堕天使と悪魔の黙示録

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ウォーリー ①

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 ウォーリーは、ずっと独りぼっちであった。かつての主人も仲間達も、だいぶ前に居なくなってしまった。みんな虹の橋を渡り、遠い空の彼方へと行ってしまった。みんな、みんな、既に遠い遠い所に行ってしまったのだった。唯一の生き残りの兄弟は、すっかり変わり果て暴君として振る舞うようになったのだった。
 彼は、スター・ウォーズのR2-D2を連想させる独特な風貌をしており、右肩にはかつての主人のイニシャルが刻まれていた。彼はどんなに事故などのトラブルに巻き込まれようと、決してそのイニシャルだけは消さずに大事に保持していた。
 彼はかつては優秀な最先端の作業用マシンであった。しかし、主人亡き今は只の雑用として、現代の主人から奴隷の様な扱いをされていた。
 
 そんなある日の事だったー。現代の主人からの用事を済ませ、急いで帰路に向かおうとした時、一人の青年と衝突した。ウォーリーは自分専用の小型のエアエンジンカーに乗っており、車から押し出され転倒してしまった。青年は転倒して、10メートル程スリップした。
「…すみません。」
ウォーリーは、遠くの方からか細い声を出した。
「いえ、この辺りは見通しが悪いですからね。」
青年は淡々と話す。青年はファルコンを立て直すと、衣服の汚れを取り払った。
 長身で色白の青年だ。かっちりとした身体に、亜麻色の髪ー。キリッと釣り上がった二重まぶたー。何処かで見覚えがあるー。
「・・・大丈夫じゃないですよね・・・?あの、お怪我はないですか?」
「いえ、僕、只の人間ではないんで。」
青年は淡々と話した。ひどく衝突したはずなのに、彼は普通に立っている。そして、彼のその言動からウォーリーはピンときた。
「あの…ジェネシスの方ですよね…?」
ウォーリーは、青年に恐る恐る尋ねた。
「…ええ。」
「あなた、よく大会に出てますよね?賞金稼ぎの…確か、大鳥カケルさんでしたね?」
「…ああ、覚えていてくれたんですね。ありがとうございます。」
大鳥カケルと呼ばれた青年は軽く微笑むと、ウォーリーの方へ歩み寄り、元の体勢に起こした。
「あ、すみません…僕、ポンコツなんですよ…。結構古くて…。」
ウォーリーは、申し訳無さそうにはにかんだ様な喋りをした。
「…あなたの御主人はー?」
青年は、急に真顔になった。
「…え、僕は…」
ウォーリーは、赤い目をチカタカ点滅させた。
「亡くなったとかですか…?」
「…はい。」
ウォーリーは、適度に返事をした。明らかに青年は訝しがっている様である。
「御主人は、組織の人間ですか?」
「え、ああ、そうだ、僕、これから行かなきゃいけない所があったんど…!」
ウォーリーは、そう言うとそそくさとその場を離れた。


 ウォーリーは、愛車に乗ると急いで主人の元へと急いだ。そして閑散とした市街地をひたすら走り、廃墟の裏へ向かった。
 西洋の王室をイメージする古びた根城の洋間の台座に、カマキリ型のVXが腰掛けていた。
「…遅いぞ。ウォーリー、貴様、何処で道草していたのだね?」
「…い、いえ、道草なんて…」
ウォーリーは、しどろもどろになっている。
「貴様…言ったものは取り揃えてきたんだろうな…?」
「は、はい…。勿論ですとも…。」
ウォーリーは首から巻いてある紙袋を外すと、そこから一般的な掛け時計位のサイズの羅針盤のようなものを取り出した。VXのいる台座の所まで羅針盤を持っていった。そして、VXの右側にいた自動人形《オートマドール》が台座から下りてそれを受け取り、VXの所まで持っていった。
「ご苦労。よし、下がってよい。」
ⅤXは満足げに羅針盤を眺めると、上機嫌になった。
「よし、これより計画を実行するー。」

 帰り際ウォーリーは背中の螺子を落とした事に気がついた。さっきの青年とぶつかった拍子に、螺子が何箇所か外れてしまっていたのだ。ここ、数十年でガタが出てきているらしい。背中の螺子は自動人形にとって、個体の識別に必要なナンバーが刻まれてるとともに自身の動作を制御するブレーキ的な役割を担うのだ。螺子がないと、整備不良でブラックチェイサーに捕まってしまう。
「ククク…ウォーリーの奴、また螺子を落としましたよ…。」
VXの取り巻きののマシン等がはやし立てた。
「し、しまった・・・。まただ・・・。」
ウォーリーは頭を抱えて急いで愛車に乗りと、元来た道へと急いで車を走らせた。




