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第3章:奴隷と豚
第5話:レジスタンスと鈴木とゴタロウと
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「うーん」
廃墟の床に転がしておいた男が、背伸びをしながら目を覚ます。
ご機嫌だ。
よく眠れたらしい。
ゴタロウはテトの森奥地の植物で作った、睡眠薬を嗅がせたらしいが。
まあ、それ以外にもいろいろな作用がある薬らしく。
あれだ……
気分がよくなる的な。
質の良い睡眠がとれたのだろう。
目をこすって、あたりをキョロキョロと見渡しているが。
その表情は晴れやかな笑顔。
といっても、まだ夜なんだけどね。
「こ! ここは!」
「お前の方が、よく知ってる場所じゃないのか?」
徐々に意識が覚醒してきたのか。
自身の置かれた状況をようやく把握することが出来たらしい。
ゴタロウの声を聞いて、慌てて反対側に飛び退って腰に手を持って行ってるが。
「武器なら預かったぞ?」
「えっ? なっ……」
残念、男の移動先にゴタロウが先回りしてたため、背中からぶつかってさらに前に転がって振り返ることに。
「元気なやつだ」
しかし、さらにゴタロウがそれを先回りして移動したため、今度は転がった先にゴタロウの足が。
「ちっ!」
横っ飛びに地面を転がって移動する男。
ところが、ゴタロウはその男の行動を読んで先回り。
男の肩がゴタロウの足にあたる。
「囲まれたか!」
斜め後ろに跳んだ男。
残念、そこには先回りしたゴタロウが……
ゴタロウ、いい加減にしなさい。
あと、囲まれてないから安心しなさい。
「はは、あまりに身軽に飛び回るため、どこまで動けるかと」
「なっ! お兄さん1人か?」
ゴタロウは俺に答えたつもりだが、ナチュラルに男との会話にも発展できそうなセリフ。
ニコと違って、言葉を選んだのかな?
それとも、たまたまかな。
「……ええ、私しかいませんよ」
一瞬、俺を頭数に入れようか悩んだっぽいけど。
「なんか、妙な間が空いたのが気になるけど。それで、俺になんの用だ!」
この男は、馬鹿なのだろうか?
用があったのは、お前だろう。
もしかして、あの薬って前後の記憶が飛んだりとか……
(そんな副作用はありませんよ)
おお、そうだった。
思念が読み取れるから、別に言葉に出さなくても会話できるんだった。
「はは、用があって引き留めたのはそっちでしょう。あまりに鬱陶しかったので眠ってもらおうと思ったのですが、ちょっと気になる言葉が聞こえてきたので」
「ああ、そうか……そういえば、追っかけまわしてたのは俺の方だったか」
ゴタロウの言葉に、はっきりと意識を取り戻すように額に手をおいて頭を振る男。
少し薄汚れてはいるが、茶髪の20代後半くらいの男性。
フード付きのローブも脱がせておいたが、下には鉄の胸当てを着けていた。
腰に剣を下げた、いかにも冒険者っぽい出で立ち。
「俺の名前はウォルフ、うっかり口をすべらせたがこの町の反逆軍のメンバーだ」
「私はロウ、ただの旅人です」
「ただの旅人ねぇ……」
頭を掻きながら握手を要求するように手を出してきたウォルフ。
その手を冷めた目で眺めつつ、手を取る気はないと腕を組んでアピールしつつゴタロウが挨拶を返す。
ただの旅人という部分で、ウォルフが少し剣呑な眼差しを向けていたが。
ゴタロウに睨まれて、すぐに目をそらしていた。
「で、そのレジスタンスのウォルフさんが、私になんの用で?」
「あー、早い話がスカウトだな」
「はっ?」
何故、いきなりそんな話になるのか。
そもそも、この町に来たのは今日が初めてだというのに。
「この町に外から来た連中は入り口をくぐった時から、それなりの選別はあるがメンバーの誰かが見張ってる」
「知ってますよ」
「そっか……気付かれてたのか」
むしろ、何故気付かれてないと思ったのだろうか。
あんな怪しい恰好の人間が、門を過ぎた辺りから後ろをついてくれば誰でも気になると思うが。
「見ての通りこの町は、いまかなりおかしなことになってる」
「この町のことをしらないので、これがおかしいかどうかは分かりませんが。普通じゃないという認識はあるのですね。安心しました」
「こんな街、普通にあってたまるか」
「冗談です。あと、何が言いたいのですか?」
「簡単にいうと、一度町に入ってしまえば骨の髄までしゃぶられて、死ぬまでここからは出られなくなる」
「ほう」
「町のあちこちにいた、無気力な顔をした浮浪者ども。あれは、もともと外から来た商人や観光客、冒険者だ」
へぇ。
この町で散々ぼったくられて、素寒貧になってしまったってとこか?
