俺だけ使えるバグで異世界無双

I.G

文字の大きさ
上 下
7 / 11

7話 クラスのヤンキー

しおりを挟む
それから十日間、俺と愛との会話はあれど、
そこに三沢が入ってくることはなかった。

ずっと一人で後ろをついてくる。
話しかけても、うっさい話しかけんなと
言われるだけ。

クラスでは周りのことも気にせず、
大声で騒いでいる奴だったのだが。
やはり、陽キャは一人になると何もできないという噂は本当なのか!?
故に一人だろうと、誰かと一緒だろうと
常にポテンシャルが同じの陰キャは最強
ということになる。異論は認めない。

「す、すっげぇ! めちゃめちゃ広い!」

最初についた街とは比べ物にならないほど、
華やかな建物が並び、人で賑わっている。

その王都の賑わいに呑気に見惚れている
一方で、愛は常に回りを警戒していた。
いつクラスメイトに襲われても
いいようにだろう。
対して、三沢は、

「ねえねえ、愛」

三沢が愛に話しかけるなんて
初めてのことだった。

「ちょーっとさ、うちについて
来てくんね?」

「あら? どうして?」

これまで一切関わろうとしなかった
三沢からの誘いに愛は訝しむ。

「うちさ、王都のある場所に
ギルド会員証忘れちゃってさ、取りに
行きたいんだけど、そこ怖い奴等が
多くて、近づけないんだよね。
あんた強いでしょ? 
だから、ついてきてよ」

なるほど。だから、このギャルは大人しく
俺たちについてきたのか。

その誘いに愛がこちらの判断を
窺うように視線を向けた。
愛は俺のためにここまで来てくれたのだ。
あとは換金の半分目的だが。

「いいんじゃね。ギルド会員証って
結構重要なやつだろうし」

まぁこれでこのギャルともおさらばだ。
やっぱ相容れない人間同士が同じ
空間にいるのは無理がある。

「分かったわ。忘れたのは
中央ギルドかしら?」

「さっすが! あったり!」

俺と愛は換金よりも前に三沢の
願いを聞くことにした。
中央ギルドとはこの王都で最も多くの
冒険者が集う施設で、俺以外のクラスメイトたちはそこを主軸に魔王と戦っていたらしい。

場所が分かっている愛が先頭を進み、
中央ギルドの扉を開ける。

三沢の言っていたことが理解できた。
体や顔が傷だらけの屈強な男たちが酒を飲んでいる。中には女性もいるが、ギラギラとした鋭い視線で俺たちを睨んでくる。
いるだけで小便チビりそうだった。

一体どこに会員証を置き忘れたの?
と愛が訊ねた瞬間だった。
後ろにいた三沢が愛より前に出て、

「小畑!!!!!!! うちよ!
三沢!!! 約束通り連れてきた!!!」

「約束!?」

愛と俺が混乱している中、ギルドの二階から
飛び降りて姿を現したのは、

「ほんとに連れてきたのか」

クラスのヤンキー、小畑だった。

「三沢、どういうこと?」

愛の問に三沢は返答しない。
それどころか、すたすたと小畑の隣に
駆け寄った。

「どうやら騙したということで
いいのかしら?」

誇らしげに笑みを浮かべる
三沢を愛は睨む。

「おい清水。俺に転移石をよこせ」

小畑は唐突にそう言い放った。

「持ってんだろ?」

やっぱりそれが狙いだった。

後ろに気配を感じて振り返ると、
そこには屈強そうな男たちが俺たちを
囲んでいた。

「すっかりここのボスじゃない」

愛がそう言う。

「いいからさっさとよこせ」

相変わらず人の話を聞かないやつだ。
授業中も教師の話など聞かずにゲームをして、注意されたらめんどくさそうに
教室を出る。
その一方で授業外では一番騒がしい。
いじめの主犯格として何度か生徒指導もされていた。
こんな奴に力を与えてしまえばどうなるか
俺にだって簡単に想像がつく。

「逃げて成瀬。捕まったら貴方もヤバイ」

「は、は!? そんなことできる
わけねぇだよ」

だが、俺がこんなところで何ができる。
あの小畑が転移石で力をつけたのに。
俺には壁抜けぐらいしか使えない。
しかも、それを使うと隙を与えてしまう。

「お前誰だよ。転移石持ってねぇのか。
だったら殺す」

無茶苦茶だろこいつ。

もはや小畑は、日本社会のルールという
名の縄から解き放たれた猛獣だった。

瞬間、俺の腹に凄まじい衝撃が抜けた。
呼吸ができずに膝から崩れ落ちる。

く、くそ......何もできなかった......

