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番外編.ハッピー・ハロウィン(1/3)
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「ふう……こんなものかな」
僕は庭園のガゼボに設置するテーブルやベンチを作り終え、汗を拭いながら一息つく。
「ねぇ、イブ。ベンチの座り心地はどうかな? 種族ごとに高さ調節できるよう、工夫してみたんだけど」
近くで花壇周りの作業をしていたイブに声をかけ、座り心地を確かめてもらう。
「ええ、丁度いい座り心地ですよ。さすが、マナトは手先が器用で面白い工夫をしますね」
「えへへ、それほどでもないよ、でも嬉しいからもっと褒めて」
感心したように褒めるイブに気を良くしてはにかんで言えば、イブはくすくすと笑う。
それから、魔族みんなが協力して建築している居城へと視線を向け、しみじみとして呟く。
「いよいよ、完成も間近ですね。これほど、素晴らしい居城を建ててもらえるなんて、思ってもいませんでした……」
元々、壮大な大聖堂が建っていた場所には、今やそれにも増して巨大な白亜の城が建ちつつある。
以前のどこか近寄りがたい雰囲気とは違い、今度はみんなが気軽に集まれるような親しみが持てる感じだ。
「完成を祝して盛大にお祝いしたいねとも言ってたけど、その準備もしないとね。どんなのがいいかな?」
「そうですね、記念に残るような特別な日にしたいですね。それこそ、毎年お祝いできるような恒例行事に……何か人間らしい、楽しい行事はありませんか?」
「人間らしい、楽しい行事か……」
僕は腕組みし、頭をひねって考えてみる。
(日本で季節的な行事と言えば、クリスマスやお正月が真っ先に思い浮かぶけど、人間の宗教感も魔族にはないし、年末年始のお祝いに合わせるのもなんか違う気がするしな……今は秋くらいの気候だから……)
人間っぽくて、魔族にも違和感のないイベントを考え、僕は思い当たった。
「そうだ、ハロウィン!」
「はろうぃん? それはどういった行事なのです?」
「それはね――」
ワクワクと期待に瞳を輝かせるイブに、僕は丁寧に説明するのだった。
◆
「――と言うわけで、居城完成を記念して、ハロウィン・パーティーを開催します!」
「「「はろうぃん?」」」
僕が宣言すれば、みんなは一様に首を傾げて復唱した。
「なんだ、そのハロウィンというのは?」
「人間が毎年やっていたお祭り行事だよ」
ノヴァが訝しげに訊いてきたので、みんなにもわかるように説明する。
「寒くなってくるこの季節、人間の暦では10月31日が、あの世とこの世の境目が曖昧になる日とされていたんだよ。先祖の魂が幽霊や妖精や悪魔の姿になって、こっちの世界にやってくるって言われていたんだ」
「幽霊でござるか……ごくり」
リュウが神妙な顔つきで聞きながら唾を飲み込む。
「悪霊から身を守るために仮装したり、家に帰ってきた先祖の霊にご馳走を振る舞ったりするのが起源なんだけど。僕の時代では、仮装した子供達が家々を回ってお菓子をねだるような、可愛いお祭りになってたんだよ」
「ほうほう、それを再現するのか。ご馳走に、菓子をたくさん食えるのは良いのう」
ブラッドは美味しい食べ物に思いを馳せ、舌なめずりして頷く。
「ようは、みんなで仮装パーティーして、パーッとお祭り騒ぎして楽しもうってことだよ! 思い出に残るような盛大なパーティーにしようね!!」
「おおー、細けぇことはわからねぇが、楽しそうじゃねぇか。賑やかな祭りは好きだぜぇ」
グレイは楽しみだと言って笑い、尻尾をパタパタと振る。
興味深そうに話を聞いていたアダムは、顎に手を当てながら問う。
