上 下
58 / 98

情報量が多い!⑧

しおりを挟む


 夜の帳が降りた寝室に軋み音が鳴る。ナイトテーブルに設置したカンテラの光が、密着する二人の人影を壁に映した。
 もはや恒例の人間背もたれとなったレオは頭を擦りつけながら、腕の力をやや緩める。
 まるで大きな猫のようだ。
 聞いた話では猫が頭を擦りつけるのは縄張りの主張と、飼い主への甘えやお強請ねだりらしい。
 多分人間が人間にしても同じなのだろう。暫くされるがままになりながら、俺もレオの手で遊ばせてもらう。

「ラム達、受け入れてくれるかな?」

 『一旦整理させてくれ』と三年は老けた表情で帰っていった彼等。ただそこに警戒や恐れの感情がなかったことだけは俺にとって救いだった。

「大丈夫じゃないかな。仮に駄目だとしても二人なら絶対口外はしないだろうし」
「だといいなぁ」
「ずっと四人でやってきたからね」

 レオもそうだが、二人にも随分と世話になった。冒険の仕方、魔物の対処、薬草や毒草の見分け方、人間相手の動き方……多くの事を教わった。
 彼等と出会わなければきっと今の俺はいなかった。そう断言できるほどにユニの中で二人の存在は非常に大きい。

「なんか妬けちゃうな」
「なにそれ。二人は大事な仲間であって、そういう目で見たことは一度もないよ。というかそういう目で見るのは今生……その、レオ以外いないし。覚悟も決めた」
「ユニ……」
「っ。そうだ! 忘れてたけどルディとロキ、あと――アイツはどうしてる?」

 羞恥を隠すように俺は残りのメンバーの所在を訊く。
 ルディには治療の礼を言いたいし、ロキはどうしているか、あと俺が紫と気付いたアイツがなぜ突撃してこないのか。
 正直、若干一名は顔も見たくないが、動きは把握しておきたかった。
 見上げたレオの眉間に皺が浮かぶ。
 最後のは要らなかったかも。俺は少しだけ後悔する。けれど口にした手前、もう無かった事には出来ず、レオの返答を待つ。
 三拍の沈黙。レオは口を開いた。

「ロキは、普段通り支部長の秘書をしてる。ルディとオズは貴族の屋敷に呼ばれてるみたい」
「貴族の屋敷?」
「オズが復讐の為に手を組んでいる、いや利用している貴族だよ。名前は……何だったかな。忘れちゃった」

 だからそれ以上は俺も知らない、と言う。その声に含まれた感情は不機嫌な棘が刺さっている。
 そこまで気に障ることなのか、と俺は不思議に思う。けれどその一方で、彼が妬いているのだと、どうしようもなく嬉しいと感じる自分もいた。

「……ひょっとして妬いてる?」
「妬いてる。って何で笑うの?」
「だって嬉しいんだもん」

 対面に座り、レオの唇に口付ける。何度か繰り返すと機嫌を直したレオがお返しに深いキスを仕掛けてきた。
 すっかり上達したそれに嬉しいような残念な気持ちが複雑に絡まり合う。

「んぅ……上達したね」
「そりゃあ先生が良いからね」
「煽てても何も出ないよ」
「――ねぇ、ユニ」
「なぁに?」
「その、星夜に今も未練とか」
「全くない。というか忘れたの? 俺と年単位で付き合っておきながらデビュー、こっちの世界で言う売れっ子になるって決まった途端、はした金で即行俺を捨てた奴だよ。しかもそのはした金の金額も数回寝た女より下にした超絶ド屑だよ! そんな仕打ち受けてまだ復縁したいと思う奴がいたら完全にイかれた馬鹿のみ!」
「…………あ、はい」

 俺の本気の怒りと抗議に汗を搔いたレオは若干引いていた。
 それでも怒りは納まらず、俺は横になって布団を被る。背後で慌てたレオが謝ってくるが、絶対に顔は見せてやらない。

「あああ。ごめん、ごめんね。ユニ。俺が悪かった。許して!」
「やだ」
「そんな事言わないで顔見せてよ~。お休みのチューさせて」
「やだ」
「ユーニー」
「……ふん」
「ユニさーん」
「やだ」
「もう言わない。絶対に言わないから」
「…………反省した?」
「した。凄くした」

 反転して向き合うと、レオは心底安心したように眉尻を下げた。
 まるで悪戯をして絶賛後悔中の大型犬に空目してしまい、怒りよりも愛しさのゲージが勝ってしまうのだから俺も大概だろう。
 軽く息をつき、それでも渋々という風に演技をする。

「じゃあ許してあげる」
「ありがとう!」

 ぱああっと音がしそうなほど表情を明るくさせたレオが、カンテラの灯りを消す。温かみのある橙が消失し、闇が周囲を包み込む。
 その中で横になった彼が俺の身体に触れる。それに手を添えて俺の顔へと誘導して、ほら、チューしろよと掌にキスを贈った。

「……ねぇ、ユニ」
「何?」
「愛してるよ」
「ん。俺も好き」

 寝台の軋む音と、レオが近付く気配がする。

「お休み。良い夢を」
「ん。お休みなさい」

 抱きついて胸に顔を埋めれば、レオは当たり前のように抱き締め返す。
 とくんとくんと耳に届く心音が心地良い。今日も良い夢が見れそうだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...