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34.新たな未来・モフモフの楽園

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 ――ゴロゴロゴロゴロゴロ

 愛らしい喉鳴らしの音が聞こえて、懐かしい記憶のような夢から、僕はふわりと目覚めた。

「ノヴァ……?」

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 心地よい温もりを感じて視線を向ければ、いつの間にか猫化していたノヴァが、僕の胸元で丸くなって眠っている。
 カーテンの隙間から差し込む朝日を浴び、黒い毛並みが呼吸と共にフワフワと上下しているのが愛おしい。
 そっと手を伸ばして撫でていると、耳がピクピクと動いて、ノヴァがゆっくりと目を開く。

「おはよう、ノヴァ」
「んん…………ふあぁ~。ああ、おはよ」

 僕が挨拶すると、ノヴァは伸びたり縮んだりのストレッチをして、あくびをしながら返事した。

「ふわぁ~ん♡ 猫姿のノヴァ、可愛いすぎ~~~~♡♡」

 顔を洗う猫特有の仕草があまりにも可愛くて、思わず抱きしめようとした――

 ボンッ!

 ――ところで、人化したノヴァから逆に抱きすくめられてしまった。

「ありゃ」
「は? 猫姿じゃない俺は可愛げがないとでも言いたいのか、こいつめ」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、鼻先を擦りつけられて、ノヴァにじゃれられる。
 僕にだけこうやって甘えてくれるのが嬉しくて、胸がキュンキュンしてはにかんでしまう。

「えぇー、そんなことないよー。人姿のノヴァはカッコイイけど、僕にとってはどんなノヴァも最高に可愛いよー。もう知ってるくせにー」
「ふふ……ああ、知ってる。俺はマナトの特別だからな」

 勝ち誇ったようにドヤ顔するノヴァがまた可愛くて、愛しくてたまらない。
 首に腕を回してノヴァを捕まえ、おでこをつっつけて見つめ合う。

「大好きだよ、ノヴァ」
「ああ、俺も好きだ」

 僕の方が好きだよと主張するように、ノヴァの顔中にキスの雨を降らせてやる。
 くすぐったそうに笑い、ノヴァはふと小さく呟く。

「……不思議な夢を見たんだ」
「不思議な夢?」

 ノヴァは物思いにふける表情で静かに話す。

「お前が前に話していた、愛猫のノヴァになった夢だ」
「え、本当?! 僕も愛猫のノヴァの夢を見ていたんだよ!」
「……どんな夢だった?」

 僕はさっき夢で見た、懐かしい思い出を振り返り、自然と笑顔がこぼれる。

「愛猫のノヴァはマグロよりもササミが好きでね、手作りご飯とか夢中になって食べてくれて、その姿がすごく可愛いんだ。ネズミのオモチャを作ったり、段ボールで遊び場を作ってあげた時も、お目々真ん丸にして興奮して、めちゃくちゃ可愛かったんだよ。……僕が泣いてたり悲しんでると、寄り添って慰めてくれる、とても優しい子だったんだ」

 ノヴァは何か言いかけて、でも言葉を飲み込むように黙り込む。
 ついつい思い出すままに語ってしまい、僕はハッとしてノヴァを窺う。

「あ……でも、愛猫のノヴァにまで焼き餅妬いちゃダメだよ?」

 ちょっとばかりノヴァは焼き餅妬きなところがあるので、心配になってしまった。

「僕の大切な思い出だし、思い出は不滅だからね」

 戸惑うような素振りを見せていたノヴァが、少し考え込んで呟く。

「……たしかに、思い出には勝てないな……」

 ノヴァはそう言って、どこか寂しげに視線を落とした。
 僕は手を伸ばしてその顔を上向かせ、真っ直ぐに見つめて笑いかける。

「もちろん、ノヴァとの思い出も大切な宝物だよ。これからも、いっぱい思い出作っていこう……ね?」

 ベッドの側に置いていた手帳を手に取り、日々の思い出を綴った日記を指し示す。
 日記に描かれた猫姿のノヴァの絵を見て、ノヴァは柔らかく微笑んだ。

「……ああ、そうだな。これからは――これからも、ずっと共に生きていくんだからな」
「うん」

 幸せな思い出をたくさん作っていこうと誓い合い、僕達は微笑み合ったのだった。


 ◆


 新居を出て街道へと出ると、賑やかな声や音が聞こえてくる。

 街中では、獣に近い姿の者から人に近い姿の者まで、様々な姿の者達が行き交い、交流しているのが見て取れる。
 これまで隠していた獣姿も、今では恥じずに晒すようになり、僕はその様子を眺めているだけでも、ホクホクして顔が緩んできてしまう。

