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番外編.ハッピー・ハロウィン(2/3)
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カボチャのランタンやオバケを模したガーランドが飾りつけされた大広間には、思い思いの仮装を楽しむ魔族達が集まっている。
種族の印象をがらりと変えた仮装では、翼を生やして天使や悪魔になったり、鱗を付けて人魚や魚人になったり、草花を巻いて植物人になったりと、見ていて楽しい。
また、ブレーメンの音楽隊みたいに重なり合って一体の巨大なモンスターになりきっていたり、電車ごっこみたいに連なって長い龍を表現していたりと、時々バラけたりくっついたりしている様子も面白かった。
中でも僕のお気に入りは、シンプルな白いシーツに穴を開けてかぶり、目鼻や耳や尻尾を出しているモフモフ魔族達だ。
耳や尻尾をせわしなく動かし、楽しげにあっちこっちふよふよしている姿が本当に愛くるしい。
「ふわぁ~ん♡ モフモフおばけ、可愛すぎる~~♡♡」
ホクホクで眺めていれば、小さな子供達が嬉々として駆けてくる。
僕のところまで来ると、教えておいた“お約束の台詞を”叫ぶ。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「んん~っ♡♡♡」
オバケの仮装をした子供達がお菓子をねだる姿が、もう可愛いくてたまらない。
デレデレになって思わずヨダレが垂れないように耐えつつ、子供達用に作っていた持ち帰り用のお菓子を手渡す。
「はい、どうぞー。ハッピー・ハロウィン♪」
「「「ありがとー」」」
子供達は満面の笑みで受け取り、仲間達のところにも駆け寄って、お菓子をねだる。
「悪戯されたくなければ、お菓子をよこせー、ガオー!」
狼男に仮装した子供が、グレイの前で可愛く吠えて見せた。
「おうおう、そう簡単に菓子が貰えると思うなよぉ? この菓子が欲しければ、オレ様に勝ってからだ! アオォォォォン!!」
狼男が本気の遠吠えを披露すれば、動物系の子供達がいっせいに耳をそばだて、グレイに飛びつく。
グレイは飛びついてきた子供達を丸ごと抱え、その場でぐるぐると回転してみせ、後方にパタリと倒れる。
「うおー、このオレ様がこんな簡単にやられるなんてぇー! お前達の勝ちだ、この菓子は持っていけぇー!!」
あっけなく負けを認めたグレイに、子供達ははしゃいで言う。
「キャハハ、ぐるぐる楽しいー」
「お菓子いらないから、もっとやってー。じゃないと、悪戯するぞー」
「ちょ、やめっ、降参降参! くすぐってぇーって!! ッギャハハハハ」
モフモフとした見た目の子達がじゃれあい、明るい笑い声が響く。
「さあ、満を持してスイーツの食べ放題じゃな!」
そう言ったブラッドの視線の先、大広間の中央には僕特製の巨大スイーツ・タワーが鎮座していた。
毒々しい色のプチケーキや、目玉のキャンディー、骨やオバケのクッキー、クモやコウモリのチョコレートなど、美味しそうな甘い香りが鼻をくすぐる。
タワーの頂上には、ジャック・オ・ランタンを模したカボチャのケーキがあり、その上に飴細工の王冠がキラキラと輝いていた。
「誰かワシに挑んでくる強者はおらんか? あのスイーツ・タワーのてっぺんにある王冠まで、先に食べたどりついた者がスイーツ・キングじゃ!」
スイーツ・タワーを見て目を輝かせていた子達がいっせいに手を上げる。
「はいはい! ボク、早食いには自信あるよ!!」
「アタシもスイーツいっぱい食べたい! やるやる!!」
「ほう、挑戦者なかなか多いのう。では、おのおの位置について、スイーツの早食い競争――開始じゃ! もぐっ……これまた美味いのう。早食いしてしまうのがもったいない美味さじゃ……これも、これも美味い。もぐもぐ……」
