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第3章:奴隷と豚
第7話:レジスタンスのリーダー
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「さてと……本当は何が目的なんだ?」
そのまま奥の建物に連れていかれて、いざリーダーにご対面かと思いきや。
いきなり囲まれてしまった。
ゴタロウが。
俺は剣だからな。
俺に対して、敵意を向けている様子はない。
そこにいるのは5人の男性。
全員がそこそこにやりそうだ。
しっかりと鍛えこまれているのが分かる。
ゴタロウを案内した門番の男以外は、椅子に座ってこっちをニヤニヤと見ているだけだが。
「いやいや、純粋にこの町をどうこうしようとするウォルフさんの話に乗っただけですよ」
「だったら、わざわざここまで焦ってくる意味がわからんな」
「段階を踏んでも良かったんじゃないか?」
おどけたように両手を広げて見せたゴタロウに対して、門番の男が不機嫌そうに眉を寄せる。
さらに、すぐそばのテーブルでグラスを傾けていた男も立ち上がる。
というか、レジスタンスがどういったものか分からないけど。
普通に酒飲んでくつろいでいるとか。
「逆に、私はなんで皆さんがそんなに悠長なのか分かりませんけどね」
「なにっ?」
「だって、いまも外から来た子供たちが領主のせいで奴隷にされているんですよ? 普通そういう現場に襲撃をかけて、子供を救うのが正しい行動じゃないですか?」
「綺麗ごとだけじゃ、どうにもならねーこともあるんだよ!」
周囲から剣呑な眼差しを向けられても特に気にしたようすのないゴタロウに対して、男どもが殺気を膨らませる。
流石にそれにはムッとしたのか、ゴタロウの空気が変わる。
「向ける相手が違うんじゃないですかね?」
「ひっ!」
「なっ……」
張り付けたような笑みが鳴りを潜ませ、一転無表情に。
そして、物凄く冷たい視線で周りの男どもを順に見渡す。
すげー、怖い……
いいぞ!
もっと、やれ!
立ってた連中はその場にしりもちを付き、椅子に座ってた連中はそこから転がり落ちていた。
(主……)
バレた。
ゴタロウの怒気に合わせて、ランドールの持っていた【覇者の威圧】を放ったけど。
流石に、バレないわけないか。
「大体、相手の収入減を潰すことにもなるでしょうに……そういった、地道な活動の積み重ねも、人心を得るのに必要でしょう! 革命を起こしたとして、そのあと民意を受けて町の住人の支持を得ないことには、ただの侵略者と一緒でしょう?」
「ちがっ……」
「あっ……くっ……」
(主?)
ゴタロウの意見に全面的に賛成。
反論しようとしたっぽかったので、再度【覇者の威圧】を放ってみた。
やっこさんたち、すぐに口ごもってたけど。
ちょっと、ゴタロウが俺に対して邪魔だなーって空気出してる。
俺に面と向かって逆らえないから、察して欲しいみたいな困った顔。
すまん。
だって、手伝いたかったんだもん。
というか、最近俺なにもできてないし。
少しは存在感を。
(剣が存在感を出して、どうするんですか……)
ため息を吐かれてしまった。
実際には何も言ってないし、俺に向かって発信したわけじゃないんだろうけど、聞こえた。
もしかして、隠し切れない思いだったのかな?
隠し切れない思いか……
こうやっていうと、ロマンチックな感じだけど。
全然、そうじゃない。
困らせてるっぽい。
うん……余計なお節介ってやつだな。
「ウォルフさんにも思いましたが、だからあんたら下っ端と話してたんじゃ埒があかんのだ。とっとと、上に紹介しろ」
あっ、ゴタロウが敬語をやめた。
こいつらも、時間の無駄認定されたのか。
「くっ、お前のような危険なやつを、あの方に引き合わせるわけには」
「領主様をどうにかできればと思ったが、ここにきて厄介なやつを……」
「ウォルフめ、なんでこんなやつを」
ねぇ、もう一回【覇者の威圧】放っていい?
