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エソラ
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エソラは何処か、変な子だった。エソラは自分を人間だと思いながら生活していた。普通裕福なの家庭に育ち、勉強やヴァイオリン、ピアノなどの一流の習い事を受けた。
しかし、エソラは普通の女の子とは違っていたのだ。エソラには、感情の概念がなかった。
エソラは怒ることも涙を流すことも落ち込むこともなかった。自分は周りのようになりたいが周りとは何処か違っていた。
エソラは、普通ではなかった。
半年毎に親はエソラをメーカーに連れてく事にした。その都度、エソラのボディのパーツや体内の部品を入れ替え、人間の成長に合わせようとしたのだ。エソラは、自分が人間であると、信じて疑わなかった。
エソラの身体の細かいパーツは人間の身体を移植したものだ。親は、エソラの身体が弱いかだと、エソラに説明をした。エソラは適時瞬きをし、動きが滑らかである。まつ毛や髪は、生身の人間のものを移植しており、まるで本物の細胞が回っているかのようだった。
しかし、エソラには心が欠如していた。
エソラは普通の女の子とは違っていたのだ。
エソラには、感情の概念がなかった。
エソラは怒ることも涙を流す事も落ち込むこともなかった。
エソラは、何かある度に喜怒哀楽豊かに自己表現している周りの人が不思議でならなかった。エソラにとって、それは理解し難い概念であった。周りのようになりたいが周りとは違う自分に疑問を抱いていた。エソラは親に感情の概念について尋ねた。親はそれは暖かったり冷たいものでもあると、説明した。エソラは、そういうものだと納得した。
エソラは、自分の生みの親は分からない。ほとんどの子供は生みの親がいるのに、自分にはいなかった。エソラは、親に実の親を聞いた事があるが、彼らはエソラの両親が早くに亡くなり、自分たちが引き取ったのだと説明した。
幼稚園では、エソラは、異質な存在であった。上辺では周りと仲良くしている風を装っていたが、感情を他者と共有する事はなかった。
エソラは、他の子供より力が強かった。他の子供と物の取り合い二なった時、その子の手首を強く掴み捻り骨折させてしまったことがあった。親は、謝りトラブルがある都度、エソラをメーカーに連れていく事にした。
幼稚園の先生は、親にエソラが協調性がない、よく他の子を怪我させていると説明した。親はその都度、ペコペコ頭を下げた。
エソラは、自分が変だとも思わず、普通だと思いながら過ごしていた。しかし、その普通だと思っていた事は、周りからしたら普通ではなかった。ありのままの自分で居てもだ。
年月は過ぎー、エソラは小学生にあがり周りから訝しながられながらも淡々と過ごし、そして高学年になった。
クラスの女子達は恋バナに盛りがっていたが、エソラにとってそれは異次元であった。
エソラには同性異性の概念がなく、恋愛感情の意味がわからなかった。
エソラはクラスメイトに、
「恋愛って、何?」
と、聞いてみた。
クラスメイトが甘酸っぱい感じだとか、ドキドキする、恥ずかしい感情などと言っていたが、イソラは、イマイチピンと来なかった。
そんなある日のことー。エソラは、友達ができた。その子はクラスでモテモテの男子で、女子から羨望の眼差しを受けていた。
少年と仲良くなって行くうちに、エソラに好意を抱くようになった。エソラは陶器のような白い肌に緑色の眼をしていた。髪は亜麻色で整った顔立ちをしている。髪はカールしており、まるで西洋絵画の天使の様な風防をしていた。
少年は、エソラが変な子だとは微塵も疑わず、他の女子とはほとんど一切雑談する事はなかった。エソラは、女子達から羨ましガられたり無視や嫌がらせを受けたことがあるが、女子のその感情が理解出来なかった。
少年は、エソラといるのが居心地がよかったのだ。
