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プロローグ 死体の姿!なんて美しいんだ!
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ーー10月31日、ハロウィン
死後の世界の扉が開き、霊が帰ってくる日。
その中には悪霊や、さまよえる魂も混じっているという。
外では仮装した若者たちが練り歩き、楽しそうにイベントを楽しんでいる。
一方の俺は、とある洋館で死闘を繰り広げていた。
何との死闘かって?
悪霊だよ。
ピンクを基調とした可愛らしい子供部屋
メルヘンなベッド
棺
壁は剥がれ、家具はバキバキに砕け散り、部屋はものでごった返して悲惨だ。
その原因は、部屋の真ん中で暴れている少女だった。
否、正しくは、少女の死体。
白目を剥きながら、幼い子どもの声とは思えない、低いうなり声をあげる少女。
風を巻き上げ、黒のオーラを纏い、ポルターガイスト現象のように部屋中を震わせていた。
「ォァアぁぁオォオぅうぅ”ぅ”う”ウ”オ”お”お”お”!!!」
「その生命を失ってもなお動き続ける死体の姿!なんて美しいんだ!こんな死体は滅多に見られない!」
葬儀屋のオーナー兼店長、葛宮が死体愛好の性癖を隠そうともせず、興奮した声を上げている。
少女の前に立ちはだかり、風でその髪をうねりあげらせながら、嬉々と、そして爛々と瞳を輝かせている。
「トチ狂ってんじゃねぇええ!!こっちがあの世に送られかけてんだぞ今!!わかってるんですかオーナー!?」
少女の力に吹き飛ばされないように必死にベッドの足にしがみつく俺は、そんな葛宮を正気に戻したくて叫ぶ。
しかし、この男が正気だったことなんてただの一度もないのだ。
無意味、まさに糠に釘、馬の耳に念仏、葛宮の耳に正論。
「なるほど、悪霊というのは生者のみならず死者にも取り憑くのか。つまり死体を一概に『モノ』と判断するのは些か早急……」
「言ってる場合かぁっ!うおぉおお!この子包丁持ってますよ!?うわあああ投げたあああ!!」
「おっとあぶね」
「晴瀬さんっ!」
投げナイフのようにシュンッと音を立てて吹っ飛ぶ包丁。
晴瀬と呼ばれた男の顔面の横を掠めると、ザクっと壁にぶっ刺さる。
ワンレングスの紫髮の毛先が鋭く切れ、パラリと床に落ちた。
「包丁は投げちゃダメって!!家庭科の先生から教えてもらわなかったのかあああ!!!!」
俺は絶叫の説教を少女に浴びせかけながら、その場に落ちている棺の中に入っていたであろうものを手当たり次第掴み、少女に投げつける。
リボンのついたテディベア!
ピンクと黄色のチューリップ!
ハートのシールで止められたお手紙!
暴れまわる少女と、腕を組みながら嬉々として興奮する葛宮と、狂ったようにモノをぶん投げる俺、そしてそんな俺を庇うように前に立つ晴瀬。
グッチャグチャな部屋の中で、ファンシーなアイテムが宙を飛び交う。
まさに混沌。
「落ち着けよ、久遠……。」
「どうするんすか晴瀬さん…!?」
「いいか、まずお前の体を椅子に縛り付ける。」
「はあ!?!?この期に及んで頭イかれたのか!?」
「聞け馬鹿!……その後、少女の悪霊をお前の体に移す。椅子ごとお前を別室に移動し、しっかり除霊する。この作戦でいくぞ」
「俺がアレになるってことですか!?嫌ですよ!!」
俺は、少女の死体をビシッと指差して叫んだ。
コォオオオオと人ならざる呼吸音をさせながら、黒いオーラを纏い暴れまわっている。
「しょうがないだろ。早くあの子の葬儀をしねえと腐っちまう。これ以上部屋をぶっ壊すわけにもいかねえ。火葬場の予約にも間に合わなくなるしな。……覚悟決めろよ、葛宮葬儀屋の一員なんだろ」
「ただのバイトですけど!?!?」
「お前の『憑かれ体質』がなけりゃ、少女の外に出した悪霊の行き場がない。依頼人と葬儀のことは、オーナーに任せて、俺たちは除霊に集中するぞ」
「うぅううっ、ああもう!わかりましたよ!やればいいんでしょ?やれば!」
晴瀬は素早い手つきで俺の体を椅子に縛り付けた。
……っておい、なんだよこれ!?
「なんで亀甲縛りなんですか!?!?」
「あ~、趣味?」
「変態クソ野郎!」
「小言は後で聞く、オーナー準備はいいか……オーナー?」
葛宮から返事はない。
俺と晴瀬が少女と葛宮の方を見ると、葛宮が少女の手を取ってマジマジと見つめていた。
「お”ァ”あ”ぉ”ォ”オ”ア”ア”ァ”ォ”!?」
「この場合、死因は何になるのだろうか?生前は水難事故による溺死だったそうだが、このように動いている死体を『生物』とみなすべきだろうか。もしそうだとしたら、死因は悪霊による内側からの体の損壊……。体は少女のものでも魂は悪霊のものであって……」
「オーナー!死体愛好はその辺にしろ!!ひとまず久遠に移すから離れろ!」
晴瀬はそう叫ぶと、少女に向き合った。
すうと一息吸うと、瞳をゆっくりと閉じて、言葉を吐いた。
「ノーボータリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイ タラサンダン カエンビイ ソワカ!」
「ウグゥうううウウウううあ嗚呼ああ”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!」
少女は、喉が焼き切れてしまうほどの、獣のような野太い雄叫びをあげたかと思うと、超常現象のように体がふわっと浮き上がり、そのまま気を失って倒れた。
死後の世界の扉が開き、霊が帰ってくる日。
その中には悪霊や、さまよえる魂も混じっているという。
外では仮装した若者たちが練り歩き、楽しそうにイベントを楽しんでいる。
一方の俺は、とある洋館で死闘を繰り広げていた。
何との死闘かって?