ダメ?
ちょっとだけでも……
ああ、会話ができなくなって、話が進まなくなるから?
そう……
あと一回だけだから!
あと一回しか使わないのなら、ここ一番に取っておきましょう?
いや、なんか持ち上げてる風だけど、もうこの先使わせる気ないよね?
俺の空気を読む力を期待していたが、流石にどうにもできなくなったのかゴタロウにはっきりとお願いしますと言われてしまった。
使ってくれのお願いしますじゃない。
余計なことをしないでくださいの、お願いします。
ごめん……
そして、ゴタロウが穏やかに優しい声音で諭すようにリーダーに会わせろという要求を……半ば強引に脅迫じみた感じで取り付けた。
優しく諭すように脅迫って……
流石、忍者。
いや、忍者だからかどうかは知らないけど。
「キオン様……宜しいでしょうか?」
「なんだ」
「キオン様に会いたいという男が、来ております」
「誰だ、知り合いか? なんの用だ」
「それが……」
門番の男が、さらに奥の扉をノックして声をかけていた。
中から、少し偉そうな若い男性の声が。
そして……
「ぎゃっ!」
「なっ!」
「えっ?」
やり取りが面倒くさいと感じたのだろう。
ゴタロウが門番の男ごと、扉を蹴り破って中に入っていた。
そして、奥に座っている男性を見て、固まる。
その椅子には、おおよそレジスタンスのリーダーとはかけ離れたような人物が座っていた。
いいとこのお坊ちゃんみたいな見た目の、でっぷりと太った青年。
「ちっ……バレたか」
何がバレたかが、分からないけど。
あまりにもレジスタンスっぽくない容姿に、ただただゴタロウが唖然としただけなんだけどな。
俺は、俯瞰の視点を移動させて、先に見てたからさほど驚かなかったけど。
最初見たときも、呆れた感じだった。
「その反応……知ってるんだよな?」
なんか、面白そうだからそれっぽく答えとけ。
「ええ……まさか、あなたが……」
「ああ、そうだ。キオリナ・フォン・メノウ。領主の息子だ」
ナンダッテー!
すげー……
勝手に、自滅したっぽいけど。
まさかの、レジスタンスのリーダーが領主の息子とは。
どうりで……
しかしキオリナの偽名がキオンて……
隠す気あるのか、無いのか。
密かにアピールしてるような気が、しなくもない。
「親父がおかしくなったというかだな……親父は、行方不明なんだよ。すまんが、俺はお前のこと覚えてないが、昔うちで働いてたか、うちに客として来た人間なんだろう? まさか、あの豚の手下とかじゃないよな?」
豚の手下?
というのが、よく分からないが。
「そうですね。坊ちゃんがまだ3つか4つのときに、お父様に招かれて一時滞在しておりましたが」
「あー、12年前くらいか。あの頃は良かったな……お母さまもまだ、生きていて……」
なんか、しみじみと言ってるけど。
12年前って、たぶんゴタロウは腰蓑まいて、殺せ! 皮を剥げ! 肉を削げ! ってのを、グギャグヤ言ってた時期だな。
そして、俺は森に埋まってた時期だ。
っていうか、これ……
もう、ここよくね?
(そうですね。これじゃ、当てにできませんね)
どうりで、やけにガタイのいい綺麗な連中が、こいつの周りを固めてるわけだ。
あいつら、領主邸の兵士の連中だな。
下手したら、領主サイドに通じてるかもしれん。
何が目的で、このおでぶちゃんにレジスタンスなんかやらせてるのか知らないけど。
不穏分子のあぶり出しとかか?
