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深淵の砦 ①
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黒須は、薄暗い通路をひたすら歩き続けている。
辺りは、濃い霧が漂っている。
道の途中で、髑髏やベネチアのお面が漂い、独特な不気味さや奇妙さを彷彿とさせている。
だが、彼女は見慣れたかというように顔色一つも変えずに目的地に向かう。
しばらく歩き続けると、霧は薄くなっていき金色の光沢を放つ豪勢な扉が姿を現した。
黒須は、表情微動だにせず扉をめいいっぱい開ける。
そこで、薄く広い部屋まで出た。舞踏会のような空間が広がっており、冷たい霧が漂う。
向かい側の一番奥の台座に、上司であるラプラスが鎮座している。
「よう、来たな。」
彼は、低く渋い声を発した。
「そろそろ、目的を言ってくれませんかね?」
「まぁまぁ、そんなに焦らなくとも、今はまだその時では無いがね。君は、今まで幾人もの魂を葬ってきた。寿命は、不平等だが、死とは、生きる者全てに平等に与えられた宿命なのだが、それを受け入れられない者は、どうなると思う?」
「何が言いたいんですか?」
黒須は、イラついたような口調で話す。
「死を受け入れられない者が、そして、生者として振る舞い、色相が濁っていき、やがては魔物になっていく。死とは恐ろしいものだ。誰だって死を受け入れることは難しい。」
「その、死霊を弄ぶ魔王とは、一体、何処に居るんだよ?先ずは、奴を狩らないと意味が無いだろ?」
「その魔王なんだが、君に協力して貰う時が来たようだ。」
「チッ…いつも、私が尻拭いか…」
「…で、お前に任せたい仕事が来た。アオバ南風一丁目の郊外だがね…」
「いい加減、こちらの言葉にも耳を貸して貰えないですか?」
黒須は、軽くイラついたような顔を見せた。
「何のことだね?」
「アオサですよ…奴を野放しにして良いんですか?」
ーと、黒須が言い終えた直後、急激な寒気が背筋に走った。
振り向くと、そこには、アオサがいた。
「貴様…いつの間に…?」
「やぁ、黒須君。」
アオサは、相変わらず飄々としている。
「貴様、何しにここに来た?」
黒須は、何とか平静さを保ち顔を軽く歪める。
「何しにって…司令を受けてるだけだよ。新しい任務があるんでね。」
「そうかい?貴様は、もう、死神でも何でもない。いや、悪霊以下だ。」
黒須は、唇を噛み締め冷徹な眼差しをアオサに投げ掛ける。
「君、知ってんの?死神同士は殺り合うのは禁止されてんだよ?」
アオサは、眼を細め得意げに微笑んでいる。
「では、君とアオサ君に現場に行ってもらうことにする。」
オルゴンは、二人のやり取りを無視する。
「正気ですか…!?コイツに仕事任せたりでもしたら、また…」
黒須は、瞳孔を揺らし困惑した表情を見せた。
ー寄りによって、何でコイツと仕事なんだ。オルゴンの奴、一体、何を考えてる…?
時雨は、死んだ。
時雨は、奴に玩具にされ弄ばれ消滅した。
黒須は、考えた。
ーもしかして、オルゴンは私を試してる…?前々から、アオサの事を知ってやがったのか…?だとしたらオルゴンは何かを握っているとでも言うのだろうかー?
今は平静を装い、とりあえず従う事にした。
「分かりましたよ。」
黒須は、ぶっきらぼうに了承した。
二人は、部屋を出ると再び長く暗い通路を歩く。
ーもし、コイツが怪しい真似をしたら…
黒須は、彼女に背後を取られないように後ろに間合いを取りながら歩くことにした。
「やぁ、君と二人で仕事だなんて、僕は光栄だな…」
アオサは、いつもの飄々とした乗りで口笛を吹いている。
「もし、お前が少しでも変な動きをしたら、その時は本当に狩り殺す。」
黒須は、アオサに冷徹な眼差しを向けた。
「おっと、それは、怖いねー」
アオサは、無邪気な笑みを浮かべた。その笑みは、左右非対称に歪んでいる。
黒須はバカにされてるような不快感が湧いたが、ふと、何処と無く違和感があるのを覚えた。
ーもしかして、コイツの正体は、…
黒須は、意を決して彼女の頭部に鎌を振るった。
鋭利な鎌の刃は、アオサの頭部に直撃した。すると、彼女の頭が、スライスチーズのように縦に四等分に裂けた。
ーどうなって…?!
