【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
上 下
36 / 37

番外編.ハッピー・ハロウィン(2/3)

しおりを挟む
 カボチャのランタンやオバケを模したガーランドが飾りつけされた大広間には、思い思いの仮装を楽しむ魔族達が集まっている。

 種族の印象をがらりと変えた仮装では、翼を生やして天使や悪魔になったり、鱗を付けて人魚や魚人になったり、草花を巻いて植物人になったりと、見ていて楽しい。
 また、ブレーメンの音楽隊みたいに重なり合って一体の巨大なモンスターになりきっていたり、電車ごっこみたいに連なって長い龍を表現していたりと、時々バラけたりくっついたりしている様子も面白かった。

 中でも僕のお気に入りは、シンプルな白いシーツに穴を開けてかぶり、目鼻や耳や尻尾を出しているモフモフ魔族達だ。
 耳や尻尾をせわしなく動かし、楽しげにあっちこっちふよふよしている姿が本当に愛くるしい。

「ふわぁ~ん♡ モフモフおばけ、可愛すぎる~~♡♡」

 ホクホクで眺めていれば、小さな子供達が嬉々として駆けてくる。
 僕のところまで来ると、教えておいた“お約束の台詞を”叫ぶ。

「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「んん~っ♡♡♡」

 オバケの仮装をした子供達がお菓子をねだる姿が、もう可愛いくてたまらない。
 デレデレになって思わずヨダレが垂れないように耐えつつ、子供達用に作っていた持ち帰り用のお菓子を手渡す。

「はい、どうぞー。ハッピー・ハロウィン♪」
「「「ありがとー」」」

 子供達は満面の笑みで受け取り、仲間達のところにも駆け寄って、お菓子をねだる。

「悪戯されたくなければ、お菓子をよこせー、ガオー!」

 狼男に仮装した子供が、グレイの前で可愛く吠えて見せた。

「おうおう、そう簡単に菓子が貰えると思うなよぉ? この菓子が欲しければ、オレ様に勝ってからだ! アオォォォォン!!」

 狼男が本気の遠吠えを披露すれば、動物系の子供達がいっせいに耳をそばだて、グレイに飛びつく。
 グレイは飛びついてきた子供達を丸ごと抱え、その場でぐるぐると回転してみせ、後方にパタリと倒れる。

「うおー、このオレ様がこんな簡単にやられるなんてぇー! お前達の勝ちだ、この菓子は持っていけぇー!!」

 あっけなく負けを認めたグレイに、子供達ははしゃいで言う。

「キャハハ、ぐるぐる楽しいー」
「お菓子いらないから、もっとやってー。じゃないと、悪戯するぞー」
「ちょ、やめっ、降参降参! くすぐってぇーって!! ッギャハハハハ」

 モフモフとした見た目の子達がじゃれあい、明るい笑い声が響く。

「さあ、まんしてスイーツの食べ放題じゃな!」

 そう言ったブラッドの視線の先、大広間の中央には僕特製の巨大スイーツ・タワーが鎮座していた。
 毒々しい色のプチケーキや、目玉のキャンディー、骨やオバケのクッキー、クモやコウモリのチョコレートなど、美味しそうな甘い香りが鼻をくすぐる。
 タワーの頂上には、ジャック・オ・ランタンを模したカボチャのケーキがあり、その上に飴細工の王冠がキラキラと輝いていた。

「誰かワシに挑んでくる強者はおらんか? あのスイーツ・タワーのてっぺんにある王冠まで、先に食べたどりついた者がスイーツ・キングじゃ!」

 スイーツ・タワーを見て目を輝かせていた子達がいっせいに手を上げる。

「はいはい! ボク、早食いには自信あるよ!!」
「アタシもスイーツいっぱい食べたい! やるやる!!」
「ほう、挑戦者なかなか多いのう。では、おのおの位置について、スイーツの早食い競争――開始じゃ! もぐっ……これまた美味いのう。早食いしてしまうのがもったいない美味さじゃ……これも、これも美味い。もぐもぐ……」

 早食いのはずが、ブラッドと同様にスイーツに舌鼓を打ってなかなか食べ進められない子もたくさんいて、なんとも微笑ましい。
 喜んでもらえて、僕も精魂込めて作った甲斐があるというものだ。

