アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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第一部

side:ゲンメ公女 マルサネ part4

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「知恵熱が下がったそうだな、マルサネ」
 食堂に向かう途中で、あたしはクソオヤジと顔をあわせた。

 ……。相変わらず、頭は薄い。最近の最新育毛の効果は全くあらわれていないようだ。

 当然、サヴィートからの報告があがってるから、今朝の騒ぎはオヤジ殿は承知だろう。

 これでも闇の元締。
 ゲンメの闇の長老が我が子のように手塩にかけて育てた、闇の頂点に立つ人物なのだから。


「残念ながらね」
 あたしは食堂の椅子にどかっと座ると冷たく答えてやった。
 リツコのようにお父様、なんて呼んでやるもんですか。

「恋の熱も下がったか?」
「さぁ。海蛇の毒なら今朝、貰ったかも」
「聞いてないが、ヤられたのか?」 
 ハゲオヤジの目がスッと細められる。

「まさか。話にならないほど雑魚だった」
 あたしの言葉に少し、安心した様子のハゲオヤジ。
 あれ?もしかして心配したの、かな?

「殆どお前一人で片付けたそうだな」
「それなんだけど。あいつらこの間の残党なんかじゃないわ。こないだの大公宮を襲った奴等より数段落ちる下っ端よ」
「蛇姫直属の使い走りだろう。全く懲りないことだ」
「そういうヤツよ、あの女は」

 戦闘の話じゃないと会話のできない父娘。
 いつの間にか、そんな関係になってしまっていた。

 まぁ、共通話題が有るだけマシかな。



「その様子なら、護衛はもう必要ないか?」
「要らないわ。邪魔よ」
 あたしはつっけんどんに答えた。


 リツコとブラッディムーンの時、あたしが生まれる前の父母を見た。

 あの時、このオヤジなりに辛い人生を送ってきたんだなと、多少同情のようなものもあたしの中に芽生えたような気がする。だから少しは唯一の身内である、クソオヤジに優しくしてやろうと思ってはみたが……。

 これが、なかなか難しい。
 長年染みついた態度はなかなか、変えられない。


「そうか。ではガヴィ達は外すがいいな?」
「お好きにどうぞ」
「では、これはどうする?」
 クソオヤジはなにやら上等の高そうな紙で作られたカードを投げてきた。

 これは……招待状?
 見覚えのある印が押されている。

 確か、カルゾ公家の紋章だ。

「ソーヴェにお前、知らないうちにえらく気に入られたらしいな。カルゾの身内だけのささやかなパーティーだと。どうする?」


 ソーヴェ様!
 リツコ、妙に気に入られてたもんね。


 あの、うっとりする戦神のような強さ。
 実は長年、ソーヴェ様はあたしの憧れの人物なの。

 今までは行事の時に遠くから眺めてるだけだったのに、リツコのおかげで会話が出来るようになって……。


「う~ん……」
 でも、そのリツコはもう居ない。

 あたし、ソーヴェ様と会話なんかできるんだろうか。

 
 思考がまとまらず、卓上のコップに手を伸ばした。

 ちょっと、飲み物でも飲んで落ち着こう。 

 
「多分だが、大公も来るぞ?」
「……ぅげぇっ」
 あたしは、口に運んだサラック茶を吹き出した。
 よりによって、サラック茶!
 こんなところに置かないでよね……。


「ソーヴェのことだからな。どうせお前らを会わせることが目的だろ」  
「……」
 そっか。そうでした。
 リツコに何故だか、大公様もメロメロなんだった。


 どうしよう。
 母さんやベタ惚れのリツコには申し訳ないけど……。


 あたしは大公様って、全く好みじゃないんだよ~!!


 まぁ、どこが問題って。

 まずは年齢かな。
 いくら若く見えるといっても、オヤジと年が変わらないし……。リツコと違ってあたしは共通の話題もない。

 そもそも大公様は文化人として有名な方。
 武道も人並みには嗜んでるらしいけど、あたしのように特別戦闘好きな訳ではない。
 
 リツコが大好きだったネットも、雑誌もグルメも全くあたしは興味関心がないからなぁ…。

 
 そして、一番の理由はあの呑気な笑顔。
 あたし、あれが生理的にムリ。


 あのお顔みてると、本当にイライラするもん。

 ハイハイ、あなたは人生、楽しいことが多くていいですね、みたいな嫌味を言いたくなってしまう。



 はっ。
 これではあたし。
 若い頃のクソオヤジと同じじゃないの。


 カモン、母さんの遺伝子~!
 降りてこい~!!

 奇妙な格好で悶えるあたしを冷たく見ながら、オヤジがイライラして声をかけてきた。 
「で、どうする?行くのか?」
「行くわよっ!」

 クソオヤジが投げたカードをあたしは開いた。

 
「……げぇっ……」

 こんの、クソハゲッ!!

 日付、今日じゃないかぁ~!

 今夜だよ、今夜。
 もう殆ど時間がないじゃん!

「どうした、断るか?」
 慌てるあたしを見てニヤニヤするハゲオヤジ。
 クソムカつくわ~。残りの頭髪全部抜いてやるぞ。


「うるさい!行くって言ってるでしょっ!」
 あたしは、捨て台詞を吐くと、ダッシュで衣装部屋へ向かった。
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