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第3章:奴隷と豚
第4話:メノウの町潜入
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よし、まずは検問だが……
この調子なら問題なさそうだ。
「身分証がない?」
「ええ、ここに来る前にゴブリンの群れに襲われまして」
「ちっ、まあ良い。入町税と仮滞在許可証で合わせて大銀貨2枚だ。身分証の再発行が完了したら、仮滞在許可証を返せば大銀貨1枚は変換されるからな」
うん、スムーズ。
とはいえ、税金高くね?
身分証がないからかもしれないけど。
入国滞在ビザの手続きの金額としても、1万円はでかいなぁ……
物価に照らし合わせたら、3万円くらいの感覚だし。
まあ、考えても仕方ない。
まずは取り合えず、宿の確保だな。
それから、情報収集だ。
「はっ」
俺の言葉に、短く答える壮年の男性。
うん、ゴタロウ。
肌色に変色したゴタロウ。
肌が肌色に……
変な言葉だなんだと思いつつ、ちょっと気に入ってきた。
結局フィーナじゃ色々と問題を起こすし、起きるだろうということで彼女は町の外に置いてきた。
というか、近所のゴブリンの集落に。
そして代わりに、ゴタロウと潜伏……かな?
観光がてら、ニコの救出……
いや、字面的にニコの救出がてら、観光の方がいいかな?
フィーナを置いてきた集落だけど。
いきなりロードが滞在することとなったため、集落は上に下にの大騒ぎだったが。
フィーナの機嫌が悪いせいで、ゴブリン達の表情も……いや、よく分からないけどさ。
ナチュラルゴブリンの表情は、すべてが醜く歪んで見えるし。
そして、長老っぽいゴブリン達が胃の辺りを抑えつつ、色々とフィーナの世話を焼いている。
生の肉を持って行ったり、大きな葉っぱで扇いだり。
うーん……女王様みたいだ。
あまりに環境があれなので、ランドールにゴブリンカーペンターズを派遣させる。
『我は、馬車ではないぞ』
そんなことをぼやいていたが、それでも頼まれたことはやってくれる。
どうせやってくれるなら快く引き受けてくれた方が、こっちの印象もよくなるのに。
一言いわないと、気が済まないらしい。
『お主のう、ドラゴンというのは全ての生物の頂点に君臨する種族なのだぞ?』
あー、すまんな。
俺は生物じゃないから、その序列は関係ないんだわ。
分かるかなぁ?
『そういう意味でいったわけじゃないのだがな。お主は分かっていて、そういう物言いをする』
これでも感謝はしてるんだがな。
あっちがああいう態度なので、どうも素直にその気持ちを伝えることに抵抗が。
お互い素直になるべきだと思うぞ?
だから、まずはランドールから歩み寄るべきだな。
『それだと、いつまでたっても平行線だろう』
お前が折れたら、すぐに交わると思うが?
『反対に折れそうだ』
そしたら俺も反対に折れるかな。
そうなったなら、戦争だな?
『もと人間とは思えぬほどに物騒で、乱暴なやつだな……いや、人間とはそういう生き物か?』
いやぁ、武器だからじゃないか?
剣だから物騒だし、乱暴なんだろう。
『お主に、口で勝てる気がせぬ』
年の功ってやつだ。
まあ、口以外でも勝ってるがな。
『分かった分かった、もうじき着くから狼煙でもあげさせてくれ』
それからすぐに上空に影が差したので、火魔法を打ち込んどいた。
上から「あつっ!」という声が聞こえたけど、炎熱無効持ってなかったっけ?
まあいいや。
「本当に乱暴なやつめ」
俺を腰に下げたゴタロウが、竜形態のランドールに顔を寄せられて少し困り顔をしている。
お前が毎回ピンチを待って登場のタイミングを計らなかったら、もう少し気遣ってやるんだがな。
「今回は、たまたま戻ってすぐにことが起こったんじゃ。いつもいつも、人の住処の周りを飛び回れるわけないだろう」
確かに。
それよりも、念話のスキルを寄越せ。
「それが人にものを頼む態度か」
お前は人じゃなくて、竜な?
