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11 闇夜の帳の中で
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「本当か!」
一際大きな声が部屋に響く。
アラファルトはシエラを食い入る様に見つめているが、シエラはふふふ、と楽しそうに笑うばかり。
シエラの説明から、どうやら帰れない事は決定の様だ。
帰れない、もう村に?
窮屈だと思った事もあるけど、山の散歩は嫌いじゃない。堅焼きパンにイルーシャのシチュー。親の居ない私の為にいつも沢山作ってくれるのだ。それも食べれないの?
これから川を登ってくる魚の塩焼きだって大好物だ。食べ物の事ばかり浮かんでくるが、村の中で好きな物が後から後から思い出されて止まらない。
親代わりのダンにも弟みたいなサジにも何も言ってこれなかった。友達にも。
両親のお墓は?花も添える事ができなくなるのだろうか?
目の前ではアラファルトが何やら興奮気味に話し続けているが、頭に全く入ってこない。
帰れない現実が、懐かしい思い出の前に打ち立てられて只々呆然としてしまう。
周りの声に反応もなくぼんやりしてしまったサウラをルーシウスは見つめる。
ルーシウスは自分にこんな事が起こり得るなど、もう望む事すら諦めていたのに。
何という僥倖であろうか。自身に起きた事に未だ信じられないでもいる。
サウラには申し訳ないが、サウラを手放す事は不可能に近い。
ルーシウスに取ってそれは、自らの半身をもぎ取られらる様なものだ。
表情無く、未だ混乱していると思われる彼女には、謝罪を受け入れてもらうことから始めなければ。
許されるとは限らないが、焦りは禁物だ。
「皆には心配をかけた、しかし、今日はここまでとしよう。」
早朝より始まった召喚劇も一次閉幕の声がかかる。国事に関わる騒動で、関わった者の疲労も濃いだろう。
良く休んでおく様にとの事だった。
ルーシウスから休む様に言われ、此方でお休みください、と侍女に連れて来られた部屋は、目を見張る物だった。最早部屋とは言わないのでは?
広さだけでも村の自宅よりも広いのだ。
クリームと白色を基調とした、明るく柔らかい印象を与える部屋は、掃除が行き届いており、床に敷かれている薔薇の模様が織り込まれたベージュの絨毯には染みの一つもない。
バスルームもトイレも部屋に劣らず。
入浴する際には色んな物があり過ぎて、何を使ったら良いかも分からなかった。
手伝おうとする侍女を押し留めて、体を洗う石鹸のみ教えてもらい、ピカピカツルツルするバスタブへと浸かる。
夢でもこんな豪華なものは見たことない。村にあった絵本のお伽話の中にもこんな素敵な内装は書かれていなかった。
何ならバスルーム位の広さの家でも問題なく住むことが出来るサウラである。最早お土産話体験を通り越して、身の置き場が無いほどの場違い感しか感じない。
帰れない事へショックを受けていたはずなのに、凄いものを見せられて一気に現実に戻されてしまう。
それよりも、侍女ってすごい。きっと高貴な方にお仕えする人達だろうに、お辞儀の仕方もわからない様な山奥育ちに向かって「姫様」って呼びかけてくる。
いや、待って。なんて返事したらいいの?
流れる様に身の周りを整えていく様は、一見の価値ある出し物みたい。村の皆んなもきっと惚けてしまうに違いない。
「お休みなさいませ。」
と、眠前のお茶を準備してから、音もなく静かに退室していく。
天蓋付きのベッドは、真っ白と薄いクリーム色の柔らかい寝具。繊細なレースと刺繍が装飾されたベットスプレッドは、荒れた手では糸を引っ掛けてしまいそうで怖くて触れない。
もし汚してしまったら誤っても許してもらえなそうだ。
ベッドを使うのはやめよう。
掛け物の中から毛布だけ引っ張り出してソファーの上で包まる。至極柔らかい毛布に包まれればソファーも極上の寝具となる。
睡魔に誘われるがまま眠りに落ちながら、明日の朝、村に返してもらえる様にもう一度、真剣にお願いしてみようと決意する。
サウラは直ぐに寝入ってしまった。疲労から眠りが深い。部屋の扉が開かれても身動ぎさえしない程に。
扉からの侵入者は音もなく、滑る様にゆっくりとベッドに近付く。しかし寝台に人影はなく、小首を傾げながら周囲を見廻しソファーの上に目を止める。
そこには毛布に包まるサウラ。猫の様に丸まって静かな寝息を立てている。側に寄っても起きる様子はない。そっと顔に掛かる髪を払えば、まだあどけない顔が暗闇の中に微かに伺える。
深夜の侵入者は何を思うのか。
細心の注意を払いサウラの体を抱き抱えると、ゆっくりと寝台へ向かい柔らかな寝具へ下ろす。優しい光を湛えた瞳はサウラの顔に注がれたままだ。
フワリと寝具を掛け、髪を整えた侵入者の手は、名残惜しそうにゆっくりと離れていく。
微かに揺蕩う魔法灯の光を受け、エメラルドグリーンの瞳が優しく細められた。
一際大きな声が部屋に響く。
アラファルトはシエラを食い入る様に見つめているが、シエラはふふふ、と楽しそうに笑うばかり。
シエラの説明から、どうやら帰れない事は決定の様だ。
帰れない、もう村に?
