上 下
125 / 150
第二部

第4話 彼女は中二病!?

しおりを挟む
「うわ、なんだ??……お前、もしかして貴族か富豪なのか?」
 マルサネと名乗った化粧っ気もなく、要するに若いのにかなり地味に映る娘は、室内を暫くモノ珍しそうにキョロキョロと眺めていたかと思うと、何かを見つけたらしく驚いた声をあげた。

「何?どういうこと?」
 その素っ頓狂な声に、お茶の準備をしていた俺は危うくカップを取り落としそうになった。

「何でって……こんなデカいモニター、大公宮でも見たことないぞ?」
「は?モニター?大公宮?」
 この不思議なモンチッチ娘の言うことはサッパリ分からない。

「これ、これだよ」
 マルサネと名乗った娘がしきりに指差す先にあるのは、テレビ?
 
「あぁ、ちょっとデカいかもしれないな」
 姉ちゃんがリビングには大きいのが良い!って喚いて、彼女の初ボーナスで奮発して新しい65型のテレビを買ったのだった。

「ちょっとじゃないだろー?そっかぁ、リツコもお前も何だか冴えない庶民かと思ったが、実は凄い大富豪だったのかぁ」
 何か、母さんごと悪口を言われたような気がするんだけど、本人が感心しきりにテレビを見てるもんだから、悪意があるようにも思えない。

「そんな珍しいのか?テレビが」
 テレビぐらいで大富豪とは、どこの国からやってきたのだろう。
 母さんが仕事で支援している関係の娘なのかな?確か、前に最近アジア圏から来日して、色々困ってる人が増えてきたって言ってたっけ。テレビがあんまり普及していない国の出身なんだろうか……?

「テレビ?何だそれ」
 キョトンとして、マルサネが言った。
「もしかしてテレビ、って見たことがないのか?ほい、好きなだけ見ていいぞ」
 ちょっと可哀想になって俺はリモコンを渡した。

「このモニターのことはテレビというのか」
 俺に渡されたリモコンを物珍しそうにマルサネは眺めていた。

 あ、電源とかpowerって英語読めないのかな?

「こんなキーボードは初めて見たな。まぁ、大体あたしは機械は苦手だから殆ど触ったことはないんだが……」  
 マルサネはチャンネルボタンの上に指を滑らせて言った。

 惜しい!赤い一番上のボタンを押さないとつかないんだな~。

 真剣な顔をしてテレビのリモコンをいじくり回しているマルサネを見ていたら、何だか俺は吹き出しそうになった。

 ……なんだコイツ。面白えヤツ。

 リモコン振ったって、片目で見たって点きはしねーよ。
 あっ、うわぁ、囓ってるし!


 野生児……?

 キーボードって言ってたから、デスクトップのパソコンは見たことがあるんだろうな。
 まぁ、最近はタブレットやスマホがあればテレビは殆ど見ない家庭も増えているらしいけど、コイツの家には当てはまらないだろ……。

「貸してみ」
 俺はサイドテーブルに紅茶を置くと、マルサネからリモコンを受け取った。
 さっき、彼女が囓りついた所をオシボリでさりげなく拭くと電源ボタンを押してテレビの電源を入れた。

 パッとCM画面になり、シン!としていた部屋が一気に賑やかになる。

「わぁ」
 マルサネは幼女のように破顔した。
「そっか、そこを押せばいいのか!」
 マルサネは感心したように小さく手を叩いた。
 本当に小さい女の子がそのまま大きくなったような、仕草だった。
 おかげで無防備な笑顔になんだか、この地味な娘が俺はちょっとかわいく見えてしまった。ムム……動物的な可愛さだが。


