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情報量が多い!⑧
しおりを挟む夜の帳が降りた寝室に軋み音が鳴る。ナイトテーブルに設置したカンテラの光が、密着する二人の人影を壁に映した。
もはや恒例の人間背もたれとなったレオは頭を擦りつけながら、腕の力をやや緩める。
まるで大きな猫のようだ。
聞いた話では猫が頭を擦りつけるのは縄張りの主張と、飼い主への甘えやお強請りらしい。
多分人間が人間にしても同じなのだろう。暫くされるがままになりながら、俺もレオの手で遊ばせてもらう。
「ラム達、受け入れてくれるかな?」
『一旦整理させてくれ』と三年は老けた表情で帰っていった彼等。ただそこに警戒や恐れの感情がなかったことだけは俺にとって救いだった。
「大丈夫じゃないかな。仮に駄目だとしても二人なら絶対口外はしないだろうし」
「だといいなぁ」
「ずっと四人でやってきたからね」
レオもそうだが、二人にも随分と世話になった。冒険の仕方、魔物の対処、薬草や毒草の見分け方、人間相手の動き方……多くの事を教わった。
彼等と出会わなければきっと今の俺はいなかった。そう断言できるほどにユニの中で二人の存在は非常に大きい。
「なんか妬けちゃうな」
「なにそれ。二人は大事な仲間であって、そういう目で見たことは一度もないよ。というかそういう目で見るのは今生……その、レオ以外いないし。覚悟も決めた」
「ユニ……」
「っ。そうだ! 忘れてたけどルディとロキ、あと――アイツはどうしてる?」
羞恥を隠すように俺は残りのメンバーの所在を訊く。
ルディには治療の礼を言いたいし、ロキはどうしているか、あと俺が紫と気付いたアイツがなぜ突撃してこないのか。
正直、若干一名は顔も見たくないが、動きは把握しておきたかった。
見上げたレオの眉間に皺が浮かぶ。
最後のは要らなかったかも。俺は少しだけ後悔する。けれど口にした手前、もう無かった事には出来ず、レオの返答を待つ。
三拍の沈黙。レオは口を開いた。
「ロキは、普段通り支部長の秘書をしてる。ルディとオズは貴族の屋敷に呼ばれてるみたい」
「貴族の屋敷?」
「オズが復讐の為に手を組んでいる、いや利用している貴族だよ。名前は……何だったかな。忘れちゃった」
だからそれ以上は俺も知らない、と言う。その声に含まれた感情は不機嫌な棘が刺さっている。
そこまで気に障ることなのか、と俺は不思議に思う。けれどその一方で、彼が妬いているのだと、どうしようもなく嬉しいと感じる自分もいた。
「……ひょっとして妬いてる?」
「妬いてる。って何で笑うの?」
「だって嬉しいんだもん」
対面に座り、レオの唇に口付ける。何度か繰り返すと機嫌を直したレオがお返しに深いキスを仕掛けてきた。
すっかり上達したそれに嬉しいような残念な気持ちが複雑に絡まり合う。
「んぅ……上達したね」
「そりゃあ先生が良いからね」
「煽てても何も出ないよ」
「――ねぇ、ユニ」
「なぁに?」
「その、星夜に今も未練とか」
「全くない。というか忘れたの? 俺と年単位で付き合っておきながらデビュー、こっちの世界で言う売れっ子になるって決まった途端、はした金で即行俺を捨てた奴だよ。しかもそのはした金の金額も数回寝た女より下にした超絶ド屑だよ! そんな仕打ち受けてまだ復縁したいと思う奴がいたら完全にイかれた馬鹿のみ!」
「…………あ、はい」
俺の本気の怒りと抗議に汗を搔いたレオは若干引いていた。
それでも怒りは納まらず、俺は横になって布団を被る。背後で慌てたレオが謝ってくるが、絶対に顔は見せてやらない。
「あああ。ごめん、ごめんね。ユニ。俺が悪かった。許して!」
「やだ」
「そんな事言わないで顔見せてよ~。お休みのチューさせて」
「やだ」
「ユーニー」
「……ふん」
「ユニさーん」
「やだ」
「もう言わない。絶対に言わないから」
「…………反省した?」
「した。凄くした」
反転して向き合うと、レオは心底安心したように眉尻を下げた。
まるで悪戯をして絶賛後悔中の大型犬に空目してしまい、怒りよりも愛しさのゲージが勝ってしまうのだから俺も大概だろう。
軽く息をつき、それでも渋々という風に演技をする。
「じゃあ許してあげる」
「ありがとう!」
ぱああっと音がしそうなほど表情を明るくさせたレオが、カンテラの灯りを消す。温かみのある橙が消失し、闇が周囲を包み込む。
その中で横になった彼が俺の身体に触れる。それに手を添えて俺の顔へと誘導して、ほら、チューしろよと掌にキスを贈った。
「……ねぇ、ユニ」
「何?」
「愛してるよ」
「ん。俺も好き」
寝台の軋む音と、レオが近付く気配がする。
「お休み。良い夢を」
「ん。お休みなさい」
抱きついて胸に顔を埋めれば、レオは当たり前のように抱き締め返す。
とくんとくんと耳に届く心音が心地良い。今日も良い夢が見れそうだ。
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