そんなある日ー、少年は唐突に口を開いた。
「エソラ、俺の事好き……?」
少年は、エソラに詰め寄った。
「好きって、何?」
エソラには「好き」の概念が一切分かりかねた。ここは、状況に合わせた方が賢明だと判断し、とりあえず「好き」と、返す事にした。
「俺と、付き合ってくれない?」
少年は、緊張した面持ちで勇気を振り絞るー。
「いいよ。」
エソラは、意味が分からなかったがこう言う事にした。
こうして、少年とエソラは付き合う事になった。少年は、エソラにぞっこんだった。
中学に上がると、少年は益々、エソラにのめり込む事となった。
そして2人は中学生になった。少年はエソラにキスをした。両者にとって、初めてのキスだった。
「エソラ、こっち向いて。」
少年は、エソラの頬を軽く触れる。
「いいよ。」
エソラは、真顔で淡々と応じた。
「エソラは、オレが大切にするから。」
少年の眼は真剣だった。
「分かった。ありがとう。」
エソラは真顔で応じた。
エソラには、恋愛と言うものがさっぱり理解が出来なかった。ただ、目の前の少年は自分に気があり距離を詰めてくると言うのがわかった。しかしその、「気がある」という感情もどういうものなのだろう?といった感じであった。世界と自分との間には違う次元の深い溝の様なものが広がっていると感じ、ある日、育ての親に自分はロボットなのではないか?と、聞いてしまった。しかし、親は口を揃えて人間なのだと否定したのだった。
エソラは、熱や風邪にかかることもなく怪我をする事もなかった。食事は普通に取れたが、エソラが眠くなる時間を親が勝手に調整し、エソラが寝ている間にこっそりボディの内部から食べ物を抜き取った。そうしないと、エソラの身体は、腐食されてしまうからである。そして、エソラの体内に水に溶ける茶色の粘土や黄色い液体を入れ、それらしくし、決まった時間にそれを出すように設定した。また、エソラの身体には肺や心臓、血管を模した部品が仕組まれており、極力人間に似せて造られていたのだった。
年月は再び過ぎ去りー、少年は益々エソラにのめり込むようになった。エソラは益々美しさをましていき、まるで純新無垢な天使のようであった。
そんなある日の事だったー。2人は手を繋いで街の中を歩いていたら、突然ダンプが襲いかかる。エソラは、咄嗟に少年を庇い丸く転がった。
すると、エソラにエラーが現れた。少年からプレゼントされたレモンの香水がエソラの口に入り、そして身体の内部に浸透していったのだった。
少年は軽傷で済んだが、エソラはその日以来、おかしくなっていったのだったー。
エソラは、急にガクガク揺れたり激しく小刻みに震えあがった。また、呂律が回らない、急に動きが緩慢になる、マネキンの様に動作を止めるなどといった諸症状に、襲われたのだ。
周りの人は、エソラの不審な言動から、エソラ自動人形なのではないかと、噂で持ち切りだった。しかし、少年はそれを信じる気は一切湧かなく、益々エソラの美貌に惹かれていったのだった。
そんなエソラの寿命が突如と、来る事になる。
エソラは、急にガクガク激しく揺れると、急に関節から火花を放つ様になるー。エソラは、口から強烈な火花を放出した。クラスメイトは、戦慄し騒然とし逃げ惑う。
エソラの周りに火花が円を描き渦ができ、そして辺りの電子機器が激しく磁気を放出しエソラは関電してしまう。クラス中の人間が逃げ惑う。
エソラの首はガクガクゆれ、手から火花を纏ったとてつもなく強い風圧を発し、クラスの者の多くは重症を追うことになった。エソラは、純白の天使から恐怖の堕天使へと変貌していったのだ。辺りは地獄絵図そのものだった。辺りは血飛沫が飛び散り、断末魔の叫びが響き渡ったのだった。少年は、それでもずっとエソラの側にいて重症を負う。少年は、エソラの手を引くと、学校を出てそのまま走ると2人は近くの広場の噴水に座った。