「子供達だけではなく、私達も仮装するのか?」
「そうだよ。普段とは違う装いをするのも新鮮で楽しいと思うんだ」
想像を膨らませて僕がニコニコしていると、ノヴァが呟く。
「仮装といっても、俺達はすでに様々な容姿をしているからな……どんな格好をすればいいのか、いまいち想像がつかないな」
「そこは僕に任せてよ。みんなに似合いそうなの色々考えてあるんだ♪」
鼻歌混じりに答えると、アダムとノヴァが顔を見合わせ、コソコソと話している。
「……ノヴァ、これ本当に大丈夫なやつなのか?」
「マナトは器用だから、大丈夫だと信じたいところだが……」
「ワシは美味い物が食えれば、なんでも良いぞ」
「オレもパーッと騒げるなら、別に構わねぇぜ」
「幽霊……悪霊……出ないでござるよな?」
それぞれが様々な反応を見せるのであった。
◆
ハロウィン・パーティー当日、用意していた衣装を着てもらい、その出来栄えに僕は自画自賛していた。
「イイ感じ、イイ感じ。みんな、すごく似合ってるよ!」
それじゃあ、まずは僕の相棒から紹介していこう。
「ノヴァは紅い目と白い牙が映える、ドラキュラ伯爵。フォーマルな装いに赤と黒のマントを翻す姿がさまになってるね。大人の色気が溢れてるよ! キャー、セクシー!!」
「このくらいかしこまった服装でも、パーティーなら違和感はないか。着心地も悪くはないな」
褒めてはやし立てれば、ノヴァは満更でもない表情で襟を正す。
お気に召していただけたようで何より。続いて、グレイ。
「グレイは獣姿での毛並みを活かし、超リアルな狼男。トゲトゲした首輪や鎖で荒ぶる猛々しさを演出してみたよ。ワイルドな漢気が溢れてるね! イカしてるー!!」
「この鎖のアクセサリーなかなかイカしてるな、気に入ったぜ。シャレたオレ様にピッタリじゃねぇか、なぁ?」
褒め称えれば、グレイは鎖を鳴らし、キメポーズをとって見せる。
こちらも大変気に入ってくれたようで何より。続きまして、ブラッド。
「ブラッドはたくましい体系を活かして、フランケンシュタイン。つぎはぎメイクで最強の人造人間を作り上げたよ。片手でリンゴも握り潰せる力強さ! パワフルでカッコイイー!!」
「ふんぬ! ……って、リンゴ潰せるのは仮装と関係ない気もするんじゃが? 手絞りリンゴジュースになってしもうたのう。ぺろっ」
握り潰して見せたリンゴを舐めているブラッド。まったくもっておっしゃるとおり。
頭からボルトとかネジ生やしたゴツイ見た目で、リンゴ舐めてるクマさんちょっと可愛い。……気を取り直して、リュウ。
「リュウは青白い肌の色を活かして、死体妖怪のキョンシー。和装はもちろんのこと、エキゾチックな中華服もよく似合うね。ミステリアスな感じが痺れちゃう! ステキー!!」
「額に垂れるお札が若干邪魔ではござるが、中華服もまた違う趣があるでござるな。語尾とか変えた方がいいでござ――あるか?」
お札を捲りながら話すリュウも、意外にノリノリで気に入ってくれたご様子。さらに続きまして、アダム。
「アダムは印象を大きく変えて、さまよう死体のゾンビ。白い肌に色が乗りやすいから、すごくメイク映えするね。有名なゾンビのダンサーを彷彿とさせるよ! ちょっとムーンウォークして踊ってみて、足を擦って後ずさって、こう!!」
「こう……って、踊れるかバカ者。無茶ぶりにもほどがあるぞ」
アダムは勢いで押せば結構ノってくれるから、いけるかと思ったけど、ダメだったようだ。残念……あとで、モフモフ魔族達に仕込んでおこう。
パーティー会場の最終チェックを終えて戻ってきたイブへ、最後の仮装衣装を手渡して急かす。
「イブは可憐な愛らしさを活かしつつ、ちょっとダークで妖艶な魔女の衣装にしてみたよ。絶対、可愛いと思うんだよね。はい、着てみて」
