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113 ゴアラの少女
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バート、ガイ、ソウ組はゴアラの入国より早5つ目の泉の水を汲み取り終わり、今はゴアラ南西部に位置する庶民に強く人気のある泉にいる。
ここはそこそこ大きな泉でさんさんと降り注ぐ日差しの中には家族連れも多く、バート達は遊びに来ている若者達に紛れて泉の採取に励む。
「お兄ちゃん達、泳がないの?」
小さな壺に水を入れ終わればここに留まる意味もない。不審がられない様にその場を離れようとした所で小さな女の子にソウは声をかけられた。
今迄家族で泳いでいただろうその子の髪からはポツリポツリとまだ滴が垂れていて肩にはタオルが掛けられている。
「ん?泳ぐ?まだ泉の水は冷たいだろう?」
そうだ、日差しが強くなってきたとはいえ、まだ水泳をするには肌寒いのではないかと言う気温だが、女の子の様に泳いだ後と思われる人や未だに水の中にいる人も多い。
「えー、全然寒くないよ?せっかく花の泉に来たのに泳がないなんて勿体な~い!うちのお兄ちゃん達なんて一番遠くまで泳いでいっちゃったよ?」
ここは花の泉と言うらしい。その名の通り泉の周りにはハーブやら小さな立木やらの花々が綺麗に咲いているし、観光地だけに良く整備もされている様だ。気持ちよく水辺遊びをするには絶好の場所だろう。
こんな所でゆっくり寛げたら、と一瞬ルーシウスの顔がソウの頭に思い浮かぶ。
「エラーナ?」
女の子の後ろから男性の声がする。
「パパ!」
「娘がお邪魔しちゃってすみません。」
人の良さそうな男性だ。
「お兄ちゃん達泳がないんだってー。」
「おや、そうなのかい?ここは大きくて綺麗だから泳ぎ目的の人が殆どだと思ってたけど、もしかして観光の人?」
「ええ、そうなんです。泳ぐ準備をしてなくて。けど、景色だけでも楽しめますね。」
「そうでしょう?地元では有名な場所で良く家族で来るんですよ。」
「冷たくはないんですか?」
「ああ、観光の方なら知らないでしょうね。王城の向こうにある山水がこの地を温めてくれているって話で、水温は温かいくらいなんですよ。」
「山の、水が温かいのですか?」
山育ちのソウにはとても信じられない。山水は夏場でも場所によっては身が竦むほど冷たい時が有るのだから。
ソウの顔は怪訝そうに顰められていたんだろう。
「あ、もし王城の方へ行かれるなら北西にある邂逅の神殿に足を向けてみては?神殿の中から湧き上がっている水が温かくて、その恩恵をこの地は頂いているっていう有難い場所なんです。旅行者の方も入れてもらえると思いますよ?」
父親は子供達に祝福を授けてもらう為に何度か神殿に入ったことがあると言い、普段儀式のない日は一般の観光客も参拝に訪れる事ができると話す。
「フフッ神殿で祝福してもらうとね、体も心も強くなるんだって教えてもらったの。」
「幼い子供達は余り感じない様ですけど、大人になってから祝福を受けると体が機敏になったり、感覚が優れてきたりと祝福を受けてからの変化を感じる方もいるそうで、通い詰めている人もいると聞きますね。」
「へぇ、そんなに差が分かるもんですかね?」
バートも胡散臭そうにしている。
「ええ、それは人によって感じ方に違いはある様なんですけどね。何でも魔物が見つけやすくなったとか。討伐に出る人々には無くてはならないものだとか…」
後ろで話だけ聞いていたガイの眉が寄る。魔物とは言葉通りの魔物のみでは無いことが分かってしまった。
「お兄ちゃん達も大きくなったら討伐隊に入るんだって!私はダメだって言われちゃったけど…」
女の子は酷く残念そうに口を尖らせた。白く柔らかそうな頬をプウッと膨らませて下を見る様は如何にもまだまだ幼い子供の仕草だ。
「君も魔物は嫌い?」
「ん~~分かんない…見た事ないし。」
「魔物も、こっちが何もしなければきっと襲ってこないよ?戦う人は生き残る為に仕方なく狩るんだ。少なくとも魔物が多い山ではそうだった。」
プゥと膨れている女の子の頭を撫で撫でしながら顔を覗き込む様に話しかける。
「でも、先生達は魔物なんかいたらダメなんだって、皆んな幸せにならないんだって教えてくれたの。だから討伐するんだって。」
「悪い魔物じゃ無くても?討伐するの?」
「?そんな魔物いるの?」
キョトンと逆に聞かれてしまった。
パリッ
後方で聞き覚えのある音がする。その後に木立の中の1本から、パンッと言う音と共に薄らと煙が立ち上った。
「キャア!」
「何だ?」
「嫌だ!あそこ、気持ち悪い!」
「うわ!どこかに魔力持ちがいるんだ!誰か兵を!」
一瞬にして辺りが騒然とする。その木立の周りにいた人々は子供を抱え、荷物を放り出してザザッとその場から離れていった。
周りの人々からは口々に呪いの言葉が聞こえてくる。
「わぁぁぁぁぁん、怖いよ~~。」
ソウと話していた女の子も泣き出してしまっている。
「あぁ、これは守備兵がきますね。外国の人は真っ先に疑われるからあなた達は早くここから離れた方がいいですよ。」
大泣きしている女の子をあやしながら父親は離れる様に促してくれる。それぞれ皆んな場所を移し帰って行く者もいる中でなら怪しまれないだろう。