まあ良いや、血を寄越せください。
「はぁ……」
ため息をついたランドールは自分の指を噛んで、つま先をはじいて血をピッピッと飛ばしてきた。
ゴタロウの顔にも掛かって、ちょっと迷惑そうな顔をしていたけど。
嘗めとけ嘗めとけ。
強化されるかもしれんぞ?
俺の言葉に、ゴタロウが頬を手でぬぐって嘗めていた。
やっぱり、素直って大事だよな。
俺の方も念話を獲得できたし。
これで、離れていても意思疎通ができるわけか……
「ああ、相手が念話を覚えてないと一方通行になるからな? 会話しようと思ったら相手の思念を読み取るスキルがいるぞ?」
それも、寄越せください。
「はぁ……」
思念傍受のスキルもゲット。
相手がこっちを意識して、思考を向けると読み取れるようになるらしい。
こちらに向けてない場合は、無理と。
へぇ……
あと、こっちを意識してても検討違いの方向に向けて、念じても受信できないらしい。
なんか……便利なんだか、不便なんだかってスキルだな。
いや、便利か。
取り合えず、そのままランドールにフィーナの見張りを任せて、ゴタロウとメノウの町へ向かうことに。
「我も、人化がかなり上手くなったぞ?」
そういって、2m弱の美少年に変身するランドール。
うーん……10代前半の容姿で、2m超え……
顔はどうにかできないのか?
元々の年齢が若いから、それはまた別系統のスキルになるらしく。
サイズ調整と並行すると、身長がもう少し伸びるらしい。
あと角が生えると……
よし、フィーナは任せた。
「えぇ? たかが数十cmくらい、誤差の範囲だろう」
竜からすればそうかもしれないが、人にとって身長数十cmはかなり大きい。
ランドールも拗ねてしまったので、余計にゴブリンたちの心労が増えてしまった。
あとで色々と、ケアしておこう。
そんなこんなで、町の中に。
「なんとも、嫌な雰囲気の町ですね」
そうだな。
衛兵や一部の人達は、にこやかな表情で町の中を歩いているが。
そうじゃない人たちの表情が、かなり暗い。
それに全体的に痩せている人が多い。
目抜き通りを歩いているが、路地裏に目をやると無気力な目をしたガリガリの人が座っていたり。
汚い恰好の子供達が、身を寄せ合ってこっちをジッと見ていたり。
なんだろう。
明暗がはっきりしてるというか。
ただ、やたら人が居るイメージ。
俺達を見て、可哀そうなものを見るような憐愍の眼差しを向けてくる人も多い。
どういうことだろうな……
取り合えず、宿に。
「ああ、いらっしゃい」
適当に綺麗そうな外見の建物に。
中に居たのは、比較的裕福そうな店主。
「お客さん、今日この町に?」
「ええ、部屋は空いてるかな?」
「空いてるよ。一泊金貨1枚だけど、良いかい?」
高すぎじゃないか?
おっと、後ろの入り口に立ってたドアマンが退路を塞ぐように、移動している。
ここ、だめなやつだな。
ゴタロウ、逃げられるか?