イブは仮装したみんなの姿を見渡し、渡された衣装とを見比べて首を傾げる。
「まあ、着られなくはないと思いますが……何故、わたくしだけ女物なのです?」
「え? 何故? 何が……?」
何が問題なのかわからなくて、そろりとアダムに視線を向けて伺う。
「何を変な顔しているんだ? イブ様は男だぞ」
「え……えぇえっ!!?」
吃驚仰天して大声を出してしまった。慌ててイブに視線を向け、その容姿をよくよく確認するけど、どこからどう見たって美少女そのものなのだ。
これが世に言う、“男の娘”というものなのかと慄いていれば、イブが僕を見つめて納得したように言う。
「ああ、なるほど。マナトはわたくしが人間の女性名なので、女だと勘違いしていたのですね。わたくしが男だということは、皆が知っていることですよ」
微笑む姿も可憐な美少女そのものなのだけど、一人だけ女物というのも悪い気がしてくる。渡した衣装を回収しようと手を差し出す。
「そ、そうだったんだ……ごめんね。可愛い女の子だと思ってたから……他の物を探してくるよ」
「いいえ、せっかく用意してもらったのですし、これを着ます。わたくしは可愛いので、なんでも似合ってしまいますから。ああ、わたくしの可愛さは罪ですね」
ふふんと得意げな顔をし、悪戯っぽく笑ってみせるイブは、やっぱり可憐で愛らしいと思ってしまうのだ。
イブが着替えに行っている間に、僕も簡単に仮装を済ませてしまう。
「それで、マナトは何の仮装をするんだ?」
「え、もうできたよ? ほら、三角帽子とマントで魔法使いの完成。どう?」
ノヴァに訊かれたので、目の前でくるりと回って見せる。
そんな僕の格好を見ていたみんなが、なんとも言えない表情でぼやく。
「それが仮装だぁ? 普通過ぎて、仮装に見えねぇよ……やっぱ、普段とは違う格好にしねぇとなぁ?」
「もっと変化があった方がいいのう。ワシらが見繕ってやるから、違う衣装にするんじゃな」
「そうでござる、マナト殿だけそんなに簡素では味気ないでござるよ。拙者が用意していた衣装もあるゆえ、着てみるでござる」
「私も用意できそうな衣装はいくつかある。似合いそうなものを探してこよう」
「えぇ、そこまでしなくても……この格好でよくない?」
「「「ダメだ」」」
みんながズイッと顔を寄せて断言し、ノヴァがダメ押ししてくる。
「初開催のハロウィン・パーティー、思い出に残るものにするんだろう?」
「は、はい……」
そこまでダメ押しされては、僕は頷くしかない。
「まずはここにあったやつだけど、マナトにサイズ合うんじゃねぇ? 着てみろよ」
グレイが手渡してきた白黒の衣装に着替えてみる。
「これは女物のお仕着せ……メイド服じゃん」
「おおー、いいんじゃねぇか? 案外、女物も似合うなぁ。小柄なのが丁度いいぜ」
「それって、褒めてる? 貶してる?」
「褒めてる褒めてる」
僕がじとり目で窺うと、グレイはうんうんと頷いて見せる。
「黒い衣装もいいが、白い衣装も代り映えして、いいかもしれんのう」
続いて、ブラッドが差し出してきた、白い衣装に着替えてみる。
「ブラッドのことだからコックの衣装かと思いきや……これナース服じゃん」
「うむうむ、なかなか似合っておるのう。白いとなんかこう、美味そうじゃ!」
「美味そうって何が?! 食べちゃダメだよ!!」
「ぺろり」
舌なめずりするブラッドから距離を取りつつ、舐められないよう警戒しておく。
「探してきたぞ。マナトに合いそうなサイズの聖職者の服を持ってきたが、どうだろう」
続いて、アダムが持ってきた黒い衣装に着替えてみる。
「聖職者の服って……アダムまで女物持ってくるとは思わなかったよ。これシスター服じゃん」
「ふむ……背徳的な感じがするが、これはこれで悪くはないな」
