アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
96 / 150
番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 白百合館へようこそ! side:マリン part7

しおりを挟む
 ぞわわわっ……!

 背中に盛大な悪寒が走り抜ける。
 状況はこれでもかというぐらい私に不利だった。

 力の入らない私に目の前に発情した獣のような男達が、荒い息を吐いて迫ってくる。

 ううっ、執事長ナルドさん以外の男に触られるぐらいなら舌をかんでやるぅう!!
 
 
 ギュッと思わず目を瞑ると走馬灯のように、私の今までの思い出がよみがえってきた。


 真っ先に思い出されるのは、私がピンチの時にいつも助けてくれた大切な恩人のこと。

 私のヒーロー。そして私の初恋のヒト。

 私の人生で最初のピンチは、初めてここの城下町に来た時だった。運悪く、柄の悪い連中に裏道で絡まれていた私の所にその人は颯爽と現れ、あっという間に助けてくれたのだ。

 あの時はこんな強い人が居るんだと本当に度肝を抜かれてしまって。ひたすら憧れてその人が所属している道場を突き止めて、逢いたい一心で必死に門を叩いたんだっけ。

 二度目のピンチは、闘技大会でイスキアのバルレッタという女闘技士に手足をもがれそうになった時だった。
 ある程度追いついて、私も強くなったと過信していたのに、あっさりと卑怯な手口に引っかかってしまった。
 絶対絶命のピンチから悪役のバルレッタを鮮やかに倒し、私を助けてくれたのもあのヒトだ。

 今回のピンチまでも助けてくれる、と虫のいいことは思わない。でも、せめて。


 もう一度、逢いたかった。
 私の憧れのヒト。


 ルーチェさぁんっ……!

 ゲンメのメイド、ルーチェさんに一目だけでも、逢いたいよぉ……。

 
 不覚にも私の頬を熱いものが伝い、ポタポタと地面に落ちた。

 ダメだ。これじゃあ舌を噛み切ることなんかできやしないじゃないの……。

 
「女を泣かすんじゃないわよっ!」
 突如、凛々しい聞き覚えのある声が薄闇を切り裂いた。

 その声に、ハッと反射的に目を見開いた瞬間!

 私のスカートに手をかけて、それを引き裂こうとしていたイゾラが物凄いスピードで吹っ飛んだ。
「ぐわぁぁっ!!」
 
 何者かがイゾラの背中に強力な蹴りを放ったようだ。イゾラは壁に叩きつけられて崩れ落ち、ピクリとも動かない。

「何者だっ……おげぇっっ!!」
 ボーサが誰何すいかするが、すぐにこれも地面に叩きつけられ、ゴムマリのようにバウンドしたと思ったら動かなくなった。


 まさに神業。
 瞬く間もない、人の常識を超えたスピード。キレキレの技。

 私が知っている人で御主人様ソーヴェさま以外にこんなことが出来るのは……。
  
  
「大丈夫?マリン」
 心配そうに私に手をさしのべてくれたのは、逞しくも優しい瞳の……私の初恋のヒト!


「ルーチェさぁぁぁん!!」
 思わず私は飛びつくように抱きついてしまい、わんわん泣きながら、小さい子どものようにしがみついた。

 そんな私の背中を、ルーチェさんはそっと優しく撫でてくれる。


 しかし。
 その行為によって不幸にも私は、
「あぁ、はぁあぁ~ん……!」

 ルーチェさんに抱きしめられた刺激でアヤしい喘ぎ声をあげまくってしまったのだった……。


 あぁぁぁ~!!
 穴があったら入りたい……。


 誰か……私を埋めてちょーだい。
   
 
 もちろん、ルーチェさんは私の痴態は海蛇に薬を盛られたせいだろう、と盛大に心配してくれた。
 いや、実は身内パロマに盛られました、とこの状況では言いにくいので、そのくだりは黙っておく。


