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あなたと共に
11 届けられた思い 4
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「地が繋がっているのならば、例え山や海を越えようとエルフは仲間の気配を読むことが出来る。これは母から聞いた事ですわ。」
「そうだ…」
だからキールにはもう仲間がいないことが分かってしまう。
「けれど、私はその力を備えてはいませんでした。仲間を見つける事も、ここを離れて太古の森へといく事も叶いませんでした。」
神官長である自分がここを離れてしまえば、日照りを避けられない果樹園でどれだけ被害が出るのか分からない。果樹の損失がこの周辺に住む住民達の生活を不安定にさせてしまう。それだけは避けたかったから。
「エルフとは不思議な者なのだな……」
フレトールはまだまだ深くは知らなかったようだ、エルフの事を…
「そんな事もないさ。付き合う日が浅ければこんなもんだろう?」
「ふふ…そうでしょうね。だから、私は母の最後を看取ることができませんでした。」
「……そうだな…」
リージュはキールが看取ったから。
「母もそれで良いと思っていたでしょう。私がここを離れられない事を母も良く知っていましたから。」
だからリーフが産まれた後、リーフが独り立ちするくらいに力をつけるまで共にいて、その後リージュは一度もリーフと一緒には太古の森へと帰らなかった。
「お兄様…母の最後を有難うございました。」
リーフは改めてキールに頭を下げる。
「そんなの、要らない………エルフにとって仲間は自分の一部だ。森林の木々と同じく見捨てることなんてないし、それが当たり前のことなんだ。」
「そうですね。私はどうも人間側に考えが動く様です。エルフには成りきれないのでしょう……けれど、今日はこれをお兄様に渡したかったのです。」
リーフは台所の食器入れの棚から、厚みのある封筒を取り出してくる。
「それ何?」
リーフを敵視していたキールの刺々しい雰囲気が今は落ち着いていた。この小屋の雰囲気がそうさせているのかキールはすっかりとくつろいでいる様にも見えた。
「私が、ある方から預かった物です。これをどうしても、お兄様にお渡ししたかった。」
キールに封筒を渡したリーフは、深い溜め息を吐く。
「さて、お兄様方はこの神殿へ何を望まれます?」
じっと、キールは受け取った封筒を見つめている。かなり黄ばんでいる物だが、保存状態はすこぶる良くて開けて読んでみることにも不都合はなさそうだ。
「………探している物はエルフの遺品…これだろうな。」
キールの手元の封筒にはリーフの額にあるのと同じ花の花びらの紋が記してある。
これは、花のエルフの遺品に間違えはない様だ………
「祖母殿からの物か?」
手紙を受け取ったキールを残し、リーフは小聖堂を後にした。その際に共に入って来た副神官、ソラール、カーンを連れて…
どうやらリーフはこの小聖堂にフレトールとキールを2人だけにしてくれた様子。じっと手紙を見つめたまま動かなくなってしまったキールにフレトールはそっと声を掛けた。
「………そうみたいだ……」
リーフの額に刻まれていた花びらの紋。エルフ同士で連絡を取るときに良く使っていた。これは生きていただろうリージュからの最後の手紙になる。
「キール…」
動かないキールの頭にそっと口付けを落として、フレトールは優しく頭を撫でてくる。
「読んでやると良い…祖母殿の最後の思いが書かれているのだろう?邪魔ならば俺は外にいようか?」
本当は一時なりともキールから離れていたくないフレトールではあるが、どうやらこれは大切なキールの祖母の遺言だ。ゆっくりと目を通したい事もあるだろうから。
「フレトール。お前、俺と一緒に生きるんじゃなかったのか?」
「…何を今更?俺はずっとそう言い続けていただろう?」
「ならここにいれば?どうせ後から話すんだから、同じだろう?」
そう言えば、エルフはなんでも共有し、理解し合う種族であった。
「良いのか?」
「良いも悪いも…そうしたいんじゃないの?」
「勿論。キールに関する事なら何でも知っておきたい。で、ここは祖母殿の家だったのか?」
「そうだな…人間で言えば、嫁ぎ先?」
キールはゆっくり封を開けていく。封の中身も同じ材質の紙の便箋が入っている。そんな訳は無いのに、封を切った瞬間には懐かしい祖母リージュの香りがしたように思う。
「キールの実家と言っても良いだろうな?」
もう誰もいない太古の森の懐かしいキールの家。祖母が亡くなりキール1人で今まで生きてきた。もうすっかりとそこはキールの匂いや気配が染み付いていて、いつの間にか、家族の気配は薄れ去っていたものだ。
だが、ここは違う。人間、いや、リーフの気配が濃いが、良く見知ったリージュの気配がそこかしこに残っていて、キールにとってはすこぶる居心地が良いのは確かだった。