「ホントー? ホントに似合ってると思ってるー? 絶対みんな面白がってるでしょー?」
「いやいや、これが予想外に似合っているぞ」
「えぇー、ホントかなー?」
疑いの眼差しを向けてみるけど、みんなはうんうんと頷いている。解せぬ。
「マナト殿、拙者の一押しの衣装も着てみてもらいたい」
リュウが満面の笑みで豪華な衣装を持って、僕に差し出してきた。
「これはマナト殿もご存じであろう日本の妖怪・雪女の着物をイメージして作った衣装でござるからして、他意はないでござるよ。さあさ、この着物に腕を通すでござる」
「なんかすごい手の込んだ衣装だね……花嫁衣裳みたい」
僕が感想を述べて受け取ろうとしたところ、ノヴァが目をギラリと光らせ、鋭い爪を出して、その衣装をバリバリに引き裂いてしまった。
「ギャアアアアッ! なんてことをするでござるかー!? マナト殿に用意していた白無垢がー!!」
「嫌な予感がすると思えば、やっぱりか! どさくさに紛れて、変な策略ばっか巡らすんじゃねぇ!!」
ノヴァは引き裂いた白い生地でリュウを締め上げて拘束し、リュウはジタバタともがいて悔しそうに喚く。
「拙者はただ、マナト殿の花嫁姿が見たかっただけでござる! ぐるぐる巻きにして精気吸うのは止めるでござるよ!!」
「変なことできねぇように、干からびさせてやるわ! そのままミイラ男になりやがれ!!」
「ウギャアァァァァ!!」
断末魔がこだまし、キョンシー――改め、半殺し状態のミイラ男が出来上がってしまった。
一丁上がりとパンパンと手を叩くノヴァは、僕の方に振り返って言う。
「ったく……そんなに凝った衣装じゃなくても、無いものを生やしてるだけでも、それっぽくなるだろう。ほらこれ」
ノヴァが差し出してきた衣装を受け取り、広げて見てみる。
「ん? 最初の三角帽子とマントに何か付けたの? ……これはフワフワの三角耳に長い尻尾。なるほど!」
猫姿のノヴァとお揃いだとホッコリしつつ、再度、身に着けてみる。
そうこうしているうちに、着替え終えたイブが戻ってきて、僕は目を見開いた。
「わぁ、イブすごく似合ってるよ! お人形さんみたいで、めちゃくちゃ可愛い!!」
「「「おおー」」」
黒を基調としたドレスに紫のレースやリボンをふんだんにあしらった、ゴスロリ・ファッション。
イブの白金の髪や紫紺の瞳、透き通る真っ白い肌が黒紫のドレスによく映えて、可憐なだけじゃない妖艶な色香を漂わせていた。
僕に視線を向けたイブがやんわりと微笑み、レースの裾から白い指先を伸ばしてくる。
「あらあら、マナトは半獣の黒猫ちゃんですね。わたくしと張り合えるくらい、可愛いですよ。ふふふ」
そう言いながら、戯れに僕の頭をナデナデする。
僕は魔女の召使の黒猫にでもなった気分で撫でられ、えへへとはにかむ。
魔女に撫でられる黒猫の絵面が出来上がり、みんなが腕組みして満足気に頷いている。
「まあ、こんなものでいいか」
ようやく、みんなも納得してくれたようで、ホッと胸を撫でおろした。
「ええと、みんな準備はできた?」
「ああ、パーティーの準備は万端だぜ」
「ご馳走や菓子の用意もばっちりじゃ」
「メイン会場の飾り付けも完了でござる」
「わたくしも、最後の確認を済ませてきましたよ」
居城が解放され、煌めくランタンの灯りに導かれるように、仮装した魔族達が続々と集まってくる。
漂う甘い香りや、仮装した魔族達の驚きの声が辺りを包み込む。
みんなの目がキラキラと輝き、ワクワクした気配が広がっていく。
僕達が心を込めて準備した、魔族達初めてのハロウィン・パーティーの幕開けだ。
「さあ、楽しい夜の始まりだよ! みんな、最高のハロウィンを楽しもうね!!」
◆
