B級彼女とS級彼氏

まる。

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第4章 恋の手ほどきお願いします

第8話〜迷い〜

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 週明けにカメラアシスタントとしての初出勤を終え、本日が二回目の出勤となった。初日でエロ本の撮影だったから次は一体何が来るのかと不安で仕方なかったが、二回目の業務内容は事務所の掃除と言う何とも平和な仕事であった。自分の家は勿論の事、コンビニの仕事でも掃除は好きじゃない私が何故かここでは喜んで取り組んでいる。それはもう全力で。前回の仕事に比べれば掃除など何て事は無かった。

 ――そんな風に思ってしまうのは、矛盾しているのだと自分でもわかっている。
 カメラマンになりたいという夢を叶える為、慎吾さんや店長に無理言って退職するまでのシフトを変更してもらったりしたというのに、カメラの仕事よりもこんな雑用の方が嬉しいだなんて決して思ってはいけない事だ。でないと、店長や慎吾さんに示しが付かない。
 だからもし、誰かに新しい仕事の事で何か聞かれたら“楽しくてやりがいのある仕事”なのだと、例え本心では無いとしてもそう答えようと心に決めていた。

「おお、随分ここも見違えたな! よし、弁当買って来たから休憩すっか」

 レジ袋をぶら提げた桑山さんが、取引先から帰ってきた。
 桑山さんの荷物置き場と化していたアシスタント用のデスクを片付け、私はそこに腰を落とした。
 向かいのデスクに桑山さんが座り、二人で弁当を広げる。ここだけ見れば食事付きの和やかで過ごし易い職場なのだが、あの撮影現場を体験してしまった今となってはそんな呑気な気分では居られなかった。

「どうだ? この仕事は。随分刺激的だっただろ?」
「あ、――はい。……かなり」

 視線は弁当に向けたまま、桑山さんはガッツガッツと弁当を口の中に放り込んでいる。突然の問いかけに私の迷いが見透かされているのではないかと動揺し、大きく胸が跳ねた。途端、緊張で食が進まなくなった私は、割り箸を舐ったまま自分の弁当をじっと見つめていた。

「……まぁ、こないだみたいな依頼はこれからもあるっちゃああるけど、そればっかじゃねーから。スーパーのチラシとかもするし、結婚式場とかからも仕事が入ったりもする」
「……それって、ちゃんと服着てるんですよね?」

 一瞬桑山さんの口がポカーンとしていたが、すぐに顔をぐしゃぐしゃにして大声を上げて笑い出した。

「おま、当たり前だろ! どこの世界に裸で結婚式挙げる馬鹿いるんだよ!」
「……ですよねー」

 内心ホッとした私はやっと舐り箸を止め、弁当に手をつけた。桑山さんは笑いすぎて食べ物が変なところに入ってしまったのか、ドンドンと胸元を叩いている。側に置いていたウーロン茶のペットボトルの蓋を慌てて開けると、それを流し込みながらスクッと席を立った。

「?」

 デスクの上の桑山さんの弁当の中を見てみれば既に空っぽだった。いつの間にやら食べ終えていた事に焦りを感じ、私も急いで食べ始めた。

「ああ、ゆっくりでいいぞ。俺の早食いは職業病だから気にすんな」

 そう言うと桑山さんは煙草とライターを握り締め、ベランダへと出ていった。


 ◇◆◇

 そして、気付けば三週間ほど過ぎた。昼間はアシスタントの仕事をこなし、夜はコンビニの仕事を続けると言う二足の草鞋生活は流石にきついものがあった。特に昼の仕事は慣れない事ばかりで倍神経を使う。仕事内容はと言うと二対一くらいの比率でエロとエロでない仕事が入るとは聞いていたが、まさにその通りであった。
 ――そしてこれからもエロを避けては通れないのだと知った。
 今日はコンビニの夜勤も無いし、明日はアシスタントの仕事も無い。久し振りにゆっくり出来ると思いきや何処で聞きつけたのか小田桐が家にやって来た。
 学生時代に読んでいた漫画本を私の本棚から探り当てると、小田桐は懐かしみながら読み始める。早くお風呂に入って泥のように眠りたい私のこの気持ちを知ってか知らずか、小田桐はページを捲ってはオタク男子のようにニヤニヤとしていた。

「あのー……」
「――」
「あのさー」
「――」

 小田桐は一度漫画を読み始めたら最後、自分の世界に入り込んでしまい誰も寄せ付けない。高校生の時もこれでよく揉めて、結局面倒になった私がいつも小田桐を放置して先に眠っていたのを思い出した。しかし、大人になった今となってはあの頃の様に後先考えずに異性を泊めてはいけない。恵美ちゃんに似たような事を言われたのを思い出し、なんとか早めに帰ってもらおうとした。

「あのさっ! そろそろ私お風呂とか入りたいんだけど!」

 小田桐の膝を思いっきり揺らしながらそう言うと、案の定ギロッと睨みつけられてしまう。

「んなの、俺に断り入れなくてもいいだろ? お前ん家だし、好きにしろよ」
「いやね、私凄い疲れてるんだ。……だから、そろそろ帰ってくんない?」
「は? 何で?」

 いや、本当参った。まさかそんな返事が返ってくるとは思いも寄らなかった。家のドアを開けて開口一番『お前、いつ家に居るんだよ!?』ってあんたも言ってたじゃないか。こちとら慣れない仕事で身体が極限状態なんだ、察しろっての。――とは、勿論言えず……。

「だからさ、せっかく来てくれたのに追い払うようで申し訳ないんだけどね」
「――そう思うんだったらちゃんと態度で示せよ」

 パタンッと本を閉じるとテーブルの上に置いた。
 ――あ、あれ? これってまずったかも??
『やばい!』と思ったのも束の間、小田桐は片手を畳につけると身体を寄せ始め、すぐにもう一方の手が私の後頭部に回りこんで来た。

「やっ、……ちょっ、」

 あっさりと重なってしまった唇から逃れようと後ろへ下がれば、小田桐の腕の力も増し互いの唇が形無く潰れる。やめてと声にしようとすると、その隙間を縫い小田桐の舌が侵入を始めた。両手で胸元を押し返し、力の限り頭を逸らすも小田桐の“口撃”が弱まる事は無かった。

「ぅんっ、……?? ん゛ーー!!」

 次の瞬間、ぐいぐいと引き寄せられていた後頭部に添えた小田桐の手の力がふっと緩み、その反動で私は畳に背をつけた。無論、小田桐の唇はまだ重なったまま。
 じたばたと抵抗を続ける私とは反対に、小田桐はまるで味わうようにゆっくりと口内を貪っている。私が顔を右へ背ければ彼も同じ方向に、左に避けようとすれば又同じ方向に顔を向け、小田桐の唇はいつまでもしつこく追いかけて来た。
 ここ最近忙しかったには忙しかったが、ゆっくりと過ごす時間が無かっただけで小田桐と全く会っていないというわけではなかった。今日のように突然やって来ては濃いーキスをお見舞いされ、逃げるようにして仕事に出かけるという事が何回かあった。
 いつまでもこういう行為に慣れない私が面白くて弄んでいるのか、それともただ単純に教えてやろうとしているのか。どう言うつもりかはわからないが、てっきり今日も又そんなノリで濃いーキスをしてきたのだと思っていた私は、小田桐が次にした行動に思わず身体が大きく震えた。




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