「エソラ……ごめん……全ては、俺のせいなんだ……。俺のせいで、ホントにごめん……実は、君が自動人形だったって事は最近、薄々気づいてきたんだよ……俺も、そうなれば済むことなんだよ。君が俺を殺してそして俺は、自動人形として生まれ変わるー。」
少年は荒い息を整えた。
「うん。いいよ。」
エソラは、眼はクルクル回転し口から軽く炎吐き出しながら、少年の頭部を強打しようとしたその時だった。
エソラは急に動きを止め、少年の後頭部には赤いレーダーが打ち放たれた。そして、少年はその場で気絶をしてしまった。エソラの身体は、熱をおびていた。レモンの香水は、大分エソラの体内に染み渡っていった。エソラの脳にも浸透しており、まともな判断をする事が難しい状態であったのだった。
すると、エソラの前に青年が現れた。
「誰ですか?」
「あなたを回収しに『 新世紀 』から派遣された、大鳥カケルという者です。」
青年は、柔らかな口調でバズーカを構えた。
キリッとしたつり目で、エソラをまじろぎもせずに見ている。眼光は鋭く、獲物を逃さない強い意思を感じる。そして、彼のバズーカには、『 新世紀 』という文字が記されている。『 新世紀 』とは、全国各地に点在してあり、ジェネシスを派遣する会社である。
ーと、言う事は、彼はジェネシスと言う事になる。
青年は、バズーカをエソラに向け引き金を引く。
「新世紀は、不良となった自動人形を回収する機関ですよね?私に、何の用ですか?」
エソラは、首を傾げた。
「あなたがその自動人形だからですよ。」
青年は、バズーカの照準をエソラに合わせる。
「そこの噴水の水を見れば分かりますよ。」
「え……?」
エソラの眼はクルクル泳いでおり、口からは火が出ていた。そして、ボディが自然と溶けており、溶けた先から金属部品が剥き出しで現れてきた。水には自分のその姿が映し出されている。
「何、これ……?いつの間に……?」
エソラは、フリーズする。エソラの頭の神経回路は、混乱してショートを起こしていた。自分は、ずっと人間だと思って過ごしてきたー。
エソラは激しくカタカタ揺れた。
エソラの体内に内蔵してある危険感知機能が作動したらしい。
「わ、たしは、マシン……?」
「実は、あなたの電磁波の流れから体の素材について、計測させてもらいました。このワイヤーには、アルカリ性の液体をつけてあります。そして、隙を狙って、少しずつあなたの身体に傷をつけていきました。あなたは多分、極力人間に似せて造られたんでしょうね。そして、あなたの身体の磁気や熱伝導率、硬さ等を調べました。そこで、あなたの身体はアルミが主原料になってるのだと分かりました。アルミは腐食もしやすいし、非常にデリケートですからね。」
すると、いつの間にかエソラの右手首にはワイヤーが巻きつかれていた。そのワイヤーは、熱を帯びておりエソラの体内に溶けだしていた。
「え……?アルミ……?私が……?」
エソラは、状況がさっぱり理解出来ずにいた。
「あなたは、極力人間に似せて造られたのでしょう。極めて精巧に造られた。アルミは柔らかく使い勝手も良い。しかし、それが仇となった。」
青年のバズーカから放たれる電磁砲が、エソラの額に直撃する。
エソラの額にはぽっかり大きな穴が空いていた。その穴は徐々に大きくなっていき、ビロビロめくれ、銀色のアルミ箔が露出していった。メラメラと燃え広がった。
そして、キシキシ鈍い音を立て、エソラは静かに倒れる。
「マ、コト……」
エソラは、少年の名前を呼ぶと、噴水の中で仰向けになった。
後日ー、大鳥カケルはエソラの脳からメモリを取り出し、青木博士に検証する事にした。
「踏む……これは、実に面白い。このマシンが、自動で必要な記憶と不要な記憶に振り分けたのだろうな。」
青木博士は、エソラのCPUメモリを顕微鏡で拡大し中の情報を確認する事にした。
「俺には、考えが全くつかないな。何故かレモンの香水はずっと握りしめていたんだよ。レモンはアルカリ性でアルミと相性最悪なのだが……」
