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治癒魔法師は高給取り
しおりを挟む「ミザリア治療院では一人治すごとに治癒魔法師に銀貨五枚を支払っておる。治すのが難しい怪我や病気の場合は別途報酬があるがの」
クリストファーさんの言葉に私の頭の中は沢山のハテナに埋め尽くされた。銀貨とはどのくらいの価値なんだろうか。
「初歩的な質問で申し訳ないのですが、もしパンを買うとしたらいくらですか?」
「そうじゃな。街のパン屋なら丸パン三つで銅貨一枚というところか」
「銀貨は銅貨何枚分でしょうか?」
「銅貨十枚で銀貨一枚じゃ。その上の金貨は銀貨十枚じゃな。差もあるが平民の平均収入は月に金貨十枚ってところかのう」
ザックリとだが日本円に置き換えるなら銅貨一枚は百円くらいだろうか。そう考えた時に手が震えてきた。
(一人治療すれば五千円貰えるの!?)
昨日の回復魔法の治療速度なら一時間で十人以上は治せるはずだ。魔力量も増えたようなので治療中に魔力切れで倒れる心配も多分ない。となれば患者の数だけお金が貰えることになる。
(一時間辺り十人治すとして八時間働けば一日で四十万円ってこと!? 治癒魔法師って凄い!)
ブラック企業で毎日残業をしていた苦しい日々を思い出す。理論上の話とはいえ、その時の月収を一日で上回るという事実に私は体の震えが止まらなかった。
もちろん治療院は怪我人や病人が訪れる場所であり暇な方が良いことは分かっている。それでもお金は大事、それがこの世界にも共通した真理のはずだ。
「やはり少ないか。ハルカちゃんの腕ならどの治療院からも引っ張りだこだしのう」
日本では考えられないお給料に思考が宇宙の彼方へと飛んでしまっていた。そのせいで私は無言でいることで給料を釣り上げようとする嫌なやつみたいになっている。
「違います! お給金の多さに驚いただけです!」
「じゃが他ならうちの五倍は貰えると思うぞ。ハルカちゃんの腕なら十倍でも来てくれと頼む治療院もありそうじゃ」
「私はクリストファーさんにアイラがいるミザリア治療院で働きたいです」
私が前の会社で一番辛かったことは人間関係だった。もちろん低賃金や拘束時間の長さも辛かったけど、ギスギスした同僚同士の板挟みや嫌味っぽい上司の小言には随分と神経をすり減らされたものだ。
だから私は人間関係の大事さは身に染みて分かっている。その点二人は短い付き合いでもいい人なのは分かった。
そして下心をいうならばクリストファーさんの治療院で働けば、権力者から守ってもらえるなんて打算的な考えもあったのも否定しない。
「本当にすまんのう。代わりと言ってはなんじゃが、なにか願いはないかの?」
「それなら住む場所がないので治療院で寝泊まりしてはダメでしょうか?」
この世界での家の借り方が分からないし保証人が必要と言われても困ってしまう。それに家からミザリア治療院への行き帰りが不安だった。
「それならさっきまで寝ていた個室を好きに使ってくれて構わんぞ。あそこなら鍵が付いているから安心じゃろう」
言った後に治療院を家のように使うなんてダメだと思ったけど、クリストファーさんは快く許可を出してくれた。
「しかしそれではワシの気が済まんのう。他に何かないかの?」
「あ、それなら」
私はもう一つの願いを口にした。それから数時間後、お昼になり宣言通りやってきたエリアスさんが私の姿を見てポカンとしている。
「やっぱり変ですか?」
私は今クリストファーさんやアイラと同じ白いローブを着ている。もう一つの願いとして口にしたのは着るものが欲しいだった。
一日中着続けたスーツの匂いが気になったし、何よりこの世界でスーツ姿というのは中々に目立つ。話を聞けば私につけられた黒の聖女というあだ名も黒髪とスーツが原因だったようだ。
「いえ。とてもよく似合っています。それにしてもその格好をしているということはハルカは」
「はい。ミザリア治療院で働かせてもらうことになりました」
日本では着たことのないローブにどう思われるか不安だったけど、エリアスさんに似合ってると言われて良かった。
このローブはリンちゃんの上で見た村の特産であるシルクが使われているようで着心地が良い。中に着ているインナーなどにもシルクが使われているようで、ひょっとするとかなりの高級品なのかもしれない。
「そういえばエリアスさんが私の治療費を代わりに払ってくれたんですよね? しっかり稼いでお返しするのでもう少し待っててください」
クリストファーさんから聞かされたのだが治療院へのお金はエリアスさんが出してくれたらしい。森で命を救われた上に治療費まで出してもらって彼には本当に頭が上がらない。
「僕がやりたいと思ったことなので気にしないでいいですよ」
「私もエリアスさんにお返ししたいと思ったので気にしないでください!」
「ふふ。それならお待ちしています」
しっかりお金を稼いでエリアスさんに恩返しをしよう。明日はしっかり休んで明後日から治療院で働くことになっている。
これから忙しくなるぞ! そう気合を入れた私はやる気が満ち溢れていた。
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