危害を加えずに。
俺の指示に、ゴタロウが頷いて地面に何かを叩きつける。
煙幕に包まれたかと思うと、宿の外に立っていた。
急いで離れようか。
中で何やら騒ぎ声が聞こえてきたが、無視して移動する。
宿に入るときからこっちを見ていた奴がいたが、俺達が外に出たときにちょっと驚いた表情を浮かべていた。
それから、俺達が移動を開始したら、適当な距離を空けて追いかけてくる。
うーん……
怪しい。
フード付きのマントを羽織って、顔を隠しているが。
何が目的なのだろうか。
取り合えず、その後も宿屋に入ってはみたが。
どこも似たようなぼったくりだった。
それ以外の宿屋は、休業の看板が掲げられているし。
なんとも。
居酒屋かどこかで、情報収集しようかとも思ったが。
この調子でいったら、そこでもぼったくられそうだな。
困った……
「おにいさん、この町ははじめて?」
にっちもさっちもいかなくなって、途方に暮れていたら可愛らしい声で話しかけられた。
10歳くらいの女の子。
薄汚れた服だけど、口の周りに紅のようなものをさしている。
「泊まるところがなくて困ってるんでしょ? うちに泊まる? 大銀貨1枚でいいよ……もっとくれたら、サービスもしてあげる」
そういって、服の胸元を引っ張って中を見せようとする少女。
頭があったら、思わず抑えていただろう。
どうなってるんだ、この町は。
たぶんだけど、これついていったら怖い人が出てくるやつだろうし。
そうじゃないにしても、子供がこんなことを……
一部の人達は楽しそうに街を歩いているのに、道端にうずくまってる無気力な人間はいるし。
やけに物価が高いうえに、幼い子供までこんなことを……
「悪いが、子供に興味はない」
ゴタロウがそういって少女の頭を撫でると、すぐに振り払われる。
「ふんだ! いくじなし」
いや、いくじなしって……
よく分からない罵声を吐いて、少女が駆けって逃げていったけど。
おいおいおいおい……
ゴタロウ、逃げろ!
ここから立ち去った少女が衛兵を捕まえて、こっちを指さして何か喚いている。
良い予感が、まったくしない。
俺の指示を受けてゴタロウが、その場から速足で立ち去ろうとする。
「兄さん、こっちだ!」
ほぼそれと同時に、ずっと後ろをついてきていたフードの男がこっちに手招きする。
こいつも大概怪しいからな。
そうだな、反対に逃げよう!
「はい!」
「えっ?」
俺達が男と正反対の方向に駆け出したのを見て、慌てて追いかけてきた。
「おいおい、あんたら困ってるんだろう? ちょっと話だけでも聞いてくれよ」
男が必死に追いすがってくる。
うーん、やっぱり怪しい。
一度立ち止まって、意識を奪うか?
「宜しいので?」
大事にならないように、一瞬で出来るか?
「まあ、簡単ですが……」
「助けてやるから、こっちも手伝って欲しいことがあるんだよ!」
こっちが速度をゆるめたことで、そんなに大きな声じゃなくても聞こえる距離に。
そして、何かのたまっている。
よし、俺が合図したらやれ!
「一度中に入っちまったら、一部の人間を除いてこの町から出られないんだよ!」
うーん……
「半年前くらいから、領主がおかしくなっちまって……取り合えず、そこの先を曲がったところに抜け道があるから! その先で話だけでも聞いてくれ!」
「なんで、そんなに必死なんだ? そこを曲がったところで、待ち伏せか?」
「いやそっちこそ、なんでそんなに疑り深いんだよ!」
「この町に数時間いるだけで、町の住人は全員信用できなくなったぞ?」
「分かるけど、分かりたくねー!」
もう、時間が惜しい。
ゴタロウ!
「分かった、俺はレジスタンスなんだ! 今のおかしい町をどうにかしようと……」
ゴタロウやっぱり、ストッ……あっ!
そこまで喋ったところで男が、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
「申し訳ありません」
ゴタロウが申し訳なさそうに、謝ってきたけど。
流石にあのタイミングじゃ、止まれないよね?
俺が悪かったよ。
うーん、ゴタロウは素直だから、俺も素直になれる。
持ち主の性格が影響……いや、銀色で金属だから鏡みたいに、相手の態度を写しだすのかも。
錆びてるぶん、ちょっとあれな感じに。
ということにしとこう。
それよりも、だらしない表情で涎垂らして寝てるフードの男をどうするか。
いや、ちょっとだけ話聞いても良いかなって思っただけだけど。
取り合えず、そこを曲がったところの壁に細工がしてあるのは分かった。
その壁の向こうの廃屋にいけるようだ。
待ち伏せとか人の気配は無さそうだから、そこにこいつ運んで話だけでも聞いてやるか。
聞くだけだけどな……
この調子なら問題なさそうだ。
「身分証がない?」
「ええ、ここに来る前にゴブリンの群れに襲われまして」
「ちっ、まあ良い。入町税と仮滞在許可証で合わせて大銀貨2枚だ。身分証の再発行が完了したら、仮滞在許可証を返せば大銀貨1枚は変換されるからな」
うん、スムーズ。
とはいえ、税金高くね?
