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人との関わり
6 キールにかけられた魔法 2
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「貴方様にかけられた魔法の説明をします。」
粗方キールの空腹が満たされて果物に伸びる手が止まってきた所で、フレトールが話し出す。キール自身にかけられたと言う人間の魔法だ。ここまで運ばれてきた事にも気が付かず、気配さえも感じる事が出来なかったくらいだから、きっと自分にかけられた魔法はハイクラスの魔力を持つ者の技なのだろう……
ゴクリ、と緊張でキールの喉が鳴った…この者達は多分キールを傷付けない、と思ってはいるが、あの王太子タルコットに命ぜられればどんな事でもやりそうでもあるし……キールに緊張が走る。
先程もそうだったが、恐怖を感じたり怯えたりするとキールの長い耳はククッと下へと下がった。
真剣な色を宿した緑銀色の瞳がフレトールを真っ直ぐ見上げてくる。
そんな仕草が可愛いと、素直に思ってしまった事をフレトールはまだ黙っておこうと思っている。何しろ相手は伝説級のエルフだ。外側から見える性別が本物かも良く知られていない。最初の出会いが余りにもキールにとっては酷かったのだから、まずは信頼を築いて行かなければ…顔に優しい微笑みを貼り付けたまま、心でこんな事を思っていたフレトールもまた緊張しているのだった。
「どんな魔法?」
「はい。私達人間にも魔力がある事はお話ししました。そしてそれぞれ得意なものがあります。先程の王太子殿下は攻撃系の魔法が大の得意でして……」
ゾワッとした。もし、ここにいた時にそんな魔法を使われていたら、キールはきっと無事では済まなかっただろう。
「私は防御や守備に特化した魔法が得意です。勿論、エルフ殿をここまでお運びした運搬魔法を使ったのも私です。」
運搬魔法は運びたい物の周囲の空間を全てそのままに移動させる事だ。気温や湿度、気圧から空気の流れ匂いに至るまで全てその場所のそのままに、運びたい物を空中に漂わせて運んでくる事。ある場所からある場所へと転移魔法の様な大技を使える者などそうそう居ないのだが、この程度の移動、運搬魔法ならば得意とする者も多い。このような魔法は商人達の間で非常に重宝されるものだった。
キールもわからなかったのだ。フレトールは実に丁寧に空間を切り取り、気配や物音にも敏感なエルフにも気取られないように魔法を完成させる腕を持っているといえる。
「その私めが更に貴方様にかけさせて頂いているのが、迷子探索魔法です。」
「は……?」
「はい、迷子探索魔法です。」
聞き返したキールに対してはっきりとフレトールは答えた。
「迷子……?」
「はい。これですと、貴方様が何処に居ても一発で居場所がわかります。良く、幼い子供達に母親がかけているものでして、人体に影響はなく生活を送れます。」
「俺は……人間に見つけてもらわなければならない程の、子供じゃない!」
一瞬キョトンとしたキールはワナワナと震えながら言い返す。
侮辱だ!!ここにいる人間よりも小さいからか?まさか、この姿が成人に見えないとでも?
「これでも成人している!森でも迷子になどならないのに!」
森の番人であるエルフに対する侮辱だ!!
「いえ、違います…!エルフ殿。殿下より貴方様が迷い出てしまった場合にさぞかし困惑されるだろうと言われまして…この魔法は貴方が何処に居ても私共には直ぐにわかる物となっておりますので…」
「殿下とか言う人間は信用できない!どうせこちらが困るだろうとかは詭弁だろう?俺はもう数百年を超えて生きているんだ!その迷子探索とかもただの逃亡防止だろうな!本人がそう言っていたし…!」
少しだけキールに近付けたかもしれないとフレトールが思っていても、少しの疑惑でも沸き上がればキールは警戒心を最大限に発揮してくる。
「ほう!素晴らしい!!数百年を生きてこられたと言うのは本当ですか!」
学者のカーンは本領発揮とばかりにキールの怒りには目もくれず数百年と言う長寿の事実に食いついてきた。
「嘘をついて何か俺に得になるとでも?」
ただでさえ囚われた動物の様に城の中から出られないと言うのだから、こんな時にどうしようもない嘘をついてもキールにとっては良いことなんてないだろう。
「エルフ殿、私としてはもう少し貴方の長寿の事についてお聞きしたいのです。あ、殿下が命ぜられた迷子探索魔法は本当に貴方をお守りする為にあるのですよ?なにせ貴方様は伝説級の種族ですからね?貴方様の存在を知った者が貴方様に無体な事を働かないとも言い切れません。直ぐに人が駆けつけられると言う事は、貴方様をそんなならず者達の手からお守りすると言う事です。私達は決して貴方様に敵対するものではありませんよ。そうだ!お名前を聞いても宜しいですか?」
カーンは相変わらず何かを書き取りながら一気にここまで話しきった。視線は紙に、手はペンを持ちながら、だ。カーンにとっては今ここでどれだけキールが怒っていても意に介さないらしい。
「……変な人間………」