僕は庭園のガゼボに設置するテーブルやベンチを作り終え、汗を拭いながら一息つく。
「ねぇ、イブ。ベンチの座り心地はどうかな? 種族ごとに高さ調節できるよう、工夫してみたんだけど」
近くで花壇周りの作業をしていたイブに声をかけ、座り心地を確かめてもらう。
「ええ、丁度いい座り心地ですよ。さすが、マナトは手先が器用で面白い工夫をしますね」
「えへへ、それほどでもないよ、でも嬉しいからもっと褒めて」
感心したように褒めるイブに気を良くしてはにかんで言えば、イブはくすくすと笑う。
それから、魔族みんなが協力して建築している居城へと視線を向け、しみじみとして呟く。
「いよいよ、完成も間近ですね。これほど、素晴らしい居城を建ててもらえるなんて、思ってもいませんでした……」
元々、壮大な大聖堂が建っていた場所には、今やそれにも増して巨大な白亜の城が建ちつつある。
以前のどこか近寄りがたい雰囲気とは違い、今度はみんなが気軽に集まれるような親しみが持てる感じだ。
「完成を祝して盛大にお祝いしたいねとも言ってたけど、その準備もしないとね。どんなのがいいかな?」
「そうですね、記念に残るような特別な日にしたいですね。それこそ、毎年お祝いできるような恒例行事に……何か人間らしい、楽しい行事はありませんか?」
「人間らしい、楽しい行事か……」
僕は腕組みし、頭をひねって考えてみる。
(日本で季節的な行事と言えば、クリスマスやお正月が真っ先に思い浮かぶけど、人間の宗教感も魔族にはないし、年末年始のお祝いに合わせるのもなんか違う気がするしな……今は秋くらいの気候だから……)
人間っぽくて、魔族にも違和感のないイベントを考え、僕は思い当たった。
「そうだ、ハロウィン!」
「はろうぃん? それはどういった行事なのです?」
「それはね――」
ワクワクと期待に瞳を輝かせるイブに、僕は丁寧に説明するのだった。
◆
「――と言うわけで、居城完成を記念して、ハロウィン・パーティーを開催します!」
「「「はろうぃん?」」」
僕が宣言すれば、みんなは一様に首を傾げて復唱した。
「なんだ、そのハロウィンというのは?」
「人間が毎年やっていたお祭り行事だよ」
ノヴァが訝しげに訊いてきたので、みんなにもわかるように説明する。
「寒くなってくるこの季節、人間の暦では10月31日が、あの世とこの世の境目が曖昧になる日とされていたんだよ。先祖の魂が幽霊や妖精や悪魔の姿になって、こっちの世界にやってくるって言われていたんだ」
「幽霊でござるか……ごくり」
リュウが神妙な顔つきで聞きながら唾を飲み込む。
「悪霊から身を守るために仮装したり、家に帰ってきた先祖の霊にご馳走を振る舞ったりするのが起源なんだけど。僕の時代では、仮装した子供達が家々を回ってお菓子をねだるような、可愛いお祭りになってたんだよ」
「ほうほう、それを再現するのか。ご馳走に、菓子をたくさん食えるのは良いのう」
ブラッドは美味しい食べ物に思いを馳せ、舌なめずりして頷く。
「ようは、みんなで仮装パーティーして、パーッとお祭り騒ぎして楽しもうってことだよ! 思い出に残るような盛大なパーティーにしようね!!」
「おおー、細けぇことはわからねぇが、楽しそうじゃねぇか。賑やかな祭りは好きだぜぇ」
グレイは楽しみだと言って笑い、尻尾をパタパタと振る。
興味深そうに話を聞いていたアダムは、顎に手を当てながら問う。
「子供達だけではなく、私達も仮装するのか?」
「そうだよ。普段とは違う装いをするのも新鮮で楽しいと思うんだ」
想像を膨らませて僕がニコニコしていると、ノヴァが呟く。
「仮装といっても、俺達はすでに様々な容姿をしているからな……どんな格好をすればいいのか、いまいち想像がつかないな」