窮屈だと思った事もあるけど、山の散歩は嫌いじゃない。堅焼きパンにイルーシャのシチュー。親の居ない私の為にいつも沢山作ってくれるのだ。それも食べれないの?
これから川を登ってくる魚の塩焼きだって大好物だ。食べ物の事ばかり浮かんでくるが、村の中で好きな物が後から後から思い出されて止まらない。
親代わりのダンにも弟みたいなサジにも何も言ってこれなかった。友達にも。
両親のお墓は?花も添える事ができなくなるのだろうか?
目の前ではアラファルトが何やら興奮気味に話し続けているが、頭に全く入ってこない。
帰れない現実が、懐かしい思い出の前に打ち立てられて只々呆然としてしまう。
周りの声に反応もなくぼんやりしてしまったサウラをルーシウスは見つめる。
ルーシウスは自分にこんな事が起こり得るなど、もう望む事すら諦めていたのに。
何という僥倖であろうか。自身に起きた事に未だ信じられないでもいる。
サウラには申し訳ないが、サウラを手放す事は不可能に近い。
ルーシウスに取ってそれは、自らの半身をもぎ取られらる様なものだ。
表情無く、未だ混乱していると思われる彼女には、謝罪を受け入れてもらうことから始めなければ。
許されるとは限らないが、焦りは禁物だ。
「皆には心配をかけた、しかし、今日はここまでとしよう。」
早朝より始まった召喚劇も一次閉幕の声がかかる。国事に関わる騒動で、関わった者の疲労も濃いだろう。
良く休んでおく様にとの事だった。
ルーシウスから休む様に言われ、此方でお休みください、と侍女に連れて来られた部屋は、目を見張る物だった。最早部屋とは言わないのでは?
広さだけでも村の自宅よりも広いのだ。
クリームと白色を基調とした、明るく柔らかい印象を与える部屋は、掃除が行き届いており、床に敷かれている薔薇の模様が織り込まれたベージュの絨毯には染みの一つもない。
バスルームもトイレも部屋に劣らず。
入浴する際には色んな物があり過ぎて、何を使ったら良いかも分からなかった。
手伝おうとする侍女を押し留めて、体を洗う石鹸のみ教えてもらい、ピカピカツルツルするバスタブへと浸かる。
夢でもこんな豪華なものは見たことない。村にあった絵本のお伽話の中にもこんな素敵な内装は書かれていなかった。
何ならバスルーム位の広さの家でも問題なく住むことが出来るサウラである。最早お土産話体験を通り越して、身の置き場が無いほどの場違い感しか感じない。
帰れない事へショックを受けていたはずなのに、凄いものを見せられて一気に現実に戻されてしまう。
それよりも、侍女ってすごい。きっと高貴な方にお仕えする人達だろうに、お辞儀の仕方もわからない様な山奥育ちに向かって「姫様」って呼びかけてくる。
いや、待って。なんて返事したらいいの?
流れる様に身の周りを整えていく様は、一見の価値ある出し物みたい。村の皆んなもきっと惚けてしまうに違いない。
「お休みなさいませ。」
と、眠前のお茶を準備してから、音もなく静かに退室していく。
天蓋付きのベッドは、真っ白と薄いクリーム色の柔らかい寝具。繊細なレースと刺繍が装飾されたベットスプレッドは、荒れた手では糸を引っ掛けてしまいそうで怖くて触れない。
もし汚してしまったら誤っても許してもらえなそうだ。
ベッドを使うのはやめよう。
掛け物の中から毛布だけ引っ張り出してソファーの上で包まる。至極柔らかい毛布に包まれればソファーも極上の寝具となる。
睡魔に誘われるがまま眠りに落ちながら、明日の朝、村に返してもらえる様にもう一度、真剣にお願いしてみようと決意する。
サウラは直ぐに寝入ってしまった。疲労から眠りが深い。部屋の扉が開かれても身動ぎさえしない程に。
扉からの侵入者は音もなく、滑る様にゆっくりとベッドに近付く。しかし寝台に人影はなく、小首を傾げながら周囲を見廻しソファーの上に目を止める。
そこには毛布に包まるサウラ。猫の様に丸まって静かな寝息を立てている。側に寄っても起きる様子はない。そっと顔に掛かる髪を払えば、まだあどけない顔が暗闇の中に微かに伺える。
深夜の侵入者は何を思うのか。
細心の注意を払いサウラの体を抱き抱えると、ゆっくりと寝台へ向かい柔らかな寝具へ下ろす。優しい光を湛えた瞳はサウラの顔に注がれたままだ。
フワリと寝具を掛け、髪を整えた侵入者の手は、名残惜しそうにゆっくりと離れていく。
微かに揺蕩う魔法灯の光を受け、エメラルドグリーンの瞳が優しく細められた。
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