上 下
90 / 150
番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 白百合館へようこそ! part1

しおりを挟む
 ある日の昼下がり。
「パロマ! ストォォォッ~プ!!」

 私、カルゾ邸宅勤めのパロマ・アルバーニが使用人メイド達のお茶の用意をしようとしていたら、何故か急に必死に呼び止められた。

 私の目の前に立ち塞がったのは黒髪の背の高い執事。
「そこを離れなさい」
 彼は必死の形相でお茶のワゴンを引ったくると、私を威嚇した。

「あら執事長、どうされましたの?」 
 とぼけて言う私。

 あーあ、良いところだったのに。
 またうるさいのが来ちゃった……内心、ガッカリよ。

「あなたが用意すると、ロクなことになりませんからね……」
「まぁ、不幸な偶然ですわ。こないだのお布団に描かれた見事な地図を、皆様にご披露された思い出話。興味深く拝聴いたしましたのに……ウフフ」
 思わず先日混ぜた自白剤の効果を思い出して、私は思わず笑ってしまった。

「使用人で悪趣味な実験をすることは、ソーヴェ様に禁じられたハズですが」
 そうなのよ。この執事に見つかってしまって、ご主人様ソーヴェさまに人体実験は禁じられてしまったの。つまらないこと。
 調合した新薬を試すのが、私の密かな楽しみだったのに。

「まぁ……私。そんな事をした覚えはありませんわよ?」
「では、その後ろに隠した右手の小瓶は何です?」
 上司のジト目に私は可愛く舌を出してみた。
 
「てへ?」
「可愛くないですよ、パロマ」
 目の前の執事、ナルド・クラシコ。
 年齢は30代半ば。オールバックにした髪をおろせば20代半ばでも通る実はイケメン。
 それに一見細いけどみっちりと筋肉がついている、ここの使用人の中では断トツの戦闘力を誇る上司である。 
 力ずくではとても敵わない相手だ。

 私は真顔で上司を見つめ、
「皆のために良かれと思ってやったんです。信じて下さい」
 両手を組んで言ってみた。

「没収!」
 ナルドさんはそんな私の手からすばやく瓶を取り上げた。
 
「あぁぁぁ!せっかく昨日、苦労して作ったイチゴミルク味なのに……」
 ガックリとうなだれる私。

 自信作だったのよ。女子が喜んで口に入れるところ、見たかったわ……。

「で? この中身は何です? また自白剤や催眠剤系ですか?」
 追及しますね、執事様。

「……感覚を数倍にする媚薬です。勝手に使わないで下さいね。容量を守らないと身体に悪いですから」
「また、そんなものを貴女は私達に盛るつもりだったのですか……?」
「まぁ、未遂ですし。それにこれ、それほど害はありませんよ?」
「そういう問題ではありません!これはソーヴェ様に報告しておきます」
「え~。今度やったら、私。減給って言われているんです。お願いします。見逃して下さい!」
「……今度だけですよ?」
 やった! さすが女子には甘いナルドさん。

「じゃ、私も白百合館に用事がありますから、このお茶はついでに私が持っていきますね」
 ナルドさんは私たちメイドが寝起きする使用人棟、通称 白百合館へワゴンを押して歩き出した。

「えっ、いや。それは私が」
「貴女に持っていかせると心配ですから」
「部下なのに信用ないですね~」 
「はい」
 キッパリとナルドさんはそう断言して、白百合館と本館をつなぐ廊下に消えていった。


 いやぁ。
 失敗失敗。

 私はその後ろを見送りながら呟いた。


 ……発情効果バリバリの催淫剤はミルクに混ぜそこなったけど、お菓子の方はバレなかったみたいね。
 
 ちなみにお菓子の方はレモン味。
 だから今回はレモンパイに混ぜてみたわ。

 ……ほら、ファーストキスはレモンの味っていうでしょ?
 ウフフフ……。
 
 さて、あとで薬の効き具合。確かめにいってみようっと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...