「そこは僕に任せてよ。みんなに似合いそうなの色々考えてあるんだ♪」
鼻歌混じりに答えると、アダムとノヴァが顔を見合わせ、コソコソと話している。
「……ノヴァ、これ本当に大丈夫なやつなのか?」
「マナトは器用だから、大丈夫だと信じたいところだが……」
「ワシは美味い物が食えれば、なんでも良いぞ」
「オレもパーッと騒げるなら、別に構わねぇぜ」
「幽霊……悪霊……出ないでござるよな?」
それぞれが様々な反応を見せるのであった。
◆
ハロウィン・パーティー当日、用意していた衣装を着てもらい、その出来栄えに僕は自画自賛していた。
「イイ感じ、イイ感じ。みんな、すごく似合ってるよ!」
それじゃあ、まずは僕の相棒から紹介していこう。
「ノヴァは紅い目と白い牙が映える、ドラキュラ伯爵。フォーマルな装いに赤と黒のマントを翻す姿がさまになってるね。大人の色気が溢れてるよ! キャー、セクシー!!」
「このくらいかしこまった服装でも、パーティーなら違和感はないか。着心地も悪くはないな」
褒めてはやし立てれば、ノヴァは満更でもない表情で襟を正す。
お気に召していただけたようで何より。続いて、グレイ。
「グレイは獣姿での毛並みを活かし、超リアルな狼男。トゲトゲした首輪や鎖で荒ぶる猛々しさを演出してみたよ。ワイルドな漢気が溢れてるね! イカしてるー!!」
「この鎖のアクセサリーなかなかイカしてるな、気に入ったぜ。シャレたオレ様にピッタリじゃねぇか、なぁ?」
褒め称えれば、グレイは鎖を鳴らし、キメポーズをとって見せる。
こちらも大変気に入ってくれたようで何より。続きまして、ブラッド。
「ブラッドはたくましい体系を活かして、フランケンシュタイン。つぎはぎメイクで最強の人造人間を作り上げたよ。片手でリンゴも握り潰せる力強さ! パワフルでカッコイイー!!」
「ふんぬ! ……って、リンゴ潰せるのは仮装と関係ない気もするんじゃが? 手絞りリンゴジュースになってしもうたのう。ぺろっ」
握り潰して見せたリンゴを舐めているブラッド。まったくもっておっしゃるとおり。
頭からボルトとかネジ生やしたゴツイ見た目で、リンゴ舐めてるクマさんちょっと可愛い。……気を取り直して、リュウ。
「リュウは青白い肌の色を活かして、死体妖怪のキョンシー。和装はもちろんのこと、エキゾチックな中華服もよく似合うね。ミステリアスな感じが痺れちゃう! ステキー!!」
「額に垂れるお札が若干邪魔ではござるが、中華服もまた違う趣があるでござるな。語尾とか変えた方がいいでござ――あるか?」
お札を捲りながら話すリュウも、意外にノリノリで気に入ってくれたご様子。さらに続きまして、アダム。
「アダムは印象を大きく変えて、さまよう死体のゾンビ。白い肌に色が乗りやすいから、すごくメイク映えするね。有名なゾンビのダンサーを彷彿とさせるよ! ちょっとムーンウォークして踊ってみて、足を擦って後ずさって、こう!!」
「こう……って、踊れるかバカ者。無茶ぶりにもほどがあるぞ」
アダムは勢いで押せば結構ノってくれるから、いけるかと思ったけど、ダメだったようだ。残念……あとで、モフモフ魔族達に仕込んでおこう。
パーティー会場の最終チェックを終えて戻ってきたイブへ、最後の仮装衣装を手渡して急かす。
「イブは可憐な愛らしさを活かしつつ、ちょっとダークで妖艶な魔女の衣装にしてみたよ。絶対、可愛いと思うんだよね。はい、着てみて」
イブは仮装したみんなの姿を見渡し、渡された衣装とを見比べて首を傾げる。
「まあ、着られなくはないと思いますが……何故、わたくしだけ女物なのです?」
「え? 何故? 何が……?」
何が問題なのかわからなくて、そろりとアダムに視線を向けて伺う。
「何を変な顔しているんだ? イブ様は男だぞ」
