堕天使と悪魔の黙示録

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私の中のパンドラ ④

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   ミライは薄暗い部屋の中で、ゆっくり目を明けたー。全身がヒリヒリする。自分は台の上でうつ伏せになっているらしいー。身体の上には薄地の布が被されてあった。直感で、月宮が背中の模様の意味を探ろうとしているのだと感じたのだ。ーか、もしくは解析した可能性が高いー。そして、身体を動かそうにもそれが不可能だった。全身が鉛の様に重くぐったりしている。ミライは辛うじて動かせる頭を左右に動かし、カケルの姿を探した。カケルは、奥の方で鎖に繋がれ気を失っているようだった。

 すると、扉が鈍い音を立てながら開き見知らぬ厳つい自動人形オートマドールが、姿を現した。月宮の部下なのだろうー。
「…お、大鳥さんは、無事なんですよね?」
「ああ。眠っているだけだ。軽く麻酔をしこんどいた。」
彼は、低く渋い声を出した。
自動人形オートマドールのその言葉に、ミライは安堵したー。
「その模様は、何を意味してるのだ?」
「知りません。」
ミライは、咄嗟に嘘をついた。すると、ミライの徐々に重苦しくなり身体は鉛の様に重くなっていった。そして、徐々に模様が布越しから紅く浮かび上がっていった。
「ホントの事を言え。分かってるんだ。これが暗号や経路図を書き記した物で、重要な手がかりとなることをなー。」
すると、ミライの身体はプレス機に潰されていくような潰された感覚を覚えた。身体が重く岩の様になっていく。ーと、身体の模様が徐々に光を放つ様になっていった。ミライは、全身に熱をおびてきた。
「ホントに知らないんだな。」
自動人形オートマドールの目が、一瞬紅く光った。
「…はい。」
ミライは、頑なに拒んだ。すると、身体は再び押しつぶされたかのように重く痛みを増した。全身が粘土のようでさっきよりずっと重苦しさを増しており、頭はガンガン痛むー。

ー大鳥さんに危害が及ぶかも知れないー。

    ミライは直感でそう考え、何とか朦朧とした意識を奮い立たせ、言葉を考えた。
「待って下さい…」
「何だ」
「ホントに分からないんです。ガイアとアストロンを繋ぐゲートがあるときか…」
「だから、言え…」
「…分かりません。」
分からないのは、嘘だったー。組織の内情やジェネシスの手がかりになる重要な機密事項の詳細も書き記されていた。しかし、彼等に言うと自分や他の同胞達に危害が及ぶと判断し、何も言わなかった。ミライは板挟みに苦しみ、そして強く拒絶反応を起こした。
 ーと、その時ー、ミライは雷に打たれかのようなビリビリとした強い痛みを覚えた。
 すると、ミライの全身の模様が朱色に眩い光を放ち、書いてない筈であるゲートを繋ぐ経路の様な物が映し出された。布はメラメラ燃え、黒焦げになった。
     すると、その光は益々強くなりミライの身体を包み込んだ。
 そして、太陽が急接近したかのような眩い光があたりを覆い尽くすー。光は空間全体を包み込みグラグラと地響きを立て部屋全体が大きく揺らいだ。ミライは全身に激しい激痛を覚えながらも、何とか意識を持ちこたえた。
 すると、マシンは動きを急に停止させた。ミライは身体が自由になり、そしてカケルの元へと急いだ。
 マシンはこの高密度の粒子に耐えられなくなり、部屋内部の物ごと次々と身体が粉砕されて粉になっていったのだった。
    何故、突然このような現象が起きたのかは分からないー。しかし、これは何か強い脅威が迫っているのだという事を意味しているのだろうー。
「大鳥さん…大鳥さん…しっかりして。」
ミライはカケルを強く揺らすが、彼は深く眠っており目覚める事はなかったー。
     ミライはカケルのロングジャケットを着ると、辺りを見渡した。
 何としても、カケルを連れて今のうちにこの場を去らなくてはならないー。しかし、敵がどのタイミングで出現するか、分からないー。
    ミライは、電磁波が流れてないか全ての五感を駆使し周囲を見渡す。闇の陰から獲物が潜んでいるに違いないー。鹿のように五感を研ぎ澄ましながら、辺りの気配を伺うー。しかし、電磁波の気配は全く感じてる事はなかったー。
 
