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129 大蛇の行方
しおりを挟むなんてこと、なんて事!!!
目の前で、ソウ、サウラが、大蛇に飲み込まれていく。
ソウが突き付けた剣先は、グサリと大蛇の喉奥に刺さり、その痛みのために驚いたのか、大蛇は口を閉じ、ソウもろとも飲み込んでしまった。
口を閉じても刺さる剣の痛みは引かず、蛇は首を振り回しつつのたうち回り出す。
動けば動くほど、喉の筋の収縮によりソウは奥へ奥へと押し込められて行った。
のたうち回る大蛇は周囲の木々を薙ぎ倒し、大岩を弾き飛ばして、地形をも変える程大暴れしながら山の上へ上へと逃げて行く。
「バート!!早く打て!!!」
今逃してしまったら、ネイバーとソウを助け出す機会を失う事になる。電撃で動きを止める事さえ出来たなら、生きて救出する事もまだ可能!
隊員一人一人は、大蛇の動きが止まるのを今か今かと待ち受けているのだ。
「あんの、大馬鹿がーー!!!」
滅多に切れないバートが罵声と共に今までに無いほどの一撃を大蛇に放った。
ガリガリガリガリ!!!!!
凄まじいほどの雷撃音が辺りに響き渡る。バートの放った一撃は大蛇に直撃し、少なからずの衝撃を与えた様だ。
大蛇の受けた電撃は大蛇に凄まじい痙攣を起こさせる。頭部を激しく山の岩肌に何度も打ちつけ、地を震わせ地震かと思う程の振動を起こしたかと思えば、数度目の打ちつけで地を穿ち抜いた。
最後の咆哮も上げずにガラガラという凄まじい落石音と共に地下に落ちていく。
「な、落ちたぞ!!」
「見えるか?」
大蛇が開けた大穴を覗けば、それは地下の洞窟に達していると思われ、その空洞は更に深く地下に続いている。上から覗いているだけでは、着地点は見えてこない程だ。
「下に降りて見ない事には……!!降りれそうか?」
「まて、まだ奴の様な魔物が居たら此方が全滅する!これだけの空洞だ。入り口を探すぞ!」
「マントル!中への入り口を探せ!他の組にも連絡を!」
「シエラ様!我らは地下へと降りる道から中へ入ります!」
ソウが飲み込まれた所でしばし呆然としていたシエラがハッと顔をあげる。未だ空中に浮いている状態のシエラの得意魔法は、浮遊と転移。だがこれだけの人数を一度に浮かせる事は出来ないし、暗部隊員を分散させるのは兵力を削ぐことになりかねない。焦る気持ちを最大限押さえつけて行動に移りだす隊員に声をかけた。
「飲まれた隊員の救助を最優先に!絶対に深追いはせず、対象を見つけたならば必ず知らせなさい!!」
「了解!!」
「呼べ………シエラ……!
今すぐ!!俺をそこに呼べ!!!」
サウスバーゲン城王執務室内は一瞬で嵐に見舞われた様な有様へと変貌した。シエラから通信魔法石で報告を受けたルーシウスが爆発したのだ。
仕事をしていた侍従は勿論、シガレットも巻き込んで壁際に飛ばされ、室内は最早見る影もない程にあらゆる物が散乱し、薙ぎ倒されている。
「くぅっ陛下!!いけません!貴方にもしものことがあったら、国は滅びます!!」
不意打ちで魔力の爆発に襲われたのにも関わらず、シガレットは既に体勢を立て直して素早く状況を判断しルーシウスを止めに入る。
「案ずるなシグ。サウラが戻らなくても国は滅ぶ。」
現サウスバーゲン国王に次ぐ王弟はまだ幼い。時期国王の座には無理がある。此処でルーシウスを失う事も、ルーシウスの命を繋ぐサウラを失う事も国の滅亡に大きく傾く事に変わりなくなる。
だから、行かせてくれ……
後に続く王の、友の言葉は重い…
「あと、3日だそうだ。それが過ぎれば、俺の命も持たない。シグ、後を頼んだぞ?」
ルーシウスの手には、2番目の兄ヨハンドル前王が意匠を施した愛刀を既に握り締めている。
剣1本のみを携えて乗り込もうというのか、この人は!
「ルーシュ!!貴方まで消息をたったら、サウスバーゲンの全軍を率いてゴアラに攻め込んでやりますよ!分かりましたね!!!」
幼き頃、身分と言うものを意識し出してから封印したかつての幼き友の名を、シガレットは魔力渦巻く部屋の中で力の限り叫ぶ。突然に愛称で呼ばれたルーシウスは少し目を開き驚きを見せた後、満足そうにすっと目を細めた。
こちらのやり取りは全てシエラにも聞こえているだろう。既にルーシウスの周囲を青白い光が包み出す。如何やら、シエラも覚悟を決めたらしい。
「シエラ様!陛下を!ルーシュをお願いします!!どうか!どうか!!」
魔力に関してはこの2人に到底及ばないシガレットは、ただただ叫ぶ。直接護れない己を呪いつつ、遥か遠くの者達に託すしか成す術がなかったからだ。
「シグ、行ってくる。」
片手を上げて、まるで散歩にでも出かける様な口調で、サウスバーゲン国王ルーシウスは青白い光の中に包まれ、瞬間、消えた。
執務室に残されたのは、瓦礫と化している様な室内で突然に止まった暴風から解放されて、倒れた侍従の上に虚しく落ち転がる室内の物品と、王が消えた一点をただ見つめながら、肩で息を整えているシガレットのみであった。
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