「余程、印象に残る出来事を抽出したのだろうな…。」
エソラの脳内フィルムには、家族との思い出や友達やマコトとの思い出がずっと記憶として残っていたのだった。
「しかし、何で寄りによってあの少年は自動人形に、惚れるのだろうかね…どんなに人間そっくりだとしても、分かるだろ……」
カケルは溜息をついた。
「ほら、言うだろ、『 恋は盲目 』だとな……」
「盲目か……。バカバカしい。相手は紛れもなく自動人形なんだぞ。それに、俺は相手の中身の方が大事だと思うんだがね。」
「キョウコは、気に入らなかったのか?」
「気に入るも何も、キョウコは自動人間だよ。」
カケルは、修理から戻ったキョウコの内部のパーツを確認している。
「その割には、大分大事にしているようだが……」
博士は、生クリームたっぷりのコーヒーを飲み干す。
「主人が自分の自動人間の点検をしっかりしなくて、どうするんだよ?それに、マシンに恋愛なんてバカげてるよ。」
カケルはキョウコに螺子を回すと、背中の線をコンセントに繋ぎ充電した。
「あの少年は、不憫だよな…」
「確かにそうかもしれないが、あの少年は狂ってるね。人間がマシンになろうだなんて、自然の摂理に反してるよ。」
カケルはキョウコのメーターを確認した。
「あのエソラって娘なんだが……早くに亡くなった例の親の実の娘にそっくりなんだよ。」
「偽りがどんなに本物になろうとしたところで、綻びが出るに決まってるだろ。あのマシン、最期はガタガタだったぞ。」
エソラの親も、例の少年もどうなったか定かではないが、しばらく廃人の様になった後、行方をくらまし、精神病院に強制入院されたらしい。
これは、偽りの魔力なのだろうかー?物事には自然の摂理と言う物があり、そのパンドラの箱を開けてしまったら、二度と戻れないのかも知れないー。
しかし、エソラは普通の女の子とは違っていたのだ。エソラには、感情の概念がなかった。
エソラは怒ることも涙を流すことも落ち込むこともなかった。自分は周りのようになりたいが周りとは何処か違っていた。
エソラは、普通ではなかった。
半年毎に親はエソラをメーカーに連れてく事にした。その都度、エソラのボディのパーツや体内の部品を入れ替え、人間の成長に合わせようとしたのだ。エソラは、自分が人間であると、信じて疑わなかった。
エソラの身体の細かいパーツは人間の身体を移植したものだ。親は、エソラの身体が弱いかだと、エソラに説明をした。エソラは適時瞬きをし、動きが滑らかである。まつ毛や髪は、生身の人間のものを移植しており、まるで本物の細胞が回っているかのようだった。
しかし、エソラには心が欠如していた。
エソラは普通の女の子とは違っていたのだ。
エソラには、感情の概念がなかった。
エソラは怒ることも涙を流す事も落ち込むこともなかった。
エソラは、何かある度に喜怒哀楽豊かに自己表現している周りの人が不思議でならなかった。エソラにとって、それは理解し難い概念であった。周りのようになりたいが周りとは違う自分に疑問を抱いていた。エソラは親に感情の概念について尋ねた。親はそれは暖かったり冷たいものでもあると、説明した。エソラは、そういうものだと納得した。
エソラは、自分の生みの親は分からない。ほとんどの子供は生みの親がいるのに、自分にはいなかった。エソラは、親に実の親を聞いた事があるが、彼らはエソラの両親が早くに亡くなり、自分たちが引き取ったのだと説明した。
幼稚園では、エソラは、異質な存在であった。上辺では周りと仲良くしている風を装っていたが、感情を他者と共有する事はなかった。
エソラは、他の子供より力が強かった。他の子供と物の取り合い二なった時、その子の手首を強く掴み捻り骨折させてしまったことがあった。親は、謝りトラブルがある都度、エソラをメーカーに連れていく事にした。
幼稚園の先生は、親にエソラが協調性がない、よく他の子を怪我させていると説明した。親はその都度、ペコペコ頭を下げた。