いや、普通に町から出たらいいだけじゃ。
「入町に関しては審査は緩いが、外に出るには厳しい審査が待っていてな。3日は時間が掛かる……そうなれば、あっというまに有り金全部巻き上げられ、しかも出町税が払えないとなる。無理に通ろうとすれば、脱税でお縄にかけられる」
「外の町に助けを求めたりしないのか?」
「できればしてるさ……ただ、街道警備隊も買収されていてな。ここから出て歩いてる時点で、すぐにマークされるよ」
うーん、ゴタロウなら簡単に出られそうだけどな。
「一応町の住人に対しては、最低限の生活の保障はされてるが。高額の税金を請求される……それを払うために、外の人間を食い物にするわけだ」
「それって、町としてすぐに破綻するんじゃないか?」
「外からは人がくるし、町の人間が金を巻き上げやすくするよう、領主の方も人を出したりして手伝ってくれるからな」
そうか……最初の宿屋で入り口を塞いだ男。
あれは、この町の兵だったのか。
どうりで、ガタイが良いと思った。
てか、凄い町に来てしまった。
逃げるか?
(ニコ様は、どうされるので)
バフマシマシニコだから、きっと大丈夫。
本気出したら、あっさり逃げ切れるよ。
(フィーナが暴れそうですね)
そうだな。
「聞いてるのか?」
「それと、私に声を掛けたことに何の関係が?」
聞いてなかったことを気にも止めず、質問を被せるゴタロウ。
対応雑だなー。
「あー、勿論俺達もどうにかして外に出たいわけだ。それに、なぜ領主が変わってしまったのかも気になる」
「回りくどい、端的に言え」
「ちっ、愛想のない兄さんだ」
「話す気がないなら、もう出るぞ?」
ゴタロウ的には、とっととニコを助け出して出たくなったんだろうな。
俺が変なことを言ったから、もうすぐにでも解決したいと考えたのだろう。
「ようは、ここの洗礼をものともしないよそ者は、貴重な戦力になる。あんたみたいに腕の立つやつや、法外な価格設定もものともしない経済力を持ったやつとかはな」
「それで? お前たちは私に何を提供できるんだ?」
「はあ……普通の生活だな。三食食べて、きちんと眠れる環境だ」
なるほど、レジスタンスの基地かなにかで匿ってくれるということか?
かといって、そこが安全かどうかは、確かめようもないが。
「この話をして乗っかってくる人間は、多くはないが。困ってるやつほど、簡単に乗ってくれるんだけど……」
ウォルフがゴタロウと見て、ため息を吐く。
「兄さんは、少々のことじゃ困りそうにないな」
「ああ、最悪この町から抜け出すことも、問題ないだろう」
「入町審査の時も、身分証を出してなかったしな」
「持ってないからな」
確かにガッチリ身元が割れたら、途中の村とかに追ってが先回りしそうだしな。
そういう点だと、今回みたいなケースはプラスに働いたわけか。
身元証明書を再発行して提示すれば、大銀貨1枚返ってくるとなれば。
本当に紛失したものなら、意地でも町で再発行するだろうし。
「手伝うといっても、面と向かって領主とやらに歯向かうつもりもないのだろう?」
「まあ、いまはまだ戦力が足りない。ただ、あの領主には何かしらの秘密があるはずだってリーダーが言ってる。それが分かれば」
別にこいつらの手を借りなくても、どうにでもなりそうだが。
ゆっくりできる場所は、魅力的か?
(別に2~3日眠らなくても大丈夫です)
俺は別にそういう場所を必要としないので、ゴタロウに確認。
ゴタロウもあんまり必要じゃなさそうだ。
あとは、興味があるかどうかか……
「そのリーダとやらには会えるのか?」
「そいつは、無理だな。信用が出来るやつ以外は、リーダーは顔を見せねーから」
「ふーん、まあ下っ端じゃ話にならんな。私に手伝って欲しければ、リーダー直々に頼むことだ。じゃあな」
「あっ、ちょっと!」
リーダーと話が出来るんだったら、考えたけど。
まあ、こうなったら勝手に領主の館にでも乗り込んで、ニコを連れて……
ついでに、領主も潰しておこうか。
きな臭いことになってるみたいだし。
いや、だったらレジスタンスを隠れ蓑にした方が、良いのかな?
