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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 白百合館へようこそ! 完結編。

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「あんた、私にも変なものを盛ったでしょ?」
 
 あれから私こと、カルゾの天才パロマ・アルバーニは童顔巨乳娘のマリンに即座にカルゾ邸に連行されてきたのだが、食後のお茶まで待つようにと言われてしまい……控え室で食事を取りながら御主人様ソーヴェさまの呼び出しを待っていたのだった。

「変なもの?」
 フォークでブロッコリーを口元に運ぶ手を止めて、わざとおうむ返しに問う私。
「レモンパイよ。さっきおかげで危うくヤられるところだったわ。あれ、前にあんたにナルドさんとスープに盛られた時と同じ症状だったわよ!」
「言いがかりね。証拠は?」
「……ないけど直感。いや状況証拠と前科!」
「そんなの冤罪えんざいじゃない」
「……は? 冤罪?」
 マリンが呆れはてて私を見た。

 シャクシャクシャク……。
 私がパンを咀嚼する音だけが部屋に響く。

「あら? あんたは食べないの?」
「暫くあんたと一緒に食べる勇気はないわ」
 嫌そうにマリンは答えた。

「まぁ、美味しいのにもったいない」
 それを聞いて私はマリンの分の肉を口の中に放り込んだ。
 う~ん、ジューシー。

「ねぇ、怒らないから教えなさいよ。モニカは食べたらすぐに効いたのに、何で私は時間がかかったの?」
 マリンが無表情のまま静かに言った。
 ……完全に犯人だと決めつけてるわね。まぁ、仰る通り私が犯人だけどさ。

 ……ま、いっか。ネタバレしてあげる。

「マリンが大当たりをひいたのよ」
「は?」
「あのレモンパイ、砂糖とか気にならなかった?」
 私の問いに素直に考えこむマリン。

「そういえば、言われてみるとなんか妙に砂糖がジャリジャリしてたような……?」
「ビンゴ! お砂糖の飾り部分に砂糖に模したナノマイクロカプセルが入ってたのよ♪ 
 ダルバは砂糖菓子は苦手だから、マリンが食べると思ったんだけど予想通りだったわ~。
 一度、どれぐらいの時間で効くか、実験したかったのよね。ま、小一時間ってところかしら?」

「パーローマ~!!」
 ウソつき! 怒らないって言ったのに怒ってるじゃなーい。

 マリンに首を絞められて、スープが私の口から吹き出した。

「きゃっ! 汚いわねっ」
「……あんたが怒らないからって言ったんじゃないのよ~。まぁルーチェを呼んであげて、間に合ったんだから結果オーライ?」
 自分のやったことは棚にあげてシャアシャアと言う私。

「間に合わなかったら今頃、私は性奴隷か侵入者として死体よ、死体!」
「だいたい、マリンが近道しようとあんな所へ慌てて入っていくからでしょ?」
「あんたがそれを言う? わざと自分の部屋の時計進めて私を慌てさせた張本人が……」
「あれ? マリンのクセに気づいちゃった?」
「クセにって何よ! 悪かったわね、あそこの裏庭の柱時計見て気づいたのよ!」
 
 マリンとギャーギャー、言い争っているところへソーヴェ様が苦笑しながら顔をのぞかせた。
「廊下まで響き渡ってたわよ。貴女たちの怒鳴り声……」

 §§§
 
 それから、私はソーヴェ様にこってりとしぼられたのだった。

 解毒剤の研究の為に揃えてあった器具や薬品は没収。私の部屋に隠してあった媚薬や弛緩剤、自白剤の類いも皆、取りあげられてしまったわ。

 ……残念。

 でもね。
 薬は撤去されたけど、モニターや隠しておいたデータ類は気づかれなかったのよね~。 
 
 ウフフフ……。

 私は自室に戻るとシステムを起動させて、パスワードを打ち込んだ。

 さてさて。
 あのイスキアの裏庭は今頃、どうなってるかなぁ♪

 あの庭にも、帰り際に監視カメラを何ヵ所か早業で設置してきたのよ。新薬の臨床データは貴重だから、取りこぼすことなかれ!

 私、そういう努力だけは惜しまないのよね……。


 ブゥーン……という電子音とともにイスキア邸の裏庭がモニターに映し出された。
 イスキア家はサイバー系の防御は得意ではないので、まだこのカメラが設置されていることに気づいていない様子。


 「ん……?」 
 画面に映し出された海蛇達の輪の中心に何か茶色いものが散乱して見える。
 
 あれ、例のレモンパイの箱じゃないの!

 あぁ、ルーチェめ。
 あそこに箱を置いていったのね……。

 折角、私がマリンが想いを遂げてルーチェと絡み合えるようにお膳立てしてやったというのに。
 ……マリンの入れ知恵かしら? 女同士の絡み合い、ちょっと見たかったわ。
  

 ルーチェ達に叩きのめされて気を失っていた男達は、目覚めるとどうやら本能のまま、レモンパイを食い散らかしたようだった。

「まぁ、今回の薬はちょっと効力、強過ぎかな?」
 被験者うみへびの男達は全員、脳ミソが退行したせいか、人間をやめた動きをしつつ、しかもレモンパイのおかげで発情中。薬のデータを採るにはあまり条件的によろしくない。

「うひゃあ、あれは……最後に大量投入したヤツね。あの動きはアメーバにでもなったつもりかしら……。きっと無性生殖だから発情して、分裂しようとしてるのね。ちょっと面白いかも」

 画面には自分で左右の足を限界まで広げ、転がりながら怪しげに身体をうねらせる男が映っていた。……ほっといたら、そのうち股が裂けてしまうかもしれない。

 カメラを切り替えるとその隣ではお互いにガッチリ、尻に噛みつきあって離れない男達が映りこんできた。
 瞬きもしない虚ろな目が、なんとも魚類っぽい。

「あれは……ちょっと進化して深海魚ってとこかしら。確か、アンコウはメスにオスが噛みついて、そのまま同化するんだっけ。そして血管も組織もメスの身体に吸収されるのよね。
 ……まぁ、身も心も捧げる愛っちゃ愛だけど。このままほっといたら、あいつらもくっついて合成人間みたいになるのかしら……ウフフ……」

 ここまでは、まだ何とか私もメモを片手に楽しめた。
 が、この次に切り替えたカメラに映し出された絵面は……。


「うげっ……おっえ……!」 
 大抵のことでは動じない自信のある私も、モニター画面上で繰り広げられる陰惨な地獄絵図を見て、酸っぱいものが胃から込み上げてきた。
  
「……あそこでスカトロしてる奴らは、カバの求愛行動? うう、……ひたすら排泄しまくってその上を組んず、ほぐれつ……。うぇっ、これは今すぐ、爆薬投げ込んで抹殺しないといけないレベルだわ……」
 
 うん。この薬の量と組み合わせはダメね。
 暫くレモンパイもやめとこ。 

 しかし人間も異性同性、愛のカタチは色々あるけれど、生き物の本能のままの発情行動、っていうのは奥が深過ぎるわよねぇ……。


 人ではない愛をアピールして蠢く男達を眺めながら、私は開発途中の超小型爆弾を今からここへ投げ込んでこよう、と心に決めてモニターのスイッチを切ったのだった。 

〈おしまい〉
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