては、悪霊に取り憑かれかけてひっきりなしにうめき声を上げている始末。
 どう考えても異様な光景。

 なんで俺まで変態の仲間入りみたいな目で見られなきゃいけないんだあああ!!!

「あああ”あ”あ”っ晴瀬ぇぇえええ”え”!!」

 俺は悪霊に内側から蝕まれる痛みをなんとか逃したくて、意味もなく絶叫をあげてしまう。

「さんをつけろ、さんを。……遺体から悪霊は除霊できました。あとはうちのオーナーが対応しますので。……部屋をご用意できます?」

 少女の両親は、「は、はい」と困惑した様子で返事をし、俺を抱えた晴瀬を別室に案内した。



「ウぅぅうゥウ”う”ぅ”。」
「悪霊に飲まれかけてるな……。いいか久遠、これから除霊を行う」

 ほとんどものがない真っ白な壁の6畳ほどの個室に、椅子に縛り付けられた俺と晴瀬は向き合っている。 
 眩暈もするし、晴瀬の声も遠くに聞こえるしで、もうへろへろだった。
 しかし、これから行う「除霊」のことは、はっきりと理解できた。
 そう、こんな風に悪霊のイタコにさせられての除霊はもう何度も経験しているのだ。

ーーまた、が始まる。

 晴瀬は縄の隙間から、俺の服を切り裂いて、はだけさせる。
 そして、縄の隙間から縊りだされる俺の乳首を容赦無くつまみ潰した。

「うぅう”ウ”♡ぁぁぁ…変態っぃあ!!♡」
「我慢しろ、何度も言っているだろう。『除霊はエロ』だ」
「あぁああっんぅううう♡♡♡」

 身体中を弄られる、晴瀬が触れるところから、徐々に痛みがシュワアアァァと音を立てて離散するようだった。
 熱い体温が気持ちいい、安心する。
 俺はもう、何に抵抗すればいいのかもわからず、晴瀬の「除霊」にその身を預けていた。



 クタッと倒れた少女の体を元どおり棺に納め、葛宮は額の汗を拭った。

「あの、店長さん。葬儀は……」
「あぁ、無事できますよ。は死体に戻りましたから」
「あぁ、ありがとうございます、ありがとうございます……」

 旦那は葛宮の手を取り、ぐっと握りしめ、妻はわずかに目元の涙を拭った。

「では今から、死体を火葬場に運びますので、
『んぁあっ♡晴瀬、さんっ♡やめっ、イくっう♡♡』

 葛宮の説明を途中で遮ったのは、隣の部屋から響いた男の嬌声。

『なんだぁ?除霊なのに、もうイっちゃうのか?えぇ?除霊で感じちゃってるのか、よっ!』
『ひぅううっ!♡もういない!幽霊俺ん中、もういねえからっ♡♡これただのせっくすっ……あ”♡♡』

「あの……あちらのお二人は、一体何をなさって……?」

 依頼人の妻は、ドン引きした顔で口元を押さえながら、葛宮の方を見た。
 全く動揺する様子もなく葛宮は、わずかに微笑む。

「えぇ、除霊ですよ。あれが彼のやり方なんです」

 葛宮は、棺の蓋をゴトン、と閉めて言った。

「これが『葛宮葬儀屋』のやり方です」
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