早食いのはずが、ブラッドと同様にスイーツに舌鼓を打ってなかなか食べ進められない子もたくさんいて、なんとも微笑ましい。
喜んでもらえて、僕も精魂込めて作った甲斐があるというものだ。
先ほどまで精気を吸われてへばっていたリュウが、ピョンピョンと飛び跳ねながら僕のところにやってくる。
「あいや、酷い目にあったでござる……マナト殿、これ解いてくださらんか? 拙者、一人では解けそうにないでござる」
ミイラ男姿のリュウは手や腕までぐるぐる巻きにされていて、文字通り手も足も出ない状態だ。
僕が解こうと布地を引っ張っているところで、リュウの周りに子供達が集まってくる。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「おっと……すまぬが、今は手持ちがないでござるよ。これが解けたら用意するゆえ、少々待たれよ」
先ほどまでエナジー・ドレインのダメージで床に転がっていたので無理もない。
だけど、そんな都合を知らない子供達は目をランランとさせる。
リュウから飛び出している包帯みたいな布地を掴んで、子供達が言う。
「じゃあ、手伝ってあげるよ。みんなで引っ張るよー!」
「あ、いやいや、マナト殿に解いてもらうから、大丈夫でござ――や、やめるでござるよっ?!」
リュウは慌てて止めようとするが、時すでに遅しでいっせいに一方向に引っ張られる。
「ソーレー!!」
「アーーーーレーーーー!!?」
悪代官に着物の帯を解かれる生娘みたいな悲鳴を上げ、リュウは高速回転しながら、包帯を引っ張る子供達とどこかに行ってしまう。
「ありゃ、行っちゃった……楽しそうだし、大丈夫だよね」
僕は僕で、モフモフ魔族達にムーンウォークやちょっとしたダンステクニックをレクチャーして楽しんでいる。
興味津々で僕のダンスを見て感激し、一生懸命に真似してふよふよ動いてるモフモフおばけが可愛い。
「こうして、こうして、こう……さあ、アダムも一緒に!」
「そんなに私に躍らせたいのか?」
モフモフおばけのダンスを微笑ましげに見守っていたアダムに振ってみたら、じとりとした眼差しで目をすがめられる。
だけど、すべては計算づく。
「アダムも一緒に踊ろうよー、楽しいよー」
「アダムのダンスも見てみたいな、きっとカッコイイよね」
「……仕方ないな。少しだけだぞ」
モフモフ大好き同盟のアダムは、モフモフ魔族達からキュルルンとした瞳でお願いされると断れなくなるのだ。
少し教えれば、すぐに覚えてやりこなし、アレンジまで加えて見せるセンスの良さ。
学園一位だった完璧な成績は伊達ではない。キレッキレのダンスを披露する。
「「「オオー!」」」
僕達がアダムのダンスにパチパチと拍手していると、リュウの声がこだまして近付いてくる。
「――だーれーかー! とーめーてーくーれーっ!!?」
高速回転で乱入するリュウの動きすら利用して、アダムは華麗に舞って見せ、リュウの腰を抱いてピタリと止まる。
「「「オオオオー!!」」」
神がかったダンスを絶賛して溢れんばかりの拍手を送ってると、アダムとリュウは止まったままだった。
「……リュウ」
「アダム……助かったでござる」
長い紺色の髪が乱れて息を切らせるリュウは、ゆっくりと視線を上げる。
見つめ合う美形の顔が少し近づいて、薔薇が咲きそうな二人の雰囲気に見ていた僕達はドキドキしてしまう。
キャーと小声で叫ぶ子達が見守る中で、リュウが小さく呟く。
「トゥンク……とは、さすがにならないでござる。期待されているところ悪いでござるが」
「同感だ」
アダムはそう言うなり、抱えていたリュウから手を離し、ボトリと落とす。
「痛っ! 急に手を離すのはいかがかと思うでござるよ!」