第一目標は、すべてにおいて正常な状態でニコを連れて町を出ることだ。
ニコに前科がついてしまったり、指名手配されてしまったら面倒だ。
「と思ったが、色々と面倒だからお前たちの力を使ってやろう」
「ええ? 凄く偉そう。というか、こっちが手伝ってもらう予定なんだけど」
「とりあえず、リーダーに合わせろ」
「聞いて? 俺の話聞いて? あと、俺如きじゃリーダーに繋ぎなんてつけられないから。あとよそ者をかくまう場所に案内できても、流石に基地までは案内できないぞ?」
ゴタロウの物言いにウォルフが面食らったような表情をしたあとで、慌てて手を顔の横で振っていた。
思った以上に、役に立たんな。
「案内できないというなら、案内せざるを得ないようにするまでだが?」
「ちょっ、なに……やめて。その物騒なものしまおうか? 落ち着いて話せば分かる」
ゴタロウが俺じゃなくて、懐に忍ばせた小刀を抜いてウォルフにゆっくりと近づいていく。
ウォルフが慌てて腰に手をやるが。
忘れたのか?
お前の武器は、最初に奪ったって言ったの。
あと、自分の得物がないことくらい、重みでわかろうなものなのに。
こいつは、あんまりやらないタイプの人間なのだろう。
「とりあえず小指からいくから、案内したくなったらいつでも言え! ただ、早く言わないと何も握れない手になるぞ?」
「案内すりゅ!」
すりゅて……
てか、折れるのはや。
まだ、脅し言葉だけで触れてもいないのに。
「はぁ……絶対、怒られるわ俺」
「大丈夫だ、私を味方に引き込めたならば……全て解決する」
「凄い自信だな」
ゴタロウの言葉に両手をあげて降参のポーズをしたウォルフが、しぶしぶと前を歩いて案内を始める。
チラチラとこっちを気にしてるけど、どこかで巻いて逃げようとか考えてないかな?
おい、ゴタロウ。
(はっ)
ゴタロウが、ウォルフの腰にロープを巻いて握る。
めっちゃ、げんなりした顔でこっちを見てた。
「あのなぁ……」
「ん? 私が迷子にならないための、迷子紐だ」
「普通、逆じゃないのか? 迷子になりそうな方が、腰に巻くんじゃ」
「気にするな」
「いや、恥ずかしいし、気にするよ」
と言っても、裏路地をひたすら歩いているから、他の人の視線なんてないんだけどな。
だから、恥ずかしくいだろう。
「絶対、馬鹿にされる」
「言いたいやつには、言わせとけ」
「いま、いいこと言ったみたいな顔してたけど。使いどころおかしいから! これ、誰が見ても馬鹿にするやつだから!」
こいつ、自分が人質にされてるってこと気付いてないよな。
普通に脅されて、アジトに案内してますって体してるけど。
まあ、こいつに限ってとは思うほど間抜けだが。
そもそも町で酷い目にあったからって、レジスタンスを名乗っただけで信用してもらえると思ってる時点であれだよな。
能天気というか。
信用できる部分が、何ひとつない。
普通についていったら、身ぐるみすら剥がされるんじゃないかとかって、思われてそう。
よっぽど追い詰められてないと、すがらないよ。
怪しいもん。
フードで顔隠して、後ろ付いてくるやつとか。
だから妥協して信用して、ウォルフに付いて行ってるんじゃないんだよなぁ。
ウォルフを人質に、そのレジスタンスのリーダーとやらと交渉する予定なんだけど。
「本当は、色々と絶景スポットとか見てもらいたいんだけどなぁ……町の外に出られないから、俺も長いこと外の景色見てないし」
「そうか。じゃあ、明日時間があったら見てみるかな」
「聞いてた? 外に出られないって」
「お前はだろう……私なら、問題ない」
「へぇ、凄い凄い! ぐえっ」
ちょっと小ばかにした態度に腹が立ったのか、ゴタロウが紐を軽く引っ張っていた。
お腹がしまって、腹を押された蛙みたいな声だしてたけど。
本気で引っ張ったら、たぶん上半身と下半身が分かれるんだろうな。
ゴタロウの優しさに感謝しろよ。
廃墟の床に転がしておいた男が、背伸びをしながら目を覚ます。
ご機嫌だ。
よく眠れたらしい。
ゴタロウはテトの森奥地の植物で作った、睡眠薬を嗅がせたらしいが。
まあ、それ以外にもいろいろな作用がある薬らしく。