 先ほどまで精気を吸われてへばっていたリュウが、ピョンピョンと飛び跳ねながら僕のところにやってくる。

「あいや、酷い目にあったでござる……マナト殿、これ解いてくださらんか? 拙者、一人では解けそうにないでござる」

 ミイラ男姿のリュウは手や腕までぐるぐる巻きにされていて、文字通り手も足も出ない状態だ。
 僕が解こうと布地を引っ張っているところで、リュウの周りに子供達が集まってくる。

「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するぞ~!」
「おっと……すまぬが、今は手持ちがないでござるよ。これが解けたら用意するゆえ、少々待たれよ」

 先ほどまでエナジー・ドレインのダメージで床に転がっていたので無理もない。
 だけど、そんな都合を知らない子供達は目をランランとさせる。
 リュウから飛び出している包帯みたいな布地を掴んで、子供達が言う。

「じゃあ、手伝ってあげるよ。みんなで引っ張るよー!」
「あ、いやいや、マナト殿に解いてもらうから、大丈夫でござ――や、やめるでござるよっ?!」

 リュウは慌てて止めようとするが、時すでに遅しでいっせいに一方向に引っ張られる。

「ソーレー!!」
「アーーーーレーーーー!!?」

 悪代官に着物の帯を解かれる生娘みたいな悲鳴を上げ、リュウは高速回転しながら、包帯を引っ張る子供達とどこかに行ってしまう。

「ありゃ、行っちゃった……楽しそうだし、大丈夫だよね」

 僕は僕で、モフモフ魔族達にムーンウォークやちょっとしたダンステクニックをレクチャーして楽しんでいる。
 興味津々で僕のダンスを見て感激し、一生懸命に真似してふよふよ動いてるモフモフおばけが可愛い。

「こうして、こうして、こう……さあ、アダムも一緒に!」
「そんなに私に躍らせたいのか?」

 モフモフおばけのダンスを微笑ましげに見守っていたアダムに振ってみたら、じとりとした眼差しで目をすがめられる。
 だけど、すべては計算づく。

「アダムも一緒に踊ろうよー、楽しいよー」
「アダムのダンスも見てみたいな、きっとカッコイイよね」
「……仕方ないな。少しだけだぞ」

 モフモフ大好き同盟のアダムは、モフモフ魔族達からキュルルンとした瞳でお願いされると断れなくなるのだ。
 少し教えれば、すぐに覚えてやりこなし、アレンジまで加えて見せるセンスの良さ。
 学園一位だった完璧な成績は伊達ではない。キレッキレのダンスを披露する。

「「「オオー!」」」

 僕達がアダムのダンスにパチパチと拍手していると、リュウの声がこだまして近付いてくる。

「――だーれーかー! とーめーてーくーれーっ!!?」

 高速回転で乱入するリュウの動きすら利用して、アダムは華麗に舞って見せ、リュウの腰を抱いてピタリと止まる。

「「「オオオオー!!」」」

 神がかったダンスを絶賛して溢れんばかりの拍手を送ってると、アダムとリュウは止まったままだった。

「……リュウ」
「アダム……助かったでござる」

 長い紺色の髪が乱れて息を切らせるリュウは、ゆっくりと視線を上げる。
 見つめ合う美形の顔が少し近づいて、薔薇が咲きそうな二人の雰囲気に見ていた僕達はドキドキしてしまう。
 キャーと小声で叫ぶ子達が見守る中で、リュウが小さく呟く。

「トゥンク……とは、さすがにならないでござる。期待されているところ悪いでござるが」
「同感だ」

 アダムはそう言うなり、抱えていたリュウから手を離し、ボトリと落とす。

「痛っ! 急に手を離すのはいかがかと思うでござるよ!」
「お前がいつまでも抱えられてるのが悪いんだろう」
「酷いでござる。今日の拙者、踏んだり蹴ったりでござらんか? マナト殿、慰めて欲しいでござる……ぐすん」