「お前がいつまでも抱えられてるのが悪いんだろう」
「酷いでござる。今日の拙者、踏んだり蹴ったりでござらんか? マナト殿、慰めて欲しいでござる……ぐすん」
打ちつけた腰をさすりながら、リュウが涙目で僕に泣きついてきた。
確かにちょっと可哀想かなと苦笑いし、頭を撫でながら慰める。
「あはは、大変だったね。よしよし……気を取り直して、パーティー楽しもう。ご馳走もスイーツもまだあるし、ミス&ミスター・ハロウィンのコンテスト発表もこれからだよ」
このハロウィンで誰の仮装が一番良かったかを投票して、コンテスト発表する催しにしたのだ。
みんなでそれぞれ投票してしばらくすると、聞き馴染のある声でアナウンスが流れる。
『やあ、諸君! パーティーは楽しんでいるかい? それでは、待ちに待ったミス&ミスター・ハロウィンの発表をしようと思う。記念すべき第一回の受賞者は――』
アナウンスしているのは、陽気なピエロの装いをした学園の教員グルーヴ先生だ。
会場の明かりが暗くなっていき、ドラムロールが鳴り響く。
スポットライトが誰かを探して動き回り、そして、ピタリと止まったのは――
『ミス・ハロウィンは魔女のイブ! ミスター・ハロウィンは吸血鬼のノヴァだ!!』
「おおー! おめでとー!!」
スポットライトを浴びて拍手喝采される二人は、予想外だったのか驚いた顔をしている。
『栄えある第一回目のミス・ハロウィンに選ばれたご感想は?』
グルーブ先生がイブのところに飛んで行って、マイクを向けてコメントを求める。
『ミスに選ばれてしまっていいのか、少し困惑しましたが……でも、わたくしは可愛いので仕方ありませんね。投票してくれてありがとう……ちゅっ♡』
イブは茶目っけたっぷりに言って、投げキッスのパフォーマンスをして見せ、会場では歓声と溜息がこぼれた。
『はぁん♡ ハートが射抜かれてしまう小悪魔っぷり! これは、虜にならざるを得ない、魔性の美魔女だ!!』
続いて、グルーブ先生がノヴァのところに飛んで行って、マイクを向ける。
『トリは君だ。堂々たる第一回目のミスター・ハロウィンに選ばれたご感想は?』
驚いた表情をしていたノヴァは、噛み締めるようにして言う。
『選ばれるなんて思っていなかったから、すごく驚いている……だけど、皆から受け入れられ認められているというのは、嬉しいものだな。ふふふ……今宵をお前達の忘れられぬ一夜にしてやろう――シャドー・パペット』
吸血鬼を演じるように笑って見せたノヴァがマントを翻すと、コウモリやオバケの形をした黒い影が飛び出し、空中を変幻自在に飛び回る。
「わぁー、すごいすごーい!」
子供達が感激してはしゃいでいれば、イブも魔法を唱えて星が煌く。
「キラキラしてる、キレー!!」
『二人の魔法が重なり、まるで美しい満天の星空――いや、色とりどりの花火だね。すばらしい共演だ』
こんなに楽しいパーティーなら、きっとみんなの思い出にも深く残るだろう。
来年からも恒例行事としてやっていけると、僕は確信したのだった。
コンテストの催しが終わって会場のランタンが灯りはじめる。
明るさが戻ったと思った途端――フッと真っ暗になり、会場が闇に包まれた。
「あれ……まだ何かあるのかな?」
準備していた催しは全部終わったはずなのに、おかしいなと思って首を傾げていると、闇の中でひんやりと底冷えるような肌寒さを感じてくる。
それと、よく聞き取れないけれど、誰かがヒソヒソと話している声や、子供の笑い声が妙に響く。
「……ふふふ……久しぶりのパーティー……」
「きゃはは……あはははは……」
「……楽しい、楽しい、ハロウィンだよ……」
「くふふふ……ご馳走だ……お菓子もちょうだい……」
暗闇の中で身動きが取れずにいると、何事もなかったかのように、パッと会場に明かりが戻った。