領主の息子とかだったら、担ぎやすいしな。
それに、神輿は軽い方が良いっていうし。
「そもそも、後妻も去年までは大人しかったんだがな。隣国の森で、魔物に襲われてからちょっと狂い始めてなあ」
何やら、語りだしたが。
もはや、領主かどうかも分からないけど、諸悪の根源の事情はどうでもよくなってきた。
そうなると、さっきの子供達も心配だな。
ウォルフがとは思わないが。
「いや、この結果だけでも十分です。キオリナ殿が無事でよかった。こっちも色々と準備はしておりますので、またその時に」
「なんだ、やけに急ぐのだな」
とっととこの場を辞そうとするゴタロウに、キオリナが不満げ。
そんな彼の耳元に顔を寄せて、小声で。
「ここには目と耳が多すぎますゆえ……また、使いの者に来させます」
「どういうことだ?」
「近くにいる人間ほど、慎重にとだけ。聡明なるキオリナ殿なら、理解できるかと」
「まさか……」
「はい」
小声でこれだけやり取りを済ませると、地面を滑るようにゴタロウが移動する。
そして、部屋を出る。
部屋を出たときに、キオリナがどういうことだ? と首を傾げていたのは見なかったことにしよう。
その場の空気に合わせて、それっぽい返事をしてただけのようだ。
やっぱり、軽いのだろう……頭が。
無論、このまま返してもらえるはずもなく。
ところがどっこい、このまま帰れるだけの力量はあるわけで。
意識を取り戻し、武器を構えて待ち構えていたさっきの連中+αに対して、ゴタロウが不敵な笑みを浮かべた瞬間に全員が崩れ落ちた。
(主……)
ここ一番だったろう?
さあ、道は開けた。
この中道を、悠然と歩いて外に出るのが一番かっこいいと思うぞ?
(色々と台無しですが、ありがとうございます)
そして、外に出ると駆けって、ウォルフを追いかけるゴタロウ。
案の定というか、予想外というか。
「姉さんがた、流石にシャレにならんぜ?」
「流石に、役にも立たんガキどもの面倒なんか見切れないよ!」
「資金だって、潤沢にあるわけじゃないんだし」
細剣と鞭を構えた女性2人に対して、ウォルフが素手で対応していた。
少なくない傷を負っているが、割とやるみたいだ。
全然、やらないと思ったんだけど。
見立て違いだったかな?
「おじちゃん、大丈夫?」
「怖いよ、おじちゃん」
「おじちゃんじゃない、お兄さんな?」
「分かったよ、おじちゃん」
なんか、コントみたいなことやってるけど。
これで、割とマジに子供たちが恐怖に怯えている。
「だったら、子供達を売ってその金を運営に当てた方が良いだろう」
「結果、より多くを救える」
「だからって、目の前の子供を見捨てちゃだめだろう! 仮にも、町のために立ち上がったレジスタンスがよぉ!」
女性共はまったく、感情が供わないような冷たい口調だが。
ウォルフは熱く燃え滾っている。
うんうん……
天下の往来で、邪魔だから君たち。
「うっ!」
「あっ!」
「えっ?」
いきなり背後に現れた黒い影に、女性2人の意識が刈り取られる。
急に女性が倒れたことで、ウォルフが驚いているが。
そして、こっちに気付く。
「兄さん?」
「あー、レジスタンスも色々と中に毒を混ぜられてる。信用ならんぞ?」
「いや、それよりも武器かえしてくれんか? お陰で、20回くらい死ぬかと思ったんだけど?」
あー……
そういえば、武器取り上げたままだったな。
だから、素手で戦ってたのか。
女性相手に不殺の信念とかってのかと思った。
「武器はあとで返す。それと、レジスタンスも信用ならん」
「そんな……」
困ったようにつぶやいたゴタロウに、ウォルフが悲痛な表情を浮かべている。
それは武器を返してもらえないことに対してか、それともレジスタンスが信用できないことに対してか。
気まずい沈黙。
そして、そんなゴタロウとウォルフの間に、影がまた入り込む。
ゴタロウに対して、片膝をついたその影は頭を下げる。
「宿の準備が整いました頭領。子供達も、休ませられます」
「そうか、手間をかけた」
「はっ」
それだけいうと、影は消え去ったが。
案内役に、男性が1人と女性が1人。
どっちもゴブリンロード。
うーん……
ゴタロウの部下だけど、ゴタロウの方が強いってことかな?