「キャー!やめて…」
黒須は、ビクっとし動きを止めた。眉毛を寄せると、ハッとする。
アオサは、急に甲高い少女のような声を上げたのだ。
ー多重人格か…いいや、まさかとは思うが、コイツは複数の思念体が集まって出来てるのか?しかし、ここまで霊がうじゃうじゃ集まっているという事は…
黒須は、眉毛をしかめながらハッとする。
ーじゃあ、時折、感じていた違和感とはー
霊力の波長が不安定なのだ。
安定していると思いきや、不安感や憎悪や悲しみの波長を感じ取った。
高齢女性のような中年男性のような、はたまた少年のような、男子高生のような、と、思ったら高齢者男性へと魂の波長が変貌していく。
「お前ら、一体、何者なんだ…?」
黒須は、苦虫を噛み潰したような顔をし間合いを取った。
ークソ…ラプラスは、重要なことを隠していたのか…
黒須は、苛立ちながらも鎌を構えた。
すると、そこで様々な思念体の心の声が聞こえてきたような感覚があった。
ーお母さん…暑いよー怖いよー
ー助けてー
ーちきしょー、俺を殺しやがって…
ーねぇ、私、死んだの…
ーどういうことよ…!?何よこれ…
そして、アオサの裂けた顔は元通りになり、顔や表情がぐにゃぐにゃ歪んだ。
強烈なおぞましい地獄の金切り声を発した。
「助けてーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「何なんだ…これは?」
黒須は動きを止め困惑し、その奇妙な光景に戦慄を覚えた。
辺りは、濃い霧が漂っている。
道の途中で、髑髏やベネチアのお面が漂い、独特な不気味さや奇妙さを彷彿とさせている。
だが、彼女は見慣れたかというように顔色一つも変えずに目的地に向かう。
しばらく歩き続けると、霧は薄くなっていき金色の光沢を放つ豪勢な扉が姿を現した。
黒須は、表情微動だにせず扉をめいいっぱい開ける。
そこで、薄く広い部屋まで出た。舞踏会のような空間が広がっており、冷たい霧が漂う。
向かい側の一番奥の台座に、上司であるラプラスが鎮座している。
「よう、来たな。」
彼は、低く渋い声を発した。
「そろそろ、目的を言ってくれませんかね?」
「まぁまぁ、そんなに焦らなくとも、今はまだその時では無いがね。君は、今まで幾人もの魂を葬ってきた。寿命は、不平等だが、死とは、生きる者全てに平等に与えられた宿命なのだが、それを受け入れられない者は、どうなると思う?」
「何が言いたいんですか?」
黒須は、イラついたような口調で話す。
「死を受け入れられない者が、そして、生者として振る舞い、色相が濁っていき、やがては魔物になっていく。死とは恐ろしいものだ。誰だって死を受け入れることは難しい。」
「その、死霊を弄ぶ魔王とは、一体、何処に居るんだよ?先ずは、奴を狩らないと意味が無いだろ?」
「その魔王なんだが、君に協力して貰う時が来たようだ。」
「チッ…いつも、私が尻拭いか…」
「…で、お前に任せたい仕事が来た。アオバ南風一丁目の郊外だがね…」
「いい加減、こちらの言葉にも耳を貸して貰えないですか?」
黒須は、軽くイラついたような顔を見せた。
「何のことだね?」
「アオサですよ…奴を野放しにして良いんですか?」
ーと、黒須が言い終えた直後、急激な寒気が背筋に走った。
振り向くと、そこには、アオサがいた。
「貴様…いつの間に…?」
「やぁ、黒須君。」
アオサは、相変わらず飄々としている。
「貴様、何しにここに来た?」
黒須は、何とか平静さを保ち顔を軽く歪める。
「何しにって…司令を受けてるだけだよ。新しい任務があるんでね。」
「そうかい?貴様は、もう、死神でも何でもない。いや、悪霊以下だ。」
黒須は、唇を噛み締め冷徹な眼差しをアオサに投げ掛ける。
「君、知ってんの?死神同士は殺り合うのは禁止されてんだよ?」
アオサは、眼を細め得意げに微笑んでいる。
「では、君とアオサ君に現場に行ってもらうことにする。」
オルゴンは、二人のやり取りを無視する。
「正気ですか…!?コイツに仕事任せたりでもしたら、また…」
黒須は、瞳孔を揺らし困惑した表情を見せた。
ー寄りによって、何でコイツと仕事なんだ。オルゴンの奴、一体、何を考えてる…?