 打ちつけた腰をさすりながら、リュウが涙目で僕に泣きついてきた。
 確かにちょっと可哀想かなと苦笑いし、頭を撫でながら慰める。

「あはは、大変だったね。よしよし……気を取り直して、パーティー楽しもう。ご馳走もスイーツもまだあるし、ミス&ミスター・ハロウィンのコンテスト発表もこれからだよ」

 このハロウィンで誰の仮装が一番良かったかを投票して、コンテスト発表する催しにしたのだ。

 みんなでそれぞれ投票してしばらくすると、聞き馴染のある声でアナウンスが流れる。

『やあ、諸君! パーティーは楽しんでいるかい? それでは、待ちに待ったミス&ミスター・ハロウィンの発表をしようと思う。記念すべき第一回の受賞者は――』

 アナウンスしているのは、陽気なピエロの装いをした学園の教員グルーヴ先生だ。
 会場の明かりが暗くなっていき、ドラムロールが鳴り響く。
 スポットライトが誰かを探して動き回り、そして、ピタリと止まったのは――

『ミス・ハロウィンは魔女のイブ! ミスター・ハロウィンは吸血鬼のノヴァだ!!』
「おおー! おめでとー!!」

 スポットライトを浴びて拍手喝采される二人は、予想外だったのか驚いた顔をしている。

『栄えある第一回目のミス・ハロウィンに選ばれたご感想は?』

 グルーブ先生がイブのところに飛んで行って、マイクを向けてコメントを求める。

『ミスに選ばれてしまっていいのか、少し困惑しましたが……でも、わたくしは可愛いので仕方ありませんね。投票してくれてありがとう……ちゅっ♡』

 イブは茶目っけたっぷりに言って、投げキッスのパフォーマンスをして見せ、会場では歓声と溜息がこぼれた。

『はぁん♡ ハートが射抜かれてしまう小悪魔っぷり! これは、虜にならざるを得ない、魔性の美魔女だ!!』

 続いて、グルーブ先生がノヴァのところに飛んで行って、マイクを向ける。

『トリは君だ。堂々たる第一回目のミスター・ハロウィンに選ばれたご感想は?』

 驚いた表情をしていたノヴァは、噛み締めるようにして言う。

『選ばれるなんて思っていなかったから、すごく驚いている……だけど、皆から受け入れられ認められているというのは、嬉しいものだな。ふふふ……今宵をお前達の忘れられぬ一夜にしてやろう――シャドー・パペット』

 吸血鬼を演じるように笑って見せたノヴァがマントを翻すと、コウモリやオバケの形をした黒い影が飛び出し、空中を変幻自在に飛び回る。

「わぁー、すごいすごーい!」

 子供達が感激してはしゃいでいれば、イブも魔法を唱えて星が煌く。

「キラキラしてる、キレー!!」
『二人の魔法が重なり、まるで美しい満天の星空――いや、色とりどりの花火だね。すばらしい共演だ』

 こんなに楽しいパーティーなら、きっとみんなの思い出にも深く残るだろう。
 来年からも恒例行事としてやっていけると、僕は確信したのだった。

 コンテストの催しが終わって会場のランタンが灯りはじめる。
 明るさが戻ったと思った途端――フッと真っ暗になり、会場が闇に包まれた。

「あれ……まだ何かあるのかな?」

 準備していた催しは全部終わったはずなのに、おかしいなと思って首を傾げていると、闇の中でひんやりと底冷えるような肌寒さを感じてくる。
 それと、よく聞き取れないけれど、誰かがヒソヒソと話している声や、子供の笑い声が妙に響く。

「……ふふふ……久しぶりのパーティー……」
「きゃはは……あはははは……」
「……楽しい、楽しい、ハロウィンだよ……」
「くふふふ……ご馳走だ……お菓子もちょうだい……」

 暗闇の中で身動きが取れずにいると、何事もなかったかのように、パッと会場に明かりが戻った。

「今のなんだったんだろう……って、えっ?!」

 キョロキョロと辺りを見回した僕は、会場の異変に気づいた。
しおりを挟む
第12回BL大賞に参加中! 投票いただけると狂喜乱舞して喜びます!!「面白かった」「楽しかった」「気に入った」と思ってもらえたら、気軽に感想いただけると嬉しいです。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は魔神復活を応援しません!

豆狸
ファンタジー
魔神復活! 滅びるのは世界か、悪役令嬢ラヴァンダか……って! どっちにしろわたし、大公令嬢ラヴァンダは滅びるじゃないですか。 前世から受け継いだ乙女ゲームの知識を利用して、魔神復活を阻止してみせます。 とはいえ、わたしはまだ六歳児。まずは家庭の平和から──

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...