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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉
番外編 白百合館へようこそ!part2
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ユッカ連合公国、西国カルゾ領は武勇第一、質実剛健がモットー。
そんなお家柄のせいか、カルゾ邸の女主人が寝起きする本館でさえも余分な調度品はなく、すっきりとした最低限の家具しか配置されていない。
邸内は歴代カルゾ領主が住んでいただけあり、使用人も多く、部屋や台所、風呂、控え室などがやたらと多い。
だが、どの部屋も例外なくシンプルなので、初めてここを訪れた者には全体的に殺風景な印象さえ与えてしまうお屋敷だった。
……シンプルなのは、女主人の寝起きの悪さに要因があったのだが、美魔女然とした当主の外見からはそんなことを思い当たる者はおらず。
大抵の者は、何と控えめで質素な当主だろうと感心し、賞賛していくことが常であった。
さて、メイドが起居する白百合館も例外なく、館名の華やかなイメージとは程遠い、実際は学生の合宿所のような場所である。
館内には筋トレに使う鉄アレイなど、やたらとトレーニング器具が散らばっていた。
まず、ここが主に若いメイド達が寝起きしている場所である、と想像がつく者はいないだろう。
なぜこんなものがあるのかというと……使用人が全員一流の戦闘員だからである。
よってカルゾ邸には警備員は一人も配置されていない。ここの邸の就職面接は武術の勝ち抜き戦のみ。一番強い者だけが採用されるのだ。
そう。ここのメイドは全員、闘うメイドだった。彼女達は習慣もあり、日々のトレーニングを欠かさない。よって、ここの館内はスポーツジムのような、または武道家の合宿所のような状態になってしまっていたのだった。
本館の通路からそんな小部屋が連なる前を抜けて、一際大きい突き当たりの扉の前で執事のナルドは足を止めた。
ここはメイド達の談話室。
この時間は大抵、ここでメイド達が過ごしている事を、この邸全体を管理する執事長のナルドは把握をしていた。
迷うことなくコンコン、と扉をノックする。
「はーい」
中からノックに答えて若い女の声がした。
「厨房から午後のお茶を運んできました。ここへ置いておきますね」
ドア越しに執事は声をかけて、踵をかえす。
「ナルドさん!?」
ガチャリ! と扉が開いて中からメイドのマリンが顔を出した。
「何でナルドさんがわざわざ……?」
執事は振りかえって苦笑してみせた。
「パロマが運ぼうとしていたんですよ、これを持って」
ナルドはポケットからパロマから没収した小瓶を出すとマリンに振って見せる。
「また、あの子……」
マリンは眉をひそめた。天然で騙されやすい体質のマリンは、パロマの媚薬の被験体にされることが多い。
「パロマも懲りないわね」
マリンの後ろからひょい、と同僚のダルバも顔を出す。
「一応、未遂だったのですが……念のため気をつけて下さいね」
「「ありがとうございました~!」」
ナルドの言葉に深々とお辞儀をして、二人はお茶のワゴンを室内に引っ張りこんだ。
「やったぁ、今日はシェフ特製のレモンパイじゃない……!」
ウェーブがかかった髪に濃いメイクという外見はイケイケのメイド、モニカがつけマツゲをパチパチさせながら、ワゴンをのぞきこむ。
「それにしても沢山あるわねぇ」
ダルバが手際よく、パイの山を切り分ける。
さすがレイピアの名手。刃物の扱いは天下一品だ。
ウフフフ……。
早く食べちゃいなさいよね。
私は同僚メイドの様子を見ながらほくそえんだ。
え?
私、パロマが何処から彼女達を見ているかって?
そりゃ、談話室に仕込んだ監視カメラを自室からコッソリ、モニターしてるに決まってるじゃないの。
……さぁ、あんたたち。早くそのレモンパイ、食べちゃいなさい!
「ねぇ、変じゃない?」
不思議そうにダルバは言った。
「何が?」
天然娘のマリンは首をかしげる。
「こんなに沢山レモンパイがあるのにパロマ、何処に行ったのかしら」
ぎくぅっ!!