「今のなんだったんだろう……って、えっ?!」
キョロキョロと辺りを見回した僕は、会場の異変に気づいた。
種族の印象をがらりと変えた仮装では、翼を生やして天使や悪魔になったり、鱗を付けて人魚や魚人になったり、草花を巻いて植物人になったりと、見ていて楽しい。
また、ブレーメンの音楽隊みたいに重なり合って一体の巨大なモンスターになりきっていたり、電車ごっこみたいに連なって長い龍を表現していたりと、時々バラけたりくっついたりしている様子も面白かった。
中でも僕のお気に入りは、シンプルな白いシーツに穴を開けてかぶり、目鼻や耳や尻尾を出しているモフモフ魔族達だ。
耳や尻尾をせわしなく動かし、楽しげにあっちこっちふよふよしている姿が本当に愛くるしい。
「ふわぁ~ん♡ モフモフおばけ、可愛すぎる~~♡♡」
ホクホクで眺めていれば、小さな子供達が嬉々として駆けてくる。
僕のところまで来ると、教えておいた“お約束の台詞を”叫ぶ。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「んん~っ♡♡♡」
オバケの仮装をした子供達がお菓子をねだる姿が、もう可愛いくてたまらない。
デレデレになって思わずヨダレが垂れないように耐えつつ、子供達用に作っていた持ち帰り用のお菓子を手渡す。
「はい、どうぞー。ハッピー・ハロウィン♪」
「「「ありがとー」」」
子供達は満面の笑みで受け取り、仲間達のところにも駆け寄って、お菓子をねだる。
「悪戯されたくなければ、お菓子をよこせー、ガオー!」
狼男に仮装した子供が、グレイの前で可愛く吠えて見せた。
「おうおう、そう簡単に菓子が貰えると思うなよぉ? この菓子が欲しければ、オレ様に勝ってからだ! アオォォォォン!!」
狼男が本気の遠吠えを披露すれば、動物系の子供達がいっせいに耳をそばだて、グレイに飛びつく。
グレイは飛びついてきた子供達を丸ごと抱え、その場でぐるぐると回転してみせ、後方にパタリと倒れる。
「うおー、このオレ様がこんな簡単にやられるなんてぇー! お前達の勝ちだ、この菓子は持っていけぇー!!」
あっけなく負けを認めたグレイに、子供達ははしゃいで言う。
「キャハハ、ぐるぐる楽しいー」
「お菓子いらないから、もっとやってー。じゃないと、悪戯するぞー」
「ちょ、やめっ、降参降参! くすぐってぇーって!! ッギャハハハハ」
モフモフとした見た目の子達がじゃれあい、明るい笑い声が響く。
「さあ、満を持してスイーツの食べ放題じゃな!」
そう言ったブラッドの視線の先、大広間の中央には僕特製の巨大スイーツ・タワーが鎮座していた。
毒々しい色のプチケーキや、目玉のキャンディー、骨やオバケのクッキー、クモやコウモリのチョコレートなど、美味しそうな甘い香りが鼻をくすぐる。
タワーの頂上には、ジャック・オ・ランタンを模したカボチャのケーキがあり、その上に飴細工の王冠がキラキラと輝いていた。
「誰かワシに挑んでくる強者はおらんか? あのスイーツ・タワーのてっぺんにある王冠まで、先に食べたどりついた者がスイーツ・キングじゃ!」
スイーツ・タワーを見て目を輝かせていた子達がいっせいに手を上げる。
「はいはい! ボク、早食いには自信あるよ!!」
「アタシもスイーツいっぱい食べたい! やるやる!!」
「ほう、挑戦者なかなか多いのう。では、おのおの位置について、スイーツの早食い競争――開始じゃ! もぐっ……これまた美味いのう。早食いしてしまうのがもったいない美味さじゃ……これも、これも美味い。もぐもぐ……」
早食いのはずが、ブラッドと同様にスイーツに舌鼓を打ってなかなか食べ進められない子もたくさんいて、なんとも微笑ましい。
喜んでもらえて、僕も精魂込めて作った甲斐があるというものだ。