通りのあちこちに、ゴブリンロードとゴブリンキングが変装して潜んでいる。
ハイゴブリンや、ネオゴブリンたちは……
ああ、フィーナの世話係においてきたと。
今回の黒幕相手だと、荷が重い?
てことは、割と厄介な相手なのかな?
そして、2人のロードが案内してくれたのは、最初にふっかけてきた宿屋だった。
「お待ちしておりました」
出てきたのは、最初に対応した店主……に化けた、シノビゴブリンのゴブリンキング。
本物は?
えっ?
格子のついた馬車で、外に旅行にでてもらった?
ある程度反省したら、戻ってこさせる?
ちょっと、よく分からないけど、深く突っ込まないことにした。
いったん情報をまとめよ「パパに会いたい!」
「ママは?」
「お腹空いた!」
「漏れちゃった……」
あー……
子供たちの世話を頼む。
ゴブリン達が、子供達を連れてそれぞれの部屋に。
なるべく優しそうな人間に変装しつつ。
ウォルフも、楽しそうに手伝っていた。
こっちに参加してもらおうかと思ったが……
まあ、良いか。
やり直し。
まずレジスタンスのリーダーが、ここの領主の息子。
でもって、その周りにいたのが、領主の雇った兵たちだろうな。
黒幕と繋がってるかどうかは、分からないが。
かなり黒い。
というか、ほぼ真っ黒だと思われる。
だからか……
「待てー!」
「やだぁ!」
廊下を子供が上半身裸で走っていて、それをウォルフが追いかけているのを横目で見る。
ゴタロウが。
俺は……何もしなくても見えるから。
ついでにいうと本物の領主は行方不明で、いま町を牛耳っているのは彼の継母と豚と呼ばれた男。
この情報だけでも、色々と見えてくる。
領主が生きてるかどうかで、対処も変わってくるが。
取り合えず、ニコに連絡。
(ええ、子供達が? 許せない)
許せないつったって、すぐに動いても解決にはならんぞ。
(なんで、そんなことが出来るんだよ! 可愛い子供達に)
お前だって、子供だろう。
(もう、大人ですぅ!)
そこでムキになられても。
(今なら、やれそうな気がする)
やめとけ。
俺達が行くまで、大人しくしてもらいたいんだけど。
事情を説明したことを、ちょっと後悔。
子供が絡んでると分かった瞬間に、やる気満々に。
こんなところに、やる気スイッチがあったのかと新たな発見に、ちょっとほっこり。
してる、場合じゃない。
ここで、ニコに暴走されたら色々と……困らないかな?
(あー、困りますよ。ある程度の段取りは出来てますし、ニコ様は現状が一番安全ですから……正直、この町の人間ども全てよりも、ニコ様一人の方が大事ですし)
ゴタロウから、なんとかして説得してくださいという無言のプレッシャーが。
無言だけど、念話で言葉が……
(あと、集落からフィーナとランドール様がそろそろ我慢の限界との報告も)
次から次へと。
もう、俺が表に出て力で解決……
(主まで暴走されたら、収拾が……)
しないよ?
