錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

文字の大きさ
上 下
40 / 91
第3章:奴隷と豚

第4話:メノウの町潜入

しおりを挟む
 よし、まずは検問だが……
 この調子なら問題なさそうだ。

「身分証がない?」
「ええ、ここに来る前にゴブリンの群れに襲われまして」
「ちっ、まあ良い。入町税と仮滞在許可証で合わせて大銀貨2枚だ。身分証の再発行が完了したら、仮滞在許可証を返せば大銀貨1枚は変換されるからな」

 うん、スムーズ。
 とはいえ、税金高くね?
 身分証がないからかもしれないけど。

 入国滞在ビザの手続きの金額としても、1万円はでかいなぁ……
 物価に照らし合わせたら、3万円くらいの感覚だし。

 まあ、考えても仕方ない。
 まずは取り合えず、宿の確保だな。
 それから、情報収集だ。

「はっ」

 俺の言葉に、短く答える壮年の男性。
 うん、ゴタロウ。
 肌色に変色したゴタロウ。
 肌が肌色に……
 変な言葉だなんだと思いつつ、ちょっと気に入ってきた。

 結局フィーナじゃ色々と問題を起こすし、起きるだろうということで彼女は町の外に置いてきた。
 というか、近所のゴブリンの集落に。
 そして代わりに、ゴタロウと潜伏……かな?
 観光がてら、ニコの救出……
 いや、字面的にニコの救出がてら、観光の方がいいかな?

 フィーナを置いてきた集落だけど。
 いきなりロードが滞在することとなったため、集落は上に下にの大騒ぎだったが。
 フィーナの機嫌が悪いせいで、ゴブリン達の表情も……いや、よく分からないけどさ。
 ナチュラルゴブリンの表情は、すべてが醜く歪んで見えるし。

 そして、長老っぽいゴブリン達が胃の辺りを抑えつつ、色々とフィーナの世話を焼いている。
 生の肉を持って行ったり、大きな葉っぱで扇いだり。
 うーん……女王様みたいだ。

 あまりに環境があれなので、ランドールにゴブリンカーペンターズを派遣させる。

『我は、馬車ではないぞ』

 そんなことをぼやいていたが、それでも頼まれたことはやってくれる。
 どうせやってくれるなら快く引き受けてくれた方が、こっちの印象もよくなるのに。
 一言いわないと、気が済まないらしい。

『お主のう、ドラゴンというのは全ての生物の頂点に君臨する種族なのだぞ?』

 あー、すまんな。
 俺は生物じゃないから、その序列は関係ないんだわ。 
 分かるかなぁ?

『そういう意味でいったわけじゃないのだがな。お主は分かっていて、そういう物言いをする』

 これでも感謝はしてるんだがな。

 あっちがああいう態度なので、どうも素直にその気持ちを伝えることに抵抗が。
 お互い素直になるべきだと思うぞ?
 だから、まずはランドールから歩み寄るべきだな。

『それだと、いつまでたっても平行線だろう』

 お前が折れたら、すぐに交わると思うが?
 
『反対に折れそうだ』
 
 そしたら俺も反対に折れるかな。
 そうなったなら、戦争だな?

『もと人間とは思えぬほどに物騒で、乱暴なやつだな……いや、人間とはそういう生き物か?』

 いやぁ、武器だからじゃないか?
 剣だから物騒だし、乱暴なんだろう。

『お主に、口で勝てる気がせぬ』

 年の功ってやつだ。
 まあ、口以外でも勝ってるがな。

『分かった分かった、もうじき着くから狼煙でもあげさせてくれ』

 それからすぐに上空に影が差したので、火魔法を打ち込んどいた。
 上から「あつっ!」という声が聞こえたけど、炎熱無効持ってなかったっけ?