時雨は、死んだ。
時雨は、奴に玩具にされ弄ばれ消滅した。
黒須は、考えた。
ーもしかして、オルゴンは私を試してる…?前々から、アオサの事を知ってやがったのか…?だとしたらオルゴンは何かを握っているとでも言うのだろうかー?
今は平静を装い、とりあえず従う事にした。
「分かりましたよ。」
黒須は、ぶっきらぼうに了承した。
二人は、部屋を出ると再び長く暗い通路を歩く。
ーもし、コイツが怪しい真似をしたら…
黒須は、彼女に背後を取られないように後ろに間合いを取りながら歩くことにした。
「やぁ、君と二人で仕事だなんて、僕は光栄だな…」
アオサは、いつもの飄々とした乗りで口笛を吹いている。
「もし、お前が少しでも変な動きをしたら、その時は本当に狩り殺す。」
黒須は、アオサに冷徹な眼差しを向けた。
「おっと、それは、怖いねー」
アオサは、無邪気な笑みを浮かべた。その笑みは、左右非対称に歪んでいる。
黒須はバカにされてるような不快感が湧いたが、ふと、何処と無く違和感があるのを覚えた。
ーもしかして、コイツの正体は、…
黒須は、意を決して彼女の頭部に鎌を振るった。
鋭利な鎌の刃は、アオサの頭部に直撃した。すると、彼女の頭が、スライスチーズのように縦に四等分に裂けた。
ーどうなって…?!
「キャー!やめて…」
黒須は、ビクっとし動きを止めた。眉毛を寄せると、ハッとする。
アオサは、急に甲高い少女のような声を上げたのだ。
ー多重人格か…いいや、まさかとは思うが、コイツは複数の思念体が集まって出来てるのか?しかし、ここまで霊がうじゃうじゃ集まっているという事は…
黒須は、眉毛をしかめながらハッとする。
ーじゃあ、時折、感じていた違和感とはー
霊力の波長が不安定なのだ。
安定していると思いきや、不安感や憎悪や悲しみの波長を感じ取った。
高齢女性のような中年男性のような、はたまた少年のような、男子高生のような、と、思ったら高齢者男性へと魂の波長が変貌していく。
「お前ら、一体、何者なんだ…?」
黒須は、苦虫を噛み潰したような顔をし間合いを取った。
ークソ…ラプラスは、重要なことを隠していたのか…
黒須は、苛立ちながらも鎌を構えた。
すると、そこで様々な思念体の心の声が聞こえてきたような感覚があった。
ーお母さん…暑いよー怖いよー
ー助けてー
ーちきしょー、俺を殺しやがって…
ーねぇ、私、死んだの…
ーどういうことよ…!?何よこれ…
そして、アオサの裂けた顔は元通りになり、顔や表情がぐにゃぐにゃ歪んだ。
強烈なおぞましい地獄の金切り声を発した。
「助けてーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「何なんだ…これは?」
黒須は動きを止め困惑し、その奇妙な光景に戦慄を覚えた。
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