やだなぁ……
ゴタロウの顔が一気に老け込んでみえたので、思いとどまる。
数時間で結構な心痛を与えてしまったようだ。
取り合えず、ニコには頑張って耐えてもらって。
そして、ベッドで……寝ないのね。
ゴタロウは壁に背を預けて、座って目を閉じていたけど。
身体が動かせるのを確認。
あっ……
すぐに、主導権を奪われてしまった。
(申し訳ありませんが、ちょっとしたことでも目を覚ます体質なので)
ゴタロウに、気まずそうに謝られた。
残念。
あー……何かしたい。
そのまま奥の建物に連れていかれて、いざリーダーにご対面かと思いきや。
いきなり囲まれてしまった。
ゴタロウが。
俺は剣だからな。
俺に対して、敵意を向けている様子はない。
そこにいるのは5人の男性。
全員がそこそこにやりそうだ。
しっかりと鍛えこまれているのが分かる。
ゴタロウを案内した門番の男以外は、椅子に座ってこっちをニヤニヤと見ているだけだが。
「いやいや、純粋にこの町をどうこうしようとするウォルフさんの話に乗っただけですよ」
「だったら、わざわざここまで焦ってくる意味がわからんな」
「段階を踏んでも良かったんじゃないか?」
おどけたように両手を広げて見せたゴタロウに対して、門番の男が不機嫌そうに眉を寄せる。
さらに、すぐそばのテーブルでグラスを傾けていた男も立ち上がる。
というか、レジスタンスがどういったものか分からないけど。
普通に酒飲んでくつろいでいるとか。
「逆に、私はなんで皆さんがそんなに悠長なのか分かりませんけどね」
「なにっ?」
「だって、いまも外から来た子供たちが領主のせいで奴隷にされているんですよ? 普通そういう現場に襲撃をかけて、子供を救うのが正しい行動じゃないですか?」
「綺麗ごとだけじゃ、どうにもならねーこともあるんだよ!」
周囲から剣呑な眼差しを向けられても特に気にしたようすのないゴタロウに対して、男どもが殺気を膨らませる。
流石にそれにはムッとしたのか、ゴタロウの空気が変わる。
「向ける相手が違うんじゃないですかね?」
「ひっ!」
「なっ……」
張り付けたような笑みが鳴りを潜ませ、一転無表情に。
そして、物凄く冷たい視線で周りの男どもを順に見渡す。
すげー、怖い……
いいぞ!
もっと、やれ!
立ってた連中はその場にしりもちを付き、椅子に座ってた連中はそこから転がり落ちていた。
(主……)
バレた。
ゴタロウの怒気に合わせて、ランドールの持っていた【覇者の威圧】を放ったけど。
流石に、バレないわけないか。
「大体、相手の収入減を潰すことにもなるでしょうに……そういった、地道な活動の積み重ねも、人心を得るのに必要でしょう! 革命を起こしたとして、そのあと民意を受けて町の住人の支持を得ないことには、ただの侵略者と一緒でしょう?」
「ちがっ……」
「あっ……くっ……」
(主?)
ゴタロウの意見に全面的に賛成。
反論しようとしたっぽかったので、再度【覇者の威圧】を放ってみた。
やっこさんたち、すぐに口ごもってたけど。
ちょっと、ゴタロウが俺に対して邪魔だなーって空気出してる。
俺に面と向かって逆らえないから、察して欲しいみたいな困った顔。
すまん。
だって、手伝いたかったんだもん。
というか、最近俺なにもできてないし。
少しは存在感を。
(剣が存在感を出して、どうするんですか……)
ため息を吐かれてしまった。
実際には何も言ってないし、俺に向かって発信したわけじゃないんだろうけど、聞こえた。
もしかして、隠し切れない思いだったのかな?
隠し切れない思いか……
こうやっていうと、ロマンチックな感じだけど。
全然、そうじゃない。
困らせてるっぽい。
うん……余計なお節介ってやつだな。
「ウォルフさんにも思いましたが、だからあんたら下っ端と話してたんじゃ埒があかんのだ。とっとと、上に紹介しろ」
あっ、ゴタロウが敬語をやめた。
こいつらも、時間の無駄認定されたのか。
「くっ、お前のような危険なやつを、あの方に引き合わせるわけには」
「領主様をどうにかできればと思ったが、ここにきて厄介なやつを……」
「ウォルフめ、なんでこんなやつを」
ねぇ、もう一回【覇者の威圧】放っていい?
