魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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夏の夜の悪夢 ③

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死霊は、合体しひとつの巨大な怪物になる。


怪物は、牙を剥き、目を赤くギラギラさせている。

「ふふふ、面白くなって来たね。」 
アオサは、愉快げに林檎を齧る。

黒須は、じっと固まり眉間のシワを深く刻み、咄嗟にアオサに向け鎌を振るった。

「だから、君の相手は私じゃなくて彼らだろ。死神が死神に攻撃して、どうする?」

アオサは、器用に身を翻し黒須を避けた。


ーと、青紫色の炎が横を遮った。

「良い訳ないだろ!目を覚ませ!」

青木だ。 
振り返ると、そこに彼女が居た。



黒須は、じっと前の方を向いた。
「ありがとう青木。強い、霊圧だな…」

強烈な風の渦が、刃となり塵を撒き散らす。

絶望が広がっていた。

竜巻のような凄まじい烈風ー

眩い閃光ー

三体の霊が重なり合い、大入道のような巨人のような姿になった。

「お前、奴らを引き付けろ。生前、何か、奴らが好きだったものとか、何か思い出があるだろ?」

「あ、ああ…」

思い出が、一杯詰まった歌だ。

俺は、めいいっぱい歌った。


熱いビートを刻み、
ラップの歌を歌った。


目から、涙が溢れ出てくる。


動きを止める。

赤い目が、小刻みに揺れ動く。


飴細工のようなうねうねしたものが、胞子状に弧を描く。

周りに、炎がぐるぐると覆い囲んだ。

「!?」


だが、未だに彼等は、悪意に満ちており、俺は般若のような戦慄を覚えた。


ーと、青磁色の炎が、三体の霊を取り囲んだ。


「悪い。ずっと前から、下準備はしていたんだよ。」

彼女は、額から汗を垂れ流している。

俺は、めいいっぱい歌い続けた。

烈風の渦は、螺旋状の渦を成しクルクル回転する。



黒須は、鎌を構えると飛び跳ね、その渦の中へと飛び込んだ。


ーと、ビリビリと青磁色の電流がビリビリ流れ、威力は弱まり中から、人形型の案山子を携えた黒須が出てきた。


「なぁ、アイツらは無事なんだろうな?」


「大丈夫だ。誰も喰い殺してはない。」

「良かった…」

俺は、微笑んだ。
全身が光のシャワーのようなものに包まれ、生暖かく感じた。
身体が軽く幸福に包まれる。




俺は、ふわふわした雲の上を歩いた。辺りは虹色の景色に覆われ、ここがどこだか分からないー。

痛みも苦しみも無い。恐怖心も無い。

俺の格好は、いつの間にか生前愛用していた、パンクファッション風の装いになっていた。

霧の向こうから、人の輪郭がうっすらと見え出してきた。

目の前には、君嶋が居た。

刈り上げたプラチナブロンドの髪に、太陽のような眩しい笑顔を向けて手を振っている。

全身が痺れるくらいの懐かしい感情に包まれ、哀しみと怒り、そして喜びが複雑に入り交じっていた。

「き、君嶋さん、…」
俺は、声を震わせた。



「す、すみません…俺、君嶋さんのことを助けられなくて…」

目から涙が溢れ出てくる。

「何、泣いてんだよ…?」

君嶋は、困り果てたような顔をした。

「じゃあ、行こうか…」
君嶋は、虹の向こう側の光の方を指さした。

そこには、水嶋達、3人も居て、笑顔で手を振っている。

昔の懐かしい思い出が、脳内を駆け巡るー。馬鹿やってふざけら時に街中を豪快に疾走してきた。未成年飲酒や喫煙、タイマン張って、地区全体を制圧した。悲惨な生い立ちの者が多くおり、互いに肩を寄せ合い泥の中を生きてきた。

不思議と恨みはすっかり消え、清々しい気持ちになっている。

黒須という死神が何かしたに違いないー。

俺たち5人は、光の向こう側へ向かって歩き始めた。
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