身分証がないからかもしれないけど。
入国滞在ビザの手続きの金額としても、1万円はでかいなぁ……
物価に照らし合わせたら、3万円くらいの感覚だし。
まあ、考えても仕方ない。
まずは取り合えず、宿の確保だな。
それから、情報収集だ。
「はっ」
俺の言葉に、短く答える壮年の男性。
うん、ゴタロウ。
肌色に変色したゴタロウ。
肌が肌色に……
変な言葉だなんだと思いつつ、ちょっと気に入ってきた。
結局フィーナじゃ色々と問題を起こすし、起きるだろうということで彼女は町の外に置いてきた。
というか、近所のゴブリンの集落に。
そして代わりに、ゴタロウと潜伏……かな?
観光がてら、ニコの救出……
いや、字面的にニコの救出がてら、観光の方がいいかな?
フィーナを置いてきた集落だけど。
いきなりロードが滞在することとなったため、集落は上に下にの大騒ぎだったが。
フィーナの機嫌が悪いせいで、ゴブリン達の表情も……いや、よく分からないけどさ。
ナチュラルゴブリンの表情は、すべてが醜く歪んで見えるし。
そして、長老っぽいゴブリン達が胃の辺りを抑えつつ、色々とフィーナの世話を焼いている。
生の肉を持って行ったり、大きな葉っぱで扇いだり。
うーん……女王様みたいだ。
あまりに環境があれなので、ランドールにゴブリンカーペンターズを派遣させる。
『我は、馬車ではないぞ』
そんなことをぼやいていたが、それでも頼まれたことはやってくれる。
どうせやってくれるなら快く引き受けてくれた方が、こっちの印象もよくなるのに。
一言いわないと、気が済まないらしい。
『お主のう、ドラゴンというのは全ての生物の頂点に君臨する種族なのだぞ?』
あー、すまんな。
俺は生物じゃないから、その序列は関係ないんだわ。
分かるかなぁ?
『そういう意味でいったわけじゃないのだがな。お主は分かっていて、そういう物言いをする』
これでも感謝はしてるんだがな。
あっちがああいう態度なので、どうも素直にその気持ちを伝えることに抵抗が。
お互い素直になるべきだと思うぞ?
だから、まずはランドールから歩み寄るべきだな。
『それだと、いつまでたっても平行線だろう』
お前が折れたら、すぐに交わると思うが?
『反対に折れそうだ』
そしたら俺も反対に折れるかな。
そうなったなら、戦争だな?
『もと人間とは思えぬほどに物騒で、乱暴なやつだな……いや、人間とはそういう生き物か?』
いやぁ、武器だからじゃないか?
剣だから物騒だし、乱暴なんだろう。
『お主に、口で勝てる気がせぬ』
年の功ってやつだ。
まあ、口以外でも勝ってるがな。
『分かった分かった、もうじき着くから狼煙でもあげさせてくれ』
それからすぐに上空に影が差したので、火魔法を打ち込んどいた。
上から「あつっ!」という声が聞こえたけど、炎熱無効持ってなかったっけ?
まあいいや。
「本当に乱暴なやつめ」
俺を腰に下げたゴタロウが、竜形態のランドールに顔を寄せられて少し困り顔をしている。
お前が毎回ピンチを待って登場のタイミングを計らなかったら、もう少し気遣ってやるんだがな。
「今回は、たまたま戻ってすぐにことが起こったんじゃ。いつもいつも、人の住処の周りを飛び回れるわけないだろう」
確かに。
それよりも、念話のスキルを寄越せ。
「それが人にものを頼む態度か」
お前は人じゃなくて、竜な?
