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第一部

第25話 人生お休み中? ☆

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「いい加減グズグズするの、止めません?」
「だって……」
 ルーチェが起こしにきたが、私はシーツをひっかぶった。
 
 目が腫れてて頭がガンガンする。
 我ながら泣きすぎだ……。

「だって、じゃありません!」
「ひゃっ!!」
 容赦なくシーツごとひっぺがされて、ルーチェに冷たいタオルを両目に当てられた。

「パンパンに腫れてヒドい顔ですよ」
「ほっといてよ~」
 ありがたくタオルを両目にあてる。
 腫れぼったい肌にひんやりして、気持ちいい。
 
 一緒に気持ちも少し、冷えていく。

「朝ご飯はお運びしますか?」
「要らない。食欲ない」
「では、学園はどうなさいますか?」 
「行かない。行きたくない」
 絶対、夜会のことで絡んでくるだろう蛇姫と戦う元気は、今の私にはない。
 もう、一週間仮病中だ。

「わかりました。今日も連絡だけはしておきますね」
 ルーチェはため息をつくと部屋を出ていった。

 ごめんよ、ルーチェ。
 
 心の中で手をあわせる。ベッドサイドには軽食も用意してあって、彼女なりに心配してくれているのが、伝わってくる。 


 ミスターユッカが大公様だったことは、ルーチェに伝えた。
 ルーチェは
「何か問題でも?」
 とあまり、感激も感動もない様子。

「ビックリしないの?」
「お嬢様の歌声の方がよほどビックリいたしましたわ」
「歌なんか歌わなきゃ良かった……」
「また、後ろ向きになる~!やってしまったことは戻りませんよ。大公様と何があったか知りませんけど、お嬢様の今までやって来たことに比べたらたかが知れてます。大丈夫です」
 ルーチェに妙な太鼓判を押されて励まされたんだった。

 ルーチェには、サラックのように私は律子だと は言えない。
 だってルーチェはゲンメの使用人。彼女は「お嬢様」=マルサネのメイドだ。まぁ、告白してもまた頭がおかしくなったんじゃないかと言われるか、それが何か?と言われるかだけかもしれないけど……。

 ルーチェが用意してくれた軽食のサンドイッチに私は手を伸ばした。
 
 美味しい。
 やっぱり、人間食べないとダメね。

 うん、とりあえず今日一日。私のやれることを頑張ろう。


 コンコン……。
「お嬢様、置いておきますね」
 ノックの音ともにルーチェが見慣れたノーザンストアの紙袋をサンドイッチのワゴンと引き換えに退出して行った。

 そっか、今日はユッカナウの発売日。

 コーナー化してしまっているので、ルーチェに代理で、ユッカナウ編集部にリエージュは体調不良だと連絡を入れて貰った。

 ネットカフェにも足が向かなくて……。
 頭が真っ白になってしまって、書き込みが出来ないのが一番の理由。
 ミスターユッカの記事を読むのも怖かった。

 リエージュについて、彼がマルサネだと記事にするとは思えないが、逢えない関係であること、お互い何者かわからない所での絶妙な距離感のやり取りが読者に受けていた部分だと思う。

 そこが崩れ去った今、どうやって返したら良いのか、私にはわからない。


 だけど確かにルーチェの言うとおり。いつまでもグズグズしてても仕方ない。
 震える手で、後半の読者のページを意を決してめくる。

「…!」

 見慣れたコーナーには小さく「休載のお知らせ」が掲載されていた。
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