あれだ……
気分がよくなる的な。
質の良い睡眠がとれたのだろう。
目をこすって、あたりをキョロキョロと見渡しているが。
その表情は晴れやかな笑顔。
といっても、まだ夜なんだけどね。
「こ! ここは!」
「お前の方が、よく知ってる場所じゃないのか?」
徐々に意識が覚醒してきたのか。
自身の置かれた状況をようやく把握することが出来たらしい。
ゴタロウの声を聞いて、慌てて反対側に飛び退って腰に手を持って行ってるが。
「武器なら預かったぞ?」
「えっ? なっ……」
残念、男の移動先にゴタロウが先回りしてたため、背中からぶつかってさらに前に転がって振り返ることに。
「元気なやつだ」
しかし、さらにゴタロウがそれを先回りして移動したため、今度は転がった先にゴタロウの足が。
「ちっ!」
横っ飛びに地面を転がって移動する男。
ところが、ゴタロウはその男の行動を読んで先回り。
男の肩がゴタロウの足にあたる。
「囲まれたか!」
斜め後ろに跳んだ男。
残念、そこには先回りしたゴタロウが……
ゴタロウ、いい加減にしなさい。
あと、囲まれてないから安心しなさい。
「はは、あまりに身軽に飛び回るため、どこまで動けるかと」
「なっ! お兄さん1人か?」
ゴタロウは俺に答えたつもりだが、ナチュラルに男との会話にも発展できそうなセリフ。
ニコと違って、言葉を選んだのかな?
それとも、たまたまかな。
「……ええ、私しかいませんよ」
一瞬、俺を頭数に入れようか悩んだっぽいけど。
「なんか、妙な間が空いたのが気になるけど。それで、俺になんの用だ!」
この男は、馬鹿なのだろうか?
用があったのは、お前だろう。
もしかして、あの薬って前後の記憶が飛んだりとか……
(そんな副作用はありませんよ)
おお、そうだった。
思念が読み取れるから、別に言葉に出さなくても会話できるんだった。
「はは、用があって引き留めたのはそっちでしょう。あまりに鬱陶しかったので眠ってもらおうと思ったのですが、ちょっと気になる言葉が聞こえてきたので」
「ああ、そうか……そういえば、追っかけまわしてたのは俺の方だったか」
ゴタロウの言葉に、はっきりと意識を取り戻すように額に手をおいて頭を振る男。
少し薄汚れてはいるが、茶髪の20代後半くらいの男性。
フード付きのローブも脱がせておいたが、下には鉄の胸当てを着けていた。
腰に剣を下げた、いかにも冒険者っぽい出で立ち。
「俺の名前はウォルフ、うっかり口をすべらせたがこの町の反逆軍のメンバーだ」
「私はロウ、ただの旅人です」
「ただの旅人ねぇ……」
頭を掻きながら握手を要求するように手を出してきたウォルフ。
その手を冷めた目で眺めつつ、手を取る気はないと腕を組んでアピールしつつゴタロウが挨拶を返す。
ただの旅人という部分で、ウォルフが少し剣呑な眼差しを向けていたが。
ゴタロウに睨まれて、すぐに目をそらしていた。
「で、そのレジスタンスのウォルフさんが、私になんの用で?」
「あー、早い話がスカウトだな」
「はっ?」
何故、いきなりそんな話になるのか。
そもそも、この町に来たのは今日が初めてだというのに。
「この町に外から来た連中は入り口をくぐった時から、それなりの選別はあるがメンバーの誰かが見張ってる」
「知ってますよ」
「そっか……気付かれてたのか」
むしろ、何故気付かれてないと思ったのだろうか。
あんな怪しい恰好の人間が、門を過ぎた辺りから後ろをついてくれば誰でも気になると思うが。
「見ての通りこの町は、いまかなりおかしなことになってる」
「この町のことをしらないので、これがおかしいかどうかは分かりませんが。普通じゃないという認識はあるのですね。安心しました」
「こんな街、普通にあってたまるか」
「冗談です。あと、何が言いたいのですか?」
「簡単にいうと、一度町に入ってしまえば骨の髄までしゃぶられて、死ぬまでここからは出られなくなる」
「ほう」
「町のあちこちにいた、無気力な顔をした浮浪者ども。あれは、もともと外から来た商人や観光客、冒険者だ」
へぇ。
この町で散々ぼったくられて、素寒貧になってしまったってとこか?