「え……えぇえっ!!?」
吃驚仰天して大声を出してしまった。慌ててイブに視線を向け、その容姿をよくよく確認するけど、どこからどう見たって美少女そのものなのだ。
これが世に言う、“男の娘”というものなのかと慄いていれば、イブが僕を見つめて納得したように言う。
「ああ、なるほど。マナトはわたくしが人間の女性名なので、女だと勘違いしていたのですね。わたくしが男だということは、皆が知っていることですよ」
微笑む姿も可憐な美少女そのものなのだけど、一人だけ女物というのも悪い気がしてくる。渡した衣装を回収しようと手を差し出す。
「そ、そうだったんだ……ごめんね。可愛い女の子だと思ってたから……他の物を探してくるよ」
「いいえ、せっかく用意してもらったのですし、これを着ます。わたくしは可愛いので、なんでも似合ってしまいますから。ああ、わたくしの可愛さは罪ですね」
ふふんと得意げな顔をし、悪戯っぽく笑ってみせるイブは、やっぱり可憐で愛らしいと思ってしまうのだ。
イブが着替えに行っている間に、僕も簡単に仮装を済ませてしまう。
「それで、マナトは何の仮装をするんだ?」
「え、もうできたよ? ほら、三角帽子とマントで魔法使いの完成。どう?」
ノヴァに訊かれたので、目の前でくるりと回って見せる。
そんな僕の格好を見ていたみんなが、なんとも言えない表情でぼやく。
「それが仮装だぁ? 普通過ぎて、仮装に見えねぇよ……やっぱ、普段とは違う格好にしねぇとなぁ?」
「もっと変化があった方がいいのう。ワシらが見繕ってやるから、違う衣装にするんじゃな」
「そうでござる、マナト殿だけそんなに簡素では味気ないでござるよ。拙者が用意していた衣装もあるゆえ、着てみるでござる」
「私も用意できそうな衣装はいくつかある。似合いそうなものを探してこよう」
「えぇ、そこまでしなくても……この格好でよくない?」
「「「ダメだ」」」
みんながズイッと顔を寄せて断言し、ノヴァがダメ押ししてくる。
「初開催のハロウィン・パーティー、思い出に残るものにするんだろう?」
「は、はい……」
そこまでダメ押しされては、僕は頷くしかない。
「まずはここにあったやつだけど、マナトにサイズ合うんじゃねぇ? 着てみろよ」
グレイが手渡してきた白黒の衣装に着替えてみる。
「これは女物のお仕着せ……メイド服じゃん」
「おおー、いいんじゃねぇか? 案外、女物も似合うなぁ。小柄なのが丁度いいぜ」
「それって、褒めてる? 貶してる?」
「褒めてる褒めてる」
僕がじとり目で窺うと、グレイはうんうんと頷いて見せる。
「黒い衣装もいいが、白い衣装も代り映えして、いいかもしれんのう」
続いて、ブラッドが差し出してきた、白い衣装に着替えてみる。
「ブラッドのことだからコックの衣装かと思いきや……これナース服じゃん」
「うむうむ、なかなか似合っておるのう。白いとなんかこう、美味そうじゃ!」
「美味そうって何が?! 食べちゃダメだよ!!」
「ぺろり」
舌なめずりするブラッドから距離を取りつつ、舐められないよう警戒しておく。
「探してきたぞ。マナトに合いそうなサイズの聖職者の服を持ってきたが、どうだろう」
続いて、アダムが持ってきた黒い衣装に着替えてみる。
「聖職者の服って……アダムまで女物持ってくるとは思わなかったよ。これシスター服じゃん」
「ふむ……背徳的な感じがするが、これはこれで悪くはないな」
「ホントー? ホントに似合ってると思ってるー? 絶対みんな面白がってるでしょー?」
「いやいや、これが予想外に似合っているぞ」
「えぇー、ホントかなー?」
疑いの眼差しを向けてみるけど、みんなはうんうんと頷いている。解せぬ。
「マナト殿、拙者の一押しの衣装も着てみてもらいたい」
