アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
上 下
58 / 150
第一部

side:カルゾメイド マリン

しおりを挟む
「マリン、お客さん!」
  同僚のモニカに呼ばれて、私は執務室の書類の山からノロノロと顔を上げました。

「お客……?私に?」
「みたいだけどぉ?忙しいなら、断る?」
 私は判断を仰ごうと、隣の机で私よりも大量の書類に囲まれている上司のナルドさんを無言で見つめました。

 今日中に本国(カルゾ)に送る通知のチェックなど、仕事が結構残ってるんだけど……。行ってもいいのかな。

「いいですよ。少しぐらいなら何とかなりますから」
 心なしか昔よりも柔らかくなったナルドさんの笑顔に、キュンキュンが止まりません……。

 うわぁ……。その笑顔、本当に反則だわぁ……。
 ヨダレ出そう。

「ありがとうございます。少し出てきますね」
 私はひそかに少し出てしまったヨダレを拭きながら、山のように積まれた決裁箱を掻き分けて廊下に出ました。


 執務室の外で、両手に今日届いた荷物を抱え、ヨチヨチ歩くモニカに声をかけました。
「それで、何処へいけばいいの?」
「入り口の客間に居るらしいわよ~」 
「で、モニカ。誰が来たの?」
「私も門番から伝言頼まれたのよ。ルーチェって言えばわかる、って言われて」
「……ルーチェ!?、それを何で早く言わないのよっ」
 私はモニカを置いて、早足で客間の小部屋へ向かいました。


「すみません、お待たせしてっ!」
「こちらこそ、忙しいのに突然ごめんなさいね、マリン」
「大丈夫です。上司の許可とりましたから。お珍しい……。どうかされたのですか?」

 使用人の応接室に使われている小部屋で待っていたのは、ルーチェさんでした。
 今はゲンメ公邸でメイドとして勤めていらっしゃいます。

 私の恩人の方です。

 私が昔、スポーツ格闘技の大会に出ていた時、ルーチェさんには色々お世話になって……。当時のルーチェさんはユッカ国内のスポーツ格闘技大会を五連覇中でした。私の若い頃の目標であり、憧れだった女性なんです。

 これまで私からご挨拶に伺うことはあっても、ルーチェさんが私を訪ねてくるなんて……初めてのことです。

 余程何かあったのかしら?

 
「今日来たのは、あなたにお願いがあって……」
「お願い……?何でしょうか」
「至急ソーヴェ様に伝えて欲しいことがあるの」
「ソーヴェ様に?」
「私ではすぐにお目通り願うのは、難しくて」

 ルーチェさんはゲンメ公邸勤め。
 正直、昔からゲンメとカルゾの仲はそれほど良いわけではありません。
 いくらフランクなソーヴェ様とはいえ、公主のお立場にある方。確かに、ゲンメ勤めの使用人が気軽に会えるものではないですものね。

「マルサネ様のこと、リエージュの件で内密にお願いしたいことがあるとお伝えしてもらえないかしら?貴女しかこんなことを頼める人がいなくて……」
「マルサネ様のこと、ですか?」
「ええ、リエージュの件というのは以前、ソーヴェ様より使いの方が来てやりとりしたことなの」
「使いの方?」
「執事服をきた男性よ。ソーヴェ様がナルドとお呼びになられていたわ」
「ナルドさん!?」
 思わず私、叫んでしまいましたわ。

「マリン、知ってるの?」
「ええと……、私の上司です。今、さっきも一緒に仕事をしてました」
「なら話は早いわ。お願い、マリン。あまり時間がないの……!」
 ルーチェさんの必死の「お願い」に私は頷きました。 

「わかりました。ナルドさんと相談させてもらって、ソーヴェ様に伝えてみます」

 私は執務室の方へ急いで駆け戻りました。
 
 早足で戻りながら、先日のパーティーでまさにこの場所で、ソーヴェ様がマルサネ様に薔薇を投げつけて不穏な雰囲気になったことが思い出されました。

 あれから、サラック様=大公様もおいでになって暫くお話になられて。

 どんな話をされたかは、部屋の外に待機していた私にはわかりません。

 あの時、結局パーティーには参加されず、マルサネ様はお帰りになられました。その時の皆様のお顔があまりに寂しくて、切ない表情だったので私にとってもあの時のことは忘れられない光景だったのです。

 ルーチェさんの「お願い」は、多分そのことと関係があるような気がして仕方ありませんでした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...