電車を寝過ごしたら聖女と呼ばれてプラチナブロンドの騎士と結ばれました

刻芦葉

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治療院へのスカウト

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 日本では縁のなかった権力者という存在に私は頭を悩ませていた。中世ヨーロッパのような世界だ。もし機嫌を損ねようものなら笑顔で死刑なんて言われそうで恐ろしすぎる。

 そんな私の葛藤を理解してかエリアスさんも心配そうな顔でこっちを見てくれている。二人してうんうんと頭を悩ませているとノックの音が聞こえてきた。

「失礼するぞい。おお、聖女ちゃんは無事に目を覚ましたようじゃな」

 入ってきたのは白くて長い髭が特徴的なお爺さんだった。早速権力者の登場かと身構えた私だったが、エリアスさんはお爺さんに対して表情を緩めて頭を下げている。

「受け入れてくれて本当にありがとうございます。ハルカ、この人は僕がお世話になっているミザリア治療院の院長、クリストファーさんだよ」

「クリストファーじゃ。聖女ちゃんは災難じゃったのう。とりあえずここにいれば野暮な者どもは入って来れんから、今は体を休めることに専念するのじゃぞ」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

 ほっほと長い髭をしごきながら笑うクリストファーさんは好々爺こうこうやといった優しげな雰囲気だ。着ている服も聖職者が着るようなローブで、院長というより神父という方がしっくりくる気がした。

 後でエリアスさんがこっそり教えてくれたけど、クリストファーさんは凄腕の治癒魔法師ちゆまほうしだったそうだ。そのおかげで顔が広いらしく貴族の中にもクリストファーさんに世話になった者も多いらしい。

 そんな彼が運営する治療院に喧嘩を売る者はいないから、ここにいる間なら私は手出しされないようだった。

 その夜に異世界に来て初めての食事となる夕食をご馳走になった。野菜をくたくたになるまで煮込んだような病院食といったスープだ。

 そのスープはお世辞にも美味しいと言えるものじゃなかった。食材そのままの味というか、少し塩を入れただけの薄味のスープ。ベーコンとかウィンナーみたいな肉の旨味が欲しいと感じる私は、きっと日本の味付けに慣れてしまっているんだろう。
 
 それでも空腹は最高のスパイスとは良く言った物で、半日以上なにも食べていなかった私は気付けばスープを完食していた。

 そういえば私が目を覚ましたことを確認したエリアスさんは帰り際に明日も来ますと言っていた。来てくれるのは嬉しいんだけど竜騎士のお仕事の方は大丈夫なのかな。

 そんな心配をしているとドアがガチャリと音を立てる。

「失礼しまーす! あ、ちゃんと完食してますね! きちんと食欲があるなら大丈夫そうかな?」

 元気よく入ってきたのはミザリア治療院に勤務しているアイラさんだ。たぬき顔の可愛らしい顔立ちにピンク色のゆるふわなミディアムヘア。さらに愛嬌のある性格は日本なら保育士さんや看護師さんにピッタリだと思う。

 ニコニコと鼻歌混じりで食器を片付ける姿を見ていると私も元気が貰える。アイラさん目当てで来る患者も多いのだとクリストファーさんが苦笑いしていた。

 最も彼女はそういう男をあしらうのが上手いらしく、治療を終わらせるとパパッと帰らせてしまうそうだ。

 こうして私の異世界一日目は治療院で夜を迎えた。ベッドの硬さに寝れるか心配だったけど想像以上に疲れていたようで気づいたら朝だった。

「うっ! いたたた」

 ベッドから立ち上がろうとしたら痛みに思わず呻いてしまった。森を歩いたりリンちゃんに乗ったからか下半身を中心に筋肉痛がきている。

「運動不足で筋肉痛なんて情けない。そうだ。回復魔法を使ったら治らないかな?」

 物は試しと自分に回復魔法をかけてみたら先程までの痛みが嘘のように治ってしまった。筋肉痛を治すためだけに回復魔法なんて贅沢な気もするけど、使うのは自分だし別にいいよね。

「噂には聞いていたが凄い効き目じゃのう」

「うわびっくりした! いつからそこにいたんですか?」

「廊下にうめき声が聞こえたから気になっての。ところで聖女ちゃんはこれからどうするんじゃ? エリアスが言うには記憶喪失らしいではないか」

 クリストファーさんの質問に私はこれからについて一切考えていなかったことに気づいた。漠然と街について良かったとしか思っていなかったけど、そういえば私は無一文だ。

 厳密に言えば多少の日本円なら財布の中にあるけど異世界では使えないだろうし。生きていく上でお金が必要なことはよく分かる。それが今の私はお金はおろか自分の身元を証明できる物すら持っていない。

 仮に仕事を探すにしてもそんな人間を一体誰が雇ってくれるというのか。突きつけられた現実に私は目の前が真っ暗になる。

「ほっほ。その様子では何も考えてなかったようじゃの。そこで相談なんじゃが治癒魔法師として、ここで働いてみないかの?」

 ホームレスまっしぐらな私にクリストファーさんが救いの手を差し伸べてくれた。エリアスさんといい出会う人全てが優しくて思わず涙が出そうになってくる。

「良いんですか? 自分で言うのもなんですが私って凄く怪しいと思いますよ」

「本当に怪しい人間は自分を怪しいなんて言いはせんよ。それに治癒魔法師に必要なのは回復魔法の腕と人柄じゃ。その両方を聖女ちゃんは持ち合わせておる」

「それなら是非ここで働かせてください」
 
 突然連れて来られた異世界。そこで私はなんとか自分の居場所を見つけることができたみたいだ。
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