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一般的な回復魔法
しおりを挟む「助かるわい。ワシも歳だからか昔のように回復魔法を使えなくての。ミザリア治療院は今、アイラだけで回しておるが患者が多くて手が足りなかったんじゃ」
「でも本当に大丈夫でしょうか? 実は回復魔法を使ったのは昨日が初めてだったんです。だからしっかり治療できるのか不安で」
「それは大丈夫じゃろ。エリアスから話を聞いたが、本来なら諦めるほどの大怪我をした少女を一瞬で治したそうじゃな。そんな芸当が出来るのは、この世界でもほんの一握りじゃ。ただでさえ少ない回復魔法の使い手の中で聖女ちゃんの腕は群を抜いておる」
確かに昨日の光景には本当に驚いた。大怪我を巻き戻すように一瞬で治す回復魔法はチートと呼ぶべきものだと思うくらいに。
「記憶喪失のせいなのか他の回復魔法が分からないんです。だから自分の腕がどれほどなのか分からなくて」
「今の時間ならアイラが患者を治しているところじゃな。ちょうどいいから少し見にいくことにしようかの」
クリストファーさんに診察室へ連れて行かれると、そこではアイラさんが冒険者のような男に回復魔法をかけているところだった。
男の腕は魔物にやられたのか酷い怪我をしており、ゴミ箱に捨てられた応急処置として巻いていたであろう包帯は血で真っ赤に染まっている。
目を閉じて手を添えるアイラさんからは温かい光を感じる。それから十分ほど時間をかけて傷口が少しずつ塞がっていき、酷かった怪我は立派なカサブタとなった。
「これでよし! 治療はおしまいだよ」
「すまないなアイラちゃん。そうだ! 治してくれたお礼に今度食事でも」
「後がつっかえてるからそういうのは今度! お大事に!」
勇気を出した男の誘いはアイラさんに受け流されてしまった。肩を落としてトボトボと診察室から出て行く男の背中がやけに小さく見える。
「あれ? クリストファー先生と聖女ちゃんじゃない。どうしたの?」
「彼女はうちで働いてくれることになっての。職場見学としてアイラの様子を見させてもらっていたのじゃ」
「本当に!? 歓迎するよ聖女ちゃん!」
「よろしくお願いします。それとできれば聖女ちゃんは恥ずかしいからやめて下さい! 春香と呼んでくれると嬉しいです」
日本で生きてきた一般市民な私にとって聖女と呼ばれるのは居心地が悪い。これから一緒に働くならば聖女ではなく名前で呼んで欲しかった。
聞けばアイラさんは今年十八になったばかりだそう。年齢は私の方が十個近く上だけど向こうが先輩なので敬語を使っていた。
しかしアイラ先輩と呼ぶと照れくさそうに頬を掻いて止めてくれと言われてしまった。ミザリア治療院はずっとクリストファーさんとアイラさんの二人で経営してきたようで、先輩と呼ばれるのに慣れていないみたいだ。
「アイラって呼んでよ。私もハルカって呼ぶからさ」
その言葉に甘えて私はアイラと呼ぶことにした。年齢は離れているけど異世界で初めて出来た同性の知り合いだ。エリアスさんに聞きにくいこともアイラに聞けるのが本当にありがたい。
「ではハルカちゃんはワシとお給金の話をしようかの。後は任せたぞアイラ」
「まっかせといて! もう一人でやらなくて良いって思ったらめちゃくちゃ元気出てきたから! ハルカ! 今度二人でゆっくり話そうね!」
「うん。私は記憶喪失だから色々迷惑かけると思うけどよろしくね」
ブンブンと手を振るアイラに見送られて私はクリストファーさんと共に院長室へとやってきた。
「さて、それでは大切なお給金の話なのじゃが初めに謝っておく。うちはお世辞にも景気がいいとは言えないからあまり多くは出してやれん」
この世界には保険なんてものが存在しないから治療院に診てもらうのは相応なお金がかかる。それこそ平民なら一年は暮らせる額が相場だそうだ。
しかしクリストファーさんは貧しい人たちでも治療が受けられるようにと、相場からすれば雀の涙ほどの額で診ることにしている。
そのせいもあり多くの患者が来るようで、クリストファーさんも治療を担当していた時はそれでも良かった。しかし今はアイラ一人しかおらず負担が大きいので、このままでは治療院を畳むつもりだったそうだ。
「そこにハルカちゃんが来てくれたからの。お陰で治療院を存続することができる。本当にありがとう」
つまり私が回復魔法を使えなければミザリア治療院は閉業して色んな人が困るということになる。突然降って湧いた責任に、私は自分の中にある魔力に頼むぞと心の底からお願いをした。
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