 まあいいや。

「本当に乱暴なやつめ」

 俺を腰に下げたゴタロウが、竜形態のランドールに顔を寄せられて少し困り顔をしている。

 お前が毎回ピンチを待って登場のタイミングを計らなかったら、もう少し気遣ってやるんだがな。

「今回は、たまたま戻ってすぐにことが起こったんじゃ。いつもいつも、人の住処の周りを飛び回れるわけないだろう」

 確かに。
 それよりも、念話のスキルを寄越せ。

「それが人にものを頼む態度か」

 お前は人じゃなくて、竜な?
 まあ良いや、血を寄越せください。

「はぁ……」

 ため息をついたランドールは自分の指を噛んで、つま先をはじいて血をピッピッと飛ばしてきた。
 ゴタロウの顔にも掛かって、ちょっと迷惑そうな顔をしていたけど。
 嘗めとけ嘗めとけ。
 強化されるかもしれんぞ?
 
 俺の言葉に、ゴタロウが頬を手でぬぐって嘗めていた。
 やっぱり、素直って大事だよな。

 俺の方も念話を獲得できたし。
 これで、離れていても意思疎通ができるわけか……

「ああ、相手が念話を覚えてないと一方通行になるからな? 会話しようと思ったら相手の思念を読み取るスキルがいるぞ?」

 それも、寄越せください。

「はぁ……」

 思念傍受のスキルもゲット。
 相手がこっちを意識して、思考を向けると読み取れるようになるらしい。
 こちらに向けてない場合は、無理と。
 へぇ……
 あと、こっちを意識してても検討違いの方向に向けて、念じても受信できないらしい。
 なんか……便利なんだか、不便なんだかってスキルだな。

 いや、便利か。

 取り合えず、そのままランドールにフィーナの見張りを任せて、ゴタロウとメノウの町へ向かうことに。

「我も、人化がかなり上手くなったぞ?」

 そういって、2m弱の美少年に変身するランドール。
 うーん……10代前半の容姿で、2m超え……
 顔はどうにかできないのか?
 
 元々の年齢が若いから、それはまた別系統のスキルになるらしく。
 サイズ調整と並行すると、身長がもう少し伸びるらしい。
 あと角が生えると……

 よし、フィーナは任せた。

「えぇ? たかが数十cmくらい、誤差の範囲だろう」

 竜からすればそうかもしれないが、人にとって身長数十cmはかなり大きい。
 ランドールも拗ねてしまったので、余計にゴブリンたちの心労が増えてしまった。

 あとで色々と、ケアしておこう。

 そんなこんなで、町の中に。
 
「なんとも、嫌な雰囲気の町ですね」

 そうだな。
 衛兵や一部の人達は、にこやかな表情で町の中を歩いているが。
 そうじゃない人たちの表情が、かなり暗い。
 それに全体的に痩せている人が多い。

 目抜き通りを歩いているが、路地裏に目をやると無気力な目をしたガリガリの人が座っていたり。
 汚い恰好の子供達が、身を寄せ合ってこっちをジッと見ていたり。
 
 なんだろう。
 明暗がはっきりしてるというか。

 ただ、やたら人が居るイメージ。
 俺達を見て、可哀そうなものを見るような憐愍の眼差しを向けてくる人も多い。

 どういうことだろうな……

 取り合えず、宿に。

「ああ、いらっしゃい」

 適当に綺麗そうな外見の建物に。
 中に居たのは、比較的裕福そうな店主。

「お客さん、今日この町に?」
「ええ、部屋は空いてるかな?」
「空いてるよ。一泊金貨1枚だけど、良いかい?」

 高すぎじゃないか?
 おっと、後ろの入り口に立ってたドアマンが退路を塞ぐように、移動している。
 ここ、だめなやつだな。

 ゴタロウ、逃げられるか?
 危害を加えずに。

 俺の指示に、ゴタロウが頷いて地面に何かを叩きつける。
 煙幕に包まれたかと思うと、宿の外に立っていた。

 急いで離れようか。

 中で何やら騒ぎ声が聞こえてきたが、無視して移動する。

 宿に入るときからこっちを見ていた奴がいたが、俺達が外に出たときにちょっと驚いた表情を浮かべていた。
 それから、俺達が移動を開始したら、適当な距離を空けて追いかけてくる。
 うーん……
 怪しい。

