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3章『転生×オメガ=溺愛される』
07
しおりを挟む結婚とは。夫婦になる事である。
夫婦とは婚姻届を出した関係である。
婚姻届けとは――以下略。
「け、けっこんですか」
「血痕…血の痕じゃないよ。俺の妻になってもらえますか?」
おう、先読みされた。
いや、吃驚が勝って…なんだろう。頭が追いつかない。だってそんな雰囲気どこにも無かったし、話もした事無いし。嫌っていう訳ではない。勿論、嬉しいに決まっているのだけれど、何て言うかな。混乱してるというか。
冗談――では無いよね。びっくり、でも無い。そんな笑えない冗談、在昌さんが言う訳ない。
「え、と…」
「ごめん、いきなりすぎた、よね」
頭をぽりぽり掻きながら在昌さんはいつもの熱い視線で私を打ち抜く。
落ち着こう。落ち着こう、私。
在昌さんは私に結婚を申し込んだ。夢でも妄想でも無く、現実だ。試しにほっぺたを抓ってみたけど痛い。
そもそも、どうして在昌さんは渡しなんかの事を好きになったのだろう。紆余曲折はあったけれど、気付けば在昌さんに愛される日々になっていた。
正直、オメガという体質を抜かして私はそんなに良い女では無い。何度も言うけれど、ぽっちゃりだし、顔もモブのような顔つきだ。一度にインパクトを与えられるような面もしていない。
それに比べて在昌さんは素晴らしい存在なのだ。いやらしい話、若いのに重役という立場だし、それを鼻に掛けていないし、格好良いし、美しいし、身体も女性が好みそうな身体をしているし、声もセクシーだし、でも可愛いし、何でも出来るし、優しいし…言い出したらきりがない。
「…真緒、百面相になってるよ。可愛い」
「え、済みません…というか可愛くないので」
「可愛いよ。…真緒は可愛い。その柔らかい身体もほっぺたも、考えが直ぐに顔と声に出るところも、俺オタクなところも、恥ずかしがり屋だけどえっちの時は大胆になるところも、気持ち良くて直ぐに泣いちゃうところも、グズグズに濡れちゃうところも、実は嫉妬深いところも、優しすぎて自分で抱え込み過ぎちゃうところも、最近ちゃんと声にしてくれるところも、俺の体調を気遣って料理の勉強をしているところも、自分が可愛いところに気付いていないところも――」
「ワァァアアアア!!」
真っ赤に染まった私の頬を突きながら、私から視線を逸らさずに、しかも恥ずかしげもなく私を賞賛する在昌さんに私は大きな声で遮った。
何この私みたいな特有の早口は!いや、それ以前に恥ずかしいですから!日本人は褒められすぎると居たたまれなくなって憤死するんだよ!
「どうして俺が真緒の事好きなのか不安そうにしてたから言ってみたよ、真緒風に」
「ンンンン!在昌さん、たまに私の心を読んでますよね」
「いや、真緒が顔に出すぎなんだよ。そんなところも好きだよ」
「あ、ありがとうございます」
いや、顔に出てたとしても高確率すぎやしませんかね。
「もう、全部好き」
視線で、身体で、態度で私への愛を語る在昌さんにくらりと目眩がする。私だって大好きだ。在昌さんの全てが大好きだ。
「在昌さん…」
私は在昌さんの名前を呼びながら、薄い唇に唇を重ねた。そしてそのまま大きな身体に抱きつく。
恥ずかしすぎて目を合わせられない。これくらいは許して欲しい。
「私も在昌さんと結婚したい、です」
きっと全身真っ赤だ。茹で上がったタコですら逃げ出す程だろう。赤面症を治したい今日この頃。
…
……
………。
反応が、無い。
吃驚する程、反応が無い。私は怖ず怖ずと顔を上げ在昌さんへと視線を向ければ、そこには口に手を覆い、顔を真っ赤にしている在昌さんが居た。
「あ、在昌さん…?」
「………」
「在昌さん?」
「これ、夢じゃないよね」
私と同じように頬を抓る在昌さん。…ちょっと私に似てきた気がするのは気のせいだろうか。
「痛っ…」
痛みで顔を歪めた在昌さんが現実に戻ってきた。痛みで涙目だ。どれだけ強く抓ったのだろうか。
「まさか承諾してもらえるとは思ってなかったから…吃驚しすぎて、ごめん」
「いやいや、私の台詞ですし…。それに私だってずっと在昌さんの傍に居たいし、近い存在でありたいんです。
だから…私と結婚、してください」
今度は目を見て、言えた。
私の言葉に目を見開いた在昌さんは、暫く呆然とした後、私の身体をキツく抱きしめた。触れる掌が少しだけ震えている。
何だか泣けてきた。嬉しすぎると泣けてくるんだなぁ。それは在昌さんも同じようで、見上げた美しい瞳は少しだけ潤んでいた。
「真緒、幸せにする」
「私も幸せにします。…無職ですけど」
「ハウスキーパーは立派な仕事だよ。それとも…外に出て働きたいの」
じとりと睨まれ身体が竦む。在昌さんはあの事件から私が一人で外に出る事を嫌がる。最初は有りがたかった。けれど、克服したかった私には正直……だった。一度断ったら、嫉妬により酷い目に遭わされたのは新しい記憶だ。
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