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12 提案

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 朝も明け切らぬ頃に目覚めたサウラは少しパニック。

 昨日は確かにソファーで寝た。けれども今は物凄く気持ちの良いベッドの中にいる。

 夜中に寝ぼけでもして自分からベッドに入ったのだろうか?ただでさえこの部屋は落ち着かないし、慣れてもいないのだから、ウロウロしたりしないと思うし、すんなりベッドに入れるとは思えない。
 恥ずかしくて考えたくはないが、誰かにベッドまで運んでもらったのだろうか?

 王城ではソファーで寝るのは無作法なの?それにしても声をかけて起こしてくれればいいのに。もう子供でもないのに抱きかかえられて運ばれたと思うと、朝どんな顔をして周りの人と顔を合わせればいいのか分からない。

 普段ならもう起き出して身支度を整え、朝食の準備に入る時刻だ。侍女から朝の起床を伝えにくるまで寝ていても良いと言われているので、ここで起きてはまた礼儀知らずとなるのだろう。大人しくしている事にする。

 願わくば夜中にベッドまで運んだ人が来ません様に。毛布を被り恥ずかしさをやり過ごす。

 布団に包まって待っているとノックと共におはようございます、との声がかかる。
 返事を返すと、侍女が入室し朝の挨拶をする。

「おはようございます、サウラ様。よくお休みになられましたか?」

 入室してきたのは、赤に近い茶の髪をきっちりと結い上げ、薄茶と白の細かいストライプのドレスを着た、鳶色とびいろの瞳を持つアミラと名乗った40代程の女性だ。
 侍女長をしていると自己紹介と共に、今日はサウラの側に付き、朝の支度を手伝うと言う。
 サウラの体調には問題なく、素晴らしい寝具のおかげか疲れのせいか、いつもよりも良く眠れたのだ。

 ベッドに運ばれた事は追求しないでおこう…

 朝食前にシガレットの訪室があるとの事で取り急ぎ着替えを済ませたいのだが、勿論着替えなど持ってきてあろうはずも無く、その旨伝えると、さすがにここは大国の王城である。
 昨夜のうちにサウラの体に合う衣類が衣装部屋に用意されているとのことだ。動きやすいものを見繕ってもらい髪をまとめる。

 良かった。サウラ自身も城側の人間に話があったのだ。宰相のシガレットが来てくれるのならば丁度良いだろう。
 
 支度が済めば昨夜サウラが丸まって寝ていたソファーに腰かけ、シガレットの訪室を待つ。

 扉から応接セットに向かって左奥にベッドが置かれている。王や侍女以外の訪問者が訪れる場合には、寝室と応接間を仕切る為に白いとばりが降ろされる。
 そこでやっとシガレットの入室許可を告げられる。驚いた事にシガレットは部屋の外で待機していたらしい。

 シガレットからの挨拶を受け訪室の目的を聞く。

 先ずは昨日の復習でサウラが現状況をどの様に理解しているのか確認された。

 ルーシウスの生命維持には癒しの魔法が必要で、魔力を使うであろう彼に適宜回復魔法をかける為にここにいる、とサウラは答える。
 
「粗方ですが合っていますね。」
 肯きつつシガレットは付け加える。

「シエラ様の話の中にも出てきた、番と言う者を覚えていますか?」
 小首を傾げて優しく尋ねられれば、そう言えばそんな話もされた様だと思い当たる。

「この国の初代国王になる為の条件とされた伴侶の方?」
 大きく肯きながら、その通りです、とシガレット。

「そしてルーシウス現国王陛下の番となる方が、あなたなのですよ。」
 シガレットは灰青はいあお色の瞳でサウラをじっと見つめつつ静かに伝えた。
 
 サウラはきょとんとした表情でシガレットの話を聞いている。王の為にはここに居なければならないのなら、番であろうが何であろうが同じ事ではないだろうか?
 そもそも昨日は村へ帰れない事の衝撃でアラファルトが何やら言っていたのも全く頭に残っていない。

 自分が何者であろうと、サウラがここに居る事とやるべき事は結局決まっているのだ。

「番であろうとなかろうとここには居なくてはいけないんでしょう?私に出来る事なら手伝いますから、どうか村には帰らせて下さい。」

 サウラの言葉にシガレットは少しだけ目を見張り、やや諦めた様な苦笑を見せる。

 シエラが番に対し、まだよく理解していない事が良く分かった。しかし、今はこれで良しとしよう。王の側にある事に承諾されたのだから。
 こちらだけでも重畳だ。満足げに小さく頷く。

 そして、サウラがここに残る意思を確かめると共に、シガレットはサウラに一つの提案を持ってきたのだ。

 サウラの召喚はシエラが構築した召喚魔法陣を発動させたものだが、しかしこれは通常の召喚と異なり、サタヤ村に張り巡らされた結界を強引にこじ開ける形で結ばれた為、通常の陣よりも大量に魔力を要するものであった。
 シエラは長年に渡り、魔法石に自身の魔力を込め蓄えてきた物を多数持っていた。これは魔法を繰り出す時の補助の為だが、此度こたびの召喚では、その魔法石を大多数使用しなければならなかった程にサタヤ村の結界は強固であった。

 サタヤ村の結界はシエラが村を出て移動した後に張り巡らされた物で、結界を張り直す際には、当時村に残っていた者のみが通行できる様に、各自の魔力を練り込み張り直されている。なのでシエラは通行対象外となり、その魔力も通さない。
 その為に膨大な魔力が必要となり、シエラが持つ魔法石の補助を得ても、今は人間を行き来させられる程の魔力は残ってはいまい。
 そして、自力での移動で帰ろうにも、魔物の出現増加と、ゴラン人による襲撃の恐れが強く非常に危険である為、困難と言わざるを得ない。


 頼めば何とかなるかも、と思っていたサウラにとってはこの事実が胸に刺さる。

 目で見てわかる程落ち込んだサウラに、シガレットが妥協案を提案する。

 サウラが王城に残り、陛下の為に必要時回復魔法をかける事を承諾するならば、村には帰れないがシエラの魔法陣を利用し、村との通信に助力しようと言うものだ。

 人間を移動させる程の魔力は割けないが、手紙や小さな小物などのやり取りならば可能である。本来ならば召喚前にこの方法で村との連絡をつけようとしていたのだから何も問題はない。
 何とも王室側に都合の良く、卑怯な手でもあるかもしれない。卑怯者となじられるも然もあらん。シガレットはサウラの反応をじっと待つ。

 明らかに落ち込んでいたサウラが、ソファー前のテーブルに手を突き身を乗り出してきた。

「手紙が送れるんですか?」
漆黒の瞳が輝いている。

「はい。間隔を開けてになりますが問題ありません。」
優しげにジグリットが微笑みで答える。

 交渉成立だ。


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