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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 メイドズ☆ブラスト episode23

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    (ふぅん──本当に男みたい……)
 私は見事に刈り上げられたガヴィの後頭部や盛り上がった筋肉に感心しながらゆるゆると階段をあがった。

 反対側から現れたガヴィは真っ黒なショートヘアがツンツンと逆立ち、化粧っ気もなくのっぺりとした顔は傷だらけであった。胸の盛り上がりがなければ、誰も彼女が女性であるとは思わないだろう。

 身につけているのは鈍く銀色に光るシンプルなショルダーガード、同じデザインの籠手とすね当て、ビキニアーマーというよりも貞操帯を連想させるような──ごつい金属製のパンツ。上半身も同色の鎖帷子くさりかたびらを身につけている。

 己の筋力に自信があるのだろう。見るからに重量のありそうな巨大な大鎌を棒切れを扱うように軽々と片手で振り回していた。

 肌色はわずかにヘソの上部と太腿の一部が線のように露出しているのみ。
 全身肌色に近い私とはまた対照的な出で立ちだ。

 (なんだか重たそうな装備ねぇ──マッチョだから平気なのかしら……)
 過ぎる重量は、折角の筋肉を疲労させスピードを殺してしまう。

  (……一発勝負を狙ってる?)

 私はガヴィの表情をうかがった。
 頬や額には白いひきつれた古傷が走り、お世辞にも人相が良いといえない顔からは何も読み取ることはできなかった。

 (うーん……何とも地味というか、不気味というか──)
 ガヴィは片耳に髑髏デザインのシルバーピアス、そして自分の背丈をこえる大鎌を構えているので、まるで死神のような姿に見える。
 少し大きめの灰色の犬を思わせる瞳は油断なく光り、どうみても堅気の世界の住人にはみえない。


 試合前の宣誓が終わると審判に促され、私は相手との間合いをはかりながらリングの中央に進んだ。

  (別に──弱くはない。だけど、エルほど圧倒的ではない……)
 それがガヴィの第一印象。

「マリン! マリン!」
 観客から声援がとぶ。
 今回の対戦カードは自国のイスキア闘技士が出場しないせいか、カルゾメイドである私への声援が圧倒的多数を占めていた。


 その声援を聞いて、
「おっ、めちゃめちゃ人気者っスね。カルゾメイドちゃんは。おかげでボクは完全にヒールっスよ」
 ガヴィがいきなり親し気に話しかけてきた。

 はい?

 ボク!?
 あんた、その見かけでそういうキャラかい!? 

 なんだかそのミスマッチな喋りに気勢を削がれ、私は予定していた先制攻撃をしそびれてしまった。

「別に私たちは好きで人気者になったわけじゃないから──」
 私は気持ちを仕切り直し、大鎌との間合いをはかりながら答える。

「あぁ、おたくの軍師さん。えらい趣味をお持ちのようで……あれではお仲間さんはたまらないっスねぇ」
 ニパッとガヴィは笑った。

 傷だらけの人相の悪い顔があどけない子どものような笑顔になる。
 なに? この娘……ギャップ萌えとかが武器なの?

「ありがとう──でも勝負は別よ。私は確かめたいことがあるの。悪いけど勝たせて貰うわ」
「それはボクも同じッス……!」
 その笑顔のガヴィの言葉が終わらぬうちに。

 突然ブン! っと大鎌が音をたてて薙いだ。

 ガヴィが力を込めた瞬間にその動きを予測していた私は後ろへ飛んでよけた。とりあえず大きく距離をとって体勢を立て直す。

「あっぶな……」
 あんなのに直撃されていたら頭と身体が真っ二つだ。骨も肉も粉々になってしまっただろう。

「さすがチャンピオン! 素早いッスねぇ──」
 嬉しそうにガヴィは目を細めて言った。

「じゃ──遠慮なく行くッスよ!」
 ガヴィは鎌を猛スピードで突き出した。そしてその瞬間に、鎌の刃先を捻って真上に突き上げる。

「チッ!」
 私は身体を捻ってかわし、腰に下げていた短剣ショートソードを抜くとその迫りくる大鎌の凶刃を跳ね返した。

 キィン!
 火花が散って、金属が悲鳴をあげる。

 打ち合わせた反動を利用するようにまた、後方に私はとんだ。

「今度こそ止めるッス!」
 ガヴィが叫んだ。

 槍のように大鎌を構えてガヴィが殺到してきたのを、ガキッと受け止めると刃を合わせてそのままクルリと回り、ガヴィの懐にとびこむ。

 そして短剣の柄でガヴィの鳩尾を──線になった肌色の場所に渾身の力で突きこんだ。

「グホッ!!」
 身体を苦しそうに折り曲げ、膝をついたガヴィの左手を私は素早く捻りあげるとそのままキャンバスにねじ伏せる。
「私の勝ちよ!」
 私は素早く勝利を宣言した。


「勝負あり! カルゾのマリン!」
 西のカルゾの控え室に向かって大きく審判の白旗がうち振られる。

 わぁぁぁぁ……!
 ようやく状況を把握した観客が歓声を放った。

「強いぞ! マリン!」
「何が起こったんだ? 見えなかったぞ──」
「早い! よくわからんが、とにかく早い!」 
 とまどいのようなどよめきが闘技場を駆け巡る。


「──あーあ。ボクに見せ場ぐらい作らせて欲しかったッスよ……」
 私に押さえ込まれたまま、ガヴィがぼやいた。

 私はガヴィを放すと、
「長引かせても無駄よ。きっと結果は変わらない……」
 そう言って肩をすくめてみせた。

 まぁ、長引いたらスタミナがない私が実は不利なんだけど──そんなことは教えてやるもんか。

「そうなんですけどねぇ。だからダヴィドを相手にするとイヤなんッスよぉ……」
「……!?」
 私はガヴィの言葉に思わず彼女を睨みつけた。

 ダヴィド体術──それは私が通った道場主が教えていた体術だ。
 もう、数年前にダヴィド道場主の死とともに道場は閉鎖されてしまった。今やダヴィド体術を継承する人間は私を含め、このユッカ国内でも数えるほどしか残っていないはず……。

「あなたはダヴィドの使い手と戦ったことがあるの?」
 私の問いに慌てた様子でガヴィは答えた。
「……そんな怖い顔をしないで欲しいっス! そんなレア体験、マリンが初めてに決まってるじゃないっスか」
 とぼけてガヴィは首をふった。
  (嘘つき……)
 私は観客の歓声に適当に手を上げて答えながら、リングを降りるガヴィの後ろ姿を目線で追った。

 ガヴィは扉の前で出迎えた白い仮面のエルに頭を下げている。
 エルは気にするなというようにガヴィの肩をたたくと二人は控え室に消えていった。

  (エル──)

  ダヴィドの使い手──それは古来より、人並み外れたスピードで動き、一点集中の破壊力を秘めた技を操る伝説的な存在。

 そのダヴィド体術の師範代が、ゲンメには居る。
 それもこの大会を五連覇し、数年前に殿堂入りした伝説のチャンピオンが──。

「ルーチェさん……!」
 私は敬愛してやまない師匠でもあり、命の恩人でもある大好きな人の名前を呟いた。
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