リュウが満面の笑みで豪華な衣装を持って、僕に差し出してきた。
「これはマナト殿もご存じであろう日本の妖怪・雪女の着物をイメージして作った衣装でござるからして、他意はないでござるよ。さあさ、この着物に腕を通すでござる」
「なんかすごい手の込んだ衣装だね……花嫁衣裳みたい」
僕が感想を述べて受け取ろうとしたところ、ノヴァが目をギラリと光らせ、鋭い爪を出して、その衣装をバリバリに引き裂いてしまった。
「ギャアアアアッ! なんてことをするでござるかー!? マナト殿に用意していた白無垢がー!!」
「嫌な予感がすると思えば、やっぱりか! どさくさに紛れて、変な策略ばっか巡らすんじゃねぇ!!」
ノヴァは引き裂いた白い生地でリュウを締め上げて拘束し、リュウはジタバタともがいて悔しそうに喚く。
「拙者はただ、マナト殿の花嫁姿が見たかっただけでござる! ぐるぐる巻きにして精気吸うのは止めるでござるよ!!」
「変なことできねぇように、干からびさせてやるわ! そのままミイラ男になりやがれ!!」
「ウギャアァァァァ!!」
断末魔がこだまし、キョンシー――改め、半殺し状態のミイラ男が出来上がってしまった。
一丁上がりとパンパンと手を叩くノヴァは、僕の方に振り返って言う。
「ったく……そんなに凝った衣装じゃなくても、無いものを生やしてるだけでも、それっぽくなるだろう。ほらこれ」
ノヴァが差し出してきた衣装を受け取り、広げて見てみる。
「ん? 最初の三角帽子とマントに何か付けたの? ……これはフワフワの三角耳に長い尻尾。なるほど!」
猫姿のノヴァとお揃いだとホッコリしつつ、再度、身に着けてみる。
そうこうしているうちに、着替え終えたイブが戻ってきて、僕は目を見開いた。
「わぁ、イブすごく似合ってるよ! お人形さんみたいで、めちゃくちゃ可愛い!!」
「「「おおー」」」
黒を基調としたドレスに紫のレースやリボンをふんだんにあしらった、ゴスロリ・ファッション。
イブの白金の髪や紫紺の瞳、透き通る真っ白い肌が黒紫のドレスによく映えて、可憐なだけじゃない妖艶な色香を漂わせていた。
僕に視線を向けたイブがやんわりと微笑み、レースの裾から白い指先を伸ばしてくる。
「あらあら、マナトは半獣の黒猫ちゃんですね。わたくしと張り合えるくらい、可愛いですよ。ふふふ」
そう言いながら、戯れに僕の頭をナデナデする。
僕は魔女の召使の黒猫にでもなった気分で撫でられ、えへへとはにかむ。
魔女に撫でられる黒猫の絵面が出来上がり、みんなが腕組みして満足気に頷いている。
「まあ、こんなものでいいか」
ようやく、みんなも納得してくれたようで、ホッと胸を撫でおろした。
「ええと、みんな準備はできた?」
「ああ、パーティーの準備は万端だぜ」
「ご馳走や菓子の用意もばっちりじゃ」
「メイン会場の飾り付けも完了でござる」
「わたくしも、最後の確認を済ませてきましたよ」
居城が解放され、煌めくランタンの灯りに導かれるように、仮装した魔族達が続々と集まってくる。
漂う甘い香りや、仮装した魔族達の驚きの声が辺りを包み込む。
みんなの目がキラキラと輝き、ワクワクした気配が広がっていく。
僕達が心を込めて準備した、魔族達初めてのハロウィン・パーティーの幕開けだ。
「さあ、楽しい夜の始まりだよ! みんな、最高のハロウィンを楽しもうね!!」
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「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
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