ダメ?
ちょっとだけでも……
ああ、会話ができなくなって、話が進まなくなるから?
そう……
あと一回だけだから!
あと一回しか使わないのなら、ここ一番に取っておきましょう?
いや、なんか持ち上げてる風だけど、もうこの先使わせる気ないよね?
俺の空気を読む力を期待していたが、流石にどうにもできなくなったのかゴタロウにはっきりとお願いしますと言われてしまった。
使ってくれのお願いしますじゃない。
余計なことをしないでくださいの、お願いします。
ごめん……
そして、ゴタロウが穏やかに優しい声音で諭すようにリーダーに会わせろという要求を……半ば強引に脅迫じみた感じで取り付けた。
優しく諭すように脅迫って……
流石、忍者。
いや、忍者だからかどうかは知らないけど。
「キオン様……宜しいでしょうか?」
「なんだ」
「キオン様に会いたいという男が、来ております」
「誰だ、知り合いか? なんの用だ」
「それが……」
門番の男が、さらに奥の扉をノックして声をかけていた。
中から、少し偉そうな若い男性の声が。
そして……
「ぎゃっ!」
「なっ!」
「えっ?」
やり取りが面倒くさいと感じたのだろう。
ゴタロウが門番の男ごと、扉を蹴り破って中に入っていた。
そして、奥に座っている男性を見て、固まる。
その椅子には、おおよそレジスタンスのリーダーとはかけ離れたような人物が座っていた。
いいとこのお坊ちゃんみたいな見た目の、でっぷりと太った青年。
「ちっ……バレたか」
何がバレたかが、分からないけど。
あまりにもレジスタンスっぽくない容姿に、ただただゴタロウが唖然としただけなんだけどな。
俺は、俯瞰の視点を移動させて、先に見てたからさほど驚かなかったけど。
最初見たときも、呆れた感じだった。
「その反応……知ってるんだよな?」
なんか、面白そうだからそれっぽく答えとけ。
「ええ……まさか、あなたが……」
「ああ、そうだ。キオリナ・フォン・メノウ。領主の息子だ」
ナンダッテー!
すげー……
勝手に、自滅したっぽいけど。
まさかの、レジスタンスのリーダーが領主の息子とは。
どうりで……
しかしキオリナの偽名がキオンて……
隠す気あるのか、無いのか。
密かにアピールしてるような気が、しなくもない。
「親父がおかしくなったというかだな……親父は、行方不明なんだよ。すまんが、俺はお前のこと覚えてないが、昔うちで働いてたか、うちに客として来た人間なんだろう? まさか、あの豚の手下とかじゃないよな?」
豚の手下?
というのが、よく分からないが。
「そうですね。坊ちゃんがまだ3つか4つのときに、お父様に招かれて一時滞在しておりましたが」
「あー、12年前くらいか。あの頃は良かったな……お母さまもまだ、生きていて……」
なんか、しみじみと言ってるけど。
12年前って、たぶんゴタロウは腰蓑まいて、殺せ! 皮を剥げ! 肉を削げ! ってのを、グギャグヤ言ってた時期だな。
そして、俺は森に埋まってた時期だ。
っていうか、これ……
もう、ここよくね?
(そうですね。これじゃ、当てにできませんね)
どうりで、やけにガタイのいい綺麗な連中が、こいつの周りを固めてるわけだ。
あいつら、領主邸の兵士の連中だな。
下手したら、領主サイドに通じてるかもしれん。
何が目的で、このおでぶちゃんにレジスタンスなんかやらせてるのか知らないけど。
不穏分子のあぶり出しとかか?