「お茶、入ったよ。どうぞ」
 俺はマルサネにお茶をすすめた。

「やった!」
「あ、まだ熱いから気をつけて……」
 マルサネはさっきのように野生児さながらイッキ飲みをしてしまうかと思って慌てて注意したんだけど……。

 意外なことにカップを持ってお茶を啜る姿は、何だか背中もピンとして優雅な、無理をした様子もなく自然な振る舞いで俺はとまどってしまった。

 人前で飲み慣れてる?
 そんな感じがした。

「初めて飲む味だ。あたしは好きだな。なんていうお茶だ?」
 マルサネは大きな瞳を輝かせて俺に質問をした。

「普通のダージリンだけど」
「へぇ、旨いな。本当に甘ったるいフルーツフレーバー続きで飽き飽きしてたんだ」
 お茶の文化のある国なのかなぁ?
 一体、何処だろう?セイロン……東アジアとかかなぁ……。

「身体は温まってきたか?」
「あぁ」
「そろそろ、本題いいか?」
「ん?」
「母さんはどこだ?あんたはどこの国から来たんだ?どうやってここへ入ったんだ?」
 俺は矢継ぎ早にマルサネに質問を浴びせかけた。

「ふーん。奏大、お前は育ちの良いお坊ちゃんなんだな」
 マルサネは質問には答えず、何故かあっけらかんとそう言った。

「は?」
「イヤ、あたしなら聞きたいことがあったら即、力ずくで聞き出すぞ。のんびりお茶なぞ出す前に。さぞや、リツコと一緒にボケッと苦労なく暮らしてたのだなと思って」
 ニコニコとしながらマルサネは言った。

 だから、やっぱりさっきから母さんごと俺も何か失礼なコト言われてるよね?

「は?力ずく?例えば?」
「まぁ、暗器で脅したり、関節を外しても指を折っても良いし?相手によっては毒を使っても……かもな。あたしは苦手な分野だけど」
「は?暗器……?毒?何の話……?ゲームか何かの攻略??」
「ん?ゲーム?何かの試合か?」
 俺に聞き返されて、マルサネはきょとんととしていた。
 
 指を折るとか毒とか…… 正気か?イマドキ、そんな中世の拷問のような発想……何処の時代だっていうの。犯罪だよ、犯罪。

 あぁ、ひょっとしなくてもあれか。中二病ってヤツ?
 ゲームの世界と現実が区別ついていないのかも……。

 確か、母さんが言ってた。痴呆症のご老人とか相手にする時は、相手の話が妄想でも否定しちゃダメよって。
 
 外国人で中二病かぁ。
 ……世界はグローバルだなぁ。 

 
 俺は進まない会話に何だか疲れて、気分を落ち着けようとお茶請けのクッキーを口の中に放り込んだ。 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです

八重
恋愛
社交界で『稀代の歌姫』の名で知られ、王太子の婚約者でもあったエリーヌ・ブランシェ。 皆の憧れの的だった彼女はある夜会の日、親友で同じ歌手だったロラに嫉妬され、彼女の陰謀で歌声を失った── ロラに婚約者も奪われ、歌声も失い、さらに冤罪をかけられて牢屋に入れられる。 そして王太子の命によりエリーヌは、『毒公爵』と悪名高いアンリ・エマニュエル公爵のもとへと嫁ぐことになる。 仕事を理由に初日の挨拶もすっぽかされるエリーヌ。 婚約者を失ったばかりだったため、そっと夫を支えていけばいい、愛されなくてもそれで構わない。 エリーヌはそう思っていたのに……。 翌日廊下で会った後にアンリの態度が急変!! 「この娘は誰だ?」 「アンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」 「僕は、結婚したのか?」 側近の言葉も仕事に夢中で聞き流してしまっていたアンリは、自分が結婚したことに気づいていなかった。 自分にこんなにも魅力的で可愛い奥さんが出来たことを知り、アンリの溺愛と好き好き攻撃が止まらなくなり──?! ■恋愛に初々しい夫婦の溺愛甘々シンデレラストーリー。 親友に騙されて恋人を奪われたエリーヌが、政略結婚をきっかけにベタ甘に溺愛されて幸せになるお話。 ※他サイトでも投稿中で、『小説家になろう』先行公開です

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...