 「大鳥カケルは、しばらく起きないよ。」
すると、上のバルコニーから、人の声がしたー。
「あなたはー、月宮ー。」
「僕は、彼に用がないんだが、どういう訳か執拗に付いてきたもんで、邪魔で邪魔でね…だから、こうして眠らせといたのさ。」
「…ここは、何処ですか?」
「ここは、アストロンだよ。君のお陰で瞬間的にここに来れた。そして、僕は素晴らしい装置を開発したんだよ。まるでパンドラの箱の様な感覚だよ。ワクワクが止まらなくてね。長い月日が経ってしまったが…」
月宮は、玩具を買って貰った子供のように目を爛々と輝かせていた。
「…さっき、部下が塵になったのも、あなたの仕業ですよね…」
「ああ、部下か…彼奴等の事かー。僕は、その様を見ていたんだが、僕の考察が正しければ、雑魚程度のレベルだと身体が強烈な粒子の塊に耐えられなくなりいともあっさり爆発してしまうと言う事なんだろうね。これで、アルカナの秘密が分かってきたよ。」
月宮は、面白そうだった。
「装置…?」
「ああ。そこにある装置さ。これで、僕の計画が始まるのでね…そこに、僕の日比谷ミライの意識が眠っている。」
月宮は、ミライのすぐ横にある装置を指さした。
「マシンが、何言ってるんですか?あなたの正体も、知ってるんですよ。正真正銘のVXだって事も  ……あなたは、人間だったが死んでマシンとして蘇ったー。ガイアの世界の月宮は、随分、昔の人なんですよね…。だから、あなたもその時代に人間として生きていた事になりますね。そして、あなたの親だった人も実はVXで、全部見せかけの家族ごっこをしていた。あなたは自身の記憶を無理に改ざんして自分は人間だと思うことにしたー。大鳥さんの両親を殺したのも、彼の右腕を奪ったのもあなたですよね…?」
すると、月宮の周りにメラメラと、炎が取り囲んだー。
「成程。随分、調べたんだね。」
ミライは、つかさず、重さ300キロもある月宮の実験装置を軽々と持ち上げ、彼目掛けて投げつけた。装置は、ロケットのようなスピードで月宮の額目掛けて飛んでくるー。
「つまらない手を使うな…」
月宮は、目を細めると軽く指で弾き返した。
実験装置は、強烈な電磁波を纏うと今にも爆発するかの様にバチバチ炸裂音を発し、ゆっくり落ちたー。
「君が装置に入ってくれないと、困るんだよ。」
月宮はゆっくり階段を降り、右手を上げそして引っ張る様な仕草をした。
すると、ミライは、身体が思うように動かなかった。身体全身が痺れ熱を帯びてきた。
操り糸に自由に身体が引っ張られているかのように、自分の意思に反する行動をする。


    あの時、アストロンに居た時ー、月宮に注入された液体ー『  銀の泉』のせいだろうー。
これは、使用者の体内の電磁波と連携させ命令通りに身体が動き身体の自由が効かない代物である。
     ミライの身体は、意に反して勝手に動きそして装置の中へと入ったのだった。すると、バチバチと琥珀色の光を帯びながら、装置は動きを停止させた。
「何、何でなんだ…?僕の研究は…だって、お前の身体の模様の意味は……」
月宮は、ぽかりと口を開き氷の様に固まり、装置を凝視していた。
「それは…私は、あなたたの知っている日比谷ミライじゃないからですよ。あなたのやっている事は、不完全だからです。」
ミライは、頭に繋がれた線を引き抜くと中から出てきた。
「不完全?僕の何処が不完全だと…?」
月宮は、飛び上がった魚の様になり装置のチューブやその他部品をくなまく調べている。
「あなたが、それをよく解ってる筈です。」
ミライはそう言い放つと、月宮の右頬目掛けて彗星のような超高速で眩い光を纏ったグーパンチをした。月宮はその反動で装置ごと横転した。そして、装置の中からバチバチと、チカチカとカラフルな色の光線が入り乱れた。月宮は感電し、動きを停止した。