いや、普通に町から出たらいいだけじゃ。
「入町に関しては審査は緩いが、外に出るには厳しい審査が待っていてな。3日は時間が掛かる……そうなれば、あっというまに有り金全部巻き上げられ、しかも出町税が払えないとなる。無理に通ろうとすれば、脱税でお縄にかけられる」
「外の町に助けを求めたりしないのか?」
「できればしてるさ……ただ、街道警備隊も買収されていてな。ここから出て歩いてる時点で、すぐにマークされるよ」
うーん、ゴタロウなら簡単に出られそうだけどな。
「一応町の住人に対しては、最低限の生活の保障はされてるが。高額の税金を請求される……それを払うために、外の人間を食い物にするわけだ」
「それって、町としてすぐに破綻するんじゃないか?」
「外からは人がくるし、町の人間が金を巻き上げやすくするよう、領主の方も人を出したりして手伝ってくれるからな」
そうか……最初の宿屋で入り口を塞いだ男。
あれは、この町の兵だったのか。
どうりで、ガタイが良いと思った。
てか、凄い町に来てしまった。
逃げるか?
(ニコ様は、どうされるので)
バフマシマシニコだから、きっと大丈夫。
本気出したら、あっさり逃げ切れるよ。
(フィーナが暴れそうですね)
そうだな。
「聞いてるのか?」
「それと、私に声を掛けたことに何の関係が?」
聞いてなかったことを気にも止めず、質問を被せるゴタロウ。
対応雑だなー。
「あー、勿論俺達もどうにかして外に出たいわけだ。それに、なぜ領主が変わってしまったのかも気になる」
「回りくどい、端的に言え」
「ちっ、愛想のない兄さんだ」
「話す気がないなら、もう出るぞ?」
ゴタロウ的には、とっととニコを助け出して出たくなったんだろうな。
俺が変なことを言ったから、もうすぐにでも解決したいと考えたのだろう。
「ようは、ここの洗礼をものともしないよそ者は、貴重な戦力になる。あんたみたいに腕の立つやつや、法外な価格設定もものともしない経済力を持ったやつとかはな」
「それで? お前たちは私に何を提供できるんだ?」
「はあ……普通の生活だな。三食食べて、きちんと眠れる環境だ」
なるほど、レジスタンスの基地かなにかで匿ってくれるということか?
かといって、そこが安全かどうかは、確かめようもないが。
「この話をして乗っかってくる人間は、多くはないが。困ってるやつほど、簡単に乗ってくれるんだけど……」
ウォルフがゴタロウと見て、ため息を吐く。
「兄さんは、少々のことじゃ困りそうにないな」
「ああ、最悪この町から抜け出すことも、問題ないだろう」
「入町審査の時も、身分証を出してなかったしな」
「持ってないからな」
確かにガッチリ身元が割れたら、途中の村とかに追ってが先回りしそうだしな。
そういう点だと、今回みたいなケースはプラスに働いたわけか。
身元証明書を再発行して提示すれば、大銀貨1枚返ってくるとなれば。
本当に紛失したものなら、意地でも町で再発行するだろうし。
「手伝うといっても、面と向かって領主とやらに歯向かうつもりもないのだろう?」
「まあ、いまはまだ戦力が足りない。ただ、あの領主には何かしらの秘密があるはずだってリーダーが言ってる。それが分かれば」
別にこいつらの手を借りなくても、どうにでもなりそうだが。
ゆっくりできる場所は、魅力的か?
(別に2~3日眠らなくても大丈夫です)
俺は別にそういう場所を必要としないので、ゴタロウに確認。
ゴタロウもあんまり必要じゃなさそうだ。
あとは、興味があるかどうかか……
「そのリーダとやらには会えるのか?」
「そいつは、無理だな。信用が出来るやつ以外は、リーダーは顔を見せねーから」
「ふーん、まあ下っ端じゃ話にならんな。私に手伝って欲しければ、リーダー直々に頼むことだ。じゃあな」
「あっ、ちょっと!」
リーダーと話が出来るんだったら、考えたけど。
まあ、こうなったら勝手に領主の館にでも乗り込んで、ニコを連れて……
ついでに、領主も潰しておこうか。
きな臭いことになってるみたいだし。
いや、だったらレジスタンスを隠れ蓑にした方が、良いのかな?
