[完結]その手中に収めるものは

小葉石

文字の大きさ
11 / 143

11 闇夜の帳の中で

しおりを挟む
 「本当か!」

 一際大きな声が部屋に響く。

 アラファルトはシエラを食い入る様に見つめているが、シエラはふふふ、と楽しそうに笑うばかり。
 
シエラの説明から、どうやら帰れない事は決定の様だ。

 帰れない、もう村に?

 窮屈だと思った事もあるけど、山の散歩は嫌いじゃない。堅焼きパンにイルーシャのシチュー。親の居ない私の為にいつも沢山作ってくれるのだ。それも食べれないの?
 これから川を登ってくる魚の塩焼きだって大好物だ。食べ物の事ばかり浮かんでくるが、村の中で好きな物が後から後から思い出されて止まらない。

 親代わりのダンにも弟みたいなサジにも何も言ってこれなかった。友達にも。

 両親のお墓は?花も添える事ができなくなるのだろうか?

 目の前ではアラファルトが何やら興奮気味に話し続けているが、頭に全く入ってこない。

 帰れない現実が、懐かしい思い出の前に打ち立てられて只々呆然としてしまう。

 周りの声に反応もなくぼんやりしてしまったサウラをルーシウスは見つめる。

 ルーシウスは自分にこんな事が起こり得るなど、もう望む事すら諦めていたのに。

 何という僥倖ぎょうこうであろうか。自身に起きた事に未だ信じられないでもいる。

 サウラには申し訳ないが、サウラを手放す事は不可能に近い。
 ルーシウスに取ってそれは、自らの半身をもぎ取られらる様なものだ。

 表情無く、未だ混乱していると思われる彼女には、謝罪を受け入れてもらうことから始めなければ。
 許されるとは限らないが、焦りは禁物だ。

「皆には心配をかけた、しかし、今日はここまでとしよう。」

 早朝より始まった召喚劇も一次閉幕の声がかかる。国事に関わる騒動で、関わった者の疲労も濃いだろう。
 良く休んでおく様にとの事だった。
 
 ルーシウスから休む様に言われ、此方こちらでお休みください、と侍女に連れて来られた部屋は、目を見張る物だった。最早部屋とは言わないのでは?

 広さだけでも村の自宅よりも広いのだ。

 クリームと白色を基調とした、明るく柔らかい印象を与える部屋は、掃除が行き届いており、床に敷かれている薔薇の模様が織り込まれたベージュの絨毯には染みの一つもない。

 バスルームもトイレも部屋に劣らず。
 入浴する際には色んな物があり過ぎて、何を使ったら良いかも分からなかった。

 手伝おうとする侍女を押し留めて、体を洗う石鹸のみ教えてもらい、ピカピカツルツルするバスタブへと浸かる。

  夢でもこんな豪華なものは見たことない。村にあった絵本のお伽話の中にもこんな素敵な内装は書かれていなかった。

 何ならバスルーム位の広さの家でも問題なく住むことが出来るサウラである。最早お土産話体験を通り越して、身の置き場が無いほどの場違い感しか感じない。

 帰れない事へショックを受けていたはずなのに、凄いものを見せられて一気に現実に戻されてしまう。

 それよりも、侍女ってすごい。きっと高貴な方にお仕えする人達だろうに、お辞儀の仕方もわからない様な山奥育ちに向かって「姫様」って呼びかけてくる。
 
 いや、待って。なんて返事したらいいの?

 流れる様に身の周りを整えていく様は、一見の価値ある出し物みたい。村の皆んなもきっと惚けてしまうに違いない。

「お休みなさいませ。」
と、眠前のお茶を準備してから、音もなく静かに退室していく。 

 天蓋付きのベッドは、真っ白と薄いクリーム色の柔らかい寝具。繊細なレースと刺繍が装飾されたベットスプレッドは、荒れた手では糸を引っ掛けてしまいそうで怖くて触れない。
 もし汚してしまったら誤っても許してもらえなそうだ。

 ベッドを使うのはやめよう。
 掛け物の中から毛布だけ引っ張り出してソファーの上で包まる。至極柔らかい毛布に包まれればソファーも極上の寝具となる。

 睡魔に誘われるがまま眠りに落ちながら、明日の朝、村に返してもらえる様にもう一度、真剣にお願いしてみようと決意する。

 サウラは直ぐに寝入ってしまった。疲労から眠りが深い。部屋の扉が開かれても身動ぎさえしない程に。


 扉からの侵入者は音もなく、滑る様にゆっくりとベッドに近付く。しかし寝台に人影はなく、小首を傾げながら周囲を見廻しソファーの上に目を止める。

 そこには毛布に包まるサウラ。猫の様に丸まって静かな寝息を立てている。側に寄っても起きる様子はない。そっと顔に掛かる髪を払えば、まだあどけない顔が暗闇の中に微かに伺える。

 深夜の侵入者は何を思うのか。

 細心の注意を払いサウラの体を抱き抱えると、ゆっくりと寝台へ向かい柔らかな寝具へ下ろす。優しい光を湛えた瞳はサウラの顔に注がれたままだ。
 フワリと寝具を掛け、髪を整えた侵入者の手は、名残惜しそうにゆっくりと離れていく。

 微かに揺蕩たゆたう魔法灯の光を受け、エメラルドグリーンの瞳が優しく細められた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...