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国王の召喚
9 キールの葛藤 3
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城を出てからどれくらい走ったのか、かなりの速度で移動していたのだからもう城からはかなり遠く離れた事だろう。
「キール殿、着きましたよ?」
ギュウッとへばりつく様に抱きついてきているキールへと騎士団長フレトールは優しく声をかける。
「え?」
もう?キールからはそんな感想が出てきそうだった……フレトールの匂いが良すぎて、それが何の匂いか知りたくて調べようとしていた矢先に、馬上で密着していられる一時があったものだからキールはついフレトールに思う存分に抱きついてしまっていた。
「すみません。そんなに怖かったですか?動物には慣れていると思い、騎乗は平気だろうと思い込んでいたものですから……」
目的地に着いたフレトールと小隊の騎士達はスピードを落としゆっくりと馬を進めながら休憩地を探す。
「大丈夫……」
キールは馬の速度や振動が怖かったわけでは無いのだから。
スッポリと片腕の中に収まってしまいそうなキールがゆっくりと身体を離す。今までこれ以上ないくらいに密着していてお互いの体温を感じ合っていたのに、キールが離れてしまうとキールと触れていた面が酷く寒々しかった。
「なら、よろしかった。」
名残惜しい事この上無いが、自由に外出できる時間は決まっている。
「さ、ここがお勧めの森なのですが、お眼鏡にかないますか?」
「へぇ…………」
キールの瞳の色が変わった、と言うより瞳の色が深くなった様な気がする。目の前の森林の色を、まるでキールの瞳が吸い取っているかの様に、キールの瞳は濃い緑銀色をしていた。
フレトール達が来た森林は国有地になる。太古の森と比べてしまえば林に毛が生えた様な年若い森だろう。毎年木こりが木々の伐採の為に森に入り管理をしているので鬱蒼とした雰囲気はない。適度に間隔をあけて直立している木々の間からは木漏れ日が漏れ、地表に群生している低木や苔類をキラキラと照らしていた。
「中に入っても?」
フレトールに触れていたキールの腕がスイッと離れていくのがどうしても惜しくて、フレトールは森の中へ吸い寄せられていきそうなキールの手をとった。
「キール殿には必要ないかもしれませんが、お手をどうぞ?」
「フレトールの迷子防止?」
「うっ……私ですか?」
「そう、エルフは森でなんて絶対に迷わないよ?」
どうやらキールは最初にフレトールがかけた迷子探索魔法がことの他嫌だったらしい…………
「仕方ないなぁ…フレトールはここにいる他の人間より偉い立場なんでしょ?じゃあ迷子にならない様に手を繋いでいてあげる!」
久しぶりの森だからか、フレトールに仕返しができたからか、キールの機嫌はここ一番と言っても良いほど良くて、森の木漏れ日の様な白い肌が更に輝いている様にさえ見える。
「気に入って頂けましたか?」
「……うん…太古の森ほどじゃないけど、皆んないい子…」
「いい子?」
「そう、人間の手入れがいいのかな?余計な手を加えない方が良さそうだ。」
キールはフワリと低木の葉を撫でる。
「キール殿?」
「ん?何?」
急にキールは苔が広がるなだらかな地面にストンと座り出す。
「どうか?疲れましたか?」
「違う。座って!さっきそこの人間がエルフの魔法を見たいって言ってたでしょ?」
「あ、はい。」
「おぉ!何をなさるのです?」
こんな所だというのに考古学者カーンは紙とペンを欠かさない。手製の薄い板に紙を貼り付けている物を何枚も持参していた。
「…………見てて…」
地面にそのまま座ったキールはそのままじっと宙を見る。宙には勿論何もない、雑多なところに比べて澄んだ空気が美味しいくらいだ。
キールの周囲に風が舞う。今までそよ風程度だった風が、キールを中心に円を描く様に渦を巻いている様だった。
「あの!何をして!?」
メモを取るカーンは必死だ。
「森と、話してる…」
キールは気持ちよさそうに目を瞑り風を中心にそのまま動かない。
「話す!?何について話ているのですか!?」
「この森について……森が知っている事、俺に伝えたい事、この子達はお喋りだな………」
周囲の人間にはただキールが巻き起こしてるだろう風の音と、葉ずれの音しか聞こえない。
「ここに入ってくる人間は好きだって……酷いことしないからいいって…だから大きくなるって言ってる。」
「何が大きくなるのです?」
「森だよ、人間………木だって動物だって気持ちがあるんだ。」
「それが、分かるのですか?」