先ほどまで精気を吸われてへばっていたリュウが、ピョンピョンと飛び跳ねながら僕のところにやってくる。
「あいや、酷い目にあったでござる……マナト殿、これ解いてくださらんか? 拙者、一人では解けそうにないでござる」
ミイラ男姿のリュウは手や腕までぐるぐる巻きにされていて、文字通り手も足も出ない状態だ。
僕が解こうと布地を引っ張っているところで、リュウの周りに子供達が集まってくる。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「おっと……すまぬが、今は手持ちがないでござるよ。これが解けたら用意するゆえ、少々待たれよ」
先ほどまでエナジー・ドレインのダメージで床に転がっていたので無理もない。
だけど、そんな都合を知らない子供達は目をランランとさせる。
リュウから飛び出している包帯みたいな布地を掴んで、子供達が言う。
「じゃあ、手伝ってあげるよ。みんなで引っ張るよー!」
「あ、いやいや、マナト殿に解いてもらうから、大丈夫でござ――や、やめるでござるよっ?!」
リュウは慌てて止めようとするが、時すでに遅しでいっせいに一方向に引っ張られる。
「ソーレー!!」
「アーーーーレーーーー!!?」
悪代官に着物の帯を解かれる生娘みたいな悲鳴を上げ、リュウは高速回転しながら、包帯を引っ張る子供達とどこかに行ってしまう。
「ありゃ、行っちゃった……楽しそうだし、大丈夫だよね」
僕は僕で、モフモフ魔族達にムーンウォークやちょっとしたダンステクニックをレクチャーして楽しんでいる。
興味津々で僕のダンスを見て感激し、一生懸命に真似してふよふよ動いてるモフモフおばけが可愛い。
「こうして、こうして、こう……さあ、アダムも一緒に!」
「そんなに私に躍らせたいのか?」
モフモフおばけのダンスを微笑ましげに見守っていたアダムに振ってみたら、じとりとした眼差しで目をすがめられる。
だけど、すべては計算づく。
「アダムも一緒に踊ろうよー、楽しいよー」
「アダムのダンスも見てみたいな、きっとカッコイイよね」
「……仕方ないな。少しだけだぞ」
モフモフ大好き同盟のアダムは、モフモフ魔族達からキュルルンとした瞳でお願いされると断れなくなるのだ。
少し教えれば、すぐに覚えてやりこなし、アレンジまで加えて見せるセンスの良さ。
学園一位だった完璧な成績は伊達ではない。キレッキレのダンスを披露する。
「「「オオー!」」」
僕達がアダムのダンスにパチパチと拍手していると、リュウの声がこだまして近付いてくる。
「――だーれーかー! とーめーてーくーれーっ!!?」
高速回転で乱入するリュウの動きすら利用して、アダムは華麗に舞って見せ、リュウの腰を抱いてピタリと止まる。
「「「オオオオー!!」」」
神がかったダンスを絶賛して溢れんばかりの拍手を送ってると、アダムとリュウは止まったままだった。
「……リュウ」
「アダム……助かったでござる」
長い紺色の髪が乱れて息を切らせるリュウは、ゆっくりと視線を上げる。
見つめ合う美形の顔が少し近づいて、薔薇が咲きそうな二人の雰囲気に見ていた僕達はドキドキしてしまう。
キャーと小声で叫ぶ子達が見守る中で、リュウが小さく呟く。
「トゥンク……とは、さすがにならないでござる。期待されているところ悪いでござるが」
「同感だ」
アダムはそう言うなり、抱えていたリュウから手を離し、ボトリと落とす。
「痛っ! 急に手を離すのはいかがかと思うでござるよ!」
「お前がいつまでも抱えられてるのが悪いんだろう」
「酷いでござる。今日の拙者、踏んだり蹴ったりでござらんか? マナト殿、慰めて欲しいでござる……ぐすん」
打ちつけた腰をさすりながら、リュウが涙目で僕に泣きついてきた。