「もう…ばあちゃんには会えないけどな…」
キールはそっと封筒からリージュの手紙を取り出した。
「そうだ…」
だからキールにはもう仲間がいないことが分かってしまう。
「けれど、私はその力を備えてはいませんでした。仲間を見つける事も、ここを離れて太古の森へといく事も叶いませんでした。」
神官長である自分がここを離れてしまえば、日照りを避けられない果樹園でどれだけ被害が出るのか分からない。果樹の損失がこの周辺に住む住民達の生活を不安定にさせてしまう。それだけは避けたかったから。
「エルフとは不思議な者なのだな……」
フレトールはまだまだ深くは知らなかったようだ、エルフの事を…
「そんな事もないさ。付き合う日が浅ければこんなもんだろう?」
「ふふ…そうでしょうね。だから、私は母の最後を看取ることができませんでした。」
「……そうだな…」
リージュはキールが看取ったから。
「母もそれで良いと思っていたでしょう。私がここを離れられない事を母も良く知っていましたから。」
だからリーフが産まれた後、リーフが独り立ちするくらいに力をつけるまで共にいて、その後リージュは一度もリーフと一緒には太古の森へと帰らなかった。
「お兄様…母の最後を有難うございました。」
リーフは改めてキールに頭を下げる。
「そんなの、要らない………エルフにとって仲間は自分の一部だ。森林の木々と同じく見捨てることなんてないし、それが当たり前のことなんだ。」
「そうですね。私はどうも人間側に考えが動く様です。エルフには成りきれないのでしょう……けれど、今日はこれをお兄様に渡したかったのです。」
リーフは台所の食器入れの棚から、厚みのある封筒を取り出してくる。
「それ何?」
リーフを敵視していたキールの刺々しい雰囲気が今は落ち着いていた。この小屋の雰囲気がそうさせているのかキールはすっかりとくつろいでいる様にも見えた。
「私が、ある方から預かった物です。これをどうしても、お兄様にお渡ししたかった。」
キールに封筒を渡したリーフは、深い溜め息を吐く。
「さて、お兄様方はこの神殿へ何を望まれます?」
じっと、キールは受け取った封筒を見つめている。かなり黄ばんでいる物だが、保存状態はすこぶる良くて開けて読んでみることにも不都合はなさそうだ。
「………探している物はエルフの遺品…これだろうな。」
キールの手元の封筒にはリーフの額にあるのと同じ花の花びらの紋が記してある。
これは、花のエルフの遺品に間違えはない様だ………
「祖母殿からの物か?」
手紙を受け取ったキールを残し、リーフは小聖堂を後にした。その際に共に入って来た副神官、ソラール、カーンを連れて…
どうやらリーフはこの小聖堂にフレトールとキールを2人だけにしてくれた様子。じっと手紙を見つめたまま動かなくなってしまったキールにフレトールはそっと声を掛けた。
「………そうみたいだ……」
リーフの額に刻まれていた花びらの紋。エルフ同士で連絡を取るときに良く使っていた。これは生きていただろうリージュからの最後の手紙になる。
「キール…」
動かないキールの頭にそっと口付けを落として、フレトールは優しく頭を撫でてくる。
「読んでやると良い…祖母殿の最後の思いが書かれているのだろう?邪魔ならば俺は外にいようか?」
本当は一時なりともキールから離れていたくないフレトールではあるが、どうやらこれは大切なキールの祖母の遺言だ。ゆっくりと目を通したい事もあるだろうから。
「フレトール。お前、俺と一緒に生きるんじゃなかったのか?」
「…何を今更?俺はずっとそう言い続けていただろう?」
「ならここにいれば?どうせ後から話すんだから、同じだろう?」
そう言えば、エルフはなんでも共有し、理解し合う種族であった。
「良いのか?」
「良いも悪いも…そうしたいんじゃないの?」
「勿論。キールに関する事なら何でも知っておきたい。で、ここは祖母殿の家だったのか?」
「そうだな…人間で言えば、嫁ぎ先?」
キールはゆっくり封を開けていく。封の中身も同じ材質の紙の便箋が入っている。そんな訳は無いのに、封を切った瞬間には懐かしい祖母リージュの香りがしたように思う。
「キールの実家と言っても良いだろうな?」
もう誰もいない太古の森の懐かしいキールの家。祖母が亡くなりキール1人で今まで生きてきた。もうすっかりとそこはキールの匂いや気配が染み付いていて、いつの間にか、家族の気配は薄れ去っていたものだ。
だが、ここは違う。人間、いや、リーフの気配が濃いが、良く見知ったリージュの気配がそこかしこに残っていて、キールにとってはすこぶる居心地が良いのは確かだった。
「もう…ばあちゃんには会えないけどな…」
キールはそっと封筒からリージュの手紙を取り出した。
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