「あ、マナトだー! おはよーおはよー!」
「ノヴァも、おはようございまーす!」

 動物のような耳や尻尾を持つ子供達が、満面の笑顔で手を振ってくれる。

「おはよ~♡ みんな、今日も可愛いね~♡」

 可愛い挨拶に感激して、僕がハートを飛ばしながら、オーバーリアクションで手を振り返すのは、いつもの日課。
 子供達の後ろでは、色々な種族の大人達が、温かな眼差しで見守っている。

「ふわぁ~ん♡ ちっちゃい子達も、めちゃくちゃ可愛いね~♡♡♡」

 僕の表情筋は案の定、崩壊してヨダレが垂れそうな勢いだ。

「……相変わらず、締まりのない顔だな」
「おっと、いけない……じゅるっ」

 呆れたように言いながらも、ノヴァの顔は優しく笑っている。

 種族間の垣根を取り払い、みんなが各々に好きな仕事をしたり、恋愛をして暮らしていた。
 急激な変化に最初は戸惑い、問題も多かったけれど、よりよい方向に変化していると僕は信じている。
 一緒に頑張れる仲間や、支え合える相棒がいれば、どんなことでも乗り越えていけるはずだから。

「今日は大聖堂改め居城新築の打ち合わせだったか――」

 ノヴァが言いかけると、慌ただしい足音が聞こえてくる。

「今日は大事な打ち合わせじゃからな! 厨房はもちろん最新型で、超特大の食堂を設けるべきだと思うんじゃ!!」
「ドデカい居城建てるなんて楽しみだよなぁ! やっぱ、全魔族で宴できるくらいドデカい規模じゃねぇとなぁ!!」
「まったく、せっかちな者達でござるな。マナト殿が手掛けるなら、何も心配する必要はないでござろうに……」
「王の功績を称える記念碑も建てると言っていただろう? きっと、イブ様が首を長くして待っているぞ」

 駆けてきたグレイとブラッドをリュウが呆れた様子で追いかけてきた。
 その後ろからは、アダムとモフモフ魔族達も続いて現れる。

「おはよう。みんな、今日も元気だね」

 僕を迎えに来てくれたみんなにも挨拶すれば、それぞれがいつも通り賑やかに応える。

「皆が集まれる場所ができるなんて、今から完成が楽しみだぜ!」
「完成したら盛大に宴を開きたいのう。あっ、酒蔵や食料貯蔵庫も必須じゃな!」
「いやいや、急いては事を仕損じるでござるよ。ここは慎重かつ大胆に……酔い覚ましに涼める庭園も欲しいでござる」
「お前ら、居城を宴会場か何かと勘違いしていないか? イブ様、泣くぞ」

 穏やかな日差しが降り注ぐ中、みんなが楽しそうに笑い合っている。
 そんな光景を見ていると、心がぽかぽかと温かくなって、幸せを実感するのだ。

 僕はそっとノヴァの手を握って言う。

「ノヴァ、召喚して呼んでくれてありがとう。僕はみんなに出会えてすごく幸せだよ」

 唐突な言葉に、ノヴァは少し驚いたように僕を見つめる。

「だから、みんなのことも精いっぱい幸せにするね」

 満面の笑みで宣言する僕に、ノヴァはふわりと柔らかく微笑み、優しく手を握り返してくれた。

「ああ、一緒にな」
「うん」

 共に歩んでくれる、頼もしい僕の半身――

「マナト、いつまで待たせるのです! 早く打ち合わせしますよ!!」

 待ちきれずにやってきたイブの呼びかけが聞こえ、僕達は前を向く。

「はーい、今行くよー!」

 こうしてまた、今日も賑やかな一日がはじまる。
 モフモフ魔族達に囲まれた毎日は、やっぱりこの上なく幸せで、楽しくてしかたがないのだ。



 ◆◆◆

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
 本編はこれにて完結になりますが、甘々な番外編も予定しておりますので、作品&作者フォローしていただけると嬉しいです。
 また、第12回BL大賞に参加していますので、投票いただけましたら大変嬉しいです。
 これからも、モフモフ魔族達の物語を、どうぞよろしくお願いいたします。
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