アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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第一部

第36話 突然の帰還!

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 再び。

 気がついたら知らない部屋でした。


 「……?」
 身体が鉛のように、重い。


 目の前に見えるのは、見知らぬ真っ白な天井。

 そして、消毒薬の臭い…。
 ピッピッ、という規則的な機械の電子音。

 (……ここは病……、院……?)

 どうして?



 私は頭をフル回転させる。


 何が、あった?


 真っ白……、記憶に霞がかかったようだ。

 
 なんとか、記憶を絞り出す。


「もう!だから言ったじゃないですか!遅刻しても表通りから行ってくださいね。聞いてますか?お嬢様っ!」
 ……記憶の中で、ルーチェの心配そうな顔が浮かんで、消える。


 ルーチェ?

 そう……私。学園に行こうとして、馬車でルーチェに送り出されたんだった。

 それで、どうしたんだっけ?


 あぁ、そっか。

「もう間に合わないから、いつもの道で行っちゃって下さいな」
 遅刻して途中入室すると、あの日はなんだかんだ絡むタイプの講師で、面倒くさくて……。

 窓から顔を出して、ルーチェから見えなくなったところでルート変更をしたのは、私。


「え?ルーチェさんにキツく大通りからって言われてますけど。大丈夫ですか?お嬢様……」
「平気、平気」
 初老の御者は一瞬、モゴモゴ言ったけど私の言うとおりに、結局近道を通ってくれたのよ。


 そう……!


 もうすぐ、学園に着く直前。
 裏通りの路地を抜ける橋の上で。


 突然何かが弾けるような、爆音がしたの。

 今思うと、爆竹のような連続する破裂音。


 パニックになった馬の嘶きとともに、私は馬車の壁に強く叩きつけられて。
 痛みで呻いてた私の耳に聞こえてきたのは、錯綜する怒号と叫び声……!

「猿姫覚悟っ!」
 という不気味な鋭い声。
「何者だっ!」
 聞き覚えのない誰何。

「お嬢様、早くお逃げくださいっ」
「ぐわぁぁ……っ!!」
 御者の断末魔の叫びと人が倒れるような鈍い音。
 

 覚えているのは、そこまで。


  (ちゃんと警告、されてたのに……、襲われたんだ、私……)

 襲ってきたのは、イスキアの残党?
 応戦してくれたのは、私の知らないゲンメの闇の者達だろうか……。
   

 それにしても、この病室。
 点滴パックの釣り下がった、狭い病室。

 よくよく見ると、天井にはまってるのは見慣れた蛍光灯。


 (ここは……!?)

 廊下を誰かがパタパタとかけてくる足音とともに、けたたましくドアが開く。

奏大かなた早く!」
「姉貴がこんなに持たせるからだろ。大体、誰がこんなに食うんだよ」
「うるさいな。働いてるとお腹が空くのよ」

 入室してきたのは、薄化粧をしたショートカットの若い女とその女と良く似た顔だちの、コンビニ袋を両手に下げた制服を着た背の高い少年。


和奏わかな……!奏大かなた!」

 私の口から自然に滑り出てきた、名前。


「え……っ!ママ?!」  
「母さん……!!」

 驚きのあまり、口をポカンとあけてコンビニ袋を床に落として固まってるのは……。

 私の息子。

「良かった!良かった……」
 呆然として言葉が出ない私に抱きついて、大坪の涙を流しているのは長女の和奏。

 私の娘…。

「俺、看護婦さん呼んでくる!」
 奏大が慌てて廊下に飛び出して行く。

歌音かのんにも知らせないと」
 少し、落ち着いた和奏がスマホを取り出した。


 ……。

 点滴針の刺さった腕に視線を向けると見慣れた…、四十代の肌。

 律子の、身体だ。

 (あれ?私、死んだんじゃなかったの……!?)
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