確かにちょっと可哀想かなと苦笑いし、頭を撫でながら慰める。
「あはは、大変だったね。よしよし……気を取り直して、パーティー楽しもう。ご馳走もスイーツもまだあるし、ミス&ミスター・ハロウィンのコンテスト発表もこれからだよ」
このハロウィンで誰の仮装が一番良かったかを投票して、コンテスト発表する催しにしたのだ。
みんなでそれぞれ投票してしばらくすると、聞き馴染のある声でアナウンスが流れる。
『やあ、諸君! パーティーは楽しんでいるかい? それでは、待ちに待ったミス&ミスター・ハロウィンの発表をしようと思う。記念すべき第一回の受賞者は――』
アナウンスしているのは、陽気なピエロの装いをした学園の教員グルーヴ先生だ。
会場の明かりが暗くなっていき、ドラムロールが鳴り響く。
スポットライトが誰かを探して動き回り、そして、ピタリと止まったのは――
『ミス・ハロウィンは魔女のイブ! ミスター・ハロウィンは吸血鬼のノヴァだ!!』
「おおー! おめでとー!!」
スポットライトを浴びて拍手喝采される二人は、予想外だったのか驚いた顔をしている。
『栄えある第一回目のミス・ハロウィンに選ばれたご感想は?』
グルーブ先生がイブのところに飛んで行って、マイクを向けてコメントを求める。
『ミスに選ばれてしまっていいのか、少し困惑しましたが……でも、わたくしは可愛いので仕方ありませんね。投票してくれてありがとう……ちゅっ♡』
イブは茶目っけたっぷりに言って、投げキッスのパフォーマンスをして見せ、会場では歓声と溜息がこぼれた。
『はぁん♡ ハートが射抜かれてしまう小悪魔っぷり! これは、虜にならざるを得ない、魔性の美魔女だ!!』
続いて、グルーブ先生がノヴァのところに飛んで行って、マイクを向ける。
『トリは君だ。堂々たる第一回目のミスター・ハロウィンに選ばれたご感想は?』
驚いた表情をしていたノヴァは、噛み締めるようにして言う。
『選ばれるなんて思っていなかったから、すごく驚いている……だけど、皆から受け入れられ認められているというのは、嬉しいものだな。ふふふ……今宵をお前達の忘れられぬ一夜にしてやろう――シャドー・パペット』
吸血鬼を演じるように笑って見せたノヴァがマントを翻すと、コウモリやオバケの形をした黒い影が飛び出し、空中を変幻自在に飛び回る。
「わぁー、すごいすごーい!」
子供達が感激してはしゃいでいれば、イブも魔法を唱えて星が煌く。
「キラキラしてる、キレー!!」
『二人の魔法が重なり、まるで美しい満天の星空――いや、色とりどりの花火だね。すばらしい共演だ』
こんなに楽しいパーティーなら、きっとみんなの思い出にも深く残るだろう。
来年からも恒例行事としてやっていけると、僕は確信したのだった。
コンテストの催しが終わって会場のランタンが灯りはじめる。
明るさが戻ったと思った途端――フッと真っ暗になり、会場が闇に包まれた。
「あれ……まだ何かあるのかな?」
準備していた催しは全部終わったはずなのに、おかしいなと思って首を傾げていると、闇の中でひんやりと底冷えるような肌寒さを感じてくる。
それと、よく聞き取れないけれど、誰かがヒソヒソと話している声や、子供の笑い声が妙に響く。
「……ふふふ……久しぶりのパーティー……」
「きゃはは……あはははは……」
「……楽しい、楽しい、ハロウィンだよ……」
「くふふふ……ご馳走だ……お菓子もちょうだい……」
暗闇の中で身動きが取れずにいると、何事もなかったかのように、パッと会場に明かりが戻った。
「今のなんだったんだろう……って、えっ?!」
キョロキョロと辺りを見回した僕は、会場の異変に気づいた。
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