エソラは、自分が変だとも思わず、普通だと思いながら過ごしていた。しかし、その普通だと思っていた事は、周りからしたら普通ではなかった。ありのままの自分で居てもだ。
年月は過ぎー、エソラは小学生にあがり周りから訝しながられながらも淡々と過ごし、そして高学年になった。
クラスの女子達は恋バナに盛りがっていたが、エソラにとってそれは異次元であった。
エソラには同性異性の概念がなく、恋愛感情の意味がわからなかった。
エソラはクラスメイトに、
「恋愛って、何?」
と、聞いてみた。
クラスメイトが甘酸っぱい感じだとか、ドキドキする、恥ずかしい感情などと言っていたが、イソラは、イマイチピンと来なかった。
そんなある日のことー。エソラは、友達ができた。その子はクラスでモテモテの男子で、女子から羨望の眼差しを受けていた。
少年と仲良くなって行くうちに、エソラに好意を抱くようになった。エソラは陶器のような白い肌に緑色の眼をしていた。髪は亜麻色で整った顔立ちをしている。髪はカールしており、まるで西洋絵画の天使の様な風防をしていた。
少年は、エソラが変な子だとは微塵も疑わず、他の女子とはほとんど一切雑談する事はなかった。エソラは、女子達から羨ましガられたり無視や嫌がらせを受けたことがあるが、女子のその感情が理解出来なかった。
少年は、エソラといるのが居心地がよかったのだ。
そんなある日ー、少年は唐突に口を開いた。
「エソラ、俺の事好き……?」
少年は、エソラに詰め寄った。
「好きって、何?」
エソラには「好き」の概念が一切分かりかねた。ここは、状況に合わせた方が賢明だと判断し、とりあえず「好き」と、返す事にした。
「俺と、付き合ってくれない?」
少年は、緊張した面持ちで勇気を振り絞るー。
「いいよ。」
エソラは、意味が分からなかったがこう言う事にした。
こうして、少年とエソラは付き合う事になった。少年は、エソラにぞっこんだった。
中学に上がると、少年は益々、エソラにのめり込む事となった。
そして2人は中学生になった。少年はエソラにキスをした。両者にとって、初めてのキスだった。
「エソラ、こっち向いて。」
少年は、エソラの頬を軽く触れる。
「いいよ。」
エソラは、真顔で淡々と応じた。
「エソラは、オレが大切にするから。」
少年の眼は真剣だった。
「分かった。ありがとう。」
エソラは真顔で応じた。
エソラには、恋愛と言うものがさっぱり理解が出来なかった。ただ、目の前の少年は自分に気があり距離を詰めてくると言うのがわかった。しかしその、「気がある」という感情もどういうものなのだろう?といった感じであった。世界と自分との間には違う次元の深い溝の様なものが広がっていると感じ、ある日、育ての親に自分はロボットなのではないか?と、聞いてしまった。しかし、親は口を揃えて人間なのだと否定したのだった。
エソラは、熱や風邪にかかることもなく怪我をする事もなかった。食事は普通に取れたが、エソラが眠くなる時間を親が勝手に調整し、エソラが寝ている間にこっそりボディの内部から食べ物を抜き取った。そうしないと、エソラの身体は、腐食されてしまうからである。そして、エソラの体内に水に溶ける茶色の粘土や黄色い液体を入れ、それらしくし、決まった時間にそれを出すように設定した。また、エソラの身体には肺や心臓、血管を模した部品が仕組まれており、極力人間に似せて造られていたのだった。
年月は再び過ぎ去りー、少年は益々エソラにのめり込むようになった。エソラは益々美しさをましていき、まるで純新無垢な天使のようであった。
そんなある日の事だったー。2人は手を繋いで街の中を歩いていたら、突然ダンプが襲いかかる。エソラは、咄嗟に少年を庇い丸く転がった。
すると、エソラにエラーが現れた。少年からプレゼントされたレモンの香水がエソラの口に入り、そして身体の内部に浸透していったのだった。
少年は軽傷で済んだが、エソラはその日以来、おかしくなっていったのだったー。