     ミライははカケルの方へかけ着く。
「大鳥さん、大鳥さん……!」
ミライはカケルをしきりに揺らした。しかし、彼は未だにピクリとも動かない。
    すると、背中にゾッとよだつうな寒気を感じた。その凍てつくような禍々しい邪気は過去に何度か体験したものだった。
    ミライは膝がガクッと地面に落ち、両手は地面につき両肘はくの字になった。そして、頭はガクッと重くなった。強い振動と重力に押さえつけられ、ミライは激しい頭痛を覚えた。
    何とか上体を起こし恐る恐る振り返ると、5メートル後方にリゲル・ロードが立っていたのだった。
「リゲル…?」
「やあ。コレで、一対一で話せるね。実は、君達に用があるのだよ。」
リゲルは表情を微動だにせず、冷めた眼でミライを見ている。
「あなた、いつの間に……?」
ミライは何とか起き上がり体勢を立て直すと、リゲルの方に体を向けた。
    ミライの全身には汗が滲み出ていた逃げようと、右手の拳に力を込めた。
一か八かでリゲルに奇襲を放ち、逃げようと考えたのだ。
「私はずっとここに居た。実は、お前が刻まれてある模様の秘密も分かってきた所なんだよ。」
ーと、言うことは、リゲルは組織の内部情報を掴んだと言うことになるー。
「……何処まで、知ってるんですか?」
ミライはカケルを担ぐと、出入口に近づき徐々にリゲルと間をとった。
「いや、知ってるのはまだひと握りさ。そこまで詳しくは解析しきれてない。」
「……あなたは、何の目的で今までそういう事を……?」
「私は、絶望してるのだよ。人類は、既に我々の予想よりずっと斜め下の領域に達している。これから先、人類の好きなようには出来ない。楽園は既に崩壊の一途を辿っている。それは、心を持つ人間が欲望の赴くままに、世界を創り上げてきたからだろう。」
リゲルは、意味深に両手を拡げる。
「あなたも人間だったのでしょう……生前の記憶がある筈です。人間の心臓を抉りましたよね。」
「それは、人が総じてゴミだからだよ。ゴミに制裁を与えて何が悪いと……」
リゲルが視線を移し、眼を逸らしたその瞬間ー。ミライ右手の拳に全神経を使うー。そして、リゲル顔面にパンチを放つー。
 すると、突如、強烈な風の膜に弾かれる。
     ミライは自身のスキルを使い、全力でバリアを張るが、10メートル程後方に足がスライドしていったー。
「なるほど。元の力を取り戻した訳だな。私に対する恐怖心もない。これも、コイツへ何か強い思いがあるからなのだろうかー?」
リゲルは、顎でカケルを指した。
「あなたは、あの時、大鳥さんの仲間を殺しましたね?」
ミライは荒い息をすると、両手に膝をつけた。
「いや、私が直接やったのではない。間接的に捻って力を加えただけだよ。」
ーと、いつの間にか、リゲルの右腕触手状にぐにゃぐにゃ曲がり、ミライの右手首から指先を螺旋状にぐるぐる巻き付けた。
ーしまった…!
 
「なるほど……侮れないな。いつの間にかこのような技を……」
    彼は話している隙に縛りつけていたのだった。一瞬、安心させイリュージョンでも見せてきたのだろう。彼は読む能力に長けているのだろうかー?
「残念だが、君達ジェネシスはやり方が単純過ぎるのだよ。私は長い間見てきたが、そうやって奇襲をかけてきた者が多くいてな。」
リゲルはそういうと、ミライの右手をそのまま引っ張り、軽く持ち上げた。ミライのつま先は10センチ程宙に浮いた。そして、リゲルの触手は延び猛スピードでミライを遥か後方にスライドさせた。ミライの身体は壁に激しく打ちつけられた。
「……もし、聞かなかったら……?」
ミライはジンジン染み付く様な痛みを堪える。
「ここで、君達を殺す事だって出来るのだよ。」
    リゲルのドライアイスの様な乾いた冷徹な視線に、ミライは全身に寒気が走った。
    すると、右手が潰される位の激痛が走った。
全力を奪い取られるのではないかと、ミライは
ここで、従わなかったら、カケルもろとも命はないー。何としても、カケルを全力で守りたかった。
「…分かりました。従えば、大鳥さんの命は無事なんですね……」
「勿論だ。」
リゲルは、ミライの右手を解いた。ミライの足は地面に着地した。彼女の脚はガクガク震え全身冷や汗が滝のように流れ落ちていたのだった。
「…で、頼みとは?」
ミライの右手は急に重くなり両肘は地面につき頭は重くなり、土下座する様な体勢でガクガク震えていた。
「殺して欲しい相手がいるんだ。」
リゲルはミライの方まで歩いて来ると、しゃがみ胸ポケットから、三体の自動人形オートマドールの写真をミライに見せた。
「……これは……」
このマシンは、カケルがモニター越しでみていた自動人形オートマドールとそっくりである。カケルが電話口で深刻な形相で話していたのを思い出した。
「何で、これを私たちに……?」
「これは、君達にしか出来ない事なんだよ。」
「彼らは何者なんですか?」
「アストロンから来たマシンだ。私は、これからアルカナを殲滅する。」

ー組織を……!?

「……」

「なるべく早く殺して欲しい。さもないと、お前達を殺すことなる。お前達にGPSをつけた。殺らないとお前らの命はないと思え。」

    ミライは、リゲルの目的が読めなかった。彼の顔には精気がなかった。彼は恐らく自由意思の持ち主であり、プログラミングで動いてない事が分かった。彼は今まで出会ってきたマシンの中で一番掴み所がなく、不気味だった。禍々しい黒服の悪魔は、マネキンの様な整った顔で冷ややかな眼でミライを見ているー。
    ミライは、何としても彼からカケルを守らねばと思ったのだった。自分には、彼しか居ないのだ。彼が居ないと、自分はまた1人ぼっちになってしまうー。カケルは永遠に続く闇の中から手を差し伸べてくれた天使である。だからミライは強くなって、全ての邪悪な者共からカケルを何としても守ると胸に誓ったのだ。




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