 フード付きのマントを羽織って、顔を隠しているが。
 何が目的なのだろうか。

 取り合えず、その後も宿屋に入ってはみたが。
 どこも似たようなぼったくりだった。

 それ以外の宿屋は、休業の看板が掲げられているし。
 なんとも。

 居酒屋かどこかで、情報収集しようかとも思ったが。
 この調子でいったら、そこでもぼったくられそうだな。

 困った……

「おにいさん、この町ははじめて?」

 にっちもさっちもいかなくなって、途方に暮れていたら可愛らしい声で話しかけられた。
 10歳くらいの女の子。
 薄汚れた服だけど、口の周りに紅のようなものをさしている。

「泊まるところがなくて困ってるんでしょ? うちに泊まる? 大銀貨1枚でいいよ……もっとくれたら、サービスもしてあげる」

 そういって、服の胸元を引っ張って中を見せようとする少女。
 頭があったら、思わず抑えていただろう。
 どうなってるんだ、この町は。

 たぶんだけど、これついていったら怖い人が出てくるやつだろうし。
 そうじゃないにしても、子供がこんなことを……

 一部の人達は楽しそうに街を歩いているのに、道端にうずくまってる無気力な人間はいるし。
 やけに物価が高いうえに、幼い子供までこんなことを……

「悪いが、子供に興味はない」
 
 ゴタロウがそういって少女の頭を撫でると、すぐに振り払われる。

「ふんだ! いくじなし」

 いや、いくじなしって……
 よく分からない罵声を吐いて、少女が駆けって逃げていったけど。
 おいおいおいおい……

 ゴタロウ、逃げろ!
 
 ここから立ち去った少女が衛兵を捕まえて、こっちを指さして何か喚いている。
 良い予感が、まったくしない。

 俺の指示を受けてゴタロウが、その場から速足で立ち去ろうとする。

「兄さん、こっちだ!」

 ほぼそれと同時に、ずっと後ろをついてきていたフードの男がこっちに手招きする。
 こいつも大概怪しいからな。

 そうだな、反対に逃げよう!

「はい!」
「えっ?」

 俺達が男と正反対の方向に駆け出したのを見て、慌てて追いかけてきた。

「おいおい、あんたら困ってるんだろう? ちょっと話だけでも聞いてくれよ」

 男が必死に追いすがってくる。
 うーん、やっぱり怪しい。
 一度立ち止まって、意識を奪うか?

「宜しいので?」

 大事にならないように、一瞬で出来るか?

「まあ、簡単ですが……」
「助けてやるから、こっちも手伝って欲しいことがあるんだよ!」

 こっちが速度をゆるめたことで、そんなに大きな声じゃなくても聞こえる距離に。
 そして、何かのたまっている。

 よし、俺が合図したらやれ!

「一度中に入っちまったら、一部の人間を除いてこの町から出られないんだよ!」

 うーん……

「半年前くらいから、領主がおかしくなっちまって……取り合えず、そこの先を曲がったところに抜け道があるから! その先で話だけでも聞いてくれ!」
「なんで、そんなに必死なんだ? そこを曲がったところで、待ち伏せか?」
「いやそっちこそ、なんでそんなに疑り深いんだよ!」
「この町に数時間いるだけで、町の住人は全員信用できなくなったぞ?」
「分かるけど、分かりたくねー!」

 もう、時間が惜しい。
 ゴタロウ!

「分かった、俺はレジスタンスなんだ! 今のおかしい町をどうにかしようと……」

 ゴタロウやっぱり、ストッ……あっ!
 そこまで喋ったところで男が、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

「申し訳ありません」

 ゴタロウが申し訳なさそうに、謝ってきたけど。
 流石にあのタイミングじゃ、止まれないよね?
 俺が悪かったよ。
 うーん、ゴタロウは素直だから、俺も素直になれる。
 持ち主の性格が影響……いや、銀色で金属だから鏡みたいに、相手の態度を写しだすのかも。
 錆びてるぶん、ちょっとあれな感じに。

 ということにしとこう。

 それよりも、だらしない表情で涎垂らして寝てるフードの男をどうするか。
 いや、ちょっとだけ話聞いても良いかなって思っただけだけど。
 
 取り合えず、そこを曲がったところの壁に細工がしてあるのは分かった。
 その壁の向こうの廃屋にいけるようだ。
 
 待ち伏せとか人の気配は無さそうだから、そこにこいつ運んで話だけでも聞いてやるか。
 聞くだけだけどな……

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...