「ルーチェさん、どうしてここに?」
 ようやく少し落ち着いた私は、あまりにもタイミングよく現れた救世主ルーチェさんに尋ねた。

「パロマにメールをもらったのよ。マリンがイスキア公領地に入ったけど出てこない、ってね」
「へ? パロマですか?」

「そ、感謝しなさいよ」
 ひょっこり暗がりから現れたのは、白百合館に居るハズのパロマ。

「はぁぁ? 何であんたがここに居るのよっ!」
 私は思わずキツい口調でパロマに怒鳴った。

「マリン、恩人に向かってその態度は何?」
「何が恩人よ! あんたが絡むと本当にロクなことがないわっ」
「失礼な娘ねぇ~。あんたが慌てて、間違えて髪飾りの箱を持って行ったから、きてあげたのよ。そうしたらマリンったら、イスキア公領地に入っていくんだもの。それでなかなか出てこないから、あんたの大好きなルーチェさんに知らせてあげたんじゃないの……」
 眼鏡をくいっと自慢げにあげて胸を張るパロマ。

 白々しいわっ!
 どうせ、この荷物をすり替えたのもパロマの仕業に決まってる!

 いくら私が慌てていても、百合モチーフの髪飾りと猫耳カチューシャを間違えるわけはないじゃないのよっ!
 
「う~ん。ウチのお嬢様は面白がるかもしれないけど、残念ながら猫耳はあんまり似合わない方だと思うのよねぇ。マリンは良く似合ってるけど」
 ルーチェさんは私の猫耳を見て真剣に言った。

 わーん。
 だから私がゲンメのマルサネお嬢様にこれを選んだワケじゃないんだってば!  

「さてと。お片付け~♪」
 パロマは懐からケースを取り出し、上機嫌で鼻唄を歌いながら、そこら辺で伸びてる海蛇の男たちの腕に何やら針のようなものを突き立てはじめた。


「何やってるの、パロマ……」
「え? これぇ?」
 パロマは手にしていた注射器のようなものを私に見せる。

「また……妙な薬じゃないでしょうね?」
 その針先で不気味に光る、透明な液体を私は凝視して言った。

「人聞きの悪いこと言わないでくれる? ちょっとだけ、脳ミソを縮める薬よ。私たちのことを覚えてて、あとでウチの邸に通行料だなんだと請求されても面倒でしょ?」
「脳ミソ……?」
「試作品だから、ちょーっと縮めすぎて人間だったことも忘れちゃうかもしれないけどねぇ♪」
 ニヘラ~っとさっきの男達よりも邪悪な笑みを浮かべるパロマ。

 ごめん、本当に怖いからヤメテ。

「試作品ってことはヤバい人体実験中ってわけね……」
 ポソリとルーチェさんも呟いた。
 
 プスッ、と全員に注射針を突き立て終わったパロマの顔に浮かぶ、ニンマリとした満足そうな笑み。


 あの顔はヤバい。本当にヤバい。
 ……あの子の方は見ないようにしよう!

 私とルーチェさんは無言で顔を見合せると、二人でクルリとパロマに背を向けた。

「ねぇ、マリン。これからどうする? 予定通り、ウチでお茶していく? さっき、ちょうどお茶うけにお菓子を貰ったし……」
 そう言ってルーチェさんが見せてくれた箱に入っていたのは……あのレモンパイだった!


「え!? それは食べない方が……」
「? カルゾ邸のシェフが作ったって聞いたけど?」 
「だからパロマが触ると危険なんですってば!」
「……そのようね」

 パロマの様子を見て納得するルーチェさん。
 私の提案通り、レモンパイの箱はここ、イスキア邸の裏庭に置いていくことにしてもらったのだった。


「とりあえず、早くここから出るわよ」
 ルーチェさんの言葉に私は頷いた。
 この騒ぎに気づかれて警備兵や新手の海蛇が来ても困る。

「じゃあこれ、お願いします」
 お使いの目的だった書状と髪飾りの箱をルーチェさんに託すとイスキア邸裏庭から早々に脱出し、なんとか無事に帰路につくことができた。


「さぁて、お仕事に戻るわよ。パロマ」
「ねぇ、マリン。……アレ、どのくらい退行すると思う? 猿ぐらいかしら? MAX濃度のあの男はアメーバぐらいになるのかしらねぇ……楽しみだわ。ウフフ……」 
 私はいまだに気味の悪い笑いを浮かべている変態メイドパロマの首根っこをひっ掴むと、深いため息をつきながらカルゾ女公主である御主人様ソーヴェさまのもとへ連行していったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...