……イヤ、そこ気づかなくていいから。
内心焦る私。
「ナルドさんに見つかって叱られたから、ほとぼりがさめるまでウロウロしてるんじゃないの?」
マリンの台詞に
「えー、パロマってそんなタマかなぁ?」
レモンパイを前に腕組みするダルバ。
「何でもいいから、早く食べよーよ」
モニカが待ちきれないように催促する。
「そうね。執事長が取り上げたなら、大丈夫かな。いただきましょっか」
気を取り直してダルバは皿に手を伸ばした。
よし!成功。
ガッツリ食べなさいよ~。
私は一人、モニターの前で会心の笑みをもらしたのだった。
そんなお家柄のせいか、カルゾ邸の女主人が寝起きする本館でさえも余分な調度品はなく、すっきりとした最低限の家具しか配置されていない。
邸内は歴代カルゾ領主が住んでいただけあり、使用人も多く、部屋や台所、風呂、控え室などがやたらと多い。
だが、どの部屋も例外なくシンプルなので、初めてここを訪れた者には全体的に殺風景な印象さえ与えてしまうお屋敷だった。
……シンプルなのは、女主人の寝起きの悪さに要因があったのだが、美魔女然とした当主の外見からはそんなことを思い当たる者はおらず。
大抵の者は、何と控えめで質素な当主だろうと感心し、賞賛していくことが常であった。
さて、メイドが起居する白百合館も例外なく、館名の華やかなイメージとは程遠い、実際は学生の合宿所のような場所である。
館内には筋トレに使う鉄アレイなど、やたらとトレーニング器具が散らばっていた。
まず、ここが主に若いメイド達が寝起きしている場所である、と想像がつく者はいないだろう。
なぜこんなものがあるのかというと……使用人が全員一流の戦闘員だからである。
よってカルゾ邸には警備員は一人も配置されていない。ここの邸の就職面接は武術の勝ち抜き戦のみ。一番強い者だけが採用されるのだ。
そう。ここのメイドは全員、闘うメイドだった。彼女達は習慣もあり、日々のトレーニングを欠かさない。よって、ここの館内はスポーツジムのような、または武道家の合宿所のような状態になってしまっていたのだった。
本館の通路からそんな小部屋が連なる前を抜けて、一際大きい突き当たりの扉の前で執事のナルドは足を止めた。
ここはメイド達の談話室。
この時間は大抵、ここでメイド達が過ごしている事を、この邸全体を管理する執事長のナルドは把握をしていた。
迷うことなくコンコン、と扉をノックする。
「はーい」
中からノックに答えて若い女の声がした。
「厨房から午後のお茶を運んできました。ここへ置いておきますね」
ドア越しに執事は声をかけて、踵をかえす。
「ナルドさん!?」
ガチャリ! と扉が開いて中からメイドのマリンが顔を出した。
「何でナルドさんがわざわざ……?」
執事は振りかえって苦笑してみせた。
「パロマが運ぼうとしていたんですよ、これを持って」
ナルドはポケットからパロマから没収した小瓶を出すとマリンに振って見せる。
「また、あの子……」
マリンは眉をひそめた。天然で騙されやすい体質のマリンは、パロマの媚薬の被験体にされることが多い。
「パロマも懲りないわね」
マリンの後ろからひょい、と同僚のダルバも顔を出す。
「一応、未遂だったのですが……念のため気をつけて下さいね」
「「ありがとうございました~!」」
ナルドの言葉に深々とお辞儀をして、二人はお茶のワゴンを室内に引っ張りこんだ。
「やったぁ、今日はシェフ特製のレモンパイじゃない……!」
ウェーブがかかった髪に濃いメイクという外見はイケイケのメイド、モニカがつけマツゲをパチパチさせながら、ワゴンをのぞきこむ。
「それにしても沢山あるわねぇ」
ダルバが手際よく、パイの山を切り分ける。
さすがレイピアの名手。刃物の扱いは天下一品だ。
ウフフフ……。
早く食べちゃいなさいよね。
私は同僚メイドの様子を見ながらほくそえんだ。
え?
私、パロマが何処から彼女達を見ているかって?
そりゃ、談話室に仕込んだ監視カメラを自室からコッソリ、モニターしてるに決まってるじゃないの。
……さぁ、あんたたち。早くそのレモンパイ、食べちゃいなさい!
「ねぇ、変じゃない?」
不思議そうにダルバは言った。
「何が?」
天然娘のマリンは首をかしげる。
「こんなに沢山レモンパイがあるのにパロマ、何処に行ったのかしら」
ぎくぅっ!!
……イヤ、そこ気づかなくていいから。
内心焦る私。
「ナルドさんに見つかって叱られたから、ほとぼりがさめるまでウロウロしてるんじゃないの?」
マリンの台詞に
「えー、パロマってそんなタマかなぁ?」
レモンパイを前に腕組みするダルバ。
「何でもいいから、早く食べよーよ」
モニカが待ちきれないように催促する。
「そうね。執事長が取り上げたなら、大丈夫かな。いただきましょっか」
気を取り直してダルバは皿に手を伸ばした。
よし!成功。
ガッツリ食べなさいよ~。
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