エソラは、急にガクガク揺れたり激しく小刻みに震えあがった。また、呂律が回らない、急に動きが緩慢になる、マネキンの様に動作を止めるなどといった諸症状に、襲われたのだ。
周りの人は、エソラの不審な言動から、エソラ自動人形なのではないかと、噂で持ち切りだった。しかし、少年はそれを信じる気は一切湧かなく、益々エソラの美貌に惹かれていったのだった。
そんなエソラの寿命が突如と、来る事になる。
エソラは、急にガクガク激しく揺れると、急に関節から火花を放つ様になるー。エソラは、口から強烈な火花を放出した。クラスメイトは、戦慄し騒然とし逃げ惑う。
エソラの周りに火花が円を描き渦ができ、そして辺りの電子機器が激しく磁気を放出しエソラは関電してしまう。クラス中の人間が逃げ惑う。
エソラの首はガクガクゆれ、手から火花を纏ったとてつもなく強い風圧を発し、クラスの者の多くは重症を追うことになった。エソラは、純白の天使から恐怖の堕天使へと変貌していったのだ。辺りは地獄絵図そのものだった。辺りは血飛沫が飛び散り、断末魔の叫びが響き渡ったのだった。少年は、それでもずっとエソラの側にいて重症を負う。少年は、エソラの手を引くと、学校を出てそのまま走ると2人は近くの広場の噴水に座った。
「エソラ……ごめん……全ては、俺のせいなんだ……。俺のせいで、ホントにごめん……実は、君が自動人形だったって事は最近、薄々気づいてきたんだよ……俺も、そうなれば済むことなんだよ。君が俺を殺してそして俺は、自動人形として生まれ変わるー。」
少年は荒い息を整えた。
「うん。いいよ。」
エソラは、眼はクルクル回転し口から軽く炎吐き出しながら、少年の頭部を強打しようとしたその時だった。
エソラは急に動きを止め、少年の後頭部には赤いレーダーが打ち放たれた。そして、少年はその場で気絶をしてしまった。エソラの身体は、熱をおびていた。レモンの香水は、大分エソラの体内に染み渡っていった。エソラの脳にも浸透しており、まともな判断をする事が難しい状態であったのだった。
すると、エソラの前に青年が現れた。
「誰ですか?」
「あなたを回収しに『 新世紀 』から派遣された、大鳥カケルという者です。」
青年は、柔らかな口調でバズーカを構えた。
キリッとしたつり目で、エソラをまじろぎもせずに見ている。眼光は鋭く、獲物を逃さない強い意思を感じる。そして、彼のバズーカには、『 新世紀 』という文字が記されている。『 新世紀 』とは、全国各地に点在してあり、ジェネシスを派遣する会社である。
ーと、言う事は、彼はジェネシスと言う事になる。
青年は、バズーカをエソラに向け引き金を引く。
「新世紀は、不良となった自動人形を回収する機関ですよね?私に、何の用ですか?」
エソラは、首を傾げた。
「あなたがその自動人形だからですよ。」
青年は、バズーカの照準をエソラに合わせる。
「そこの噴水の水を見れば分かりますよ。」
「え……?」
エソラの眼はクルクル泳いでおり、口からは火が出ていた。そして、ボディが自然と溶けており、溶けた先から金属部品が剥き出しで現れてきた。水には自分のその姿が映し出されている。
「何、これ……?いつの間に……?」
エソラは、フリーズする。エソラの頭の神経回路は、混乱してショートを起こしていた。自分は、ずっと人間だと思って過ごしてきたー。
エソラは激しくカタカタ揺れた。
エソラの体内に内蔵してある危険感知機能が作動したらしい。
「わ、たしは、マシン……?」
「実は、あなたの電磁波の流れから体の素材について、計測させてもらいました。このワイヤーには、アルカリ性の液体をつけてあります。そして、隙を狙って、少しずつあなたの身体に傷をつけていきました。あなたは多分、極力人間に似せて造られたんでしょうね。そして、あなたの身体の磁気や熱伝導率、硬さ等を調べました。そこで、あなたの身体はアルミが主原料になってるのだと分かりました。アルミは腐食もしやすいし、非常にデリケートですからね。」