そんな俺を見た愛が、

「待って! 分かったわ!
大人しく転移石を渡すから彼には
手を出さないで」

ローブを脱いで上着を脱ぐ。
それに男たちが好色そうな視線を
向けて声を上げる。

何の躊躇いもなく、愛は自分の胸から
転移石を差し出した。

転移石を渡すなと必死に言おうとしても、
声が出なかった。

耐え難い痛みの中、愛が転移石を小畑に渡したところで俺の意識は途絶えた。




目覚めると両手には手錠、足には
足枷が嵌められていた。

もしかして......これって三沢と同じように、
奴隷として売られるのか?

閉ざされた牢獄の中に俺一人。

愛はどうなった? 無事なのか?

不安が頭を過るも、先に俺を
拘束しているこの足枷と
手錠をどうにかしなければならない。

もしかして、これってあの壁抜け能力で
外れるんじゃないか? 
そう考えていたときだった。

「目、覚めたんだ」

前方から声が聞こえた。
鉄格子の奥に目をやると、
同じく拘束された三沢がいた。

「なんでお前がいるんだよ」

こいつは転移石目当てに愛を罠に嵌めたのだ。小畑と仲間のはず。
そもそもこいつと小畑は恋人同士だった。

「そんなのうちが聞きたいっつぅの」

不満そうな顔で三沢は顔を背ける。

「はは~ん。なるほど。分かったぞ」

「は? 何が?」

「お前......小畑に捨てられたんだろ?」

「は!? ちげえーし! 
黙れよ根暗陰キャが!」

適当に言ったがこの反応からして
どうやら正解らしい。

「その根暗陰キャと今は二人きりだぞ?
よかったな。これでお前も陰キャの
仲間入りだ。どうだ? 
同じランクに落ちたのは」

「あんた......教室では
おどおどしてた癖に誰にそんな
生意気な口利いてんのよ」

「へ! そんなこと言われてもなーんも
怖くないもーーーーんだ」

「こいつ......」

「うるせぇ! 舐めんなよ!
このビィイイイイイッチが!!!!
お前のせいで俺はこんな目に
合ってだよ!!! 調子乗んなよ!」

俺の怒号に三沢はびくっと震えた。

「いいか!? お前が今まで散々自由にできたのは教室っていうルールに縛られた
空間にいて、皆がお互いの迷惑に
ならないように空気を読んで、仲が悪くならないようにしようと努めていたからだ!! 
それを勘違いして、物静かなクラスメイトよりも発言力の多い自分達が上だと思いやがってよ!
今まで誰も言ってくれなかったのなら
俺が言ってやる! クラスの奴等がお前に愛想よくしてたのは、お前が上の
立場だったからじゃねぇ! 
お前みたいな人の迷惑も考えない奴に
関わる価値すらなかったから、
適当に上っ面の付き合いしてただけだ!
誰もお前みたいなやつと仲良くなりたいなんて思ってねぇよ! その証拠にお前は今一人じゃねぇか!」

言ってやったぜ! この数ヶ月溜め込んだ
ストレスをぶつけてやった。
ふぅスッキリした。

「な、なんで......そんな酷い......
こと言うの......」

え? 泣いてる?
嘘でしょ? 

「......え......あ、あれ......」

どうしよ。
ヤバイ。
まさか泣くとは思ってなかった。
てっきり三沢のことだから、
うるせぇ! って睨んでくると思ったのに。
まるで俺が泣かせたみたいじゃん。
誰だよ。三沢のこと泣かせたやつ。
先生怒らないから出てきなさい。

「も、もしかして泣いてる?
な、なんで? 誰がやったの?
もう泣くなよ。
俺がそいつのことぶん殴ってやるから」

「......あんただよ」

俺は泣き止んでもらうために、
自分の顔をぶん殴った。








しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたが望んだ、ただそれだけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,621pt お気に入り:6,577

異世界に召喚されたら職業がストレンジャー(異邦”神”)だった件【改訂版】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:422

異世界転移で残された僕の行き先

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:34

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,437pt お気に入り:5

クラス転移したところで

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:242pt お気に入り:1

処理中です...