まあ良いや、血を寄越せください。
「はぁ……」
ため息をついたランドールは自分の指を噛んで、つま先をはじいて血をピッピッと飛ばしてきた。
ゴタロウの顔にも掛かって、ちょっと迷惑そうな顔をしていたけど。
嘗めとけ嘗めとけ。
強化されるかもしれんぞ?
俺の言葉に、ゴタロウが頬を手でぬぐって嘗めていた。
やっぱり、素直って大事だよな。
俺の方も念話を獲得できたし。
これで、離れていても意思疎通ができるわけか……
「ああ、相手が念話を覚えてないと一方通行になるからな? 会話しようと思ったら相手の思念を読み取るスキルがいるぞ?」
それも、寄越せください。
「はぁ……」
思念傍受のスキルもゲット。
相手がこっちを意識して、思考を向けると読み取れるようになるらしい。
こちらに向けてない場合は、無理と。
へぇ……
あと、こっちを意識してても検討違いの方向に向けて、念じても受信できないらしい。
なんか……便利なんだか、不便なんだかってスキルだな。
いや、便利か。
取り合えず、そのままランドールにフィーナの見張りを任せて、ゴタロウとメノウの町へ向かうことに。
「我も、人化がかなり上手くなったぞ?」
そういって、2m弱の美少年に変身するランドール。
うーん……10代前半の容姿で、2m超え……
顔はどうにかできないのか?
元々の年齢が若いから、それはまた別系統のスキルになるらしく。
サイズ調整と並行すると、身長がもう少し伸びるらしい。
あと角が生えると……
よし、フィーナは任せた。
「えぇ? たかが数十cmくらい、誤差の範囲だろう」
竜からすればそうかもしれないが、人にとって身長数十cmはかなり大きい。
ランドールも拗ねてしまったので、余計にゴブリンたちの心労が増えてしまった。
あとで色々と、ケアしておこう。
そんなこんなで、町の中に。
「なんとも、嫌な雰囲気の町ですね」
そうだな。
衛兵や一部の人達は、にこやかな表情で町の中を歩いているが。
そうじゃない人たちの表情が、かなり暗い。
それに全体的に痩せている人が多い。
目抜き通りを歩いているが、路地裏に目をやると無気力な目をしたガリガリの人が座っていたり。
汚い恰好の子供達が、身を寄せ合ってこっちをジッと見ていたり。
なんだろう。
明暗がはっきりしてるというか。
ただ、やたら人が居るイメージ。
俺達を見て、可哀そうなものを見るような憐愍の眼差しを向けてくる人も多い。
どういうことだろうな……
取り合えず、宿に。
「ああ、いらっしゃい」
適当に綺麗そうな外見の建物に。
中に居たのは、比較的裕福そうな店主。
「お客さん、今日この町に?」
「ええ、部屋は空いてるかな?」
「空いてるよ。一泊金貨1枚だけど、良いかい?」
高すぎじゃないか?
おっと、後ろの入り口に立ってたドアマンが退路を塞ぐように、移動している。
ここ、だめなやつだな。
ゴタロウ、逃げられるか?