すると、いつの間にかエソラの右手首にはワイヤーが巻きつかれていた。そのワイヤーは、熱を帯びておりエソラの体内に溶けだしていた。
「え……?アルミ……?私が……?」
エソラは、状況がさっぱり理解出来ずにいた。
「あなたは、極力人間に似せて造られたのでしょう。極めて精巧に造られた。アルミは柔らかく使い勝手も良い。しかし、それが仇となった。」
青年のバズーカから放たれる電磁砲が、エソラの額に直撃する。
エソラの額にはぽっかり大きな穴が空いていた。その穴は徐々に大きくなっていき、ビロビロめくれ、銀色のアルミ箔が露出していった。メラメラと燃え広がった。
そして、キシキシ鈍い音を立て、エソラは静かに倒れる。
「マ、コト……」
エソラは、少年の名前を呼ぶと、噴水の中で仰向けになった。
後日ー、大鳥カケルはエソラの脳からメモリを取り出し、青木博士に検証する事にした。
「踏む……これは、実に面白い。このマシンが、自動で必要な記憶と不要な記憶に振り分けたのだろうな。」
青木博士は、エソラのCPUメモリを顕微鏡で拡大し中の情報を確認する事にした。
「俺には、考えが全くつかないな。何故かレモンの香水はずっと握りしめていたんだよ。レモンはアルカリ性でアルミと相性最悪なのだが……」
「余程、印象に残る出来事を抽出したのだろうな…。」
エソラの脳内フィルムには、家族との思い出や友達やマコトとの思い出がずっと記憶として残っていたのだった。
「しかし、何で寄りによってあの少年は自動人形に、惚れるのだろうかね…どんなに人間そっくりだとしても、分かるだろ……」
カケルは溜息をついた。
「ほら、言うだろ、『 恋は盲目 』だとな……」
「盲目か……。バカバカしい。相手は紛れもなく自動人形なんだぞ。それに、俺は相手の中身の方が大事だと思うんだがね。」
「キョウコは、気に入らなかったのか?」
「気に入るも何も、キョウコは自動人間だよ。」
カケルは、修理から戻ったキョウコの内部のパーツを確認している。
「その割には、大分大事にしているようだが……」
博士は、生クリームたっぷりのコーヒーを飲み干す。
「主人が自分の自動人間の点検をしっかりしなくて、どうするんだよ?それに、マシンに恋愛なんてバカげてるよ。」
カケルはキョウコに螺子を回すと、背中の線をコンセントに繋ぎ充電した。
「あの少年は、不憫だよな…」
「確かにそうかもしれないが、あの少年は狂ってるね。人間がマシンになろうだなんて、自然の摂理に反してるよ。」
カケルはキョウコのメーターを確認した。
「あのエソラって娘なんだが……早くに亡くなった例の親の実の娘にそっくりなんだよ。」
「偽りがどんなに本物になろうとしたところで、綻びが出るに決まってるだろ。あのマシン、最期はガタガタだったぞ。」
エソラの親も、例の少年もどうなったか定かではないが、しばらく廃人の様になった後、行方をくらまし、精神病院に強制入院されたらしい。
これは、偽りの魔力なのだろうかー?物事には自然の摂理と言う物があり、そのパンドラの箱を開けてしまったら、二度と戻れないのかも知れないー。
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機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
砂の星より
BAKU
青春
「「先生」に会ったのは、13歳の時。私が『先生』という職業を知った、ちょうど半年前の事だった———」
戦争により砂漠と化した地球で、「収集」を生業とする主人公、ステゴ。
人の棲まぬ地球に捨て置かれた、自律型AI教師、『先生』。
二人の、地球最後の「授業」が始まる。
「残されたモノ」に送る、感動の物語。
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