悪霊だよ。
ピンクを基調とした可愛らしい子供部屋
メルヘンなベッド
棺
壁は剥がれ、家具はバキバキに砕け散り、部屋はものでごった返して悲惨だ。
その原因は、部屋の真ん中で暴れている少女だった。
否、正しくは、少女の死体。
白目を剥きながら、幼い子どもの声とは思えない、低いうなり声をあげる少女。
風を巻き上げ、黒のオーラを纏い、ポルターガイスト現象のように部屋中を震わせていた。
「ォァアぁぁオォオぅうぅ”ぅ”う”ウ”オ”お”お”お”!!!」
「その生命を失ってもなお動き続ける死体の姿!なんて美しいんだ!こんな死体は滅多に見られない!」
葬儀屋のオーナー兼店長、葛宮が死体愛好の性癖を隠そうともせず、興奮した声を上げている。
少女の前に立ちはだかり、風でその髪をうねりあげらせながら、嬉々と、そして爛々と瞳を輝かせている。
「トチ狂ってんじゃねぇええ!!こっちがあの世に送られかけてんだぞ今!!わかってるんですかオーナー!?」
少女の力に吹き飛ばされないように必死にベッドの足にしがみつく俺は、そんな葛宮を正気に戻したくて叫ぶ。
しかし、この男が正気だったことなんてただの一度もないのだ。
無意味、まさに糠に釘、馬の耳に念仏、葛宮の耳に正論。
「なるほど、悪霊というのは生者のみならず死者にも取り憑くのか。つまり死体を一概に『モノ』と判断するのは些か早急……」
「言ってる場合かぁっ!うおぉおお!この子包丁持ってますよ!?うわあああ投げたあああ!!」
「おっとあぶね」
「晴瀬さんっ!」
投げナイフのようにシュンッと音を立てて吹っ飛ぶ包丁。
晴瀬と呼ばれた男の顔面の横を掠めると、ザクっと壁にぶっ刺さる。
ワンレングスの紫髮の毛先が鋭く切れ、パラリと床に落ちた。
「包丁は投げちゃダメって!!家庭科の先生から教えてもらわなかったのかあああ!!!!」
俺は絶叫の説教を少女に浴びせかけながら、その場に落ちている棺の中に入っていたであろうものを手当たり次第掴み、少女に投げつける。
リボンのついたテディベア!
ピンクと黄色のチューリップ!
ハートのシールで止められたお手紙!
暴れまわる少女と、腕を組みながら嬉々として興奮する葛宮と、狂ったようにモノをぶん投げる俺、そしてそんな俺を庇うように前に立つ晴瀬。
グッチャグチャな部屋の中で、ファンシーなアイテムが宙を飛び交う。
まさに混沌。
「落ち着けよ、久遠……。」
「どうするんすか晴瀬さん…!?」
「いいか、まずお前の体を椅子に縛り付ける。」
「はあ!?!?この期に及んで頭イかれたのか!?」
「聞け馬鹿!……その後、少女の悪霊をお前の体に移す。椅子ごとお前を別室に移動し、しっかり除霊する。この作戦でいくぞ」
「俺がアレになるってことですか!?嫌ですよ!!」
俺は、少女の死体をビシッと指差して叫んだ。
コォオオオオと人ならざる呼吸音をさせながら、黒いオーラを纏い暴れまわっている。
「しょうがないだろ。早くあの子の葬儀をしねえと腐っちまう。これ以上部屋をぶっ壊すわけにもいかねえ。火葬場の予約にも間に合わなくなるしな。……覚悟決めろよ、葛宮葬儀屋の一員なんだろ」
「ただのバイトですけど!?!?」
「お前の『憑かれ体質』がなけりゃ、少女の外に出した悪霊の行き場がない。依頼人と葬儀のことは、オーナーに任せて、俺たちは除霊に集中するぞ」
「うぅううっ、ああもう!わかりましたよ!やればいいんでしょ?やれば!」
晴瀬は素早い手つきで俺の体を椅子に縛り付けた。
……っておい、なんだよこれ!?
「なんで亀甲縛りなんですか!?!?」
「あ~、趣味?」
「変態クソ野郎!」
「小言は後で聞く、オーナー準備はいいか……オーナー?」
葛宮から返事はない。
俺と晴瀬が少女と葛宮の方を見ると、葛宮が少女の手を取ってマジマジと見つめていた。
「お”ァ”あ”ぉ”ォ”オ”ア”ア”ァ”ォ”!?」
「この場合、死因は何になるのだろうか?生前は水難事故による溺死だったそうだが、このように動いている死体を『生物』とみなすべきだろうか。もしそうだとしたら、死因は悪霊による内側からの体の損壊……。体は少女のものでも魂は悪霊のものであって……」
「オーナー!死体愛好はその辺にしろ!!ひとまず久遠に移すから離れろ!」
晴瀬はそう叫ぶと、少女に向き合った。
すうと一息吸うと、瞳をゆっくりと閉じて、言葉を吐いた。
「ノーボータリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイ タラサンダン カエンビイ ソワカ!」
「ウグゥうううウウウううあ嗚呼ああ”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!」
少女は、喉が焼き切れてしまうほどの、獣のような野太い雄叫びをあげたかと思うと、超常現象のように体がふわっと浮き上がり、そのまま気を失って倒れた。
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