「エルフ殿。学者にとって、それは褒め言葉ですよ?」
そう言うとやっとカーンはキールの方に視線を向けたのだった。
粗方キールの空腹が満たされて果物に伸びる手が止まってきた所で、フレトールが話し出す。キール自身にかけられたと言う人間の魔法だ。ここまで運ばれてきた事にも気が付かず、気配さえも感じる事が出来なかったくらいだから、きっと自分にかけられた魔法はハイクラスの魔力を持つ者の技なのだろう……
ゴクリ、と緊張でキールの喉が鳴った…この者達は多分キールを傷付けない、と思ってはいるが、あの王太子タルコットに命ぜられればどんな事でもやりそうでもあるし……キールに緊張が走る。
先程もそうだったが、恐怖を感じたり怯えたりするとキールの長い耳はククッと下へと下がった。
真剣な色を宿した緑銀色の瞳がフレトールを真っ直ぐ見上げてくる。
そんな仕草が可愛いと、素直に思ってしまった事をフレトールはまだ黙っておこうと思っている。何しろ相手は伝説級のエルフだ。外側から見える性別が本物かも良く知られていない。最初の出会いが余りにもキールにとっては酷かったのだから、まずは信頼を築いて行かなければ…顔に優しい微笑みを貼り付けたまま、心でこんな事を思っていたフレトールもまた緊張しているのだった。
「どんな魔法?」
「はい。私達人間にも魔力がある事はお話ししました。そしてそれぞれ得意なものがあります。先程の王太子殿下は攻撃系の魔法が大の得意でして……」
ゾワッとした。もし、ここにいた時にそんな魔法を使われていたら、キールはきっと無事では済まなかっただろう。
「私は防御や守備に特化した魔法が得意です。勿論、エルフ殿をここまでお運びした運搬魔法を使ったのも私です。」
運搬魔法は運びたい物の周囲の空間を全てそのままに移動させる事だ。気温や湿度、気圧から空気の流れ匂いに至るまで全てその場所のそのままに、運びたい物を空中に漂わせて運んでくる事。ある場所からある場所へと転移魔法の様な大技を使える者などそうそう居ないのだが、この程度の移動、運搬魔法ならば得意とする者も多い。このような魔法は商人達の間で非常に重宝されるものだった。
キールもわからなかったのだ。フレトールは実に丁寧に空間を切り取り、気配や物音にも敏感なエルフにも気取られないように魔法を完成させる腕を持っているといえる。
「その私めが更に貴方様にかけさせて頂いているのが、迷子探索魔法です。」
「は……?」
「はい、迷子探索魔法です。」
聞き返したキールに対してはっきりとフレトールは答えた。
「迷子……?」
「はい。これですと、貴方様が何処に居ても一発で居場所がわかります。良く、幼い子供達に母親がかけているものでして、人体に影響はなく生活を送れます。」
「俺は……人間に見つけてもらわなければならない程の、子供じゃない!」
一瞬キョトンとしたキールはワナワナと震えながら言い返す。
侮辱だ!!ここにいる人間よりも小さいからか?まさか、この姿が成人に見えないとでも?
「これでも成人している!森でも迷子になどならないのに!」
森の番人であるエルフに対する侮辱だ!!
「いえ、違います…!エルフ殿。殿下より貴方様が迷い出てしまった場合にさぞかし困惑されるだろうと言われまして…この魔法は貴方が何処に居ても私共には直ぐにわかる物となっておりますので…」
「殿下とか言う人間は信用できない!どうせこちらが困るだろうとかは詭弁だろう?俺はもう数百年を超えて生きているんだ!その迷子探索とかもただの逃亡防止だろうな!本人がそう言っていたし…!」
少しだけキールに近付けたかもしれないとフレトールが思っていても、少しの疑惑でも沸き上がればキールは警戒心を最大限に発揮してくる。
「ほう!素晴らしい!!数百年を生きてこられたと言うのは本当ですか!」
学者のカーンは本領発揮とばかりにキールの怒りには目もくれず数百年と言う長寿の事実に食いついてきた。
「嘘をついて何か俺に得になるとでも?」
ただでさえ囚われた動物の様に城の中から出られないと言うのだから、こんな時にどうしようもない嘘をついてもキールにとっては良いことなんてないだろう。
「エルフ殿、私としてはもう少し貴方の長寿の事についてお聞きしたいのです。あ、殿下が命ぜられた迷子探索魔法は本当に貴方をお守りする為にあるのですよ?なにせ貴方様は伝説級の種族ですからね?貴方様の存在を知った者が貴方様に無体な事を働かないとも言い切れません。直ぐに人が駆けつけられると言う事は、貴方様をそんなならず者達の手からお守りすると言う事です。私達は決して貴方様に敵対するものではありませんよ。そうだ!お名前を聞いても宜しいですか?」
カーンは相変わらず何かを書き取りながら一気にここまで話しきった。視線は紙に、手はペンを持ちながら、だ。カーンにとっては今ここでどれだけキールが怒っていても意に介さないらしい。
「……変な人間………」
「エルフ殿。学者にとって、それは褒め言葉ですよ?」
そう言うとやっとカーンはキールの方に視線を向けたのだった。
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