領主の息子とかだったら、担ぎやすいしな。
それに、神輿は軽い方が良いっていうし。
「そもそも、後妻も去年までは大人しかったんだがな。隣国の森で、魔物に襲われてからちょっと狂い始めてなあ」
何やら、語りだしたが。
もはや、領主かどうかも分からないけど、諸悪の根源の事情はどうでもよくなってきた。
そうなると、さっきの子供達も心配だな。
ウォルフがとは思わないが。
「いや、この結果だけでも十分です。キオリナ殿が無事でよかった。こっちも色々と準備はしておりますので、またその時に」
「なんだ、やけに急ぐのだな」
とっととこの場を辞そうとするゴタロウに、キオリナが不満げ。
そんな彼の耳元に顔を寄せて、小声で。
「ここには目と耳が多すぎますゆえ……また、使いの者に来させます」
「どういうことだ?」
「近くにいる人間ほど、慎重にとだけ。聡明なるキオリナ殿なら、理解できるかと」
「まさか……」
「はい」
小声でこれだけやり取りを済ませると、地面を滑るようにゴタロウが移動する。
そして、部屋を出る。
部屋を出たときに、キオリナがどういうことだ? と首を傾げていたのは見なかったことにしよう。
その場の空気に合わせて、それっぽい返事をしてただけのようだ。
やっぱり、軽いのだろう……頭が。
無論、このまま返してもらえるはずもなく。
ところがどっこい、このまま帰れるだけの力量はあるわけで。
意識を取り戻し、武器を構えて待ち構えていたさっきの連中+αに対して、ゴタロウが不敵な笑みを浮かべた瞬間に全員が崩れ落ちた。
(主……)
ここ一番だったろう?
さあ、道は開けた。
この中道を、悠然と歩いて外に出るのが一番かっこいいと思うぞ?
(色々と台無しですが、ありがとうございます)
そして、外に出ると駆けって、ウォルフを追いかけるゴタロウ。
案の定というか、予想外というか。
「姉さんがた、流石にシャレにならんぜ?」
「流石に、役にも立たんガキどもの面倒なんか見切れないよ!」
「資金だって、潤沢にあるわけじゃないんだし」
細剣と鞭を構えた女性2人に対して、ウォルフが素手で対応していた。
少なくない傷を負っているが、割とやるみたいだ。
全然、やらないと思ったんだけど。
見立て違いだったかな?
「おじちゃん、大丈夫?」
「怖いよ、おじちゃん」
「おじちゃんじゃない、お兄さんな?」
「分かったよ、おじちゃん」
なんか、コントみたいなことやってるけど。
これで、割とマジに子供たちが恐怖に怯えている。
「だったら、子供達を売ってその金を運営に当てた方が良いだろう」
「結果、より多くを救える」
「だからって、目の前の子供を見捨てちゃだめだろう! 仮にも、町のために立ち上がったレジスタンスがよぉ!」
女性共はまったく、感情が供わないような冷たい口調だが。
ウォルフは熱く燃え滾っている。
うんうん……
天下の往来で、邪魔だから君たち。
「うっ!」
「あっ!」
「えっ?」
いきなり背後に現れた黒い影に、女性2人の意識が刈り取られる。
急に女性が倒れたことで、ウォルフが驚いているが。
そして、こっちに気付く。
「兄さん?」
「あー、レジスタンスも色々と中に毒を混ぜられてる。信用ならんぞ?」
「いや、それよりも武器かえしてくれんか? お陰で、20回くらい死ぬかと思ったんだけど?」
あー……
そういえば、武器取り上げたままだったな。
だから、素手で戦ってたのか。
女性相手に不殺の信念とかってのかと思った。
「武器はあとで返す。それと、レジスタンスも信用ならん」
「そんな……」
困ったようにつぶやいたゴタロウに、ウォルフが悲痛な表情を浮かべている。
それは武器を返してもらえないことに対してか、それともレジスタンスが信用できないことに対してか。
気まずい沈黙。
そして、そんなゴタロウとウォルフの間に、影がまた入り込む。
ゴタロウに対して、片膝をついたその影は頭を下げる。
「宿の準備が整いました頭領。子供達も、休ませられます」
「そうか、手間をかけた」
「はっ」
それだけいうと、影は消え去ったが。
案内役に、男性が1人と女性が1人。
どっちもゴブリンロード。
うーん……
ゴタロウの部下だけど、ゴタロウの方が強いってことかな?