 カケルは市街地を走り、大至急、博士がいる研究所へと向かった。
「博士ー、居るかー?」
「おお、カケル君ー。今日は、どうした?」
中から青木博士が姿を表した。彼はフードの男に動きを止められたのだが、その時の記憶が殆どなかった。幸い、無事で済んだが何故あの男が自分を殺さなかったのか、未だに理解不能であるのだ。
「悪い、ちょっと見て欲しい物があるんだ。」
カケルはそう言うと、ポケットから螺子を取り出し博士に見せた。
「…ふむ…コレ等は結構古いタイプの螺子だぞ…」
博士は丸眼鏡を掛けると、螺子を覗き込んだ。
「1番気になるのが、シリアルナンバーなんだ。番号がついてないんだよ。」
カケルはそう言うと、1番サイズの大きい方の螺子をひっくり返した。
「…番号がかー?アルファベットも付いとらんのか?」
通常ー、自動人形《オートマドール》の背中の螺子には、個体を識別する為にアルファベットとシリアルナンバーがつけられている。
「ああ。不思議だとは思わないか?それに何か擦れた跡があるんだ。」
カケルは跡を指差した。
「…ああ確かに、掻き消されたかの様な跡があるが…誰が何の目的で…しかし、何でまたこんな物が路上に…」
博士は首を傾げた。
「さっき、自動人形《オートマドール》とぶつかったんだよ。北4番地のハイウェイで…そしてぶつかった拍子に螺子が外れたんだ…しかも、アイツ《オートマドール》は主人の名前を言おうとはしなかった。おかしいとは思わないか?」
 自動人形《オートマドール》には、必ず1人持ち主《主人》が居る。その持ち主《主人》は、自分の自動人形《オートマドール》の管理責任がある。VXと言う、とりわけ戦闘能力の高いマシンも例外ではない。さっきぶつかった自動人形《オートマドール》は、明らかに何かを隠している様だった。
 しかも、いつ壊れるか分からない自動人形《オートマドール》を野放しにするのは、危険である。
 自動人形《オートマドール》は、非常に精巧な造りになっており、内部に複雑な配線が張り巡らされており、モーターや起動源もその都度メンテナンスせねばならない。放置すると最悪爆発事故になりかねない。直ちにあの自動人形《オートマドール》の、主人の元へ行かねばならない。
「…アイツの主人は、誰なんだ…?」
「カケル君、調べたのだが、これ等のタイプの螺子は、何処にも出回ってないんだよ。」
博士はパソコンのモニターをひたすら指差し、首をかしげていた。
「何だって…?」
「しかも、螺子の接続も造りが甘いー。これでは、不良品としか…。」
 自動人形《オートマドール》は、非常に頑丈な造りになっており、通常ではファルコンに乗った人間と衝突した位では壊れる事はないー。これでは、よっぽど手を抜いて造ったか、メンテナンスを怠ったとしか言いようがなかったのだ。
「カケル君ー。この螺子なんだが、どうも奇妙なんだよ…造りがズボラでしかもメーカーを調べても出てこないー。」
「…アストロンから来たのか…?」
こんなに脆《もろ》い造りになっている自動人形《オートマドール》が、異界から渡り歩くのは明らかに不可能だが、他に考えられないー。
「いいや…それは考え難い…これらの螺子は5次元の扉を開くと、高密度な粒子の束にやられて粉砕されてしまうのだよ…」
「じゃあ、昔の時代からきたと言うのか…?」
「そうとしか考えられない。若しくは試作品か失敗作だとか…いずれにせよ、このまま野放しにしたら、街に大きな損壊をもたらしかねない。」
「直ちにセキュリティ会社に連絡しないとー。」
カケルはそう言うと、通信機でセキュリティ会社に連絡した。セキュリティ会社とは、メンテナンス不良の自動人形《オートマドール》が放置されてないかを監視する専門の機関である。その会社は、全国100か所点在しており、各ハイウェイに監視カメラを配置してあるのだ。そして不良の自動人形《オートマドール》の持ち主には、罰金が課される事になる。
「もしもし…今日、北4のハイウェイの出口で…」
カケルが電話している間、博士は顕微鏡で螺子を詳しく見る事にした。

 カケルは10分ほど、管理会社に掛け合ったが、そのような自動人形《オートマドール》は画面に映ってないらしい。
「カケル君ー。極僅かだが、何か甘い薬品のような匂いがするんだ…。それに、小さく印がついてあるー。」
博士は、螺子を一つ一つ丹念に調べ上げ、そのうちの一つの螺子をピンセットで取り出し顕微鏡の微動螺子をクルクル回している。
「どんな印だー?」
カケルも螺子を覗き込む。
「それが、見たことのない印なんだよ・・・いや、どこかで見たような・・・」
博士は、眉間に皺を寄せた。

 その日の夕方、カケルと博士はセキュリティー会社の担当者と落ち合い、一緒にモニター画面を確認することにした。
「・・・本当にそこで衝突したんですか・・・?」
「ええ…、確かに僕は、そこで彼と衝突したんです。」
しかし、モニターにはカケルしか姿が映ってなかった。
「…そ、そんな…」
カケルは眼を疑った。
「…大鳥さんしか、映ってないようですね・・・」
まるで天地がひっくり返ったかのようである。しかも、あの自動人形《オートマドール》が乗っていた小型のモーターカーも、映ってないようだった。神隠しのような摩訶不思議な現象である。
「すまないが、ちょっと、コレを見てくれないかね?」
博士は、ポケットから螺子を取り出すと、担当者に見せた。担当者は、目を魚のように円くしながら螺子をマジマジと見ている。
「コレは…!?」
担当者は、動揺している様だった。明らかに様子がおかしい。 
「…どうかしましたか?」
「い…いや、そんな筈はないのですが…」
「一体、何があったのだね?」 
「い、いえ…これらの螺子は、結構、古いタイプの螺子でして……」
「いつの物ですか?」
「…お、およそ200年程前です…」
担当者のその言葉に二人は耳を疑った。
「な、何ー!?この時代は、自動人形《オートマドール》はまだ生産されてなかった筈だぞ…」
博士は、声を荒げて口をあんぐり開けている。
「…当時はアンドロイドは、自我を持たないタイプが一般的でしたし、そこまでロボット産業も発展してませんでした。もしかしたら、造り主は相当の技量の持ち主だったとしか考えられませんね…」
担当者も、明らかに動揺している様子である。

ー誰が作ったんだ…?ー

カケルは首を傾げた。しかも、この自動人形《オートマドール》は、特殊能力を発動できるらしい。しかし、何で自分は彼を見ることが出来たのだろうー?益々謎が深まるばかりであった。



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