第一目標は、すべてにおいて正常な状態でニコを連れて町を出ることだ。
ニコに前科がついてしまったり、指名手配されてしまったら面倒だ。
「と思ったが、色々と面倒だからお前たちの力を使ってやろう」
「ええ? 凄く偉そう。というか、こっちが手伝ってもらう予定なんだけど」
「とりあえず、リーダーに合わせろ」
「聞いて? 俺の話聞いて? あと、俺如きじゃリーダーに繋ぎなんてつけられないから。あとよそ者をかくまう場所に案内できても、流石に基地までは案内できないぞ?」
ゴタロウの物言いにウォルフが面食らったような表情をしたあとで、慌てて手を顔の横で振っていた。
思った以上に、役に立たんな。
「案内できないというなら、案内せざるを得ないようにするまでだが?」
「ちょっ、なに……やめて。その物騒なものしまおうか? 落ち着いて話せば分かる」
ゴタロウが俺じゃなくて、懐に忍ばせた小刀を抜いてウォルフにゆっくりと近づいていく。
ウォルフが慌てて腰に手をやるが。
忘れたのか?
お前の武器は、最初に奪ったって言ったの。
あと、自分の得物がないことくらい、重みでわかろうなものなのに。
こいつは、あんまりやらないタイプの人間なのだろう。
「とりあえず小指からいくから、案内したくなったらいつでも言え! ただ、早く言わないと何も握れない手になるぞ?」
「案内すりゅ!」
すりゅて……
てか、折れるのはや。
まだ、脅し言葉だけで触れてもいないのに。
「はぁ……絶対、怒られるわ俺」
「大丈夫だ、私を味方に引き込めたならば……全て解決する」
「凄い自信だな」
ゴタロウの言葉に両手をあげて降参のポーズをしたウォルフが、しぶしぶと前を歩いて案内を始める。
チラチラとこっちを気にしてるけど、どこかで巻いて逃げようとか考えてないかな?
おい、ゴタロウ。
(はっ)
ゴタロウが、ウォルフの腰にロープを巻いて握る。
めっちゃ、げんなりした顔でこっちを見てた。
「あのなぁ……」
「ん? 私が迷子にならないための、迷子紐だ」
「普通、逆じゃないのか? 迷子になりそうな方が、腰に巻くんじゃ」
「気にするな」
「いや、恥ずかしいし、気にするよ」
と言っても、裏路地をひたすら歩いているから、他の人の視線なんてないんだけどな。
だから、恥ずかしくいだろう。
「絶対、馬鹿にされる」
「言いたいやつには、言わせとけ」
「いま、いいこと言ったみたいな顔してたけど。使いどころおかしいから! これ、誰が見ても馬鹿にするやつだから!」
こいつ、自分が人質にされてるってこと気付いてないよな。
普通に脅されて、アジトに案内してますって体してるけど。
まあ、こいつに限ってとは思うほど間抜けだが。
そもそも町で酷い目にあったからって、レジスタンスを名乗っただけで信用してもらえると思ってる時点であれだよな。
能天気というか。
信用できる部分が、何ひとつない。
普通についていったら、身ぐるみすら剥がされるんじゃないかとかって、思われてそう。
よっぽど追い詰められてないと、すがらないよ。
怪しいもん。
フードで顔隠して、後ろ付いてくるやつとか。
だから妥協して信用して、ウォルフに付いて行ってるんじゃないんだよなぁ。
ウォルフを人質に、そのレジスタンスのリーダーとやらと交渉する予定なんだけど。
「本当は、色々と絶景スポットとか見てもらいたいんだけどなぁ……町の外に出られないから、俺も長いこと外の景色見てないし」
「そうか。じゃあ、明日時間があったら見てみるかな」
「聞いてた? 外に出られないって」
「お前はだろう……私なら、問題ない」
「へぇ、凄い凄い! ぐえっ」
ちょっと小ばかにした態度に腹が立ったのか、ゴタロウが紐を軽く引っ張っていた。
お腹がしまって、腹を押された蛙みたいな声だしてたけど。
本気で引っ張ったら、たぶん上半身と下半身が分かれるんだろうな。
ゴタロウの優しさに感謝しろよ。
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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