危害を加えずに。
俺の指示に、ゴタロウが頷いて地面に何かを叩きつける。
煙幕に包まれたかと思うと、宿の外に立っていた。
急いで離れようか。
中で何やら騒ぎ声が聞こえてきたが、無視して移動する。
宿に入るときからこっちを見ていた奴がいたが、俺達が外に出たときにちょっと驚いた表情を浮かべていた。
それから、俺達が移動を開始したら、適当な距離を空けて追いかけてくる。
うーん……
怪しい。
フード付きのマントを羽織って、顔を隠しているが。
何が目的なのだろうか。
取り合えず、その後も宿屋に入ってはみたが。
どこも似たようなぼったくりだった。
それ以外の宿屋は、休業の看板が掲げられているし。
なんとも。
居酒屋かどこかで、情報収集しようかとも思ったが。
この調子でいったら、そこでもぼったくられそうだな。
困った……
「おにいさん、この町ははじめて?」
にっちもさっちもいかなくなって、途方に暮れていたら可愛らしい声で話しかけられた。
10歳くらいの女の子。
薄汚れた服だけど、口の周りに紅のようなものをさしている。
「泊まるところがなくて困ってるんでしょ? うちに泊まる? 大銀貨1枚でいいよ……もっとくれたら、サービスもしてあげる」
そういって、服の胸元を引っ張って中を見せようとする少女。
頭があったら、思わず抑えていただろう。
どうなってるんだ、この町は。
たぶんだけど、これついていったら怖い人が出てくるやつだろうし。
そうじゃないにしても、子供がこんなことを……
一部の人達は楽しそうに街を歩いているのに、道端にうずくまってる無気力な人間はいるし。
やけに物価が高いうえに、幼い子供までこんなことを……
「悪いが、子供に興味はない」
ゴタロウがそういって少女の頭を撫でると、すぐに振り払われる。
「ふんだ! いくじなし」
いや、いくじなしって……
よく分からない罵声を吐いて、少女が駆けって逃げていったけど。
おいおいおいおい……
ゴタロウ、逃げろ!
ここから立ち去った少女が衛兵を捕まえて、こっちを指さして何か喚いている。
良い予感が、まったくしない。
俺の指示を受けてゴタロウが、その場から速足で立ち去ろうとする。
「兄さん、こっちだ!」
ほぼそれと同時に、ずっと後ろをついてきていたフードの男がこっちに手招きする。
こいつも大概怪しいからな。
そうだな、反対に逃げよう!
「はい!」
「えっ?」
俺達が男と正反対の方向に駆け出したのを見て、慌てて追いかけてきた。
「おいおい、あんたら困ってるんだろう? ちょっと話だけでも聞いてくれよ」
男が必死に追いすがってくる。
うーん、やっぱり怪しい。
一度立ち止まって、意識を奪うか?
「宜しいので?」
大事にならないように、一瞬で出来るか?
「まあ、簡単ですが……」
「助けてやるから、こっちも手伝って欲しいことがあるんだよ!」
こっちが速度をゆるめたことで、そんなに大きな声じゃなくても聞こえる距離に。
そして、何かのたまっている。
よし、俺が合図したらやれ!
「一度中に入っちまったら、一部の人間を除いてこの町から出られないんだよ!」
うーん……
「半年前くらいから、領主がおかしくなっちまって……取り合えず、そこの先を曲がったところに抜け道があるから! その先で話だけでも聞いてくれ!」
「なんで、そんなに必死なんだ? そこを曲がったところで、待ち伏せか?」
「いやそっちこそ、なんでそんなに疑り深いんだよ!」
「この町に数時間いるだけで、町の住人は全員信用できなくなったぞ?」
「分かるけど、分かりたくねー!」
もう、時間が惜しい。
ゴタロウ!
「分かった、俺はレジスタンスなんだ! 今のおかしい町をどうにかしようと……」
ゴタロウやっぱり、ストッ……あっ!
そこまで喋ったところで男が、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
「申し訳ありません」
ゴタロウが申し訳なさそうに、謝ってきたけど。
流石にあのタイミングじゃ、止まれないよね?
俺が悪かったよ。
うーん、ゴタロウは素直だから、俺も素直になれる。
持ち主の性格が影響……いや、銀色で金属だから鏡みたいに、相手の態度を写しだすのかも。
錆びてるぶん、ちょっとあれな感じに。
ということにしとこう。
それよりも、だらしない表情で涎垂らして寝てるフードの男をどうするか。
いや、ちょっとだけ話聞いても良いかなって思っただけだけど。
取り合えず、そこを曲がったところの壁に細工がしてあるのは分かった。
その壁の向こうの廃屋にいけるようだ。
待ち伏せとか人の気配は無さそうだから、そこにこいつ運んで話だけでも聞いてやるか。
聞くだけだけどな……
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