「ソウ、これがゴアラだ。」
ガイが言う。見た目が同じでも、分かり合おうとしても決定的に決別させてしまう物がそこにあった。
ここはそこそこ大きな泉でさんさんと降り注ぐ日差しの中には家族連れも多く、バート達は遊びに来ている若者達に紛れて泉の採取に励む。
「お兄ちゃん達、泳がないの?」
小さな壺に水を入れ終わればここに留まる意味もない。不審がられない様にその場を離れようとした所で小さな女の子にソウは声をかけられた。
今迄家族で泳いでいただろうその子の髪からはポツリポツリとまだ滴が垂れていて肩にはタオルが掛けられている。
「ん?泳ぐ?まだ泉の水は冷たいだろう?」
そうだ、日差しが強くなってきたとはいえ、まだ水泳をするには肌寒いのではないかと言う気温だが、女の子の様に泳いだ後と思われる人や未だに水の中にいる人も多い。
「えー、全然寒くないよ?せっかく花の泉に来たのに泳がないなんて勿体な~い!うちのお兄ちゃん達なんて一番遠くまで泳いでいっちゃったよ?」
ここは花の泉と言うらしい。その名の通り泉の周りにはハーブやら小さな立木やらの花々が綺麗に咲いているし、観光地だけに良く整備もされている様だ。気持ちよく水辺遊びをするには絶好の場所だろう。
こんな所でゆっくり寛げたら、と一瞬ルーシウスの顔がソウの頭に思い浮かぶ。
「エラーナ?」
女の子の後ろから男性の声がする。
「パパ!」
「娘がお邪魔しちゃってすみません。」
人の良さそうな男性だ。
「お兄ちゃん達泳がないんだってー。」
「おや、そうなのかい?ここは大きくて綺麗だから泳ぎ目的の人が殆どだと思ってたけど、もしかして観光の人?」
「ええ、そうなんです。泳ぐ準備をしてなくて。けど、景色だけでも楽しめますね。」
「そうでしょう?地元では有名な場所で良く家族で来るんですよ。」
「冷たくはないんですか?」
「ああ、観光の方なら知らないでしょうね。王城の向こうにある山水がこの地を温めてくれているって話で、水温は温かいくらいなんですよ。」
「山の、水が温かいのですか?」
山育ちのソウにはとても信じられない。山水は夏場でも場所によっては身が竦むほど冷たい時が有るのだから。
ソウの顔は怪訝そうに顰められていたんだろう。
「あ、もし王城の方へ行かれるなら北西にある邂逅の神殿に足を向けてみては?神殿の中から湧き上がっている水が温かくて、その恩恵をこの地は頂いているっていう有難い場所なんです。旅行者の方も入れてもらえると思いますよ?」
父親は子供達に祝福を授けてもらう為に何度か神殿に入ったことがあると言い、普段儀式のない日は一般の観光客も参拝に訪れる事ができると話す。
「フフッ神殿で祝福してもらうとね、体も心も強くなるんだって教えてもらったの。」
「幼い子供達は余り感じない様ですけど、大人になってから祝福を受けると体が機敏になったり、感覚が優れてきたりと祝福を受けてからの変化を感じる方もいるそうで、通い詰めている人もいると聞きますね。」
「へぇ、そんなに差が分かるもんですかね?」
バートも胡散臭そうにしている。
「ええ、それは人によって感じ方に違いはある様なんですけどね。何でも魔物が見つけやすくなったとか。討伐に出る人々には無くてはならないものだとか…」
後ろで話だけ聞いていたガイの眉が寄る。魔物とは言葉通りの魔物のみでは無いことが分かってしまった。
「お兄ちゃん達も大きくなったら討伐隊に入るんだって!私はダメだって言われちゃったけど…」
女の子は酷く残念そうに口を尖らせた。白く柔らかそうな頬をプウッと膨らませて下を見る様は如何にもまだまだ幼い子供の仕草だ。
「君も魔物は嫌い?」
「ん~~分かんない…見た事ないし。」
「魔物も、こっちが何もしなければきっと襲ってこないよ?戦う人は生き残る為に仕方なく狩るんだ。少なくとも魔物が多い山ではそうだった。」
プゥと膨れている女の子の頭を撫で撫でしながら顔を覗き込む様に話しかける。
「でも、先生達は魔物なんかいたらダメなんだって、皆んな幸せにならないんだって教えてくれたの。だから討伐するんだって。」
「悪い魔物じゃ無くても?討伐するの?」
「?そんな魔物いるの?」
キョトンと逆に聞かれてしまった。
パリッ
後方で聞き覚えのある音がする。その後に木立の中の1本から、パンッと言う音と共に薄らと煙が立ち上った。
「キャア!」
「何だ?」
「嫌だ!あそこ、気持ち悪い!」
「うわ!どこかに魔力持ちがいるんだ!誰か兵を!」
一瞬にして辺りが騒然とする。その木立の周りにいた人々は子供を抱え、荷物を放り出してザザッとその場から離れていった。
周りの人々からは口々に呪いの言葉が聞こえてくる。
「わぁぁぁぁぁん、怖いよ~~。」
ソウと話していた女の子も泣き出してしまっている。
「あぁ、これは守備兵がきますね。外国の人は真っ先に疑われるからあなた達は早くここから離れた方がいいですよ。」
大泣きしている女の子をあやしながら父親は離れる様に促してくれる。それぞれ皆んな場所を移し帰って行く者もいる中でなら怪しまれないだろう。
「ソウ、これがゴアラだ。」
ガイが言う。見た目が同じでも、分かり合おうとしても決定的に決別させてしまう物がそこにあった。
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