「うん、そう……でも、不思議な森だな…人間は貪欲なのに、好きって…?」
穏やかな表情で森と会話していたもキールは理解できないと眉を顰めた。
「キール殿、着きましたよ?」
ギュウッとへばりつく様に抱きついてきているキールへと騎士団長フレトールは優しく声をかける。
「え?」
もう?キールからはそんな感想が出てきそうだった……フレトールの匂いが良すぎて、それが何の匂いか知りたくて調べようとしていた矢先に、馬上で密着していられる一時があったものだからキールはついフレトールに思う存分に抱きついてしまっていた。
「すみません。そんなに怖かったですか?動物には慣れていると思い、騎乗は平気だろうと思い込んでいたものですから……」
目的地に着いたフレトールと小隊の騎士達はスピードを落としゆっくりと馬を進めながら休憩地を探す。
「大丈夫……」
キールは馬の速度や振動が怖かったわけでは無いのだから。
スッポリと片腕の中に収まってしまいそうなキールがゆっくりと身体を離す。今までこれ以上ないくらいに密着していてお互いの体温を感じ合っていたのに、キールが離れてしまうとキールと触れていた面が酷く寒々しかった。
「なら、よろしかった。」
名残惜しい事この上無いが、自由に外出できる時間は決まっている。
「さ、ここがお勧めの森なのですが、お眼鏡にかないますか?」
「へぇ…………」
キールの瞳の色が変わった、と言うより瞳の色が深くなった様な気がする。目の前の森林の色を、まるでキールの瞳が吸い取っているかの様に、キールの瞳は濃い緑銀色をしていた。
フレトール達が来た森林は国有地になる。太古の森と比べてしまえば林に毛が生えた様な年若い森だろう。毎年木こりが木々の伐採の為に森に入り管理をしているので鬱蒼とした雰囲気はない。適度に間隔をあけて直立している木々の間からは木漏れ日が漏れ、地表に群生している低木や苔類をキラキラと照らしていた。
「中に入っても?」
フレトールに触れていたキールの腕がスイッと離れていくのがどうしても惜しくて、フレトールは森の中へ吸い寄せられていきそうなキールの手をとった。
「キール殿には必要ないかもしれませんが、お手をどうぞ?」
「フレトールの迷子防止?」
「うっ……私ですか?」
「そう、エルフは森でなんて絶対に迷わないよ?」
どうやらキールは最初にフレトールがかけた迷子探索魔法がことの他嫌だったらしい…………
「仕方ないなぁ…フレトールはここにいる他の人間より偉い立場なんでしょ?じゃあ迷子にならない様に手を繋いでいてあげる!」
久しぶりの森だからか、フレトールに仕返しができたからか、キールの機嫌はここ一番と言っても良いほど良くて、森の木漏れ日の様な白い肌が更に輝いている様にさえ見える。
「気に入って頂けましたか?」
「……うん…太古の森ほどじゃないけど、皆んないい子…」
「いい子?」
「そう、人間の手入れがいいのかな?余計な手を加えない方が良さそうだ。」
キールはフワリと低木の葉を撫でる。
「キール殿?」
「ん?何?」
急にキールは苔が広がるなだらかな地面にストンと座り出す。
「どうか?疲れましたか?」
「違う。座って!さっきそこの人間がエルフの魔法を見たいって言ってたでしょ?」
「あ、はい。」
「おぉ!何をなさるのです?」
こんな所だというのに考古学者カーンは紙とペンを欠かさない。手製の薄い板に紙を貼り付けている物を何枚も持参していた。
「…………見てて…」
地面にそのまま座ったキールはそのままじっと宙を見る。宙には勿論何もない、雑多なところに比べて澄んだ空気が美味しいくらいだ。
キールの周囲に風が舞う。今までそよ風程度だった風が、キールを中心に円を描く様に渦を巻いている様だった。
「あの!何をして!?」
メモを取るカーンは必死だ。
「森と、話してる…」
キールは気持ちよさそうに目を瞑り風を中心にそのまま動かない。
「話す!?何について話ているのですか!?」
「この森について……森が知っている事、俺に伝えたい事、この子達はお喋りだな………」
周囲の人間にはただキールが巻き起こしてるだろう風の音と、葉ずれの音しか聞こえない。
「ここに入ってくる人間は好きだって……酷いことしないからいいって…だから大きくなるって言ってる。」
「何が大きくなるのです?」
「森だよ、人間………木だって動物だって気持ちがあるんだ。」
「それが、分かるのですか?」
「うん、そう……でも、不思議な森だな…人間は貪欲なのに、好きって…?」
穏やかな表情で森と会話していたもキールは理解できないと眉を顰めた。
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