通りのあちこちに、ゴブリンロードとゴブリンキングが変装して潜んでいる。
ハイゴブリンや、ネオゴブリンたちは……
ああ、フィーナの世話係においてきたと。
今回の黒幕相手だと、荷が重い?
てことは、割と厄介な相手なのかな?
そして、2人のロードが案内してくれたのは、最初にふっかけてきた宿屋だった。
「お待ちしておりました」
出てきたのは、最初に対応した店主……に化けた、シノビゴブリンのゴブリンキング。
本物は?
えっ?
格子のついた馬車で、外に旅行にでてもらった?
ある程度反省したら、戻ってこさせる?
ちょっと、よく分からないけど、深く突っ込まないことにした。
いったん情報をまとめよ「パパに会いたい!」
「ママは?」
「お腹空いた!」
「漏れちゃった……」
あー……
子供たちの世話を頼む。
ゴブリン達が、子供達を連れてそれぞれの部屋に。
なるべく優しそうな人間に変装しつつ。
ウォルフも、楽しそうに手伝っていた。
こっちに参加してもらおうかと思ったが……
まあ、良いか。
やり直し。
まずレジスタンスのリーダーが、ここの領主の息子。
でもって、その周りにいたのが、領主の雇った兵たちだろうな。
黒幕と繋がってるかどうかは、分からないが。
かなり黒い。
というか、ほぼ真っ黒だと思われる。
だからか……
「待てー!」
「やだぁ!」
廊下を子供が上半身裸で走っていて、それをウォルフが追いかけているのを横目で見る。
ゴタロウが。
俺は……何もしなくても見えるから。
ついでにいうと本物の領主は行方不明で、いま町を牛耳っているのは彼の継母と豚と呼ばれた男。
この情報だけでも、色々と見えてくる。
領主が生きてるかどうかで、対処も変わってくるが。
取り合えず、ニコに連絡。
(ええ、子供達が? 許せない)
許せないつったって、すぐに動いても解決にはならんぞ。
(なんで、そんなことが出来るんだよ! 可愛い子供達に)
お前だって、子供だろう。
(もう、大人ですぅ!)
そこでムキになられても。
(今なら、やれそうな気がする)
やめとけ。
俺達が行くまで、大人しくしてもらいたいんだけど。
事情を説明したことを、ちょっと後悔。
子供が絡んでると分かった瞬間に、やる気満々に。
こんなところに、やる気スイッチがあったのかと新たな発見に、ちょっとほっこり。
してる、場合じゃない。
ここで、ニコに暴走されたら色々と……困らないかな?
(あー、困りますよ。ある程度の段取りは出来てますし、ニコ様は現状が一番安全ですから……正直、この町の人間ども全てよりも、ニコ様一人の方が大事ですし)
ゴタロウから、なんとかして説得してくださいという無言のプレッシャーが。
無言だけど、念話で言葉が……
(あと、集落からフィーナとランドール様がそろそろ我慢の限界との報告も)
次から次へと。
もう、俺が表に出て力で解決……
(主まで暴走されたら、収拾が……)
しないよ?
やだなぁ……
ゴタロウの顔が一気に老け込んでみえたので、思いとどまる。
数時間で結構な心痛を与えてしまったようだ。
取り合えず、ニコには頑張って耐えてもらって。
そして、ベッドで……寝ないのね。
ゴタロウは壁に背を預けて、座って目を閉じていたけど。
身体が動かせるのを確認。
あっ……
すぐに、主導権を奪われてしまった。
(申し訳ありませんが、ちょっとしたことでも目を覚ます体質なので)
ゴタロウに、気まずそうに謝られた。
残念。
あー……何かしたい。
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